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2-05.カリン皇女のダンジョン配信 後編
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私はカリン。
カリン・ジアス・パラドリーフ・グビアウォール。
誰にでも優しい日下部夏鈴は仮の姿。
本当の私は、冥界にあるジアス帝国の第二皇女。
現在は偉大なる祭壇城にある自室で窓の外を見ている。
「ねむ……」
おっと、うっかり涙が。
なぜ欠伸を我慢すると出るのかしら。
「さて……」
ストレッチをして上半身の筋肉を伸ばす。
これは幻界で仕入れた知識。主に肩凝りが緩和されるから気に入っている。
最近、肩凝りがひどい。
昔はこんなに痛く無かったのに。なぜ?
「これが大人になるということかしら」
私は肩には帝国の未来が乗っている。
ジアス帝国は民主主義。次期皇帝は三年後に開催される国民投票によって決まる。
候補は私を含めた四人。
私以外が選ばれた場合──戦争が起こる。
幻界ゼッタイ滅ぼす。
それが私を除いた兄妹達の総意である。
原因は視察。
三年前、突如として現れたゲートを抜けた先には、異世界があった。
その世界は黄褐色の肌と黒い髪を持つ者達に支配されていた。そして第一視察隊は冥界よりも遥かに優れた文明を見て恐れ慄いた。
第一視察隊は、その夢か幻のような世界を幻界と名付けた。
報告を受けた皇帝は言った。
我が子ども達に視察の任を与える。幻界を知り最も帝国に利益をもたらす方法を考えるのだ。
危険です陛下!
多くの者が反対した。
しかし私の兄が言った。
これは冥府の意志。選挙を控えたこの時期に起きた出来事には意味がある。次期皇帝に相応しいのは、この試練を乗り越えた者だ。
その結果、私たちの視察が決まった。
幻界で生活するための基盤は第一視察隊が整えた。
幻界の人々は魔法に抵抗が無い。
だから認識操作魔法などを駆使して、戸籍を偽造するなどのインチキを行った。
インチキは最初だけ。
その後は私達の力に委ねられた。
──それがダメだった。
私の兄、ジークは会社に潜入した。
兄は誇らしげだった。
幻界の社会を構成する「会社組織」を学べることは幸運である。他の兄弟には悪いが、私が最も大きな成果を持ち帰ってみせよう。
兄が入った会社はブラック企業だった。
度重なる残業と連勤。強いハラスメント。
兄は半年で鬱病を患った。
聡明だった兄の面影は残っていない。皇族としての誇りを全て失った彼は、まるで別人のように「幻界滅ぼすべし」と叫んでいる。
私の姉、カタリナは大学に潜入した。
姉は嬉しそうだった。
夢のキャンパスライフ。幻界人の自由と責任が最も良いバランスとなる四年間。次期皇帝には興味無いけど、最高に楽しそう。
姉が入ったサークルはヤリサーだった。
大量の酒を飲まされた姉は屈強な男どもに囲まれ──無礼者! と魔法をぶっ放した。そして逮捕された。二週間後に警察組織から救出された姉は笑顔を失っていた。
明るくて優しかった姉はもう居ない。
彼女は「幻界滅ぼすべし!」とまるで別人のように叫んでいる。
私の弟、アースは小学校に潜入した。
アースは使命感に満ち溢れた顔で言った。
幻界の教養をゼロから学べるとは感無量。必ず冥界を発展させる知識を持ち帰る。
しかしアースは「やーい! 白髪頭~!」と毎日煽られた。教師は「黒に染めようか」と提案した。
アースは激怒した。
この白銀の髪はジアスの誇り。それを貶した幻界人は滅ぼすべし。
このように。
私以外は全滅だった。
「……気持ちは分かるけども」
私は運が良かった。
中学校に潜入した私は、同じクラスだった「ギャル」に絡まれ、その髪イケてるとか、カラコンやばたにえんとか、好意的な反応を得られた。
郷に行っては郷に従え。
私は皇女の品性と引き換えにして、ギャルという教養を手に入れた。
以後の幻界生活マジ超絶ハッピー。
冥界とかスマホも無いんだぜ。ありえる?
