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my treasure
my treasure 第24話
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「なぁ海音、『葵』はこいつの本性知ってるのか?」
雲英は以前虎の部屋で見かけた写真に写る年のわりに幼さの残る少年の姿を思い出しながら尋ねた。写真の中の少年は見るからに『温室育ちの純朴少年』といった感じで、自分の恋人の狂気を理解できるようには思えなかった。
(見た目と中身が乖離してないお坊ちゃんなんて今じゃもう天然記念物級だし、きっと何も知らねぇーんだろうな)
虎の恋人が良家のお坊ちゃんで『箱入り』ということは海音から相談を持ち掛けられて直ぐ聞かされていたが、それもどうせ誇張された表現だろうと思っていた。何故なら二人は相手のことを『純粋だ』とか、『素直だ』とか、『人を疑うことを知らない』とか言い連ねていたのだから。
雲英はその話を聞く度、虎はともかく海音まで何を言っているのかと呆れ、毎度話半分で聞いていたものだ。
だが、人を見る目はある方だと自負している雲英が虎の部屋で見た写真に写る少年はその人の良さが人相に滲み出ており、これまで聞いた彼を形容する数々の言葉は全て誇張ではないのだと直感した。
写真の中で幸せそうに微笑む少年の姿に、虎はもちろん周囲からもこれでもかと愛されて育ってきたのだろうと容易に推測できた。
だからこそ、当時廃人となった虎には申し訳ないが、これでよかったのかもしれないと思ったのは雲英だけの秘密だ。
「虎の『本性』って?」
「今俺らに見せてるようなところ。どうせ『葵』の前では『良い奴』を演じてるんだろ?」
「三度目はないぞ」
寝入る体制を崩さない虎を指させば、目を閉ざしたまま何やら警告らしき言葉が飛んできた。
それに雲英は眉を顰める。何のことかは分からないが、こんな風に理由を知らされることもなく脅されるのは腹が立つ。
雲英の不機嫌を察したのか、海音は「虎」と窘めるように親友の名を呼んだ後、彼に代わって謝ってきた。
「なんで海音が謝るんだ」
「だってこいつ、葵が絡まないと人として最低らしいから」
「それは知ってる。でもそれがお前が代わりに謝る理由にはならないだろ?」
「それはそうなんだけど、でも、親友としてはやっぱこいつが誤解されたままってのはなんか嫌なんだよ」
苦笑交じりに頭を掻く海音は一度親友へと視線を向ける。自分のことなのに我関せずと言わんばかりの虎の態度に苦笑は濃くなるが、親友だからこそ見てきた『姿』がある。
海音はそれをきちんと伝えることが親友である自分の使命だと気持ちを奮い立たせ、雲英に向き直った。
「雲英はさ、虎が葵の前では取り繕って、今見せてるのが本当の虎だって思ってるんだよな?」
「思ってるも何も、そうだろ?」
「んー、それがちょっと違うんだよ。本当、誤解されやすい奴なのは確かなんだけどさ……、そもそも虎は葵の前で自分を作ったことなんて一回もないんだよ」
「じゃあ、『葵』はこんな人として終わってる奴って分かってて好きだって言ってるのか? 趣味悪すぎだろ」
人を見る目が無さ過ぎて純粋を通り越してむしろ愚かだと写真でしか知らない虎の恋人の恋愛嗜好を雲英が詰れば、閉ざされていた虎の目がゆっくりと開いた。
海音は慌てて虎と雲英の間に割って入ると、「しかたないだろうが!」と親友を威嚇した。そのやり取りに雲英は目を丸くする。一体何なんだ。と。
「海音、退け」
「あのな、雲英は俺らが『葵』って呼んでるからそう呼んだだけで、それ以上の理由もそれ以下の理由もないんだぞ!」
だからくだらない独占欲引っ込めろ!
