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1巻
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プロローグ はじまりはいつもどん底
人生から完全に消し去りたい――
切り取って、シュレッダーにかけて、いや、それでも足りない。
いっそ溶鉱炉で灰も残らないほど焼きつくして、最初からなかったことにしたい。
そんな思い出が、誰しもひとつやふたつはあるだろう。
「これ……あの、私の、気持ちです」
顔から火が噴き出しているようだった。肌だけでなく、目からも鼻からも、耳からも。その炎はジェット飛行機の噴出口から出るそれに似ていて、ややアニメチックな色味で、効果音はボーッ。
そんな風に、何もかも二次元のビジュアルにして考える癖が、十七歳の坂谷由南にはあった。
「ん、……俺?」
その人は、訝しげに顔を上げた。
塾の国語講師、篠原柊哉。講師といってもアルバイトで、年頃は――多分、大学生くらい。
すらっとした長身で、顔が小さくて脚が長い。顔立ちは端整で、目鼻だけを見れば、そこらの女性より美しく女性的。
髪は少し長めで襟足が隠れるくらい。手首と指の形が綺麗で、時計はシルバーのクロノグラフ。塾講師のアルバイトなんかより、モデルでもすればいいのに――と、誰もが思うほどのイケメンである。
当然、塾での篠原の人気は凄まじかった。彼の講義には女生徒の申し込みが殺到し、一時など、女子の間で「篠原番」なるものが作られて、交代で彼へ差し入れをするという――そんな決まり事まで出来たほどだ。
とはいえ、その異常なまでの人気は徐々に沈静していき、彼の講義が始まって半年経つ頃にはすっかり下火になっていた。
理由は、当の篠原がそういった騒ぎに無関心で、その上冷淡なまでに愛想のない男だったこと。
そしてもうひとつ、その篠原に結婚を約束した彼女がいるという噂がまことしやかに流れたこと――篠原人気が下落した最大の原因は、むろん後者の方である。
ただ由南だけは、その噂が嘘であることを知っていた。そして、一見無愛想で冷淡な篠原が持つ、意外に熱い一面も知っていた。隠れた優しさも――知っているつもりだった。
その篠原は、今、講義が終わった後の教室で、首をかしげながら由南に手渡された封筒の裏表を確かめている。
「タイトル、未定……?」
それは封筒の表に、由南が書いた文字である。訝しげに呟いた篠原は、眉を寄せて由南を見上げた。
「何、これ」
「てっ、適当な題名がなかったんです。そ、それは後から先生が――いえ、とにかく、開けてみて下さい」
「まぁ、いいけど……」
それきり、由南は顔を上げられなかったから、以降の篠原の表情は見ていない。
夕暮れ。二人しかいない教室。椅子が軋み、篠原が組んでいた長い脚を解いて立ち上がる気配がする。
なんていうブランドの靴だろう。篠原の靴はいつも新品みたいにピカピカに輝いていて、上着だけ立派だけど靴はどこかくたびれている他の塾講師とは、それだけで全く違う人種のような気がした。
心臓の擬音は、とっくんとっくん。
どきどきどきどき……でも悪くない。きゃー、心臓、破裂しちゃうよー。そんなモノローグをつけてもいいだろう。もちろん全部、今の状況を二次元化――つまり漫画化した場合の話である。
これが篠原以外の誰かだったら、間違いなくドン引きされるであろうものを、今、由南は彼に渡したのだ。
――大丈夫、篠原先生は大丈夫。絶対に受け止めてくれるはず……
うつむいたまま、由南は祈るように自分に言い聞かせていた。
――大丈夫、先生だけは、私の思いを分かってくれる。
だって今まで会ったどんな人より、私を理解してくれた。たくさんの勇気と自信をくれた。
(お前が坂谷由南? 先週提出してもらった小論文のことで話があるんだけど、いいかな)
ひたすら地味に、隅っこで息を潜めるようにして授業を受けていた由南に、彼が目を止めてくれただけでも奇跡だった。その上、二人きりで親しく話が出来るようになるなんて――こんな奇跡以上の出来事を、なんと表現すればいいのだろう。
帰国子女だった由南は、それまでずっと日本語で会話するのを避けていたし、この地方独特の言い回しやイントネーションにも馴染めなかった。日本に戻ってきた直後に、言葉遣いのせいでイジメにあったからだ。その時は、一時ではあるが不登校にもなった。
すっかり自信を失くして自分の殻に閉じこもっていた由南に、篠原だけが手を差し伸べてくれたのだ。
(お前さ、もっと自分に自信を持てよ)
(人と上手く喋れない? 心配するな、俺とはちゃんと話せてるだろ)
篠原もまた打ち明けてくれた。女性と話すのをあまり楽しいと思ったことはないが、坂谷だけは違うなと。だから、私にとって彼は特別で、彼にとっても私は、多分少しばかり特別な生徒に違いない。
祈りにも似たその思いが、由南に今日の――無謀とも言える行動をとらせたのかもしれない。
篠原の長くて綺麗な指が、封を開いて内容物を取り出している気配がする。
「……ん? もしかして、……漫画?」
驚きのためか、普段は低く響く篠原の声が裏返った。由南は即座に反論していた。
「漫画じゃないです。コミックです」
「何それ、どういう区分」
どうって言われても、感覚というかこだわりというか。
「ま、漫画って言ったらオタク臭いけど、コミックって言ったらカジュアルでお洒落な感じがするじゃないですか。――絶対に忘れないで下さい。そこ、すごく大切なポイントですから」
それもまた、海外から戻ったばかりの頃のトラウマが、少しだけ関係している。
当時、イラストを描くのが密かな趣味だった由南は、大学ノートに漫画のキャラクターを描きためていた。そのノートをうっかりクラスメイトたちに見られ、大笑いされた挙句に言われたのだ。
(坂谷さんってオタクだったんだ。キモーい)
「……よく分からないけど、少女マ……あ、いや、コミックね」
頭に蘇ったセリフを由南が打ち消している一方で、篠原は言いにくそうに訂正した。
「それにしても、生原稿なんて初めて見たな。ふぅん……、どこでこんなの手に入れたわけ?」
「私が描いたんです」
パラパラとページを捲る篠原の手が止まった。
「描いたって、自分が?」
こくり、と由南は頷く。驚かれるのは想定内。けれど篠原は、決して馬鹿にはしないはずだ。
「これ全部? お前が一人で?」
再度由南は頷いた。
「嘘だろ? マジで? いや、すごいのはすごいけど、これ、どんだけ時間かけたんだよ」
その声には、予想もしなかった非難の色が混じっていた。
「ああ、そういや思い出した。以前、確かに言ってたよな。漫画――コミック作家になるのが坂谷の夢なんだっけ。気持ちは分かるけどお前さ、受験生が今の時期、こんなもん描いてんなよ」
うつむいた由南は、思わず「え?」と、瞬きをしていた。
なんかそれ、反応違くないですか?