私は幻界を愛した。
冥界を捨てて幻界で生きたい程だ。
しかし、このままでは幻界は滅ぶ。
魔法の力を持たない幻界人は、冥界人との戦争に勝てないだろう。
そんなの絶対にダメ。
だから私は幻界の素晴らしさを広めることにした。
熟考した。
これまでの人生でこんなに頭を使ったことが無いと断言できる程に考えた。
果たして──
『カリン皇女のダンジョン配信、今宵も始めたいと思います。本日は第二層をノープランで突き進みます。とても危険なので良い子は真似をしないでください。大人の方々はドキドキしながら見守ってくださいね』
冥界人の生活はダンジョンと共にある。
そして私は幻界のMeTubeにハマっていた。
辿り着いたのは悪魔的発想。
MeTubeとダンジョンを組み合わせるのだ。
ふふんっ、流石は皇女。
冴え渡る叡智は未だ底が見えないわね。
──ストップ。
俺はカリンから手を離し、天を仰いだ。
「……」
言葉が出なかった。
涙の理由とか、冥界の現状とか、俺の思考を無にさせる情報が多々あった。
何か視線を感じた。
無心で目を向ける。胡桃が見ていた。
とても楽しそうな顔だ。
なぜ? 考えていると手鏡を向けられた。
「……エクセレント」
俺は宣言通り「落書き」された顔を見て、力無くブフゥッ──!
「ふふっ」
唐突に吹き出した俺を見て、胡桃は得意げに胸を張った。
「……やってくれたな」
俺は気力を取り戻した。
そしてカリン皇女に助力すると決めた。
(……陰キャ時代の恩を返すチャンスだ)
俺自身が灰となる程の青春。
不登校にならず通い続けることができたのは、誰にでも優しい彼女のおかげだ。俺は、あの豊満な──自主規制。
しかし、誰が想像できるだろうか。
魔法少女を救った翌日に、まさか現実世界の未来をかけて、冥界の皇女と関わることになるなんて……。
──しかも、あんな結末になるなんて。
カリン・ジアス・パラドリーフ・グビアウォール。
誰にでも優しい日下部夏鈴は仮の姿。
本当の私は、冥界にあるジアス帝国の第二皇女。
現在は偉大なる祭壇城にある自室で窓の外を見ている。
「ねむ……」
おっと、うっかり涙が。
なぜ欠伸を我慢すると出るのかしら。
「さて……」
ストレッチをして上半身の筋肉を伸ばす。
これは幻界で仕入れた知識。主に肩凝りが緩和されるから気に入っている。
最近、肩凝りがひどい。
昔はこんなに痛く無かったのに。なぜ?
「これが大人になるということかしら」
私は肩には帝国の未来が乗っている。
ジアス帝国は民主主義。次期皇帝は三年後に開催される国民投票によって決まる。
候補は私を含めた四人。
私以外が選ばれた場合──戦争が起こる。
幻界ゼッタイ滅ぼす。
それが私を除いた兄妹達の総意である。
原因は視察。
三年前、突如として現れたゲートを抜けた先には、異世界があった。
その世界は黄褐色の肌と黒い髪を持つ者達に支配されていた。そして第一視察隊は冥界よりも遥かに優れた文明を見て恐れ慄いた。
第一視察隊は、その夢か幻のような世界を幻界と名付けた。
報告を受けた皇帝は言った。
我が子ども達に視察の任を与える。幻界を知り最も帝国に利益をもたらす方法を考えるのだ。
危険です陛下!
