日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

文字の大きさ
146 / 221
第五章 未来のこと

SS:結衣と檀

しおりを挟む

 龍誠と朱音がレストランへ向かった頃、みさきは檀の部屋で本棚の近くに座っていた。

「……」
「……」

 会話は無い。
 檀は連載に向けた漫画を描いていて、みさきは漫画を読んでいる。もちろん、子供が読んでも大丈夫な漫画だ。

 みさきが読んでいる月刊誌(二月号)では、いくつかの漫画が季節ネタとしてバレンタインデーを扱っていた。みさきの中でバレンタインデーは誕生日と同じ意味の言葉で、実は本来の意味を知らない。

 本来というよりも、日本における意味と表現した方が良いだろうか。国によってはチョコではなく花束を送っていたり、物を送るのが女性ではなく男性だったり、宗教的な理由で祝うことを禁じられていたりする。

 そんなこんなで、みさきはチョコを作る登場人物達を不思議そうに見ていた。

 もしかして誰かの誕生日が近いのだろうか。
 みさきならチョコよりもケーキの方が嬉しい。
 あっ、誕生日来週だった。

 そわそわ。
 みさきは落ち着かない様子で周りを見る。

 前の檀の部屋には沢山の物があった。
 しかし今の部屋には何も無い。
 せいぜい本棚とベッド、それから檀が使っているパソコンがあるくらいだ。

 そうして周りを見ていると、やがて檀に声をかけられた。

「なにか探してるの?」

 みさきは黙って首を振る。

「たんじょうび」

 その言葉を聞いて、檀はみさきの誕生日が近いことを思い出した。
 それと同時に、今が二月であることも思い出した。

「ブアレンヌっ、トゥアインっ!」

 両手で顔を挟んで、勢い良く顔を上げた檀。
 そのアメコミみたいな反応を見たみさきは、つられて上を見る。

 そこには天井があった。
 みさきはよく分からなくて、きょとんと首を傾ける。

 一方で檀は、あわあわしていた。
 どうしよスッカリ忘れてた来週バレンタインデーあんどみさきちゃんの誕生日だチョコとか作った方がいいのかなそれよりみさきちゃんの誕生日プレゼントを優先していやいや両方用意するべきでもあれこれそれフゥゥゥゥゥゥゥ!

 と、その時。
 聞きなれない音が部屋の中に響く。

 檀はフリーズして、やがて玄関をピンポンする音のマンション版であることに気が付いた。もちろん前のアパートにはインターホンなど設置されていなかったから、この音を聞くのは数年ぶりである。

 懐かしいなぁ、と思う檀。
 すると二度目の音が鳴り響いた。

「……」
「……」

 みさきが檀を見ている。
 檀もみさきを見て、そこで気が付いた。

「出なきゃ!」

 慌てて玄関まで走りドアを開けた。しかし人はいない。
 首を傾けた直後、背後から三度目の音が鳴る。

「アヘっ!?」

 ポルターガイスト!?
 という意味で声をあげた檀。

「おーい!」
「声まで!?」

 檀は恐ろしくなって肩を抱いた。
 そのまま小さくなって丸くなる。

 今聞こえたのは、子供の声だった。
 そして檀の前に、小さな子供の姿が……

「みさきちゃん!?」
「……ん?」

 みさきは檀を一瞥して、声のした方に歩いた。

「おーい!」
「っ!?」

 檀は声にならない悲鳴を上げる。
 そんな檀の前で、みさきはぴょんぴょん跳ね始めた。

「共鳴!?」

 瞬間、檀の中で恐怖を打ち消す程の使命感が生まれる。
 このままでは、みさきちゃんがあっちの世界へ連れて行かれちゃう!

