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4-11.闇墜ち
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おはよう!
ふははっ、素晴らしい朝だ!
「さて」
今日は二秒で冷静になった。
低血圧の俺には目覚めと共に血を覚醒させる儀式をする習慣がある。だが、今日は懸念事項があるせいか、儀式をせずとも血が騒いだ。
睦月だ。
先日の対応は良くなかった。
カリンと過ごした時間は素晴らしいモノだったが、睦月を放置してしまった。
「現在地は……学校か」
一度、深く呼吸をした。
それから時計に目を向ける。
時刻は、まもなく午前六時。
仮に昨日も同じ時間から待っていたと考えたら、それは──
「急ごう」
* 学校 *
早朝、校門の前。
ジャージに着替えた俺は、偶然を装って睦月に近付いた。
「おや?」
わざとらしい声を出す。
俯き、虚空を見つめていた彼女は、ゆっくりと顔を上げた。
咄嗟に息を止める。
理由は彼女の左目。縦長の光彩。色は赤。明らかに普通とは違う。そして何より、強い淫力が放たれている。もしも彼女に声を掛けたのが一般人だったら、その瞬間に絶頂していたかもしれない。それ程の脅威だ。
「どうした? 随分と早いではないか」
笑みを浮かべ彼女に近寄る。
「……誰ですか」
「月影翔馬。まさか、もう忘れてしまったのか?」
彼女は赤い瞳で俺を見る。
それから口だけをパクパクと動かし、音の無い声を発した。
「……月影翔馬」
抑揚の無い声。
彼女は俺の目を見て、無造作に手を伸ばした。
咄嗟に避けたくなる気持ちを抑える。
彼女は無抵抗な俺の頬に触れ、軽く摑んだ。
瞬間、頬に与えられたダメージが快楽に変わる。
感覚で分かる。もしも今の彼女が俺以外の人物に触れていたら、そこには干乾びたミイラが誕生していたことだろう。
(……まだ、その時ではない)
俺は頬を摑む彼女の手に触れ、淫力を流し込んだ。
彼女の表情に苦痛の色が浮かぶ。摑んだ手が激しく暴れる。しかし、俺は決して離さない。
(……もう少し)
彼女の目が元に戻る。
俺は警戒しながら手を離した。
「……あれ?」
彼女はパチパチと瞬きを繰り返す。
「しょまきゅえぇあ!?」
謎の呪文。
良かった。まだ理性が残っているようだ。
「あれ? ここ、どこ。学校? あれ?」
混乱している。
恐らく、いくらか記憶が無いのだろう。
「すまない、やり過ぎた」
好都合だ。
俺は偽りの記憶を与えることにした。
「先日の治療は覚えているか?」
「治療……? ああ、アレのことですね」
「そうだ。今朝も軽めの治療をしたのだが……うっかり加減を間違えてしまった」
「……うっかり?」
「そうだ。ちょっぴり記憶が消える程度のうっかりだ」
「それうっかりで済ませて大丈夫なんですか!?」
「問題ない。何かあれば責任を取る」
「せにゃ!?」
俺の言葉に嘘は無い。
この「愚行」の責任は必ず取る。
その後、彼女を家に帰した。
俺は途中まで一緒に歩き、程々に見送りをする。そして彼女の姿が肉眼で見えなくなった後、ほっと息を吐いた。
まあ、どうやら本番はこれからのようだが。
「場所を変える」
俺は家を出た瞬間からずっと感じていた気配に向かって言った。
それからスキルを使って空を蹴り、適当な山の中に移動した。
地面に足を降ろす。
その瞬間、目の前に巨大な火の玉が現れた。
「……やれやれ」
俺は溜息を吐き、両手を広げる。
パンツを汚す覚悟はできた。それが彼女の意志であるならば、受け入れよう。
──直撃。
俺は山火事を防ぐため、その余波も含め、全て自分に当てた。
「んぎぃぃ!?」
思わず女騎士みたいな声が出た。
生命を脅かす程では無いが、パンツはしっかりと汚れた。
「……これで、満足か?」
トンッ、と音がした。
俺は地に膝を付き、見上げる。
「ダメ」
「……そうか」
彼女は杖を構える。
膨大な魔力によって杖の先端が光り輝いた。
「一応、たずねよう。なぜ、こんなことを?」
問いかける。
彼女は……胡桃は冷たい目をして、一言だけ返事をした。
「闇墜ち」
ふははっ、素晴らしい朝だ!
