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30.It’s Me
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アツシ君が正式にスタッフへ加わり、遠い祖国でまずは単純な仕事の手伝いを始めてもらってから少しの時間が経った。ジムをはじめとしたスタッフ達が作ってくれたマニュアルのおかげで、彼は順調に仕事をこなしてくれている。
取引先からの依頼も順調。今はイベント展開も無いし、制作に十分な時間を割ける嬉しい時期だ。
トルソーに、着せられるほどに形になった作品を飾って眺める。この瞬間に一番、快を感じる。
ボディラインに沿った曲線美。素材の柔らかな手触り。思い通りに形作られた美しいドレープ。
短い呼気が出る。とても、気持ちが良い。
作品が形作られたときにこそ、自分は今こそ生きているのだと強く感じる。胸の内側から叫ぶのだ。
感嘆の息を吐く。「これが自分だ」と強く叫ぶ体を、抑えて抱いた。
身もだえる体を落ち着かせ、改めてあらゆる角度から仕上がりを眺めて確かめていると、しっかりとしたノックとドアが開く音が聞こえた。
「レイ、小包が届いたんだが、お前何か買ったか?」
小振りの箱を片手にジムが言う。なんのことやらと思ったのも一瞬、すぐに「ああ」と思い当たる。
「私物だ。ありがとう」
そう言うと差し出されたそれを受け取る。
「会計処理は?」
「いや。これは、そういうのじゃないから、大丈夫」
アトリエの備品や単純な生活用品であれば処理する必要があるが、この荷物に関してはそうではない。とりあえず、あとで自室に持っていくとして、今は机に置いておく。
「それは……次の作品、か?」
トルソーを認めたジムが問う。この男もまたデザインには私見を挟まない傾向にあるが、こうして制作途中に飾られているのを見かけるとまじまじと眺めてくれるのだ。
「うん。大体、着せられる程に仕上がってきたんだ。もう少ししたら、全部並べることができると思う。これはその一着目」
トルソーを回して見せて、様子を窺う。心なしかいつもより長く、そしてどこか難しい顔で見ているように感じた。
「何か感じる?」
「いや……なんか……珍しい、気がするな」
珍しい。そう言われて自分も作品を見る。とは言っても、自分は既に制作期間中に散々見慣れて親しんでしまったので、あまり新鮮な目ではない。だが「そういえば」と、デザインの段階で珍しく制作スタッフのヴラダさんにも褒められたことを思い出す。
「今回のデザインは久しぶりにテーマなしに作ったんだ。だから多分、今の僕の……好きなものとか、興味とか、状態がそのまま、全体として出ているんだと思う」
「良くも悪くもね」と付け加えると、解るような解らないような顔で眉を寄せられ、相槌を打たれる。「デザインについてはわからない」と日頃断言する彼が、こうしてそれについて考えてくれている様を見ると、いつも嬉しくなる。
「完成したらもっとイメージに近付くよ。お楽しみに」
制作途中の作品を見せると微妙な反応をされても、完成品を見せると明確に肯定的な反応が得られることがあるのは、特に自分の作品の場合には多いことだった。ジムも、制作途中の段階では「わからない」と言うことが多いが、完成品を見ると「悪くない」と所感を述べてくれる。
本当に楽しみにしているのは自分の方なのだろうなと思いながら、作品を真剣に注視する相棒を眺めて楽しんでいた。
取引先からの依頼も順調。今はイベント展開も無いし、制作に十分な時間を割ける嬉しい時期だ。
トルソーに、着せられるほどに形になった作品を飾って眺める。この瞬間に一番、快を感じる。
ボディラインに沿った曲線美。素材の柔らかな手触り。思い通りに形作られた美しいドレープ。
短い呼気が出る。とても、気持ちが良い。
作品が形作られたときにこそ、自分は今こそ生きているのだと強く感じる。胸の内側から叫ぶのだ。
感嘆の息を吐く。「これが自分だ」と強く叫ぶ体を、抑えて抱いた。
身もだえる体を落ち着かせ、改めてあらゆる角度から仕上がりを眺めて確かめていると、しっかりとしたノックとドアが開く音が聞こえた。
「レイ、小包が届いたんだが、お前何か買ったか?」
小振りの箱を片手にジムが言う。なんのことやらと思ったのも一瞬、すぐに「ああ」と思い当たる。
「私物だ。ありがとう」
そう言うと差し出されたそれを受け取る。
「会計処理は?」
「いや。これは、そういうのじゃないから、大丈夫」
アトリエの備品や単純な生活用品であれば処理する必要があるが、この荷物に関してはそうではない。とりあえず、あとで自室に持っていくとして、今は机に置いておく。
「それは……次の作品、か?」
トルソーを認めたジムが問う。この男もまたデザインには私見を挟まない傾向にあるが、こうして制作途中に飾られているのを見かけるとまじまじと眺めてくれるのだ。
「うん。大体、着せられる程に仕上がってきたんだ。もう少ししたら、全部並べることができると思う。これはその一着目」
トルソーを回して見せて、様子を窺う。心なしかいつもより長く、そしてどこか難しい顔で見ているように感じた。
「何か感じる?」
「いや……なんか……珍しい、気がするな」
珍しい。そう言われて自分も作品を見る。とは言っても、自分は既に制作期間中に散々見慣れて親しんでしまったので、あまり新鮮な目ではない。だが「そういえば」と、デザインの段階で珍しく制作スタッフのヴラダさんにも褒められたことを思い出す。
「今回のデザインは久しぶりにテーマなしに作ったんだ。だから多分、今の僕の……好きなものとか、興味とか、状態がそのまま、全体として出ているんだと思う」
「良くも悪くもね」と付け加えると、解るような解らないような顔で眉を寄せられ、相槌を打たれる。「デザインについてはわからない」と日頃断言する彼が、こうしてそれについて考えてくれている様を見ると、いつも嬉しくなる。
「完成したらもっとイメージに近付くよ。お楽しみに」
制作途中の作品を見せると微妙な反応をされても、完成品を見せると明確に肯定的な反応が得られることがあるのは、特に自分の作品の場合には多いことだった。ジムも、制作途中の段階では「わからない」と言うことが多いが、完成品を見ると「悪くない」と所感を述べてくれる。
本当に楽しみにしているのは自分の方なのだろうなと思いながら、作品を真剣に注視する相棒を眺めて楽しんでいた。
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