由南が、ひた隠しにしてきた自分の夢を、目の前の男に打ち明けたのは先月の半ばのことである。
(私は、恋愛漫画家――れ、恋愛コミック――ラブコミック作家になるのが、夢なんです!)
それがあまりに意外だったのか、篠原はたっぷり五秒は瞬きを繰り返していたようだった。
(恋愛漫画家――そんなジャンルがあったんだ)
(そんなジャンルはないですけど、その――平たく言えば少女漫画のことですよ。恋愛をテーマにした乙女向け漫画……コミックのことです。読んだ人が私もこんな恋愛がしたいと心から思えるような、そんな最高の恋愛漫……ラブコミックを描くのが、私の昔からの夢なんです)
(へぇ、いいじゃん)
その時、目の前の男はとても優しい目をして、こう言ってくれたのだ。
(俺は漫画とか読まないけど、その年で夢がはっきりしているのはすごいと思う。頑張れよ)
なのに何? 今の、若干非難するような口調は。
今、由南が篠原に渡したのは、二十四ページの描き下ろし漫画原稿である。
そこに由南は、この数カ月、ずっと胸に秘めていた彼への思いを込めたのだ。告白を、少女漫画という形にして。
多分、両思いになることは考えていなかった。
胸にためこんだ彼への思いが溢れて、自分でもどうしようもなくなって――その気持ちを漫画で表したいという衝動が抑えきれなくなったのだ。
それは、タイトルのないラブストーリーで、同時に篠原への熱烈なラブレターでもあった。
コピー本にしようかとも思ったが、あえて情熱の全てを注ぎ込んだ泥臭い生原稿を持参した。だって、ラブレターをコピーして渡すなんて、ありえないと思ったからだ。
漫画としてジャンル分けすれば、コミカルだけど切ないラブストーリー。これを描きながら、由南は何度も感情移入して泣いた。篠原への恋心を全部、何もかも余さずに描き込んだつもりだった。
が――
「……ぶ」
ページを捲った篠原が、かすかに噴き出した。
「あ、いや……ごめ、……え、てか、これ――俺? 俺の名前? なんで? それで相手が坂谷? ちょっと待てよ、これ――、マジでウケるんだけど!」
横を向いた篠原は、耐えかねたように笑い出した。
由南は、悪い夢でも見ているような気持ちで、その笑い声を聞いていた。彼が声をあげて笑うのを見たのは初めてだ。冷静な皮肉屋だと思っていたけど、こんな笑い方もできる人だったんだ――
「ちょ、ごめ……。いや、悪気はないんだけど、マジで」
そう言いながら口を拳で押さえ、懸命に笑いを堪える初恋の人の足元を、由南は暗い穴に突き落とされたような絶望の中で見つめていた。
この残酷な反応で、彼にその気がないことはよく分かった。それだけではない。大爆笑された。悪夢みたいだ。それが、生まれて初めてした告白への反応だなんて。
二分割されたページの半分は黒ベタ、その隅っこで逆さまになって落ちていく女の子――の図。由南は、この状況をコミック化してしまうことで、懸命に自分を立て直そうと試みた。でもそれは、どうしてもコミカルな形になってくれない。
何度か咳払いと深呼吸をして、ようやく篠原柊哉は原稿用紙を元通りに封筒に収めた。
その間由南は――一度も顔を上げられなかった。
「ちょ――悪い。これ、冷静に読めそうもないんで、一人でじっくり読ませてもらってもいいかな」
「――……は、い」
出来れば今すぐ、その原稿を返してほしかった。今、篠原に対しては失望の気持ちしかない。夢を見すぎていたことがやっと分かった。一人で馬鹿みたいに暴走していた。
由南の漫画の中の篠原であれば、絶対にこんな残酷な対応をしたりはしない。つまり彼は、少女漫画のヒーローではなかったのだ……
失望まっただ中の由南をよそに篠原は素早く原稿を入れた封筒を抱えると、「じゃ、次の講義があるから」とそそくさと教室を出ていった。
――最悪……
どうせ振るつもりなら、今すぐあっさり断ってくれればいいのに。
せめて、笑わないでいてほしかった。振るなら振るで、真剣に向き合ってほしかった。
自分でも乙女すぎる告白だとは思ったが、それでも篠原なら――自分の夢を初めて打ち明け、それに真摯に答えてくれたあの人なら、受け止めてくれると信じていたのだ……
今となっては、妄想と熱に浮かされたこの一カ月を、ドブに捨ててしまいたいくらいだ。
が、本当の悲劇は、その夜の講義の終了後に訪れた。
数学の講義を終えた由南が帰ろうとした時だった。先に講義が終わったはずの隣のクラスに、やたら人だかりが出来ている。
「すげー、これ漫画? 生原稿?」
「坂谷由南と篠原柊哉って、Vクラスの坂谷と、国語の篠原のことだろ? 何これ、なんで漫画に出てくるキャラが、この二人なわけ?」
「だから、これ、その坂谷が描いた漫画なんだって」
「漫画の中で、篠原に告って両思いって……キモっ、どんだけ乙女な妄想してんだよ。『ドキドキしちゃう……だって、篠原先生が好きだから』。ぶっ、寒いよ。寒いっつーか、痛い、マジで」
どっと、笑い声が教室内に満ちた。
「篠原、職員室で大爆笑。そりゃこんなの渡されたら、笑うしかないよな」
彼らの足元で、原稿を入れていた封筒が踏みにじられ、しわくちゃになっていた。「篠原先生へ」。封筒に記した文字に泥のついた靴跡が重なっている。由南はただ、棒みたいに立ちつくしていた。
「坂谷、いい気になってたもんね。篠原に優しくされてるからって」
「あれ、塾長命令だって聞いたよ。坂谷が塾辞めそうだから、なんとか気を引いて引き止めろって。あの子、東大確実なんでしょ? 辞められたらマジで大損らしい」
なんだろう。この会話。もしかして、夢だろうか。
そうだ、夢に違いない。そうでなければ、私は異世界に迷い込んでしまったのだ。
しかし耳を突き刺すような残酷な会話は、なおも続く。
「坂谷も、頭いいくせに馬っ鹿だよねー。多分騙されちゃったんだよ。篠原、彼女いるのにさぁ」
「え? 婚約してる彼女がいるとかってやつ? それ、生徒を近寄らせないための嘘じゃないの?」
「違う違う。英語の吉永。勘のいい子は気づいてたよ。だってシャンプーの匂いがいっつも一緒。篠原が吉永のマンションに入ってくの、私も一度見たことあるし」
「篠原ってああ見えてかなりなボンビーなんだって。吉永も結局は、カモられてるんでしょ」