多くの者が反対した。
しかし私の兄が言った。
これは冥府の意志。選挙を控えたこの時期に起きた出来事には意味がある。次期皇帝に相応しいのは、この試練を乗り越えた者だ。
その結果、私たちの視察が決まった。
幻界で生活するための基盤は第一視察隊が整えた。
幻界の人々は魔法に抵抗が無い。
だから認識操作魔法などを駆使して、戸籍を偽造するなどのインチキを行った。
インチキは最初だけ。
その後は私達の力に委ねられた。
──それがダメだった。
私の兄、ジークは会社に潜入した。
兄は誇らしげだった。
幻界の社会を構成する「会社組織」を学べることは幸運である。他の兄弟には悪いが、私が最も大きな成果を持ち帰ってみせよう。
兄が入った会社はブラック企業だった。
度重なる残業と連勤。強いハラスメント。
兄は半年で鬱病を患った。
聡明だった兄の面影は残っていない。皇族としての誇りを全て失った彼は、まるで別人のように「幻界滅ぼすべし」と叫んでいる。
私の姉、カタリナは大学に潜入した。
姉は嬉しそうだった。
夢のキャンパスライフ。幻界人の自由と責任が最も良いバランスとなる四年間。次期皇帝には興味無いけど、最高に楽しそう。
姉が入ったサークルはヤリサーだった。
大量の酒を飲まされた姉は屈強な男どもに囲まれ──無礼者! と魔法をぶっ放した。そして逮捕された。二週間後に警察組織から救出された姉は笑顔を失っていた。
明るくて優しかった姉はもう居ない。
彼女は「幻界滅ぼすべし!」とまるで別人のように叫んでいる。
私の弟、アースは小学校に潜入した。
アースは使命感に満ち溢れた顔で言った。
幻界の教養をゼロから学べるとは感無量。必ず冥界を発展させる知識を持ち帰る。
しかしアースは「やーい! 白髪頭~!」と毎日煽られた。教師は「黒に染めようか」と提案した。
アースは激怒した。
この白銀の髪はジアスの誇り。それを貶した幻界人は滅ぼすべし。
このように。
私以外は全滅だった。
「……気持ちは分かるけども」
私は運が良かった。
中学校に潜入した私は、同じクラスだった「ギャル」に絡まれ、その髪イケてるとか、カラコンやばたにえんとか、好意的な反応を得られた。
郷に行っては郷に従え。
私は皇女の品性と引き換えにして、ギャルという教養を手に入れた。
以後の幻界生活マジ超絶ハッピー。
冥界とかスマホも無いんだぜ。ありえる?
私は幻界を愛した。
冥界を捨てて幻界で生きたい程だ。
しかし、このままでは幻界は滅ぶ。
魔法の力を持たない幻界人は、冥界人との戦争に勝てないだろう。
そんなの絶対にダメ。
だから私は幻界の素晴らしさを広めることにした。
熟考した。
これまでの人生でこんなに頭を使ったことが無いと断言できる程に考えた。
果たして──
『カリン皇女のダンジョン配信、今宵も始めたいと思います。本日は第二層をノープランで突き進みます。とても危険なので良い子は真似をしないでください。大人の方々はドキドキしながら見守ってくださいね』
冥界人の生活はダンジョンと共にある。
そして私は幻界のMeTubeにハマっていた。
辿り着いたのは悪魔的発想。
MeTubeとダンジョンを組み合わせるのだ。
ふふんっ、流石は皇女。
冴え渡る叡智は未だ底が見えないわね。
──ストップ。
俺はカリンから手を離し、天を仰いだ。
「……」
言葉が出なかった。
涙の理由とか、冥界の現状とか、俺の思考を無にさせる情報が多々あった。
何か視線を感じた。
無心で目を向ける。胡桃が見ていた。
とても楽しそうな顔だ。
なぜ? 考えていると手鏡を向けられた。
「……エクセレント」
俺は宣言通り「落書き」された顔を見て、力無くブフゥッ──!
「ふふっ」
唐突に吹き出した俺を見て、胡桃は得意げに胸を張った。
「……やってくれたな」
俺は気力を取り戻した。
そしてカリン皇女に助力すると決めた。
(……陰キャ時代の恩を返すチャンスだ)
俺自身が灰となる程の青春。
不登校にならず通い続けることができたのは、誰にでも優しい彼女のおかげだ。俺は、あの豊満な──自主規制。
しかし、誰が想像できるだろうか。
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