「さて」
今日は二秒で冷静になった。
低血圧の俺には目覚めと共に血を覚醒させる儀式をする習慣がある。だが、今日は懸念事項があるせいか、儀式をせずとも血が騒いだ。
睦月だ。
先日の対応は良くなかった。
カリンと過ごした時間は素晴らしいモノだったが、睦月を放置してしまった。
「現在地は……学校か」
一度、深く呼吸をした。
それから時計に目を向ける。
時刻は、まもなく午前六時。
仮に昨日も同じ時間から待っていたと考えたら、それは──
「急ごう」
* 学校 *
早朝、校門の前。
ジャージに着替えた俺は、偶然を装って睦月に近付いた。
「おや?」
わざとらしい声を出す。
俯き、虚空を見つめていた彼女は、ゆっくりと顔を上げた。
咄嗟に息を止める。
理由は彼女の左目。縦長の光彩。色は赤。明らかに普通とは違う。そして何より、強い淫力が放たれている。もしも彼女に声を掛けたのが一般人だったら、その瞬間に絶頂していたかもしれない。それ程の脅威だ。
「どうした? 随分と早いではないか」
笑みを浮かべ彼女に近寄る。
「……誰ですか」
「月影翔馬。まさか、もう忘れてしまったのか?」
彼女は赤い瞳で俺を見る。
それから口だけをパクパクと動かし、音の無い声を発した。
「……月影翔馬」
抑揚の無い声。
彼女は俺の目を見て、無造作に手を伸ばした。
咄嗟に避けたくなる気持ちを抑える。
彼女は無抵抗な俺の頬に触れ、軽く摑んだ。
瞬間、頬に与えられたダメージが快楽に変わる。
感覚で分かる。もしも今の彼女が俺以外の人物に触れていたら、そこには干乾びたミイラが誕生していたことだろう。
(……まだ、その時ではない)
俺は頬を摑む彼女の手に触れ、淫力を流し込んだ。
彼女の表情に苦痛の色が浮かぶ。摑んだ手が激しく暴れる。しかし、俺は決して離さない。
(……もう少し)
彼女の目が元に戻る。
俺は警戒しながら手を離した。
「……あれ?」
彼女はパチパチと瞬きを繰り返す。
「しょまきゅえぇあ!?」
謎の呪文。
良かった。まだ理性が残っているようだ。
「あれ? ここ、どこ。学校? あれ?」
混乱している。
恐らく、いくらか記憶が無いのだろう。
「すまない、やり過ぎた」
好都合だ。
俺は偽りの記憶を与えることにした。
「先日の治療は覚えているか?」
「治療……? ああ、アレのことですね」
「そうだ。今朝も軽めの治療をしたのだが……うっかり加減を間違えてしまった」
「……うっかり?」
「そうだ。ちょっぴり記憶が消える程度のうっかりだ」
「それうっかりで済ませて大丈夫なんですか!?」
「問題ない。何かあれば責任を取る」
「せにゃ!?」
俺の言葉に嘘は無い。
この「愚行」の責任は必ず取る。
その後、彼女を家に帰した。
俺は途中まで一緒に歩き、程々に見送りをする。そして彼女の姿が肉眼で見えなくなった後、ほっと息を吐いた。
まあ、どうやら本番はこれからのようだが。
「場所を変える」
俺は家を出た瞬間からずっと感じていた気配に向かって言った。
それからスキルを使って空を蹴り、適当な山の中に移動した。
地面に足を降ろす。
その瞬間、目の前に巨大な火の玉が現れた。
「……やれやれ」
俺は溜息を吐き、両手を広げる。
パンツを汚す覚悟はできた。それが彼女の意志であるならば、受け入れよう。
──直撃。
俺は山火事を防ぐため、その余波も含め、全て自分に当てた。
「んぎぃぃ!?」
思わず女騎士みたいな声が出た。
生命を脅かす程では無いが、パンツはしっかりと汚れた。
「……これで、満足か?」
トンッ、と音がした。
俺は地に膝を付き、見上げる。
「ダメ」
「……そうか」
彼女は杖を構える。
膨大な魔力によって杖の先端が光り輝いた。
「一応、たずねよう。なぜ、こんなことを?」
問いかける。
彼女は……胡桃は冷たい目をして、一言だけ返事をした。
「闇墜ち」
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