その間も、由南の漫画は次々と嘲笑の中で回し読みされている。
「押すなって。焦らなくても、これ、もうコピーしたやつが出回ってっから」
気がつけば由南は、声を出さずに泣いていた。歯を食いしばり、拳を口に当てるようにして、ぽたぽたと涙を零し続けていた。
騙されていた。嘘だった。私だけに向けられていると思った優しさも、言葉も、あれは全部――彼の仕事で、上辺だけのものに過ぎなかったのだ。
なんであんな男を好きになったんだろう。なんでその気持ちを漫画になんかしたんだろう。私はなんて馬鹿だったんだろう――
それから後のことは、由南はよく覚えていない。
学校にも同じ塾の子が持ち込んだのか、由南の描いた漫画のコピーはあっと言う間に広まった。
塾にはその日を最後に行かなかった。学校にも、多分その翌週ぐらいから行かなくなった。
どういう精神状態だったのか今でもよく分からないけど、部屋に閉じこもって、やたらハッピーな少女漫画ばかり描いていた。描いて描いて、描きまくった。
両親は毎晩泣いていた。どこで事情を聞き知ったのか、塾にも抗議の電話をしていたようだった。
「いったい何で、そんな無神経な真似をしてくれたんですか。由南は帰国子女で、転入した中学校では周りに馴染めず、随分長いこと不登校だったんです。学区外の高校に入って、ようやく落ち着いてきたのに……それを、何もかも目茶苦茶にして!」
由南にしてみれば、とうの昔に消し去った過去をそんな風に親が暴露してしまったことの方が堪らなかったし、もう二度と塾にも学校にも行けないという気持ちが余計に強くなった。
当然、塾の方からも電話があったし、塾長と篠原が揃って謝罪に来たこともある。その際篠原が、自分がうっかり他の生徒に見せてしまったのが原因だと謝っていたことも聞いた。
由南は顔さえ出さず、電話にも出なかった。というより、もう篠原は由南の人生から切り離された男だった。少女漫画にふさわしくない最低男。もはや、記憶の底にすら残したくない。
あんな男に恋をして、あまつさえ恋愛漫画のヒーローに見立てていたなんて――
言ってみれば、当時の由南は、彼への怒りだけで生きていたのかもしれない。その憤りをぶつけるように、極端にハッピーで明るい恋愛漫画ばかりを描いていたのかもしれない。とはいえ、後から何度振り返っても、当時の心境だけは自分でも掴み切れないのだが。
「あ、私、祥雄社のユノハラです。温泉に野原の原でユノハラね。おたく、坂谷由南さんですか?」
そんなおかしな電話が東京の出版社からあったのは、事件から二カ月後――秋も随分深まった頃だった。
「へぇー、高校三年生なんだ。じゃあ受験? よかったら東京に出てこないかなぁ。ああ、言い忘れました。君の投稿してくれた作品『恋してダーリン』だけど、『週刊ラブリー』来週号に掲載が決まったから。いやぁ、人気次第だけど、編集部では好評でね! 君、絵もストーリーも本当に上手いね。タイトルとかベタだし、若干話が古い気もするけど、まぁ、何が受けるか分からないのがこの世界だから」
その瞬間、由南は真っ暗だった自分の人生に、初めて一縷の光が射したのを見た。
「行きます。東京」
由南は受話器を握り締めたまま、即答した。
「私、東京で漫画家になります。祥雄社さんのお世話になります!」
夕食の時間だった。背後では、両親が同時に茶碗をテーブルに置き、中学生の弟が飲んでいたお茶を吹き出した。
「え、いやぁ。そういう意味に取られてもアレだけど。ほら、厳しい世界だから売れなかったら仕事入んないし、コミックス出せずに終わる人も大勢いるし、てかほとんどそんなんばかりだし。それでも――いや、決して積極的に誘ってるわけじゃないよ? それでもよければ東京に出ておいで」
この軽薄そうな編集者が、これから漫画家になろうとする高校三年生の少女の人生に、これっぽっちも責任を取る気がないのはよく分かった。
それでも由南にとっては、東京からのこの電話こそが地獄に垂らされた蜘蛛の糸だった。
しがみついて、這い上がりたい。そしてズタズタになった人生を、完全にリセットするのだ。
「かまいません。貯金下ろして、明日にでも行きます。即収入になるアシスタントの口があったら、紹介してもらえませんか」
由南はきっぱりと言い切った。
「由南、あんた一体――」
「おい、代われ。相手は誰だ。今すぐお父さんに電話を代われ」
それから数日続いた喧騒もまた、由南にとっては思い出したくない過去のひとつである。
でもそんな風にして、由南の最悪な――人生で一番悲惨だった高校生活は、唐突に終わりを迎えたのだった。
第一話 少女漫画の限界は、べろ入れなしのキスまでです
1
「先生……坂谷先生」
夢の中を彷徨っていた由南は、その声に弾かれたように顔を上げた。
はっとする。瞬きをして目をこする。現在はいつでここはどこ――? そしてすぐに気がついた。
ここは、東京神田、祥雄社ビルの六階。『ラブリー』編集部内にある打ち合わせスペースである。
「寝られてました? もしかして」
机を挟んだ向かい側には、若い男の顔があった。
立花瞬。『ラブリー』編集部の編集者で、去年入社したばかりの新人である。
思わず唇を押さえた由南は、涎の有無を確認してから、こみ上げた欠伸を呑み込んだ。
「ごめんなさい。実はあまり寝てないんです。今日持ってきたネームを作るのに、明け方近くまでかかったから……」
そう言うと、たちまち立花は大袈裟に眉を上げた。
「うわぁ、それはほんっと、すみませんっ。本来なら僕がご自宅にお伺いしなければいけないところを、こうやって先生自らおいでいただきましてっ」
日焼けサロンでこんがり焼けた肌に、耳には三つ並んだピアス穴。見た目は典型的なチャラ男である。それだけでも十分頼りないのに、加えて、祥雄社社長立花一心の甥という曰くつき。
昨年立花が「新人で何もできませんし、右も左も分かりませんが、これからよろしくお願いします!」と、甘えているとしか思えない挨拶回りをしに来た時、由南は内心思ったものだ。
――こんなのに担当されるようになったら、私も、もうお終いだな。
翌年の春、立花は由南の担当になった。