虎をそう言って叱りつける海音の背中に、雲英は呆気にとられる。
(『三度目はない』って、く、くだらねぇ……)
恋人に対して一途と言えば聞こえはいいが、これは一途というよりもむしろ一方的な執着と言った方が正しそうだ。
睡眠を妨害されたばかりか見当違いな嫉妬を向けられ、散々だ。
(虎の奴、海音を連れてきたからって王様過ぎる。そもそも俺には海音を与えとけば全部許されると思ってるだろ、こいつ)
流石に今日こそはガツンと言ってやらないと気が済まないぞ!
そう思い顔を上げる雲英。すると目の前に海音の顔があって、先程まで考えていた色々が一瞬で吹き飛んでしまった。
「雲英、ごめん。人間出来てる雲英が譲歩してやってくれないか?」
「え?」
「雲英が『葵』って呼ぶと器の小さい虎が怒り狂うし、な?」
頼む! と合掌して頼み込んでくる海音。親友の為に必死になるその姿に、出会った頃から変わらないな……と頬が緩みそうになった。彼の背後で無表情な男と目が合ったおかげで堪えることはできたが。
「……わ、分かったよ。海音がそこまで言うなら、仕方ない」
「! 流石雲英! ありがとう!」
返答に表情を輝かせる海音の笑顔は心臓に悪い。屈託ない笑みに我慢してもドキドキしてしまう雲英は、やっぱり可愛い……と脳内でノックダウンしてしまう。
「ほら、虎も感謝しろ!」
「なんで?」
「駄々っ子全開なお前のお願いを聞いてくれてるからに決まってるだろうが。あんなの、雲英が大人だから許されただけだからな?」
一方的な勘違いによる嫉妬を向けられたのにも関わらず雲英は虎を許してくれた。だから虎は雲英の人間性に感謝するべきだ。
そう言って力説する海音のご高説を聞かされているからか、虎の表情はますます死んでいく。
チベットスナギツネのような乾いた視線を向けてくる男に雲英は『何も言うな』と言わんばかりに視線を逸らしてしまう。
どうやら雲英が虎に『ガツン』という日は今日ではないらしい。
雲英は以前虎の部屋で見かけた写真に写る年のわりに幼さの残る少年の姿を思い出しながら尋ねた。写真の中の少年は見るからに『温室育ちの純朴少年』といった感じで、自分の恋人の狂気を理解できるようには思えなかった。
(見た目と中身が乖離してないお坊ちゃんなんて今じゃもう天然記念物級だし、きっと何も知らねぇーんだろうな)
虎の恋人が良家のお坊ちゃんで『箱入り』ということは海音から相談を持ち掛けられて直ぐ聞かされていたが、それもどうせ誇張された表現だろうと思っていた。何故なら二人は相手のことを『純粋だ』とか、『素直だ』とか、『人を疑うことを知らない』とか言い連ねていたのだから。
雲英はその話を聞く度、虎はともかく海音まで何を言っているのかと呆れ、毎度話半分で聞いていたものだ。
だが、人を見る目はある方だと自負している雲英が虎の部屋で見た写真に写る少年はその人の良さが人相に滲み出ており、これまで聞いた彼を形容する数々の言葉は全て誇張ではないのだと直感した。
写真の中で幸せそうに微笑む少年の姿に、虎はもちろん周囲からもこれでもかと愛されて育ってきたのだろうと容易に推測できた。
だからこそ、当時廃人となった虎には申し訳ないが、これでよかったのかもしれないと思ったのは雲英だけの秘密だ。
「虎の『本性』って?」
「今俺らに見せてるようなところ。どうせ『葵』の前では『良い奴』を演じてるんだろ?」
「三度目はないぞ」
寝入る体制を崩さない虎を指させば、目を閉ざしたまま何やら警告らしき言葉が飛んできた。
それに雲英は眉を顰める。何のことかは分からないが、こんな風に理由を知らされることもなく脅されるのは腹が立つ。
雲英の不機嫌を察したのか、海音は「虎」と窘めるように親友の名を呼んだ後、彼に代わって謝ってきた。
