一方的に婚約破棄してきたはずの皇太子が、何故か追いかけてきます!

こみや

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ハイドと婚姻関係は結んでいないにしても、出戻りのアイリスを温かく迎えてくれたソアラには感謝しかなかった。
しかし、幼いころから面倒を見てくれていた侍女たちはもういなかった。アイリスが皇太子妃になるということは、もうこの館には戻ってこない。侍女たちは幼い姉妹たちのいる遠戚の屋敷で働いているそうだ。

ベッドに横たわると、はあ……とアイリスは溜息をついた。
サラ……サラは元気に過ごしているかしら。
あの屋敷で唯一心を許せたサラを想うと、突然の別れに胸が詰まる。自らの不甲斐なさにも情けなくなってシーツを涙で濡らした。
皇太子とファルネア王女のため、いくら仕方ないと言えど、自分が必要とされなくなったというのは悲しいものだった。

泣き濡れたアイリスはいつの間にか眠りについていた。
幼いころからずっと眠りを紡いできたこのベッドは、傷ついた心を癒してくれるようで。
過去を振り返らずに――本当にそうだわ……お母様の仰る通り……。

突然ぎしりとベッドが軋んだ気がして、アイリスはうとうとと微睡む瞳を開けた。
すると、枕元でマントを着けた男がベッドに腰を掛け、アイリスをじいっと見下ろしていた。

「……きゃ…………きゃあっ……! だ、誰か」
「静かに!」

アイリスは恐怖に戦慄き震えながら布団を被り、全身の力を込めてその男を蹴った。寝巻のドレスから足がはだけても休むことなくひたすらに蹴り続ける。
男は焦ってアイリスの脚を掴んだ。

「きゃ、きゃーっ!」
「お、おい! 俺だ! ハイドだ! くっ、痛えなバシバシ蹴りやがって……」
「ええぇ!? ハイド様がここにな、なぜ……」

ハイドとわかるとアイリスは蹴るのをやめ、脚も解放された。
それにしてもこんな時間にこんなところへ何しに来たのか、アイリスはパニックに陥り、さらに羽根の布団に丸く包まる。   
婚約破棄された令嬢が皇太子を蹴り飛ばしただなんて知れたら首が飛ぶのでは……!

まだ夜明けも迎えていない真夜中。アイリスは、ハイドから距離を取りながらテーブルのキャンドルを点けた。

ほわりとオレンジ色の明かりが灯り、自分をまっすぐに見つめるハイドの顔が見えてアイリスはどぎまぎした。
アイリスは淡い栗色の髪を下ろし、少し胸元の開いたホワイトブルーのナイトドレスを着ている。プライベートの姿などは一度もハイドに見せたことがない。こんな姿で向き合うことが恥ずかしく屈辱的だった。
ハイドに背を向けアイリスは尋ねる。

「なぜ、ハイド様がこんな時間に……こんな場所に……どうやって忍び込まれたのですか?」
「……夜中、寝ようとしても寝られなかったから少し散歩に出ただけだが。そうしたらこの家の窓が開いててそこから入っただけだ」

はい、不法侵入ー!
皇太子じゃなければ今射殺されているところだろう。
この非常識な皇太子からまともな答えなんて返ってくるはずないのだわ。
アイリスは酷く困惑しつつも、まだドキドキしている胸元をきゅっと押さえた。

「驚かせて悪かったよ。でも、気が付いたらここに来てたんだ。もっと、お前と話せばよかったって思ったら寝れなくなった」

押さえていた胸がさらに高鳴り、アイリスはちらりとハイドを見た。
渋いカーキ色のマントを着けたままベッドに腰掛けているハイドも、アイリスを見つめ返す。

「そ、んなこと、仰られましても……」

昼間の、傍若無人ぶりはどこへ行った? 貴方は甘やかされて育ってしまった怖いもの知らずで世間知らずな、ちょっとおバカな皇太子でしょう!
アイリスの心の中では悪態はいくらでもつけた。しかし、揺らめくキャンドルの明かりの中で、切なげに見つめてくるダークブルーの瞳を見ていると何も言えない。
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