「何しろ坂谷先生は、十年以上のキャリアを持つベテラン大先生ですからね。しかも祥雄社の星。少女漫画界のトップランナーですよ。そんな大先生に、打ち合わせの度にわざわざ編集部にまでおいでいただくなんて、全くもって――」
立花の薄っぺらい賛辞の言葉を、由南はしばらく辛抱して聞いていた。今までの経験から言うと、これは何か言いにくい話をされる時の前兆だ。連載を切られるとか、ネームがボツになったとか。が、今の由南は連載も持っていないし、このネームも今日持ち込んだばかりである。今度はなんの話だろう。
それから二度、立花の軽薄な口から『十年以上の大ベテラン』という言葉が出た後、ついに由南は堪りかね、飲んでいた紙コップのコーヒーを机に置いた。
「あの、まだ九年ですから」
「へ?」
「十七歳でデビューしたから、今年でまだ九年目です。十年、届いてないですから」
「えっ、あ、あー、そうでしたっけ? すみません。でも、感覚としては十年ですよね。だって、それだけ長く『別冊ラブリー』で描いてらっしゃるのは、先生くらいじゃないですか!」
「……最初の六年は『週刊ラブリー』、本誌の方です。別冊で描いた期間は、せいぜい三年くらいだと思いますけど」
失言の上塗りに気づいたのか、立花はうろたえたように視線を泳がせた。
「そ、そうでしたっけ。最初は週刊。ああ、そうですね。後から別冊に移られたんですよね」
一体、この説明をしたのは何度目だろうか。受け持ち作家の情報くらい押さえておくのが常識だろうに、立花にはそのあたりの職業意識が見事なまでに欠落している。それどころか、本当に少女漫画が好きかどうかも怪しいくらいで、立花の少女漫画の知識といえば、ここ数年のヒット作に限定されているのだ。
今の受け答えだけでも相当腹立たしいのに、何を勘違いしたのか、立花はあらぬ方向で自分の失言をフォローしようと思い立ったようだった。
「ま、まぁ、あれですよ。別に本誌で描くのが全てじゃないっていうか。確かに本誌から別冊に移ると、雰囲気としては都落ち、みたいな感じはしますけど、別冊には別冊の良さというか、魅力みたいなものがあるじゃないですか!」
いいことを言ったでしょとばかりに、したり顔をする立花に、由南は辛抱の微笑を返した。
由南がデビューした少女向け漫画週刊誌『週刊ラブリー』は、隔月で別冊を発刊している。名称は『別冊ラブリー』。人気作家の連載作品も多少は掲載されているが、概ね新人か、売れ行きの落ちた中堅の活躍の場とされている。つまり立花の言う通り、週刊誌で描いていた作家が別冊に移るというのは、どうしても都落ちした感が否めないのだ。
由南は再度嘆息し、コーヒーを飲み干してから、手帳などをバッグに収めた。
「とにかくそのネーム、問題なければ、今月の連載会議に回して下さい。そろそろ私も読み切りでなく、長期連載で話を描きたいですし」
「はい、いや、それはもう。連載枠に空きが出た時は毎回、坂谷先生が第一候補に挙がってますから!」
――その割には、出た空きはいつも他の子に回されているような気がするんだけど……
その疑念を力のない立花に伝えたところで仕方がない。由南は重い腰をあげて立ち上がった。
「あっ、先生っ」
やはり本題が他にあったのか、立花が慌てて腰を浮かせた。そして、言いにくそうに口を開く。
「すみません。実は、あといくつか確認しておきたいことが――先月、お電話でお話しさせていただいた、電子書籍の件ですが」
それか――と由南は思った。
あまりヒットせず、実質絶版状態になったコミックスを、電子書籍化してはどうかという話。
「そのお話なら、お断りしたはずでは?」
柔らかく、けれどきっぱりと即答すると、うっ、と立花が言葉に詰まった。
「私にとって、漫画はあくまで紙ベースなんです。前から言ってますけど、コミックスの電子書籍化の話はもう私にしないで下さい」
「わ、分かりました。いや、分かってます。それはもう、ハイ、結構です」
慌てて追従した立花は、すぐに媚を売るような笑顔になった。
「えーと、じゃ、もうひとつ。来月頭にある、祥雄社漫画賞の授賞式ですけど、出席の方は……」
それには、由南は少しばかり露骨に溜息をついて向き直った。
「出ませんよ。自分が受賞するならともかく、私にはなんの関係もない式でしょう」
「で、ですよねー。まぁ、他の作家さんはお祝いがてら出席されたりしますんで、一応」
へらっと笑った立花は、しかし、ますます物言いたげな表情になった。
「それ――からですね。先月、この場でご提案させていただいた件なんですけど、前向きに、ご検討いただけたでしょうか!」
先月、この場――つまり、前の打ち合わせの時。
ようやく立花の本来の目的を察した由南は、初めて、不機嫌をはっきり顔に出した。
「それこそ、即行で断りませんでしたっけ」
立花は救いを求めるように周囲を見回したが、諦めたようにひきつった笑顔を由南に向ける。
「その……ご存じの通り、ですね。『別冊ラブリー』の購読者層は、週刊本誌より少しばかり年齢が高めなんですよ。なんていうんですか? もうキスだけの恋愛じゃ物足りなーい、みたいな」
「セックス描写は絶対にお断りですよ」
わざとらしくおどける立花に、由南はぴしゃりと言ってのけた。
「いや、それは分かってます。先生のポリシーというか、高邁な理想みたいなものは、前任の者からよーく聞いています。でも、でもですね」
「いえ、そちらの言い分は結構です」
由南は、口調を強くして遮った。
言っては悪いが、このぼんくら低能編集者に、由南はそれでも最大限譲歩し、気を使っているつもりである。腐っても社長の甥。将来、祥雄社の幹部になるのは必至だからだ。
が、作品の内容――殊に、性描写に関してのアドバイスだけは、別だった。
人生から完全に消し去りたい――
切り取って、シュレッダーにかけて、いや、それでも足りない。
いっそ溶鉱炉で灰も残らないほど焼きつくして、最初からなかったことにしたい。
そんな思い出が、誰しもひとつやふたつはあるだろう。
「これ……あの、私の、気持ちです」
顔から火が噴き出しているようだった。肌だけでなく、目からも鼻からも、耳からも。その炎はジェット飛行機の噴出口から出るそれに似ていて、ややアニメチックな色味で、効果音はボーッ。