「なんで海音が謝るんだ」
「だってこいつ、葵が絡まないと人として最低らしいから」
「それは知ってる。でもそれがお前が代わりに謝る理由にはならないだろ?」
「それはそうなんだけど、でも、親友としてはやっぱこいつが誤解されたままってのはなんか嫌なんだよ」
苦笑交じりに頭を掻く海音は一度親友へと視線を向ける。自分のことなのに我関せずと言わんばかりの虎の態度に苦笑は濃くなるが、親友だからこそ見てきた『姿』がある。
海音はそれをきちんと伝えることが親友である自分の使命だと気持ちを奮い立たせ、雲英に向き直った。
「雲英はさ、虎が葵の前では取り繕って、今見せてるのが本当の虎だって思ってるんだよな?」
「思ってるも何も、そうだろ?」
「んー、それがちょっと違うんだよ。本当、誤解されやすい奴なのは確かなんだけどさ……、そもそも虎は葵の前で自分を作ったことなんて一回もないんだよ」
「じゃあ、『葵』はこんな人として終わってる奴って分かってて好きだって言ってるのか? 趣味悪すぎだろ」
人を見る目が無さ過ぎて純粋を通り越してむしろ愚かだと写真でしか知らない虎の恋人の恋愛嗜好を雲英が詰れば、閉ざされていた虎の目がゆっくりと開いた。
海音は慌てて虎と雲英の間に割って入ると、「しかたないだろうが!」と親友を威嚇した。そのやり取りに雲英は目を丸くする。一体何なんだ。と。
「海音、退け」
「あのな、雲英は俺らが『葵』って呼んでるからそう呼んだだけで、それ以上の理由もそれ以下の理由もないんだぞ!」
だからくだらない独占欲引っ込めろ!
虎をそう言って叱りつける海音の背中に、雲英は呆気にとられる。
(『三度目はない』って、く、くだらねぇ……)
恋人に対して一途と言えば聞こえはいいが、これは一途というよりもむしろ一方的な執着と言った方が正しそうだ。
睡眠を妨害されたばかりか見当違いな嫉妬を向けられ、散々だ。
(虎の奴、海音を連れてきたからって王様過ぎる。そもそも俺には海音を与えとけば全部許されると思ってるだろ、こいつ)
流石に今日こそはガツンと言ってやらないと気が済まないぞ!
そう思い顔を上げる雲英。すると目の前に海音の顔があって、先程まで考えていた色々が一瞬で吹き飛んでしまった。
「雲英、ごめん。人間出来てる雲英が譲歩してやってくれないか?」
「え?」
「雲英が『葵』って呼ぶと器の小さい虎が怒り狂うし、な?」
頼む! と合掌して頼み込んでくる海音。親友の為に必死になるその姿に、出会った頃から変わらないな……と頬が緩みそうになった。彼の背後で無表情な男と目が合ったおかげで堪えることはできたが。
「……わ、分かったよ。海音がそこまで言うなら、仕方ない」
「! 流石雲英! ありがとう!」
返答に表情を輝かせる海音の笑顔は心臓に悪い。屈託ない笑みに我慢してもドキドキしてしまう雲英は、やっぱり可愛い……と脳内でノックダウンしてしまう。
「ほら、虎も感謝しろ!」
「なんで?」
「駄々っ子全開なお前のお願いを聞いてくれてるからに決まってるだろうが。あんなの、雲英が大人だから許されただけだからな?」
一方的な勘違いによる嫉妬を向けられたのにも関わらず雲英は虎を許してくれた。だから虎は雲英の人間性に感謝するべきだ。
そう言って力説する海音のご高説を聞かされているからか、虎の表情はますます死んでいく。
チベットスナギツネのような乾いた視線を向けてくる男に雲英は『何も言うな』と言わんばかりに視線を逸らしてしまう。
どうやら雲英が虎に『ガツン』という日は今日ではないらしい。
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