日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

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第二章 仕事と子育て

SS:まゆみとお風呂とみさきちゃん……

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 世の中にはしてはいけないことが沢山あって、だけど悪い事をした人も、していない人も同じ大地の上で生きていて……つまり世界は滅びる。

 なぜそこで世界が滅びるのですか、まったく意味が分かりません。と思う人、特に意味は無いとスルー出来る人、いろエロな人がいて、え、エロちゃうわい!

 そんな気分でみさきちゃんと話をすることに罪悪感を覚えながら銭湯へ向かった私でしたが、みさきちゃんの姿を見て、そんな雑念は吹っ飛びました。

 ……お、落ち込んでる。すっごく落ち込んでる。

 みさきちゃんといえば無表情という印象だった私だけど、今のみさきちゃんはもう見て直ぐに分かるレベルで落ち込んでる。隣を歩く天童さんも青い顔をしていて、とにかく空気が重たかった。どれくらい重たいかって、銭湯へ着くまで一度も会話が無かったくらい。

 小日向さん、よろしく頼む。

 いつもの挨拶と共に男湯へ向かった天童さんですが……重いっ、今日のよろしくは重いよ!

「ふ、ふひひ、いこっか」
「…………ん」

 い、いつもより返事のタイミングが遅い!
 これは相当落ち込んでる予感……っ!
 でも天童さんの話だと不機嫌なんじゃなかったっけ?
 なんで落ち込んでるんだろ。

 疑問と緊張を胸に、私は戦場《おふろ》へ向かう。
 これから行うのは、幼女から悩みを聞き出し、可能なら解決するという高位魔法。これは命の魔導書を操り、生命を育む者にのみ使えるらしい……ならきっと、魔導書を創り出す私にも使えるはず!

 小日向檀、行きます!

「……ふひひ、今回は下ネタっぽく聞こえない」



 ごめんなさい調子に乗ってました。
 みさきちゃん落ち込んでるってレベルじゃない!

「ええと、何かあったの……?」

 声をかけるきっかけを探していた私だったけど、むしろ声をかけない理由を探す方が難しかった。

 まず脱衣所でバンザイに失敗するみさきちゃん。ふらふらとした足取りでロッカーの前に立ったみさきちゃんは、いつものようにバンザイしようとして、だけど肩の位置くらいまでしか腕が上がらなくて幽霊みたいな恰好になった。

 次にシャワーで洗髪しようとして失敗するみさきちゃん。少し前から自分で髪を洗うようになったみさきちゃんだけど、今日は腕が上がらないせいかシャンプーで首の辺りを洗っていた。そもそもシャワー流しっぱなし!

 そして湯船に入ろうとして失敗するみさきちゃん。前が見えていないのか、見事に顔面ダイブした。

「…………」

 少し鼻が赤いみさきちゃんと並んで、子供用の浅い湯船に座る私。

「みさきちゃん、私でよければ、何でも言ってね……へへ、へへ」

 言葉は頼れるお姉さんだけど、残念ながら震え声。
 あぁ情けないっ、情けないよ私っ!

「…………」

 辛い! みさきちゃんの沈黙が辛い!

「…………くん」
「な、なに?」
「…………りょーくん、みさき、すきじゃない」

 ど、どういう意味……?

「ええっと……?」

 りょーくんって、天童さんのことでしょ?
 みさきはみさきちゃんで、好きじゃないって……え、もしかして私のこと?

「生きててごめんなさい……」
「…………だいじょうぶ?」

 どんよりとした私の肩を揺らすみさきちゃん。心配されるってことは私が嫌われているわけじゃないのかな……?

「うん、私は大丈夫だよ。みさきちゃんこそ、大丈夫?」

 最初の頃は幼女相手にもコミュ症スキルを発動すると知って絶望した私だけど、流石に一ヶ月も経てば慣れる。慣れたうえで、震え声……はぁ。

「…………」

 それはそうと返事の無いみさきちゃん。本当にどうしちゃったんだろう。

「…………まえ」
「う、うん。なに?」
「…………りょーくん、すきっていった」

 うぬ、毎日言ってそうだよね。

「…………りょーくん、よろこばない」

 どういう意味? 普段は天童さん、みさきちゃんのこと好きって言って自分で喜んでるの? え、やだ、知りたくなかった。

「…………つらい」

 おぉぅ、アラサーのOLみたいな呟きでござる……えっと、みさきちゃんは喜んでる天童さんを見るのが好きで、最近は喜ばなくなって……例えるなら、最初の頃は可愛いくらいに興奮してくれた彼が、最近ではテンションが低くマンネリ感があって寂しい……みたいな感じなのかな? でも天童さんすっごい親バカって印象だったけど……家では違うのかな?

