Jimmelle & Rayman I

あにらむあみにむ

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46.告白

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 「う、ぅ……」
 幾分か息を整え終えたレイが、後ろにもたれていた体をゆっくりと起き上がらせてこちらを向く。耳まで上気させ、色を帯びてぼんやりとした気だるげな眼と視線が合う。
 「ジム……手伝って」
 「…………は? お前、マジで言ってんのか?」
 言われた意味が、一瞬解らなかったが、考え至って聞き返す。こいつはこんな状態で“本筋”に戻ろうとしている。
 「誰に、言ってるのさ……手、貸して」
 そう言われて、酷く重そうに腰を上げようとしている体を支えたのは、ほとんど反射的だった。
 うんざりするほど怒張して萎える気配の無いそれの上に、股を宛がわれる。辛うじて自力で腰を浮かせている、殆ど俺が支えている頼りない体。レイ自ら埋めようとしている、その光景から目が離せなかった。
 「……ふ、ぅ……っ……!」
 上擦った声と、震えて吐かれる息。熱く柔らかい、きつく絡みつく肉。いつもと同じ目をしていながら、それでいてぐずぐずに蕩けている、レイの顔。
 静かに下げられていく、震える腰。呑まれていく感覚。支える俺の手の震えは、こいつから伝わったものじゃない。
 呼気が漏れる。小刻みに小さな収縮と、緩慢な収斂を交えて、本当に呑み込まれるんじゃないかと思う程にきつく、沈められていく。頭がおかしくなりそうだった。
 ある程度埋まったところで、レイの動きが完全に止まる。刺激に震えている身体と、恍惚とした表情。
 深く、震えながら息を吐いた。
 こんな状況。
 俺は、もう十分耐えた。もう無理だ。もういいだろ。
 もう、十分だろ。
 支えていた手で、その上体を引き寄せる。何の抵抗もなく俺の胴体の上に乗せられた体が、緩慢に大きく上下するのを見て、それが自分の呼吸の荒さによる動きだと知る。
 自分が今、こいつをどんな顔で見ているのかわからない。こいつの体を、こいつをどうすればいいのかわからない。ただ無茶苦茶に、こいつの何もかもを、抱いて、壊して――。
 首元に顔を摺り寄せられて、また息を吐いた。
 もう、いいだろうと、華奢な体の腰から、臀部に手を這わせる。このまま欲のままに押し込んで、ぐちゃぐちゃにしたって――
 「君の、匂いが好き」
 首筋に触れる、熱い吐息。
 突然囁かれた言葉に、背筋が震えた。
 首元から上げられた顔が、蕩けた目が、俺を見ながら静かに言う。
 「君の……白髪の混ざった、髪の色が好き。チクチクするけど、意外と柔らかい……無精ひげも。
 顎の、線も好き。耳の下から、続く……ここのラインと、角度。すごく、形がいいんだよ。鼻の、形も……その、カーブのところ……『“鷲鼻”』……なんて言うんだっけ……ああ、調べておけばよかった……この形が、すごく好きなんだ……。
 難しい人に見えちゃう、顔の、深い皺も……特に、目のところ……大好き。
 目の二重、角度、瞳の動きと色、瞼と、影……全部大好き。強めの、太い眉毛も……とても、愛らしい。
 こめかみも……そうやって、すぐ、血管が出ちゃうところ、好き。
 ……唇の、僕が付けて、残っちゃった、傷痕も……好い」
 恍惚とした顔が、楽しそうに微笑んで俺を見る。楽し気に、愛おし気に、輝いて向けられるそれは、こいつが自分の作品を見るときの目に似ていると気付いた。
 解らないこいつの母語が紛れて、皺だの白髪だの、どちらかと言えば好きではなかった俺の見た目の要素が、こいつの創造性――核に触れられている。
 全身が粟立つほどに感じている、多分、これは“歓び”だ。
 「……見た目ばっかじゃねぇか」
 努めて調整して呟いた声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
 「ずっと見てきたから、そう思うんだよ」
 レイが、笑いかける。嫌な衝動が消えて、代わりに動悸――高揚感が、やけに強く感じられた。
 自然と、眉を寄せる。
 「……なあ、おい、これは……俺が動いていいのか」
 「あー……その、僕、自分で動きたいとは、思うんだけど……もう、本当に、体が大変で、今……。こんな状態になるとは、考えてなかったから……その……お願い、してもいい?」
 「……わかったよ」
 恥ずかし気に言っているのを聞くが、しかしこの恥じらいは多分――というか絶対、こいつ自身が動けなくなったことだけに対して向けられているものだと思う。本人は自分がこの状況でどういう“おねだり”をしているか解っていないだろう。
 体つきに対して豊かで柔らかい肉、丸みを帯びた滑らかな尻に手を添えて、少しずつ、押しこむ。