そんな風に、何もかも二次元のビジュアルにして考える癖が、十七歳の坂谷由南にはあった。
「ん、……俺?」
その人は、訝しげに顔を上げた。
塾の国語講師、篠原柊哉。講師といってもアルバイトで、年頃は――多分、大学生くらい。
すらっとした長身で、顔が小さくて脚が長い。顔立ちは端整で、目鼻だけを見れば、そこらの女性より美しく女性的。
髪は少し長めで襟足が隠れるくらい。手首と指の形が綺麗で、時計はシルバーのクロノグラフ。塾講師のアルバイトなんかより、モデルでもすればいいのに――と、誰もが思うほどのイケメンである。
当然、塾での篠原の人気は凄まじかった。彼の講義には女生徒の申し込みが殺到し、一時など、女子の間で「篠原番」なるものが作られて、交代で彼へ差し入れをするという――そんな決まり事まで出来たほどだ。
とはいえ、その異常なまでの人気は徐々に沈静していき、彼の講義が始まって半年経つ頃にはすっかり下火になっていた。
理由は、当の篠原がそういった騒ぎに無関心で、その上冷淡なまでに愛想のない男だったこと。
そしてもうひとつ、その篠原に結婚を約束した彼女がいるという噂がまことしやかに流れたこと――篠原人気が下落した最大の原因は、むろん後者の方である。
ただ由南だけは、その噂が嘘であることを知っていた。そして、一見無愛想で冷淡な篠原が持つ、意外に熱い一面も知っていた。隠れた優しさも――知っているつもりだった。
その篠原は、今、講義が終わった後の教室で、首をかしげながら由南に手渡された封筒の裏表を確かめている。
「タイトル、未定……?」
それは封筒の表に、由南が書いた文字である。訝しげに呟いた篠原は、眉を寄せて由南を見上げた。
「何、これ」
「てっ、適当な題名がなかったんです。そ、それは後から先生が――いえ、とにかく、開けてみて下さい」
「まぁ、いいけど……」
それきり、由南は顔を上げられなかったから、以降の篠原の表情は見ていない。
夕暮れ。二人しかいない教室。椅子が軋み、篠原が組んでいた長い脚を解いて立ち上がる気配がする。
なんていうブランドの靴だろう。篠原の靴はいつも新品みたいにピカピカに輝いていて、上着だけ立派だけど靴はどこかくたびれている他の塾講師とは、それだけで全く違う人種のような気がした。
心臓の擬音は、とっくんとっくん。
どきどきどきどき……でも悪くない。きゃー、心臓、破裂しちゃうよー。そんなモノローグをつけてもいいだろう。もちろん全部、今の状況を二次元化――つまり漫画化した場合の話である。
これが篠原以外の誰かだったら、間違いなくドン引きされるであろうものを、今、由南は彼に渡したのだ。
――大丈夫、篠原先生は大丈夫。絶対に受け止めてくれるはず……
うつむいたまま、由南は祈るように自分に言い聞かせていた。
――大丈夫、先生だけは、私の思いを分かってくれる。
だって今まで会ったどんな人より、私を理解してくれた。たくさんの勇気と自信をくれた。
(お前が坂谷由南? 先週提出してもらった小論文のことで話があるんだけど、いいかな)
ひたすら地味に、隅っこで息を潜めるようにして授業を受けていた由南に、彼が目を止めてくれただけでも奇跡だった。その上、二人きりで親しく話が出来るようになるなんて――こんな奇跡以上の出来事を、なんと表現すればいいのだろう。
帰国子女だった由南は、それまでずっと日本語で会話するのを避けていたし、この地方独特の言い回しやイントネーションにも馴染めなかった。日本に戻ってきた直後に、言葉遣いのせいでイジメにあったからだ。その時は、一時ではあるが不登校にもなった。
すっかり自信を失くして自分の殻に閉じこもっていた由南に、篠原だけが手を差し伸べてくれたのだ。
(お前さ、もっと自分に自信を持てよ)
(人と上手く喋れない? 心配するな、俺とはちゃんと話せてるだろ)
篠原もまた打ち明けてくれた。女性と話すのをあまり楽しいと思ったことはないが、坂谷だけは違うなと。だから、私にとって彼は特別で、彼にとっても私は、多分少しばかり特別な生徒に違いない。
祈りにも似たその思いが、由南に今日の――無謀とも言える行動をとらせたのかもしれない。
篠原の長くて綺麗な指が、封を開いて内容物を取り出している気配がする。
「……ん? もしかして、……漫画?」
驚きのためか、普段は低く響く篠原の声が裏返った。由南は即座に反論していた。
「漫画じゃないです。コミックです」
「何それ、どういう区分」
どうって言われても、感覚というかこだわりというか。
「ま、漫画って言ったらオタク臭いけど、コミックって言ったらカジュアルでお洒落な感じがするじゃないですか。――絶対に忘れないで下さい。そこ、すごく大切なポイントですから」
それもまた、海外から戻ったばかりの頃のトラウマが、少しだけ関係している。
当時、イラストを描くのが密かな趣味だった由南は、大学ノートに漫画のキャラクターを描きためていた。そのノートをうっかりクラスメイトたちに見られ、大笑いされた挙句に言われたのだ。
(坂谷さんってオタクだったんだ。キモーい)
「……よく分からないけど、少女マ……あ、いや、コミックね」
頭に蘇ったセリフを由南が打ち消している一方で、篠原は言いにくそうに訂正した。
「それにしても、生原稿なんて初めて見たな。ふぅん……、どこでこんなの手に入れたわけ?」
「私が描いたんです」
パラパラとページを捲る篠原の手が止まった。
「描いたって、自分が?」
こくり、と由南は頷く。驚かれるのは想定内。けれど篠原は、決して馬鹿にはしないはずだ。
「これ全部? お前が一人で?」
再度由南は頷いた。
「嘘だろ? マジで? いや、すごいのはすごいけど、これ、どんだけ時間かけたんだよ」
その声には、予想もしなかった非難の色が混じっていた。
「ああ、そういや思い出した。以前、確かに言ってたよな。漫画――コミック作家になるのが坂谷の夢なんだっけ。気持ちは分かるけどお前さ、受験生が今の時期、こんなもん描いてんなよ」
うつむいた由南は、思わず「え?」と、瞬きをしていた。
なんかそれ、反応違くないですか?
