強く儚い者達へ…

鏡由良

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強く儚い者達へ…

強く儚い者達へ… 第9話

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「戯皇、ここに」
 突如、それまでの雰囲気を壊す殺気が三人を覆った。
 が、能力が極端に低いリムはそれに気付く事はなかった。
 幸斗は戯皇にだけ分かる声量でそう指示すると、リムに気づかれない様に気配を消してその場を離れた。
(すごい殺気だ…幸斗一人で大丈夫か…?)
 万が一に備え、空いている手を剣の柄にそえていつでも戦えるように構える。
 さすがにそれにはリムも気がついたようで、涙を引っ込めて身を竦めたのが分かった。
 次の瞬間、二人を襲うのは突風。
(…やっぱ考えすぎか。幸斗があの程度の奴に気押されするわけが無いしな)
 突風の中心にいるのは幸斗。
 彼の発する威圧感にリムは戯皇の服を握り締めていた手にさらに力を込めた。
 木々はざわめき、鳥達はその殺気にいっせいに飛び立った。
「命を狙われる覚えは多々あるが、おとなしくやられる訳にはいかない。覚悟してもらうぞ」
 幸斗を中心として広がる衝撃波。それが威嚇の為だけのものだと戯皇が教えてくれる。
(たかが威嚇するだけで、こんなに身体が竦み上がるのか…?…これが、外の世界…)
 目の当たりにしたその力の差にリムは、今一度先程まで自分の目から零れていた涙を拭い、体を圧力で萎縮させながらもその戦いに見入った。
「いやーでも、敵さんもなかなかやるな。姿が見えないのにこの殺気…相当なもんだ」
「幸斗さん…大丈夫なんですか…?」
 あっけらかんとして言うことではない気がする。
 敵の方が強いという事だって考えられるはずだ。
 しかしリムの心配をよそに、戯皇は視線を彼女に向けて、にっこり笑ってやった。花が綻ぶような笑顔で…。
「安心しろ、この程度の輩に殺られる程幸斗は弱くない」
 絶対的な信頼。そう呼ぶに相応しいモノが二人の間にはあるようだった。
 再び彼が視線を幸斗に移したとき、敵が動いたようだ。
 幸斗は力強く大地を蹴るとあっという間に上空高くに身を移動させ、上から襲ってきた敵の一撃を軽々とその剣に受け止める。
 剣と剣が接触した瞬間、オレンジ色の火花がはじけ、同時に互いのプレッシャーが衝撃波となりあたりに波紋のように広がってゆく。
 木々の木の葉は舞い散り、地上の草花もなぎ倒されてゆく。
「すごい…」
 自分は強くなっていたと思っていたが、勘違いも甚だしくてリムは圧倒された。
 それほどまでに、内と外の違いを見せ付けられたのだ。
「殺気も腕も一人前。けど、相手が悪かったな。あいつ」
 このプレッシャーの中、平然としているあたり戯皇もかなりの手練なのだろう。
 地上に何かが落下した音が周りに鳴り響いたのはふと視線を幸斗からはずしたときだった。
 …いや、落下なんて生易しいものじゃない。追突と呼ぶにふさわしい有様だった。
 クレーターのように大地が衝撃でくぼみ、草木は埋もれ、土の地肌がむき出しになっていた。
「!な、なに?!」
「お前がよそ見している間に、カタがついたんだよ」
 リムが自分を見ていた事などお見通しだというかのようだ。
 意地悪な笑顔が彼女に向けられ、衝撃波で傷つかないように抱きしめてくれていた腕が離される。
 もっとも、守られていた当の本人は守られていたとまったく分かっていなかった。
 実力の差のせいもあるがろうが、大部分が知識不足が原因だった。
 相手へのプレッシャーは己の身体的エネルギーを放出するもので、それ自体が攻撃性をかね合わせている。
 もっとも、同等レベルの相手にはまったく通じないのだが。そんなこと、内の世界にいたリムが知るわけもなく…。
「幸斗、顔を拝んでおきたい」
 瞬時に真顔に戻り、戦っていた彼にそう告げる。
 一体どちらを狙ってきたのか知りたかったから。
「俺等が狙いか?それとも、リムか?…もしリムならすぐ殺す」
(!…な、何だ…?)
 ほんの一瞬、息が止まりそうな、この場から逃げたいような感覚がリムを襲った。
 先程自分達を襲った輩のソレよりも、幸斗が発したソレよりもレベルの違う殺気…。
(まさか、この人が…?)
 信じられないと言うかのようにその横顔を盗み見たが、別段変わったところはない。
 あいも変わらず、視線に気が付きリムの頭を優しく撫でる戯皇がいただけだった。
 幸斗は言われるがまま地上に降り立ち、大地に仰向けになり倒れている男の胸倉を掴むとそのまま戯皇の許への歩いてゆく。