 「っ、ジム……こ、これ以上は……っ」
 「……入らないと思うか……?」
 自分まで喋る度に吐息が漏れるのが煩わしい。息遣いにまでは制御が回らなかった。
 腰をわずかに動かしながら、探るように沈めていく。こいつが自力で奥まで入れた、更に深く。
 「あっ」
 奥に、届いて、レイの一際大きな声が上がって、驚いたような表情で、動きが止まる。それから、体の震えと、表情の、崩れ。
 「――い……っくぅぅ……!」
 深い、収縮。涙を流して荒く呼吸している、その背中を撫でる。その感覚にすら体を痙攣させて、こいつの脳は溶けるらしい。苦しい、しかし包み込むような快楽に、溜息を吐く。
 「ジ、ム……これっ……」
 「……痛むか?」
 即座に「ちがう」と首を振られ、解ってはいるが、安堵する。わずかに揺するように身じろぐと、それだけでまた大きく反応を見せる。
 「奥っ……つよ、すぎる……っ、はぁっ、き、気持ちい、のが……っ! 僕、さっき、から……っ、ずっと――」
 また、腰を揺する。言葉を遮って大きく上げられた嬌声を聞いて、最後まで言わせりゃよかったと思う。思いながら、触れている尻を押し込み、自分の腰を押し付ける。耐え切れず俺の体に抱き着いて、胸元に頭を擦り付けてくるこいつが、深い吐息混じりの嬌声を上げているのを見る。溜息を吐く。深い、多幸感。
 「なあ、レイ……動いていいか……?」
 胸元に埋められている頭を撫でてから、上気した顔を上向かせて、問いかける。涙を流して蕩けた、ずっと見続けてきた、黒い瞳。言われた意味を咀嚼してから、わずかの逡巡の後、泣きそうな顔をして――。
 「や、“優しくして”……」
 「わかっ……てる……」
 思わぬベタな言い回しの破壊力に、声帯すら力んだ。腕の力だけで簡単に持ち上がる体を支えて浮かせ、腰を動かす――努めて、優しく。うねって吸い付いてくる膣壁から逃れて抜いて、またきつく滑った肉を押し分けて挿し入れる。
 えろい水音と声と吐息。俺の上でよがる、俺に抱かれている、俺が抱いている、レイ。
 「はっ、あっ、……っジム、あっ、ジム……っ!」
 「悪い……っ」
 自然、腰の動きが激しく、強くなる。打ち付けて、音が鳴る。収縮しっぱなしの中。俺の名前を呼び続けるこいつ。
 上に乗っていたレイを片腕できつく抱き寄せ、掴んでいた尻も強く押し込み、中に、出す。
 「……ぐ、ぅっ」
 頭の中が爆ぜるような快感に、全身の筋肉の動きがバグって、微弱に痙攣する。
 ようやく、咄嗟に全身の力を緩めることができたのは、胸元からくぐもった嬌声が聞こえてからだった。
 「あっ、はぁっ、はっ……っ」
 「マジで悪い……」
 「はっ……ん、息は、したい……」
 「ごめん……」
 酸素を取り込もうとしている体を支え、密着した状態から離す。
 終わった。一連の行為、こいつによるところの、俺の感情と行動の“引き受け”。
 俺だって、こいつを損なわせないまま――思考と体を分離させずに、“快楽”を与えることが出来たと思う。
 どちらの目的も、達成された。
 ――それなのに、張り詰めた欲の塊が収まらない。
 こいつの中に激しく吐き出しておきながら、心中ではこれだけの充足感を抱えていながら、どうにか壊さずに抱き終えることができたのに、身体だけが全く収まらない。欲望だけが、「もっと、もっと」と要求する。
 荒い息。収まらない怒張。俺はもう、どうすればいいのか解らない。レイの言ったところではないが、“自分の体が自分の体じゃない”ようにすら感じてくる。
 ある程度息を整え終えたレイが、気だるげな、余韻の残った瞳で、見てくる。
 これ以上こいつがこうしている理由は無い。さっさと退いてくれればそれで状況は終えられる。
 それなのに、こいつは再び俺の体に身を預けてくる。
 何を考えているか解らない顔と、目が合う。思わず、口角が引きつった。
 「……なあ、キスしてくれよ」
 いつもの調子で発したつもりのからかいは、酷く情けなく震えていた。精一杯の不安表明。一世一代の告白。
 ほんの少し、驚いたように見開かれた目に見つめられる。窺うような顔は、いつもの無邪気な調子で「いいの?」と尋ねてきているように思えた。その顔を俺も、見つめ続ける。
 震える吐息。多分、絶対に情けない顔。
 細い両手に、包み込むように頬に柔らかく触れられる。こいつが好きだと言った無精ひげが微かに撫でられて――。
 別に、これで俺の行いが許されるわけじゃない。罪悪感が消えるわけでもない。
 それでも、こいつと共に在り続けることだけを許された。ただ、それだけのこと。ただそれだけの、究極の安堵。
 ――柔らかい唇が触れるのを感じながら、目を閉じた。
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