由南が、ひた隠しにしてきた自分の夢を、目の前の男に打ち明けたのは先月の半ばのことである。
(私は、恋愛漫画家――れ、恋愛コミック――ラブコミック作家になるのが、夢なんです!)
それがあまりに意外だったのか、篠原はたっぷり五秒は瞬きを繰り返していたようだった。
(恋愛漫画家――そんなジャンルがあったんだ)
(そんなジャンルはないですけど、その――平たく言えば少女漫画のことですよ。恋愛をテーマにした乙女向け漫画……コミックのことです。読んだ人が私もこんな恋愛がしたいと心から思えるような、そんな最高の恋愛漫……ラブコミックを描くのが、私の昔からの夢なんです)
(へぇ、いいじゃん)
その時、目の前の男はとても優しい目をして、こう言ってくれたのだ。
(俺は漫画とか読まないけど、その年で夢がはっきりしているのはすごいと思う。頑張れよ)
なのに何? 今の、若干非難するような口調は。
今、由南が篠原に渡したのは、二十四ページの描き下ろし漫画原稿である。
そこに由南は、この数カ月、ずっと胸に秘めていた彼への思いを込めたのだ。告白を、少女漫画という形にして。
多分、両思いになることは考えていなかった。
胸にためこんだ彼への思いが溢れて、自分でもどうしようもなくなって――その気持ちを漫画で表したいという衝動が抑えきれなくなったのだ。
それは、タイトルのないラブストーリーで、同時に篠原への熱烈なラブレターでもあった。
コピー本にしようかとも思ったが、あえて情熱の全てを注ぎ込んだ泥臭い生原稿を持参した。だって、ラブレターをコピーして渡すなんて、ありえないと思ったからだ。
漫画としてジャンル分けすれば、コミカルだけど切ないラブストーリー。これを描きながら、由南は何度も感情移入して泣いた。篠原への恋心を全部、何もかも余さずに描き込んだつもりだった。
が――
「……ぶ」
ページを捲った篠原が、かすかに噴き出した。
「あ、いや……ごめ、……え、てか、これ――俺? 俺の名前? なんで? それで相手が坂谷? ちょっと待てよ、これ――、マジでウケるんだけど!」
横を向いた篠原は、耐えかねたように笑い出した。
由南は、悪い夢でも見ているような気持ちで、その笑い声を聞いていた。彼が声をあげて笑うのを見たのは初めてだ。冷静な皮肉屋だと思っていたけど、こんな笑い方もできる人だったんだ――
「ちょ、ごめ……。いや、悪気はないんだけど、マジで」
そう言いながら口を拳で押さえ、懸命に笑いを堪える初恋の人の足元を、由南は暗い穴に突き落とされたような絶望の中で見つめていた。
この残酷な反応で、彼にその気がないことはよく分かった。それだけではない。大爆笑された。悪夢みたいだ。それが、生まれて初めてした告白への反応だなんて。
二分割されたページの半分は黒ベタ、その隅っこで逆さまになって落ちていく女の子――の図。由南は、この状況をコミック化してしまうことで、懸命に自分を立て直そうと試みた。でもそれは、どうしてもコミカルな形になってくれない。
何度か咳払いと深呼吸をして、ようやく篠原柊哉は原稿用紙を元通りに封筒に収めた。
その間由南は――一度も顔を上げられなかった。
「ちょ――悪い。これ、冷静に読めそうもないんで、一人でじっくり読ませてもらってもいいかな」
「――……は、い」
出来れば今すぐ、その原稿を返してほしかった。今、篠原に対しては失望の気持ちしかない。夢を見すぎていたことがやっと分かった。一人で馬鹿みたいに暴走していた。
由南の漫画の中の篠原であれば、絶対にこんな残酷な対応をしたりはしない。つまり彼は、少女漫画のヒーローではなかったのだ……
失望まっただ中の由南をよそに篠原は素早く原稿を入れた封筒を抱えると、「じゃ、次の講義があるから」とそそくさと教室を出ていった。
――最悪……
どうせ振るつもりなら、今すぐあっさり断ってくれればいいのに。
せめて、笑わないでいてほしかった。振るなら振るで、真剣に向き合ってほしかった。
自分でも乙女すぎる告白だとは思ったが、それでも篠原なら――自分の夢を初めて打ち明け、それに真摯に答えてくれたあの人なら、受け止めてくれると信じていたのだ……
今となっては、妄想と熱に浮かされたこの一カ月を、ドブに捨ててしまいたいくらいだ。
が、本当の悲劇は、その夜の講義の終了後に訪れた。
数学の講義を終えた由南が帰ろうとした時だった。先に講義が終わったはずの隣のクラスに、やたら人だかりが出来ている。
「すげー、これ漫画? 生原稿?」
「坂谷由南と篠原柊哉って、Vクラスの坂谷と、国語の篠原のことだろ? 何これ、なんで漫画に出てくるキャラが、この二人なわけ?」
「だから、これ、その坂谷が描いた漫画なんだって」
「漫画の中で、篠原に告って両思いって……キモっ、どんだけ乙女な妄想してんだよ。『ドキドキしちゃう……だって、篠原先生が好きだから』。ぶっ、寒いよ。寒いっつーか、痛い、マジで」
どっと、笑い声が教室内に満ちた。
「篠原、職員室で大爆笑。そりゃこんなの渡されたら、笑うしかないよな」
彼らの足元で、原稿を入れていた封筒が踏みにじられ、しわくちゃになっていた。「篠原先生へ」。封筒に記した文字に泥のついた靴跡が重なっている。由南はただ、棒みたいに立ちつくしていた。
「坂谷、いい気になってたもんね。篠原に優しくされてるからって」
「あれ、塾長命令だって聞いたよ。坂谷が塾辞めそうだから、なんとか気を引いて引き止めろって。あの子、東大確実なんでしょ? 辞められたらマジで大損らしい」
なんだろう。この会話。もしかして、夢だろうか。
そうだ、夢に違いない。そうでなければ、私は異世界に迷い込んでしまったのだ。
しかし耳を突き刺すような残酷な会話は、なおも続く。
「坂谷も、頭いいくせに馬っ鹿だよねー。多分騙されちゃったんだよ。篠原、彼女いるのにさぁ」
「え? 婚約してる彼女がいるとかってやつ? それ、生徒を近寄らせないための嘘じゃないの?」
「違う違う。英語の吉永。勘のいい子は気づいてたよ。だってシャンプーの匂いがいっつも一緒。篠原が吉永のマンションに入ってくの、私も一度見たことあるし」
