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5.介抱
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工程表と進捗、スケジュールを確認する。レイの無茶はあったが、あらかじめ済まされていた事前作業のおかげで、その後の制作工程は先を進んでいる。彼女が倒れても、数日程度であれば問題はない。何よりの問題はこのまま無理をされて重症化することだが、あの様子を見るにその心配もないだろう。普段は無茶な動きをするくせに、動けなくなった途端妙に冷静に身体の状態を把握して落ち着かせようとする傾向があるのは、レイという人物の人柄を知った早い段階で解っていたことだった。
頭の隅でそんなことを考えながらホールのデスクで事務作業をしていると、何やら皿を持ったスタッフが目の前を通り過ぎたのに気付いた。
「おい、それは?」
「ん、レイちゃんに食べさせようと思って、キッチンで作ったのよ。ここ、病人が食べやすいもの置いて無いでしょ」
コメをスープで柔らかく煮たような、素朴な料理を見せられる。
「これだったら喉が痛くても呑み込みやすいし、起き上がれなくてもスプーンで食べさせてあげられるでしょ」
「ああ……、……じゃあ、俺が持っていくよ」
「ジメルが? 今仕事中でしょ?」
俺のデスクを見ながら言う。「あたし休憩中だからいいよ?」と続ける彼女に「いや、そうじゃない」と言って首を振った。
「事務仕事がメインの俺が風邪をひいても、最悪ベッドの上で最低限の仕事を回すことはできる。だが、制作スタッフのあんたたちはそうじゃない。あいつの次に動けなくなって困るのは、制作作業を回すあんたたちだ。感染リスクを抱えるのは俺一人の方が都合がいい」
「まあ……そうかもしれないけど……」
「既に病院に連れて行ったり部屋に運んだりはしてるんだ。気にしないでくれ」
「あ、そ……じゃあ、お願いするわ」
皿を受け取り、礼を言う。「俺の無事を祈りながら、手洗いとうがいを徹底してくれ」と伝えると、スタッフは笑って自分の休憩へ戻っていった。
そのまま移動して階段を上がり、レイの部屋の前に立つ。ガラス戸越しに見る限り、寝ているらしい。静かに戸を開けて入り、ベッド横のスツールに腰を下ろしながら顔を確認すると、しっかりと寝ていた。
置いておいた薬も水も減っている。寝息も穏やかだし、顔色も悪くはない。持ってきた食事をベッドサイドテーブルに置き、置いてあった体温計を手に取って電源を入れる。
「んぅ……」
そのままわずかに開いていたレイの口に挿し入れ、先端を舌の裏に置き、顎に指を添える。間もなく鳴ったそれを抜いて数値を見れば、体温は平熱に近づいていた。この分だと思っていたより早く回復するかもしれない。
「ジム……」
「起こしたか」
気だるげな目線がこちらを見ていることに気付く。照明をすこし明るくするとおもむろに上体を起こして、ベッドサイドに置いた料理に気付いたようだった。
「すごく美味しそうな匂いがする。なにこれ、誰か作ってくれたの……?」
「ああ、リーが」先程話した制作スタッフの名を告げる。
「ありがとう、リーさん~」
レイは大げさなくらい感謝しながら、そのままベッドの上で食事を取り始める。
介助の必要は、なさそうだ。自分で食べられて食欲もあるなら、あとは本人の回復力次第だろう。
「しっかり体を温めて寝てたら、一気に体が楽になったよ。見てくれ、すごい汗だ。今度は冷えないようにしなきゃ」
聞きながら、つまり着替える必要があることを察する。
「皿はあとで回収するから、そのまま置いとけ」
「楽になったからと言って無理に動くなよ」と念を押して部屋から出るために立ち上がると――「ジム」呼び止められた。
「ジム、ありがとうね」
「……わかってるよ」
汗で額に張り付いた前髪を退かすように、レイの頭を無造作に撫でる。無防備な笑顔に回復を感じて安堵しながら、部屋を後にした。
頭の隅でそんなことを考えながらホールのデスクで事務作業をしていると、何やら皿を持ったスタッフが目の前を通り過ぎたのに気付いた。
「おい、それは?」
「ん、レイちゃんに食べさせようと思って、キッチンで作ったのよ。ここ、病人が食べやすいもの置いて無いでしょ」
コメをスープで柔らかく煮たような、素朴な料理を見せられる。
「これだったら喉が痛くても呑み込みやすいし、起き上がれなくてもスプーンで食べさせてあげられるでしょ」
「ああ……、……じゃあ、俺が持っていくよ」
「ジメルが? 今仕事中でしょ?」
俺のデスクを見ながら言う。「あたし休憩中だからいいよ?」と続ける彼女に「いや、そうじゃない」と言って首を振った。
「事務仕事がメインの俺が風邪をひいても、最悪ベッドの上で最低限の仕事を回すことはできる。だが、制作スタッフのあんたたちはそうじゃない。あいつの次に動けなくなって困るのは、制作作業を回すあんたたちだ。感染リスクを抱えるのは俺一人の方が都合がいい」
「まあ……そうかもしれないけど……」
「既に病院に連れて行ったり部屋に運んだりはしてるんだ。気にしないでくれ」
「あ、そ……じゃあ、お願いするわ」
皿を受け取り、礼を言う。「俺の無事を祈りながら、手洗いとうがいを徹底してくれ」と伝えると、スタッフは笑って自分の休憩へ戻っていった。
そのまま移動して階段を上がり、レイの部屋の前に立つ。ガラス戸越しに見る限り、寝ているらしい。静かに戸を開けて入り、ベッド横のスツールに腰を下ろしながら顔を確認すると、しっかりと寝ていた。
置いておいた薬も水も減っている。寝息も穏やかだし、顔色も悪くはない。持ってきた食事をベッドサイドテーブルに置き、置いてあった体温計を手に取って電源を入れる。
「んぅ……」
そのままわずかに開いていたレイの口に挿し入れ、先端を舌の裏に置き、顎に指を添える。間もなく鳴ったそれを抜いて数値を見れば、体温は平熱に近づいていた。この分だと思っていたより早く回復するかもしれない。
「ジム……」
「起こしたか」
気だるげな目線がこちらを見ていることに気付く。照明をすこし明るくするとおもむろに上体を起こして、ベッドサイドに置いた料理に気付いたようだった。
「すごく美味しそうな匂いがする。なにこれ、誰か作ってくれたの……?」
「ああ、リーが」先程話した制作スタッフの名を告げる。
「ありがとう、リーさん~」
レイは大げさなくらい感謝しながら、そのままベッドの上で食事を取り始める。
介助の必要は、なさそうだ。自分で食べられて食欲もあるなら、あとは本人の回復力次第だろう。
「しっかり体を温めて寝てたら、一気に体が楽になったよ。見てくれ、すごい汗だ。今度は冷えないようにしなきゃ」
聞きながら、つまり着替える必要があることを察する。
「皿はあとで回収するから、そのまま置いとけ」
「楽になったからと言って無理に動くなよ」と念を押して部屋から出るために立ち上がると――「ジム」呼び止められた。
「ジム、ありがとうね」
「……わかってるよ」
汗で額に張り付いた前髪を退かすように、レイの頭を無造作に撫でる。無防備な笑顔に回復を感じて安堵しながら、部屋を後にした。
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