日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

文字の大きさ
94 / 221
第三章 りょーくんのうた

第三話:まゆみ先生は最近ちょっとおかしい

しおりを挟む
 四月が始まってから早くも一週間が過ぎた。
 会社は新入社員を迎え、学校では次々と授業が始まる忙しい時期。しかし、もちろん誰もが忙しいわけではない。

 平日の昼。
 小日向檀は布団の上でぼーっとしていた。

 この一年間でずいぶん伸びた髪は頭の高い位置でおだんごになっていて、服はすっかり体と一体化したオレンジ色のジャージ。今日はまだ朝ごはんを食べていないけれど、なんだか温かくて布団から離れられない。

 いけないいけないと頬を叩いて、檀は枕元にあるスマホを手に取った。そのまま体を横に向けて、ブックマークに保存してあるページから、とある掲示板のスレを開く。


 神の新作が純愛物だった件について [無断転載禁止]

 1:名無しのダルマ
  方向転換ってレベルじゃない

 8:名無しのダルマ
  神ってLSSで合ってるよな?
  あれはマジで予想外だった

 13:名無しのダルマ
  変な声出たわ。なんだあれ

 14:名無しのダルマ
  俺は未だに何か深い意味があるんじゃないかと思ってる

 15:名無しのダルマ
  >>14
  これ

 22:名無しのダルマ
  いつヒロインのマミが某魔法少女みたいになるのかと思ってドキドキが止まらなかった。そしたら最後まで綺麗な純愛物で草。こんなにドキドキしたのは初めてやで

 26:名無しのダルマ
  俺は信じないぞ。どうせ最後はヒロインがひどい目に合うんだ

 29:名無しのダルマ
  >>26
  俺もそう思ってた。R指定無しで大丈夫ですかってコミケで聞いたくらい

 31:名無しのダルマ
  >>29

 33:名無しのダルマ
  >>29
  俺もR指定について聞いたwww
 
 41:名無しのダルマ
  エロ無しなら買わないって思ってたけど、実際どう?

 45:名無しのダルマ
  >>41
  神がいつもの絵で純愛物描いてるってだけで興奮した

 47:名無しのダルマ
  >>41
  アヘ顔が足りない

 54:名無しのダルマ
  >>47
  これだな。ヒロインのリアクション可愛かったけど一ヶ所はアヘ顔が欲しかった

 61:名無しのダルマ
  これからポチる予定なんだけど、マジで純愛物なの?

 63:名無しのダルマ
  >>61
  うそに決まってんだろ俺達の神だぞ?

 64:名無しのダルマ
  >>61
  マジ

 65:名無しのダルマ
  どっちだよw

 66:名無しのダルマ
  さっさと買えってことだよ

 82:名無しのダルマ
  今読んだ。百合かと思ったら相手役は男かよ

 91:名無しのダルマ
  いったい神にどんな心境の変化があったんだ

 102:名無しのダルマ
  次回作で彼のことを考えてアヘアヘしてたマミちゃんが酷い人達に襲われるんだろ。俺には分かる

 106:名無しのダルマ
  >>102
  マジでありそうだから困る

 108:名無しのダルマ
  うわ、そういや神ってNTR物まだ描いてねぇじゃん。やめろよマミちゃん結構好きなのに(ゲス顏

 113:名無しのダルマ
  続編あるならイチャラブックスがいい。アヘ顔マシマシで

 116:名無しのダルマ
  あのエンドの後なら流石の俺もイチャラブックス希望かな。でもマミちゃんの瞳から光が消える展開も捨てがたい

 121:名無しのダルマ
  告白した後は手を繋いで終わりとか小学生かよってくらいピュアだったのに続編はいつもの神だったら大炎上不可避

 122:名無しのダルマ
  ここの住民ですらイチャラブックス希望してるやついるくらいだから、続編がいつもの神だったらピュア民のSun値が大変なことになりそう

 125:名無しのダルマ
  >>122
  そもそも毎年表紙に騙されたピュア民が被害者スレで騒いでるだろ

 128:名無しのダルマ
  >>122
  むしろ目覚めるんじゃね?

 153:名無しのダルマ
  とにもかくにも次回作楽しみだな


 そっとスマホをスリープして、はぁぁと長い息を吐く。

 Little Sun Shine それが彼女が同人活動をする時に使う名前であり、特殊な性的指向を持った人達からは神と崇められる程の人気がある。逆に一般的な変態からは、決して表紙の絵に騙されてはならない要注意人物として恐れられている。

 彼女の作風は、プロと遜色の無い画力で描かれる美少女が徐々に精神的に追い詰められ、最後は獣のようにアヘアヘするという大変ハードな物だ。

 そんな作者が突如として小学生が読んでも大丈夫な作品を描いた。これはテレ東がアニメ放送途中に緊急特番を開始するようなものであり、ファンに大きな衝撃を与えることになった。

 しかし本人はネットで話題になっていることなど露知らず、その年の冬コミでは「いつもの」作品を描いた。その際に購入者から続編について問われ、ネットで話題になっていることを知った。そして気になって調べた結果、件の掲示板を発見したのである。

「……どーしよっかなー」

 まさか続編を望まれているとは思わなかった。檀は趣味で漫画を描いていて、同人活動は生活費の為に行っている。エグい同人誌を販売するのは、その方が売れるからだ。

 しかし去年の夏に趣味百パーセントで描いた漫画が意外にも好評だった。実際、檀も個人的に何度か続きを描こうとはしている。

「……でも、モデルがモデルですし。手を繋ぐくらいが限界ですし。これ以上やったら流石にドン引きですしっ! ん~~~っ!」

 枕に顔を埋める檀。
 これ以上やるというのは、つまりそういうことであり、そういうことというのは、つまりそういうことなのである。そんなの想像しただけでアヘッてしまう。万が一にでも本人に発覚したら切腹せざるを得ないレベルだ。

