一方的に婚約破棄してきたはずの皇太子が、何故か追いかけてきます!

こみや

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少し言い過ぎたかもしれないとアイリスは思ったが、もう戻れない。
ハイドがこんな性格だということは薄々わかってはいたが、今日という今日は言わせてもらわなくては、ハイドの妻になるために捧げた17年間が報われない。

ハイドの手入れの行き届いた黒革ブーツがざりりと庭のタイルを擦り、一歩アイリスに近づいた。
アイリスは怖気づいた心を隠し、胸を張ってハイドに向き合うが線の細い儚げな肩が小さく揺れている。

「今……何と言った?」
「本心を申し上げたまでですわ」

微笑むと花のように可憐で愛らしくいつも従順に寄り添っていたアイリスに、初めて冷たくあしらわれたハイドは、また一歩アイリスに近づいた。夕暮れ色の深く青い瞳がアイリスを捕らえる。
アイリスはどきりとして半歩下がった。サラがアイリスを支える。

「気が変わった。……絶対お前を追いかけてやる。地の果てでもな! 俺から逃げられると思うなよ!」

……えっ、えー?!

ハイドはひどく憤慨したように、ブーツの踵を鳴らしながら屋敷へと戻って行った。
アイリスとサラはその場に立ち竦み、顔を見合わせる。

「な……どういうこと? 何なの……?」
「よ、よくわかりませんが、アイリス様とても素敵でいらっしゃいました! 大きな声では言えませんが、こう、胸がスカッといたしました」

サラが笑顔で肯定するのでアイリスは恐怖で固まっていた体が解れた。
半年間しかいられなかったけれど、一つ上のサラは優秀なメイドで、本当にアイリスによくしてくれた。
少しの間お互いを抱き寄せて別れを惜しんだ後、アイリスは用意された馬車に乗り込んだ。


■□■□■


無事ヴィエルコウッド邸に到着したアイリスは、母ソアラとテラスで紅茶を飲んでいた。
アイリスの父、ゴードン・ヴィエルコウッド伯爵は任務があり不在だったが、もう両親には婚約破棄の話は耳に入っているようだった。

「お母様……ごめんなさい……私が至らなかったせいで……」
「いいえ。こればかりはもう仕方のないこと……。お国同士の話なのですからね。それよりもアイリス。これから忙しくなりますわよ」
「忙しく……というのは?」

先ほどまでは少し憔悴したように見えたソアラだが、口の端を意味深に上げ、後ろから数冊の見合い写真を出してきた。

「こうなったらお見合いラッシュですわ! 皇太子ほどではなくとも、我が家と釣り合う家柄のお方はまだまだいらっしゃいます! あなたが身に着けた教養やお作法は決して無駄ではなくてよ! すでに希望者を募りましたの。こちらはすべて貴女をお気に召している方々よ。さあ、過去を振り返る暇はなくてよ!」

パ、パワフル~!
どれから行くかと娘以上にわくわくしているソアラに、アイリスも思わず肩を竦めて笑う。
そうだった。お母様は逆境にお強い方……。
それに、これは傷ついた娘への母なりの心遣い。

まだお見合いなんて気分にはなれないし、しばらく落ち込みからは脱せそうにはないけれど、確実に私にも母の血が流れているのだわとアイリスは思った。
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