「だ、大丈夫だよみさきちゃん。きっと天童さん、恥ずかしいんだよ」
「…………」

 あ、あれ? もっと落ち込んじゃった……?

「…………みさき、すき、はずかしい?」
「その発想は無かった! ごめんねみさきちゃんっ、そうじゃなくてね!」

 慌てて男の子の繊細な気持ち(当社調べ)を語る私。
 話を聞いたみさきちゃんは、なおも暗い表情で、

「…………でも、ゆいちゃんのまま、よろこぶって、ゆいちゃん」

 ううむ、前から思ってたけど独特な話し方する子だなぁ……ええっと、ゆいちゃんって子のママは喜ぶってことかな……? え、子供に好きって言って自分で喜ぶって親としては普通のことなの?

「…………がんばったのに」
「頑張った?」
「…………はずかしかった」

 んん? なーんか話が噛み合ってないぞ?
 みさきちゃんの言い方だと、天童さんじゃなくて……

「ええっと、みさきちゃんが、好きって言ったの?」
「…………ん」
「それで、天童さんが喜んでくれなくて……ということ?」
「……………………ん」

 なるほど。多分だけど、みさきちゃんがゆいちゃんから「好きって言ったら喜んでくれるよ」みたいな話を聞いて、それで少し恥ずかしいのを我慢して天童さんに好きって言ってみたけど喜んでくれなくて、もしかしたら自分のこと好きじゃないのかなって不安になったんだねみさきちゃん。

 そうだよね、女の子だもんね。好きって言ったのに喜んでくれなかったら、最初はムカってして、時間が経ったら不安になるよね……経験無いけど。

「悪いの天童さんじゃん!」

 心当たりがあれば直ぐにでも土下座するって言ってませんでした!?
 土下座っ、焼き土下座だよ天童さん!

「大丈夫だよみさきちゃんっ、天童さん、みさきちゃんのこと大好きだよ!」
「…………ほんと?」

 ああぁぅふぁ、なにその上目遣い……ダメ、萌え死ぬ。死んじゃう。

「ほ、ほんと、ほんとだよぉぉ……ふひひひ」

 あかん、疑いの眼差し。

「みさきちゃん!」

 ごまかすように大声を出して立ち上がる私。

「任せて!」



「みさきが俺に好き……? ま、待て、いつの話だ? そんな素晴らしい瞬間を忘れるわけ……」

 というのは、私にぷんすか怒られた天童さんの言葉。
 天童さんは頭を抱えて、あたふたとする。やがてサっと膝を折ると、私の脚に隠れるみさきちゃんに向かって見事な土下座をした。

「すまねぇみさき、いつだ? いつのことなんだ?」
「…………さくら」
「桜? ……まさか、あの時のアレか? あれ桜のことじゃなかったのか!?」
「…………ん」

 ギュッと、みさきちゃんの握力が増す。
 天童さんは唖然とした表情になって口元を震わせた。

「分かんねぇよぉ! あれは分かんねぇよみさきぃ~!」

 地面をドンドン叩いて嘆く天童さん。私はくたばれ難聴主人公という思いで、声をかける。

「ほら、みさきちゃんに返事してあげてください」
「……返事?」
「みさきちゃん、天童さんが自分のこと好きじゃないのかなって、ずっと不安だったんですよ」
「……みさき」

 愕然とした表情で静かに呟いた天童さん。
 みさきちゃんは私の脚を離れて、とことこ天童さんの前に立った。
 天童さんはあたふたと手を動かし、やがてガシっとみさきちゃんを抱き締めた。

「大好きに決まってんだろぉ!!」
「……もういっかい」
「大好きだ!」
「……もういっかい」
「大好きだ!!」
「……ん」

 なんというか、ちょっとした擦れ違いだったようです。
 よかったね、みさきちゃん。



 翌日、保育園にて。

「……み、みさき!」
「ゆいちゃん、おはよ」
「……お、おはよ」
「ありがと」
「……むむむ?」

 怒ってると思ったら落ち込んでしまったみさきに困惑しつつ、結衣と謝罪の特訓をしていたゆい。とつぜん機嫌が良くなったみさきを見て、やっぱり困惑した。だけど元気になったなら、それでいいかな。

「よし! べんきょうしよ!」
「……ん」
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