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恋中さんとの学校生活1

第11話 恋中さんと好きなもの

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 授業が終わり下校時刻になった。
 俺は席を立ち、いつものように帰ろうとして、ふと恋中さんの方を見た。

 前回までは、校門を出た辺りで、なんか隣に居た。
 そりゃ帰る場所が同じなのだから、おかしなことではない。

 ただ、どうせ一緒に帰るなら教室から帰っても同じだ。
 彼女は俺の視線に気が付くと、投げられたボールを拾った犬みたいに寄ってきた。

 いや、犬という表現は失礼か?
 まぁ単純に、かわいいという意味だ。

「帰りましょう」

 俺の隣に立った恋中さんは弾むような声で言った。
 それから普通に帰宅を初めて、俺は昼休みの続きくらいのテンションで話をした。
 なんでプログラミング始めたのとか、休む時何してるのとか、そういう普通の話。

「あの」

 途中、恋中さんが言った。

「今日は、すごく私のこと聞きますね」

 特に意識してなかったけど、言われてみればそんな気がする。

「ごめん、嫌だった?」

「いえいえっ、むしろ逆です」

 彼女は照れた様子で俺を見て、

「前より興味を持って頂けたのかなと感じて、嬉しいです」

 ……こういう表情が、反則なんだよなぁ。

「私も君のこと知りたいです」

 ……こういう言葉も、ズルいんだよなぁ。

「べつに俺、話すようなこと何もないけど」

「そんなことないです。好きな物とか、色々あります」

「好きな物か……」

「一番はおっぱいで合ってますよね?」

「ごめん恋中さん、それ忘れて」

「えっ、あれっ、違いました?」

「……チガウヨ」

「そんなっ、でもだって……あれ?」

 恋中さんは困惑した様子で言って、

「じゃあなんでいつも私のおっぱい見るんですか?」

「……ミテナイヨ」

「なんで噓吐くんですか?」

 おかしいな。直前まで普通の話題で会話してたはずなんだけどな。

「ねぇ答えて。どうして噓を吐くのかしら?」

 やばいやばい。マジで不機嫌だ。

「逆に聞くけどさ」

 俺は歩きながら問いかける。

「恋中さんは、嫌じゃないの?」

「何が?」

「よく一緒に居る相手が、その、そういうのが好きとか」

「何を好きかなんて個人の自由でしょう? 私こんな性格だけど、人の好きなことを否定するほど捻くれてないわよ」

 ……かっこいい。

「だから君も、私の趣味などを知ってもあれこれ言わないように」

「もちろんだよ。因みに、恋中さんの趣味って?」

「それは……」

 恋中さんは露骨に目を逸らして、

「あら、あっという間にマンションに着いたわね」

「待ってくれ恋中さん。それは卑怯だ」

 俺は少し早歩きで前進した彼女の背を睨んで言った。
 彼女は背を向けたまま立ち止まる。それから十秒ほどの間が空き、彼女は振り向いてから小さな声で言った。

「……指」

 そして、恥ずかしそうに走り去った。

「……おっぱいの方が恥ずかしいだろ」

 その背中が見えなくなった後、俺は呟いたのだった。
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