一方的に婚約破棄してきたはずの皇太子が、何故か追いかけてきます!

こみや

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アイリスの琥珀色の瞳は涙に濡れ潤んでいた。頬は桜色に染まり、美しく纏められたハーフアップは栗色に艶めいている。美しく整った顔立ちは誰もを魅了するほどだが、今からこの屋敷を出ないとならない。
先日、ハイド皇太子との婚約破棄を言い渡されたのだ。隣国の第一王女ファルネアがハイドとの結婚を強く望んだからだ。

何のために今まで頑張ってきたのだろう。そんな虚無感を抱えながらも、アイリスは健気に涙を拭い、屋敷を出る支度を手伝う侍女のサラに微笑んだ。

「今までありがとう、サラ。あなたのおかげでこの花嫁修業も楽しかったわ」
「アイリス様……」
「本当よ。泣いてばかりもいけないわね。しっかりしなくちゃ。お父様とお母様を失望させてしまうことだけが気がかりだけれど……」

サラも無念さを滲ませながら涙を堪えて、握った拳を震わせながら言う。

「今回の件は、けしてアイリス様のせいではございません……ずっとアイリス様にお仕えしたかったです……」
「ありがとう。ふふ。サラも連れていけたらいいのに」

そうして支度が終わると、外で待たせている馬車まで向かった。行先はとりあえずアイリスの生家であるヴィエルコウッド邸だ。
ここはハイド皇太子の住む別邸で、アイリスは2年前からここで妻としての最終教育を受けていたのだ。
とは言え、ハイドと顔を合わせる機会は数えるほどしかなかった。会ったとしてもぶっきらぼうな返事があるだけで、そこには愛情も何もなかった。

外に出ると白馬付きの品よくあしらわれた紋様が入った馬車が待っていた。
アイリスはサラの手を握り締め、「元気でいるのよ、きっとよ」と挨拶をした。サラは我慢ならず泣き出してしまった。
すると、背後から低い声が響く。

「ご苦労なことだな。ヴィエルコウッド家にはそれなりの額を送る予定だから安心しろ」

アイリスとサラは目を疑った。そして耳も疑った。
自信溢れる振る舞いで腕を組み、夕暮れ時の澄んだ群青を思わせる髪色。髪と同じ色の眼光は鋭くアイリスを抉る。こんな時でさえ人情のかけらもない発言に、アイリスは自分の処遇よりも、この国の未来を案じた。

「……お気遣い痛み入りますわ、殿下」
「こんな簡素な馬車で帰るのか」
「…………」

アイリスの小さな唇がぴくりと動いた。が、続きの言葉を待つようにじいっとハイドを見つめる。
ハイドはフン、と鼻で笑い、こう言い放った。

「お前のことなど全く愛していないが、妾としてならここに置いてやってもいい」

アイリスは驚きを通り越してしばらくの間フリーズした。その隣のサラは、慌てた様子でアイリスとハイドを交互に見る。
妾……。うん……? 聞き間違い?
ハイドもまた見た目は精悍できれいなアーモンドアイをしている。鼻筋は通っていて意志の強そうな唇は真一文字に結ばれている。
アイリスはそんなハイドの顔を見ると静かに瞳を伏せた。長い睫毛で頬に影ができる。

「私は、一体何のために頑張ってきたのでしょうね……」
「何だと?」
「妾ですって? ご冗談にしては微塵も笑えませんわね。私の純潔を捧げる相手はもう貴方様ではありませんので。貴方様にお目にかかることはもう金輪際ありません」
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