「篠原ってああ見えてかなりなボンビーなんだって。吉永も結局は、カモられてるんでしょ」
その間も、由南の漫画は次々と嘲笑の中で回し読みされている。
「押すなって。焦らなくても、これ、もうコピーしたやつが出回ってっから」
気がつけば由南は、声を出さずに泣いていた。歯を食いしばり、拳を口に当てるようにして、ぽたぽたと涙を零し続けていた。
騙されていた。嘘だった。私だけに向けられていると思った優しさも、言葉も、あれは全部――彼の仕事で、上辺だけのものに過ぎなかったのだ。
なんであんな男を好きになったんだろう。なんでその気持ちを漫画になんかしたんだろう。私はなんて馬鹿だったんだろう――
それから後のことは、由南はよく覚えていない。
学校にも同じ塾の子が持ち込んだのか、由南の描いた漫画のコピーはあっと言う間に広まった。
塾にはその日を最後に行かなかった。学校にも、多分その翌週ぐらいから行かなくなった。
どういう精神状態だったのか今でもよく分からないけど、部屋に閉じこもって、やたらハッピーな少女漫画ばかり描いていた。描いて描いて、描きまくった。
両親は毎晩泣いていた。どこで事情を聞き知ったのか、塾にも抗議の電話をしていたようだった。
「いったい何で、そんな無神経な真似をしてくれたんですか。由南は帰国子女で、転入した中学校では周りに馴染めず、随分長いこと不登校だったんです。学区外の高校に入って、ようやく落ち着いてきたのに……それを、何もかも目茶苦茶にして!」
由南にしてみれば、とうの昔に消し去った過去をそんな風に親が暴露してしまったことの方が堪らなかったし、もう二度と塾にも学校にも行けないという気持ちが余計に強くなった。
当然、塾の方からも電話があったし、塾長と篠原が揃って謝罪に来たこともある。その際篠原が、自分がうっかり他の生徒に見せてしまったのが原因だと謝っていたことも聞いた。
由南は顔さえ出さず、電話にも出なかった。というより、もう篠原は由南の人生から切り離された男だった。少女漫画にふさわしくない最低男。もはや、記憶の底にすら残したくない。
あんな男に恋をして、あまつさえ恋愛漫画のヒーローに見立てていたなんて――
言ってみれば、当時の由南は、彼への怒りだけで生きていたのかもしれない。その憤りをぶつけるように、極端にハッピーで明るい恋愛漫画ばかりを描いていたのかもしれない。とはいえ、後から何度振り返っても、当時の心境だけは自分でも掴み切れないのだが。
「あ、私、祥雄社のユノハラです。温泉に野原の原でユノハラね。おたく、坂谷由南さんですか?」
そんなおかしな電話が東京の出版社からあったのは、事件から二カ月後――秋も随分深まった頃だった。
「へぇー、高校三年生なんだ。じゃあ受験? よかったら東京に出てこないかなぁ。ああ、言い忘れました。君の投稿してくれた作品『恋してダーリン』だけど、『週刊ラブリー』来週号に掲載が決まったから。いやぁ、人気次第だけど、編集部では好評でね! 君、絵もストーリーも本当に上手いね。タイトルとかベタだし、若干話が古い気もするけど、まぁ、何が受けるか分からないのがこの世界だから」
その瞬間、由南は真っ暗だった自分の人生に、初めて一縷の光が射したのを見た。
「行きます。東京」
由南は受話器を握り締めたまま、即答した。
「私、東京で漫画家になります。祥雄社さんのお世話になります!」
夕食の時間だった。背後では、両親が同時に茶碗をテーブルに置き、中学生の弟が飲んでいたお茶を吹き出した。
「え、いやぁ。そういう意味に取られてもアレだけど。ほら、厳しい世界だから売れなかったら仕事入んないし、コミックス出せずに終わる人も大勢いるし、てかほとんどそんなんばかりだし。それでも――いや、決して積極的に誘ってるわけじゃないよ? それでもよければ東京に出ておいで」
この軽薄そうな編集者が、これから漫画家になろうとする高校三年生の少女の人生に、これっぽっちも責任を取る気がないのはよく分かった。
それでも由南にとっては、東京からのこの電話こそが地獄に垂らされた蜘蛛の糸だった。
しがみついて、這い上がりたい。そしてズタズタになった人生を、完全にリセットするのだ。
「かまいません。貯金下ろして、明日にでも行きます。即収入になるアシスタントの口があったら、紹介してもらえませんか」
由南はきっぱりと言い切った。
「由南、あんた一体――」
「おい、代われ。相手は誰だ。今すぐお父さんに電話を代われ」
それから数日続いた喧騒もまた、由南にとっては思い出したくない過去のひとつである。
でもそんな風にして、由南の最悪な――人生で一番悲惨だった高校生活は、唐突に終わりを迎えたのだった。
第一話 少女漫画の限界は、べろ入れなしのキスまでです
1
「先生……坂谷先生」
夢の中を彷徨っていた由南は、その声に弾かれたように顔を上げた。
はっとする。瞬きをして目をこする。現在はいつでここはどこ――? そしてすぐに気がついた。
ここは、東京神田、祥雄社ビルの六階。『ラブリー』編集部内にある打ち合わせスペースである。
「寝られてました? もしかして」
机を挟んだ向かい側には、若い男の顔があった。
立花瞬。『ラブリー』編集部の編集者で、去年入社したばかりの新人である。
思わず唇を押さえた由南は、涎の有無を確認してから、こみ上げた欠伸を呑み込んだ。
「ごめんなさい。実はあまり寝てないんです。今日持ってきたネームを作るのに、明け方近くまでかかったから……」
そう言うと、たちまち立花は大袈裟に眉を上げた。
「うわぁ、それはほんっと、すみませんっ。本来なら僕がご自宅にお伺いしなければいけないところを、こうやって先生自らおいでいただきましてっ」
日焼けサロンでこんがり焼けた肌に、耳には三つ並んだピアス穴。見た目は典型的なチャラ男である。それだけでも十分頼りないのに、加えて、祥雄社社長立花一心の甥という曰くつき。
昨年立花が「新人で何もできませんし、右も左も分かりませんが、これからよろしくお願いします!」と、甘えているとしか思えない挨拶回りをしに来た時、由南は内心思ったものだ。
