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最終章 孤独を越えて
決戦(3)
しおりを挟む明日はママとりょーくんの結婚式。
今日こそ、今日こそトマトさんに勝つ!
だいじょうぶしんてんはあります。
なんと…………
トマトを口に入れても、白目にならなくなりました!
これは大きな一歩だと自負しております。
この調子でいけば、無傷で赤い悪魔を飲み込むことも難しくは無いでしょう。
ゆうちょう!
じつにゆうちょう!
あたしに与えられた時間は、残り僅かです!
「きょう! かつ! ぜったい!」
気合を入れて、いただきます。
今日もサラダに紛れ込んだトマトをスプーンに乗せて、パクッ!
「……っ」
口中にぶわっと広がる毒々しいオエェな味。
舌に伝わるネバっとした触感は殺人的で、流石は赤い悪魔の異名を持つだけはある。
だけど、あたしは屈しない!
絶対! ……ぜったい!
「…………」
ギュッと口を閉じて、鼻を摘まんで、そっとひとかみ。
「……っ~!!!」
ぶわっと溢れ出した果汁が口の中で暴走します。
あたしは息を止めて、ママに教えられた通りに十回だけトマトをかむ。
それから、ひっさつわざはつどう!
「っ!」
水で流す!
小さくなったトマトを、水で、いっき!
「……っ~!!」
ゴクリ。
「……ぷはぁっ」
長く止めていた呼吸を再開した時、あたしはこの上ない充実感に満たされていました。
ゆめかまぼろしか。
あたしは、ママに目を向ける。
「食べた!」
「はい、よくできました」
ママは満面の笑みを浮かべて、パチパチ拍手した。
「ゆいちゃん、よく頑張ったな」
「がんばった!」
りょーくんも褒めてくれています!
「かんぜんしょうり!」
あたしは高らかに勝利宣言をしました!
ふっふっふ、あれだけ怖かったトマトさんが、今ではただのベチョっとした野菜にしか見えません。むしろ果物です。スイカさんをペロっとするようなものです。
「もういっこ!」
見てて、見てて。
ママとりょーくんにアピールして、パクリ!
「ゲロまずぅ……」
「ゆいっ、大丈夫ですか?」
「……ちょうし、のった」
どうやら、まだ完全攻略出来たわけではないようです。
しかし! 今回は初勝利を飾ったと言っても過言じゃないのでは!?
「弟! 弟はできますか!?」
ママに聞くと、ママはりょーくんに目を向けました。
あたしも一緒に目を向けます。
「できますか!?」
「ああ、きっと可愛い弟が出来る。妹かもしれないけどな」
「みさきぃ!」
「……ん?」
聞き捨てならない!
「弟だよね!」
「……んっ」
みさきと目で通じ合って、同時にりょーくんへ目を向けた。りょーくんはちょっと困った顔をして、ママに目を向ける。あたしとみさきも一緒に目を向けた。
「ゆい、残念ですが弟か妹かを選ぶことは出来ません」
「えええ!?」
けいやくいはん!
じんだいな! けいやくいはん!
「トマト食べたのに!」
「はい、よく頑張りました」
ママはあたしの頭を撫でて、
「次はママが頑張りますね」
グッと手を握りながら、そう言った。
「はい! がんばって!」
ママが言うなら大丈夫!
……あれ?
「弟って、がんばったらできるの?」
あたしは気が付いてしまった。
そもそも弟って、どうやったらできるんだろう。
「ゆい、それは、ですね……」
あれ?
なんでママ赤くなってるの?
「ゆいちゃん、それは学校で教えてもらえるまでのお楽しみだ」
「んー?」
みさきみたいに首を傾けてみる。
全力の気になるアピールを続けたけど、ママもりょーくんも教えてくれなかった。
*
深夜。
結婚式を控えた二人だけれど、規模が小さいこともあってか準備に苦労することは無かった。龍誠が覚えていることなんて、結衣がプランナーから式の費用を言葉巧みに値引きさせている姿くらいだ。
今日は早く寝て、明日に備える。
その予定だったけれど、ゆいから弟と連呼された二人は、結局遅い時間まで――
「困りましたね」
「ゆいちゃんのことか?」
「はい。確率は五割ですが、龍誠くんの顔を考えたら、どちらの性別で生まれてきても、女の子にしか見えないと思います。ゆいが納得してくれるかどうか……」
それは全く悪意の無い言葉。
だけど龍誠は少しだけムッとした。
「まあ俺と結衣の性格を考えたら、どっちの性別で生まれても男らしい子になるだろうけどな」
「そうですか? 女々しく悩む龍誠くんと、大和撫子然とした私。女の子らしい子になると思いますが」
あっさり言い返されて、しかし龍誠は返す言葉が浮かばない。
「あっ、ちょっ、こら! それはズルいですよ!」
龍誠は黙ってそれを続ける。
「やめっ、またシーツが……んっ、こらぁ!」
そこで龍誠はようやくそれを止めた。
そこそこ大きな声で怒っていた結衣は、少し乱れた呼吸を整えながら、ゆっくりと肩を上下する。
やがて体の向きを変えて、龍誠の頬に両手を添えた。
「どちらにせよ、時期は早くなりそうですね」
「……そうだな」
それからまた二人は互いを求め合った。
明日は結婚式で、早く寝なければいけない。
分かっているけれど、気持ちが止められなかった。
「名前はどうしましょうか?」
「そうだな……結衣は、どうしたい?」
「私と龍誠くんから一文字ずつ取って、ゆり、というのはどうでしょう?」
「男の子だったら?」
「ゆりお」
「それは、流石に安易じゃないか?」
「なら龍誠くんが案を出してください」
「うーん、みさきの次だから……みさく?」
「壊滅的なセンスですね。龍誠くんから命名権を剥奪します」
「待て待て、冗談だ」
「真剣に考えてください」
「分かってる。生まれるまでには、決めておくよ」
短い会話のあと、またキスをする。
「明日が楽しみですね」
「あと六時間くらいだけどな」
「何を言いますか。まだそんな……外が、明るい?」
「相変わらず周りが見えなくなるのか。まあでも、あれだけ――」
「わわわわ! そこに触れるのはダメです! 許しません!」
結衣は龍誠をポカポカ叩いた。
くすくす笑いながら、龍誠は言う。
「流石に少しは寝ようか。三十分くらい」
「いいんですか? 寝過ごしたら大変ですよ」
「普段から寝坊してるみたいな言い方をするな。大丈夫だ、大事な日なんだから」
「……そうですね」
弾む気持ちを抑えながら言って、結衣は龍誠に身を寄せた。
そっと腕を回して、彼は結衣を受け止める。
それから言葉は無くて、というより必要なくて、
二人はただ、幸せを感じていた。
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