「どうする?見た目は子供でも相当年を食ってるみたいだが…」
 そう言って乱暴に、まるで物を扱うかのように彼が戯皇の前に突き出したのは、本当にまだ幼さの残る少年だった。
 しかし金色の瞳を見開き、まるで威嚇する猫のように黒目を細めて戯皇を睨む様は、とても幼い子供には見えない。
「…餓鬼じゃねーよ。成長が途中で止まったんだろう?おおかた、成長期に無理なトレーニングをしてたんだろう。殺しのな」
 ジッと少年を見据える。何とか言えよと無言で凄んでいるのが分からないのはおそらくリムだけで。
「…なせよ」
 ようやく口を開いたかと思えば声が小さすぎて聞き取れない。
 ただ、女の子のように高い声だということだけわは分かった。
「はっきり喋れ」
「姉貴を離せって言ってんだよ!!」
 少年の足が空を切る。
 戯皇は余裕の表情で彼の蹴りを避けると「姉貴だ?」と訝しそうに声を上げていた。
「おいおい、命乞いならもっとマシな…」
「……もしかして…デュカ?」
「はぁ?」
 自分の言葉を遮り、リムが口にした言葉に盛大な疑問の声が帰ってきた。
 黙っていれば美人なのにそんなしかめ面をしては台無しだ。
 リムは目の前の少年、…実際には違うのだが…を見つめて目を丸くしていた。
「姉貴、待ってろよ。今すぐこいつら叩きのめして…」
「ち、違うデュカ!この人達は私を救ってくれたんだ!」
 一触即発な雰囲気を出す弟と戯皇にたじろい気味にながらもそう説明する。
 戯皇と幸斗は自分の命の恩人なのだと。
「…本当に?」
 まだ疑っているらしく、リムにすら疑惑の目を向けてくる始末。
 彼女はその言葉を肯定するために何度も頷く。
 と、その様子にようやく信じてくれたのか、デュカの口から戯皇と幸斗に向けて謝罪の言葉が出てきた。
 不満そうな表情はこの際おいておこう。
 幸斗は手を離し、デュカを下ろす。
 まだまだ険悪さは残っているものの、双方から殺気が感じれないのでひとまず安心といったところだ。
「で、紹介してくれないか?」
「あ、すみません。弟のデュカです。デュカ、私の命の恩人の戯皇さんと幸斗さんだ」
「デュラ・タチェロ。姉貴を襲った奴等だと勘違いしてた。すみません」
 何処までも敵意の感じれ取れる自己紹介だった。
 もちろん戯皇はそれに気づいており、引きつった笑顔で気にするなと言っている。
 そんな三人を余所目に、リムは何故デュカがこの場にいるのか分からないでいた。
 もうずっと昔に家を出た弟。まさか、外で暮らしていたとは…。
「で、こいつの弟なら、あの地域に住んでいたんだろ?どうやって外に?」
「戯皇」
 もっともな疑問をデュカに投げかける戯皇は幸斗の呼びかけに不機嫌そうになんだと答える。
 彼は自分の隣で呆然としている少女を見てみろ顎で指示してきて、わけが分からないまま視線をずらせば、分からない事だらけで頭がパンクして思考停止状態のリムが目に入った。
 夜はさらに更け、少し肌寒くなってきた。
「立ち話もなんだ、屋敷に入ろう」
 ため息混じりの呟きに反対する者などいなかった。
「リム、お前の家だ。お前が開けろ」
 いつの間にか手から滑り落ちていた封筒を拾い、まだ呆然としているリムに差し出してやる。
 止んでいた風が再び吹き出した。
 遠くから運ばれてきた空気に血のにおいが混じっていて…。
(今俺等狙いの輩に襲われたら厄介だ…風も出てきたし…それに…)
「あんたら何者だよ?姉貴を助けてくれたことは礼を言うけど、正直胡散臭いんだけど」
 フリーズしたままのリムと、考え事で動きの止まっていた戯皇の間に割ってはいるのはデュカ。
 戯皇は意識を戻し、自分を睨む少年を見る。
 言われてみればそうである。
 リム自身、戯皇と幸斗のことで知っていることといえば、自分の住んでいた町の外の世界から来た旅人だと言う事位だった。
「その話もするつもりだ。長くなるから屋内に入ろうと言ったんだが?」
 何か文句あるか?とにっこり笑って凄まれると何も言えなくなってしまう。
「おい、姉貴!いい加減戻って来い」
「あ、ああ…ごめん…なんか分からない事だらけで、考えてたら余計に分からなくなって…」
 当然といえば当然のことだった。
 今まで住んでいた世界とはまるで違う世界に彼女は飛び込んできたのだから。
 まだ戸惑い気味の彼女を促すのは幸斗。
 前を見れば、戯皇はさっさと歩き出してしまっていた。
 風はますます強く吹き付ける。
 血の臭いとともに時折、悲鳴のようなものが微かに聞こえるのは気のせいなのだろうか…?
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