――こんなのに担当されるようになったら、私も、もうお終いだな。
翌年の春、立花は由南の担当になった。
「何しろ坂谷先生は、十年以上のキャリアを持つベテラン大先生ですからね。しかも祥雄社の星。少女漫画界のトップランナーですよ。そんな大先生に、打ち合わせの度にわざわざ編集部にまでおいでいただくなんて、全くもって――」
立花の薄っぺらい賛辞の言葉を、由南はしばらく辛抱して聞いていた。今までの経験から言うと、これは何か言いにくい話をされる時の前兆だ。連載を切られるとか、ネームがボツになったとか。が、今の由南は連載も持っていないし、このネームも今日持ち込んだばかりである。今度はなんの話だろう。
それから二度、立花の軽薄な口から『十年以上の大ベテラン』という言葉が出た後、ついに由南は堪りかね、飲んでいた紙コップのコーヒーを机に置いた。
「あの、まだ九年ですから」
「へ?」
「十七歳でデビューしたから、今年でまだ九年目です。十年、届いてないですから」
「えっ、あ、あー、そうでしたっけ? すみません。でも、感覚としては十年ですよね。だって、それだけ長く『別冊ラブリー』で描いてらっしゃるのは、先生くらいじゃないですか!」
「……最初の六年は『週刊ラブリー』、本誌の方です。別冊で描いた期間は、せいぜい三年くらいだと思いますけど」
失言の上塗りに気づいたのか、立花はうろたえたように視線を泳がせた。
「そ、そうでしたっけ。最初は週刊。ああ、そうですね。後から別冊に移られたんですよね」
一体、この説明をしたのは何度目だろうか。受け持ち作家の情報くらい押さえておくのが常識だろうに、立花にはそのあたりの職業意識が見事なまでに欠落している。それどころか、本当に少女漫画が好きかどうかも怪しいくらいで、立花の少女漫画の知識といえば、ここ数年のヒット作に限定されているのだ。
今の受け答えだけでも相当腹立たしいのに、何を勘違いしたのか、立花はあらぬ方向で自分の失言をフォローしようと思い立ったようだった。
「ま、まぁ、あれですよ。別に本誌で描くのが全てじゃないっていうか。確かに本誌から別冊に移ると、雰囲気としては都落ち、みたいな感じはしますけど、別冊には別冊の良さというか、魅力みたいなものがあるじゃないですか!」
いいことを言ったでしょとばかりに、したり顔をする立花に、由南は辛抱の微笑を返した。
由南がデビューした少女向け漫画週刊誌『週刊ラブリー』は、隔月で別冊を発刊している。名称は『別冊ラブリー』。人気作家の連載作品も多少は掲載されているが、概ね新人か、売れ行きの落ちた中堅の活躍の場とされている。つまり立花の言う通り、週刊誌で描いていた作家が別冊に移るというのは、どうしても都落ちした感が否めないのだ。
由南は再度嘆息し、コーヒーを飲み干してから、手帳などをバッグに収めた。
「とにかくそのネーム、問題なければ、今月の連載会議に回して下さい。そろそろ私も読み切りでなく、長期連載で話を描きたいですし」
「はい、いや、それはもう。連載枠に空きが出た時は毎回、坂谷先生が第一候補に挙がってますから!」
――その割には、出た空きはいつも他の子に回されているような気がするんだけど……
その疑念を力のない立花に伝えたところで仕方がない。由南は重い腰をあげて立ち上がった。
「あっ、先生っ」
やはり本題が他にあったのか、立花が慌てて腰を浮かせた。そして、言いにくそうに口を開く。
「すみません。実は、あといくつか確認しておきたいことが――先月、お電話でお話しさせていただいた、電子書籍の件ですが」
それか――と由南は思った。
あまりヒットせず、実質絶版状態になったコミックスを、電子書籍化してはどうかという話。
「そのお話なら、お断りしたはずでは?」
柔らかく、けれどきっぱりと即答すると、うっ、と立花が言葉に詰まった。
「私にとって、漫画はあくまで紙ベースなんです。前から言ってますけど、コミックスの電子書籍化の話はもう私にしないで下さい」
「わ、分かりました。いや、分かってます。それはもう、ハイ、結構です」
慌てて追従した立花は、すぐに媚を売るような笑顔になった。
「えーと、じゃ、もうひとつ。来月頭にある、祥雄社漫画賞の授賞式ですけど、出席の方は……」
それには、由南は少しばかり露骨に溜息をついて向き直った。
「出ませんよ。自分が受賞するならともかく、私にはなんの関係もない式でしょう」
「で、ですよねー。まぁ、他の作家さんはお祝いがてら出席されたりしますんで、一応」
へらっと笑った立花は、しかし、ますます物言いたげな表情になった。
「それ――からですね。先月、この場でご提案させていただいた件なんですけど、前向きに、ご検討いただけたでしょうか!」
先月、この場――つまり、前の打ち合わせの時。
ようやく立花の本来の目的を察した由南は、初めて、不機嫌をはっきり顔に出した。
「それこそ、即行で断りませんでしたっけ」
立花は救いを求めるように周囲を見回したが、諦めたようにひきつった笑顔を由南に向ける。
「その……ご存じの通り、ですね。『別冊ラブリー』の購読者層は、週刊本誌より少しばかり年齢が高めなんですよ。なんていうんですか? もうキスだけの恋愛じゃ物足りなーい、みたいな」
「セックス描写は絶対にお断りですよ」
わざとらしくおどける立花に、由南はぴしゃりと言ってのけた。
「いや、それは分かってます。先生のポリシーというか、高邁な理想みたいなものは、前任の者からよーく聞いています。でも、でもですね」
「いえ、そちらの言い分は結構です」
由南は、口調を強くして遮った。
言っては悪いが、このぼんくら低能編集者に、由南はそれでも最大限譲歩し、気を使っているつもりである。腐っても社長の甥。将来、祥雄社の幹部になるのは必至だからだ。
が、作品の内容――殊に、性描写に関してのアドバイスだけは、別だった。
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