Jimmelle & Rayman I

あにらむあみにむ

文字の大きさ
33 / 48

33.崩壊

しおりを挟む
「――認める」
 静かな声。
 これまでの長い間耳にしてきたどの言葉よりも冷えた――底冷えする声。
 頭上から聞こえた声が、首筋から胸の奥に刺さるように滲む。
 重い頭をどうにか上げて、見る、向けられた双眼。影の中の瞳。
 体が――呼吸すら、動かせなかった。
 あのときの行為だって、許されたものではない。
 だが、このときはじめて、レイが侵害を許していない領域に、俺は触れたのだと気付いた。
 小さな口が、静かに開く。
 「認めよう」
 穏やかで、硬く、強い声。
 「僕の作風が変わった――認めよう。
 君の行為がきっかけだった――認めよう。
 僕自身も、本当は気付いていた――認めよう。
 ――だがそんなものは、何の問題にもならない」
 強められた語気の後「何故なら」静かに続けられる。
 「これらすべては、僕が発想し、僕がデザインし、僕が手掛けた――僕の、作品だ」
 これが本当にレイマンか? そう、疑いたくなる声が――それでも静かな、俺の知るレイの声で、発せられる。
 ――冷たく、激しい怒りが、俺に向けられていた。
 「君は、君が、僕の、“創造性を歪めた”と、僕を“壊した”と言ったな。
 僕の考えは違う。
 僕の創造性は“変わらない”――何も。
 他者の影響を受けて作品が変わることはあっても、他者の手によって創造性それ自体が変質させられることは、壊されることは――決して、無い。
 僕の“核”は――何も変わってない」
 静かな激情。
 ――瞳が瞼に遮られ、少しの間隠されて――再びその目が開く。
 「強がりだと思うか? ……どちらでも構わない。
 何故なら、僕がそう認識して、扱っているからだ」
 嗤って、レイマンが言う。
 初めて見る表情、初めて聞く声、初めて向けられる感情。――それらが、心臓に突き刺さる。
 恐ろしくてたまらなかった。
 「君は――何に対して、謝っているんだ?
 僕の体を害したことか、それとも、僕の創造性を歪めたということについてか?
 ……後者ならば――謝罪はいらない」
 言い放たれた言葉が胸の内に、石のように重く、沈む。
 何かを伝えたいのに何も言えず、名前を呼んだ俺の声はあまりにも小さく、情けなく震えていた。
 伏せられた目に、表情が見えなくなる。
 俺が、本当にしてしまったことは何だ。こいつにしてしまったことは。本当に間違えてしまったことは――。
 震える手と唇。目を離せず、大きくなる恐怖。
 それなのに――。
 「……こんなこと、君が一番よくわかっていたくせに」
 ――再び上げられた目は、小さな声は、いつものレイのもので。
 酷く儚く、憂えて見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...