「恥ずかしくて描けないぃぃぃ~~~っ!」

 笑顔でハードな作品を作り続けた彼女が、いまさら何を恥ずかしがるのか。きっとこれが乙女心というやつなのだろう。

 彼女はハードな作品に拘りがあるというわけではない。だから最近は、みさきちゃんが喜ぶからという理由で普通に可愛らしい漫画ばかり描いていたりもする。その中にはもちろん恋愛要素も含まれているから、恋愛物が描けないわけではない。

 やはり、実在する相手がモデルになっていて、しかも自分がヒロインというのが高いハードルになっている。

「そんなの完全に変態じゃないですかー! いやぁぁ! 私がモデルのマミと天童さんがモデルのリョウがキャッキャウフフするなんてそんなっ、そんなっっ!」

 ピタリと、檀は動きを止める。
 体を起こして、部屋の中央にある小さな机の前に置かれたクッションに正座して、ペンを装備する。

「……ふへっ、ふひひひ、ひひひひひ……」

 手が止まらにゃいぃぃぃいぃぃ!
 無事に結ばれたマミとリョウが次は物理的に結ばれっ、いやんっ、ダメ、まだ早いわ。まずは楽しくデートして思い出作りをして、それから……ふ、ふひひ、夜になったら夜景の綺麗な場所で肩を寄せ合って……好きだよ。うん、私も……なんて言ったりしてぇ!! 良いムードになったところで目があって、互いの唇と唇が、く、くちびる、がががが

「あああぁぁぁぁっふぅ、らめっ、ムリっ! こんなの恥ずかしくって描けないよぉぉ!」

 枕にダイブしてバタバタと足を振る。

「封印しないと」

 バッと音を鳴らして枕から顔を上げた檀。あんなもの人に見られたら控えめに言って死んじゃう。早く処分しな……………………

「……みさき、ちゃん?」
「ん?」

 瞬間、檀は全てを思い出した。この部屋に鍵など存在しないこと、小学生になったみさきちゃんが下校してから天童さんが帰ってくるまでの間、面倒を見るという話をしたこと。そして今日、小学校は半日授業であること。

「それ見ちゃダメェェェェぇえぇぇぇぇ!」

 檀はヘッドスライディングの要領で、みさきと原稿の間に飛び込んだ。そのまま原稿に覆い被さって、驚いて目を丸くするみさきに全力で言い訳をする。

「ま、まだ途中なんだ~。ふへへへ、途中の漫画を見られるのは、ちょっと恥ずかしいといいますか、その、そういうものでして、はい……」

 分かって、頂けましたか?
 絶望の上に笑顔を貼り付けた檀の顔を、みさきの無垢な瞳が見つめている。やがてみさきはキョトンと首を傾けると、小さな声で言った。

「りょーくん?」
「……違うよ?」

 バレてる♪
 もう檀さんの心の中はグチャグチャです。

 ここは逆に、ポジティブに考えよう。あのキャラのモデルが天童さんだとみさきちゃんに伝わったということは、私の画力はバッチリなのね! ふひっ、漫画家としては最高の褒め言葉ですよ! でも人としてはもうおしまいです!

「だいじょうぶ?」

 しくしく泣いている檀を慰めるみさき。

「大丈夫だよー」

 とは言うものの、許容量を遥かに超える精神的なダメージを受けた檀さんはもうボロボロです。

 あぁ、きっとみさきちゃんの口から天童さんに伝わってしまうに違いない。そして全てを知った天童さんの狼が私の兎さんを……そんなに悪くないかも、なんて思ったしまった私は多分もう手遅れだ。

「まだ大丈夫、まだ間に合う、もうダメだ」
「……ん?」
「ふひひ、なんでもないよー」

 ほんとに大丈夫?
 いつもよりずっと変な檀さんを見て、みさきは少し不安になる。

「みさきちゃん、おかえり。いつ帰って来たの?」
「さっき」
「ふひひ、そっか。さっきかー」

 描いてるとこは見られてないのかな。
 見られてないよね、セーフだよね。
 ※アウトです

「学校、どうだった?」
「どう?」
「どんなことしたの?」
「いろいろ」
「ふひひ、そっか。いろいろか」
「……ん」

 こくりと頷いて、みさきは檀の膝の上に座った。そのあと机に置いてあったペンを手に取って、ぐーっと首を上に向ける。

「おしえて」
「うん、いいよ」

 りょーくんに上手な似顔絵をプレゼントする為に、みさきは檀に教えを乞う。今日の檀さんはいつもより変だったけれど、変なのはいつものことなので、みさきは特に気にしない。

「……ふにゃふにゃ」
「ふひひ、直線は、まずイメージして、それからササっと線を引くと、真っ直ぐになるよ」
「いめーじ?」
「そう。どんな線を引くか、想像してから描くの」
「……ん」

 言われた通り想像してみるみさき。
 そのままじーっと固まって、

「…………んん?」

 難しそうな声を出すみさき。
 檀は静かに笑って、みさきに頬を寄せる。

「頑張って」
「……ん」

 頷いて、みさきはスーっと手を動かした。そうして引かれた線は、やっぱり少し歪んでいた。
 また難しい声を出すみさき、頑張れと笑う檀。

 龍誠が帰ってくるまで、二人はずっと和やかな時間を過ごした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎ 清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。 膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。 さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。 社交は上品に、恋心は必死に隠したい。 なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——! むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。 清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...