「み、みさ、み、み!」

 情けない声を出しながら、みさきに這い寄る。
 そしてみさきの足元まで辿り着いた時、今度は真上から声が聞こえた。

「おーい!」
「    」

 檀は一瞬だけ白目になった。
 みさきは檀の肩を引っ張って、上を指す。

「……な、なに?」
「……ん」

 ひたすら人差し指を上に向けるみさき。
 檀は恐る恐る、指を追いかけた。

「アヘっ、インターホン!?」
「ああ! こえ! ママきこえた!? こえきこえたよママ!」

 果たしてポルターガイストの正体は、遊びに来た戸崎親子だった。


 *


 ゆいは先日入ったお風呂が気に入ったという設定で、みさきを連れ出した。
 果たして、結衣と檀は机を挟んで二人きりで座っている。

「……あの、お茶、どうぞ」
「ありがとうございます」

 にっこり笑って、しかしお茶には手を付けない。

「……えっと、その、天童さんは、外出中でして」
「問題ありません。今日は貴女に聞きたいことがあって来たのですから」
「……私に、ですか?」
「はい」

 聞きたいことって何だろうと、檀は身構える。

 一方で結衣は言葉を探していた。
 もちろん龍誠に会うつもりでここに来たのだが、外出中という予想外のアクシデントを受けて、ならば別件を処理しようと考えたのだ。別件というのは、この女、もとい檀がどういうつもりで龍誠と同棲しているのか知ることである。彼にアピールすることも大事だが、やはりライバルの動向も把握しておきたい。

「貴女は天童くんとどのような関係なのですか?」

 結衣は悩んだけれど、果たして直接的な表現を選んだ。

 龍誠や娘の前では子供のような醜態を晒しているが、本来の結衣は魔女と呼ばれる程の存在だ。そして彼女が最も得意とするのは、人から情報を聞き出すことである。龍誠のような例外を除けば、彼女は必要な全ての情報を僅かな会話から得られるだけの技術と経験、そして特別な才能を持っている。

 彼女の目は感情の動きを見逃さない。
 それを活かす為には、今のような表現が最も適している。

 ……困惑、反感。なるほど、彼女は彼との関係を言葉にすることが出来ないようですね。反感については恐らく私に対するもので、貴女こそ彼とはどのような関係なのですか、といったところでしょう。

「お友達、ですか?」

 明確な意図を持って結衣は問いかける。
 檀が龍誠との関係を即答できないのであれば、自分にとって好ましい方へ、つまりはただの友達であるという認識へ誘導しようとしているのだ。果たして、結衣の言葉は偶然にも檀に突き刺さっていた。

 小日向檀と天童龍誠は、どのような関係なのだろう。

 この一週間で檀は何度も自問した。
 決まって結論は出なかったけれど、きっと心のどこかで察している。

 だけど、もしかしたら。
 ほんの少しくらいは、特別な存在なのではないだろうか。

 だから檀は何も言えない。
 たった一言でも声を出したら、全部が決まってしまいそうだから。

 そして、そんな心の動きは結衣に筒抜けだった。
 檀の態度はあまりにもあからさまで、きっとみさきが見ても何かあると分かる。

 ……ふふっ、安心しました。やはり彼女は彼と恋仲ではないようですね。

「こひな「くやしぃぃぃぃいい!」……」

 小日向さん。
 そう問いかけようとした結衣は、突如として聞こえた声に動きを止めた。

「もういっかい!! みさき!! もういっかい!!」

 聞き慣れた大きな声が部屋中に響き渡る。
 結衣は直前まで頭の中にあったことが見事に真っ白になって、思わず頬をひきつらせた。

「……」
「……」

 直前までガチガチに緊張していた檀は、まるでドッキリのネタばらしをされたみたいに表情を柔らかくする。そのまま顔を上げると、結衣と目が合った。

 二人は暫く互いの目を見て、やがて堪え切れずに笑った。

「……えっと、その、楽しそうですね」
「……はい。とても良いことだと思います」

 短い会話があって、

「あああああ!! あっ、もういっかい!! もういっかい!!!」

 その後もゆいは負け続けて、徐々に涙声になっていく悲鳴を聞いていられなくなった結衣と檀は、同時に席を立った。そのタイミングがあまりにも一致していたから、二人は思わず互いの目を見る。

 そしてこの時、結衣と檀は奇妙な友情を感じたのだった。

 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

処理中です...