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ハイドはアイリスから瞳を逸らさず続けた。怯えるアイリスに近づきすぎないように気遣いながら。
そんな様子が見て取れるからこそ、アイリスはハイドを無碍にできない。
「もっと、お前と……過ごしたかった。知らない女より……アイリス。俺はお前がいい」
もう、もうやめて――。
アイリスは唇を噛みしめた。琥珀色の瞳が涙で潤むが、ハイドにだけはこんな顔は見せまいと顔を背ける。
「お……お帰り下さい。ハイド様が……屋敷にいらっしゃらないと他に知れたら大変なことになります……私だけではなく、家族が……罰せられるかもしれません……」
「そんなことさせない。アイリス。俺と屋敷に戻ろう」
ハイド様が……あの方が、こんなこと、私に仰るはずがない。
きっと、妾として私を囲う魂胆なのね。
この国では、側室の立場はとても低いもので蔑まれることが多い。私にだってプライドがある。
私がどれだけの想いを抱えて屋敷を去ったのか、貴方は何もわかってらっしゃらないのね。
隣国のファルネア王女は至極美しくまるで天女のようだと噂で聞いていた。
昨今の国交状況を見ても、この隣国からの縁談を王室が断れないのは誰もがわかり切ったことである。
「私に構わないでください。こちらも……縁談があるんです。もう、いくつか申し出をいただいているので……」
「……縁談? どの家だ? 跡形もないぐらい潰してやる」
ハイドはぎりりと唇を噛みしめ、アイリスが慌てて止めに入る。
「ですから、そういうところを改めて下さい! いつもいつも高圧的で、思い通りにならないとすぐ大人げない態度をお取りになって……貴方は小さな子供じゃないのですから」
「うん? それで?」
思わずハイドのダメ出しをつらつらと並べるアイリスに、ハイドはにやにやと笑みを浮かべながら続きを聞きたがる。はっと正気に戻ったアイリスはこほんと咳払いをすると、ガウンを取りに立ち上がった。
ハイドも立ち上がり、その後を追う。
「なぜ続きを話してくれない?」
「なぜって……殿下の前で、こんな……はしたない格好をしているのも、無礼だと思ったので……」
「はしたない? とても美しいよ。ブルーがよく似合っている。この、栗色の髪も、琥珀色の瞳も、とても……」
ガウンを取ろうとする白く細い手をハイドが握った。
今……絶対にハイド様と目を合わせてはいけない。アイリスの本能がそう騒ぐ。
「なぜ、こちらを向かない?」
「離して下さい……ハイド様。今度こそ大声を出します」
これは私の本心なのだろうか。アイリスは心と台詞が分離したような気持ちで、冷たくハイドに告げた。
「勝手に忍び込むようなことはおやめください。もう、貴方と私は何も関係がないのですから」
そんな様子が見て取れるからこそ、アイリスはハイドを無碍にできない。
「もっと、お前と……過ごしたかった。知らない女より……アイリス。俺はお前がいい」
もう、もうやめて――。
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「お……お帰り下さい。ハイド様が……屋敷にいらっしゃらないと他に知れたら大変なことになります……私だけではなく、家族が……罰せられるかもしれません……」
「そんなことさせない。アイリス。俺と屋敷に戻ろう」
ハイド様が……あの方が、こんなこと、私に仰るはずがない。
きっと、妾として私を囲う魂胆なのね。
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「うん? それで?」
思わずハイドのダメ出しをつらつらと並べるアイリスに、ハイドはにやにやと笑みを浮かべながら続きを聞きたがる。はっと正気に戻ったアイリスはこほんと咳払いをすると、ガウンを取りに立ち上がった。
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