マジカルカシマ

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言わぬが花

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 カーテンの隙間から漏れる光。

 よく寝た。
 ベッドの中で伸びをして気付く。知らないパジャマ、知らない布団。よく見るとカーテンも俺の部屋のじゃない。

 部屋を出ると思った通りお兄ちゃんの家だった。しかもリビングに獅堂さんと波路くん、来海くんと金曜くん。
「おはようございます良ちゃん。まだ体が辛いでしょう。食事は部屋へ運ぶのでゆっくりしていて下さい」

 波路くんが信じられないけどおめでとうみたいに両手を口に当てた。絶対誤解してる。かといって驚かない金曜くんと来海くんもなんか嫌だ。
「違いますよ?
 なんか妙な夢を見てもの凄く疲れただけです」
「え、あれからずっと寝てたん?」

 あれからがいつかもずっとがどれくらいかも分からない俺に代わってお兄ちゃんが答える。
「途中で1度起きました」
 なんでモジモジしてるんだ?
「求めるような目で『こた』って呼んで、僕がいることに安心してまた目を閉じました。
 名前呼びを飛ばして愛称呼びになるなんて思っても見ませんでした」

 主観で脚色されまくってる!
 寝ぼけてただけだし噛んだだけだし疲れてただけだし!

 でもまあ、こんなに喜んでるならいいか。それより。
「俺はどれくらい眠ってたんですか?」
 お兄ちゃんが時計を見た。
「18時間ほどですね」
「その間に変わったことは?」

 そこからは獅堂さんが説明してくれた。
「マジ子ちゃんは完全に元に戻った。もうりのあちゃん以外の誰がマジカルカシマって言ってもなんも起こらん。
 送迎バスはあの事故に巻き込まれていたことになってる。
 事故のツケは金曜が負うことは決まってて、微調整は俺たちとたいよーで探っていく。
 先生せんせえの従姉さんはスルーの方向や」

 りーちゃんは伯父さんとのことは置いといてひとまず良かった。お母さんの不法侵入は消せないか。
「お母さんは体力付けないとりのあちゃんが」
「大丈夫や。被害者に金曜持ちで和解金を払うことに落ち着きそうや。体力も再婚相手がキャベツ農家の息子でトンカツ屋で、お母さんの食いっぷりに惚れたそうやから食べるにも困らん。
 旦那さんは今回のことも何かの間違いだと信じてくれてた。俺たちが会わんかっただけで、りのあちゃんのお見舞いにも通ってたそうや」

 お兄ちゃんの表情が明るくなった。
「良かったですね」
 お兄ちゃんが会ったことない人を気にかけた!?
「これで心配ないでしょう。良ちゃんは心置きなく僕のことだけを考えられますね」

 反応に困るからごまかそう。
「再婚っていつですか? 俺が会ったお母さんはガリガリでしたよ?」
 お兄ちゃんの空気が変わった。
「会ったってどういうことですか!」
「研修医時代に会うことくらいあるよ。忘れてたくらいちょっとだけだし」

 獅堂さんは落ち着いてる。
「それは聞かんかったけど、転院したと見せかけてずっと荒井病院にいたんやて。先生せんせえが会ったんは再婚前ちゃう?
 昨日会ったお母さんは健康的やったで」
「そうなんですね。良かった」

 ほっとした俺の隣から良くない空気を感じる。
「良ちゃん、もう1つ自分から僕に言った方がいいことがありますよね?」
「え? 無いよ?」
 お兄ちゃんがプイっと顔を横に向けた。
「夢の通い路での語らいは楽しかったですか?」
「夢の通い路?」

 お兄ちゃんが駄々っ子のような空気で俺に向き直った。
「良ちゃんが書いたカルテを眺めてた・同僚で今は無関係のナースさんですよ」
 ああ、あれって松原さんの夢だったんだ。

 マジ子ちゃんに関わってるんだから無関係ではないんじゃ、なんて言っちゃダメな状況だよな。
「俺が書いたからじゃなくて整形のだからだよ」
「最後のチャンスです。せめて何を話したのかを正直に言えば許してあげます」
「だから4月の辞令を受けたけど整形に戻りたいって」

 ここで助け舟を出してくれそうなのって誰だ?
 縋るように波路くんを見つめると気付いてくれた。
「まあまあ野島さま。せっかくの朝ではありませんか。もっとご自分に自信をお持ち下さい。
 あ、お持ちといえば三日夜みかよの餅はどうなさるかお決まりですか?」
 だから違うって!

 来海くんが肩の高さに右手を当てた。
「巻き込んだからな。俺が作ろうか?」
 だから違うって!!

 富士さんから電話で呼び出されて4人は警察に行くことになった。玄関で見送る俺に、靴を履きながら獅堂さんが振り返る。
「今回の件、先生せんせえのお蔭なところが大きかったわ。ありがとおな」
「いえ」
 医者らしいことは何もしてないけどな。

 獅堂さんも気が付いた。
「そういえば俺、先生せんせえが治療してるとこ見たことないなあ」
 確かに。まあつまり。
「みんな元気ってことなんだから、いいことじゃないですか」
 オペをしたい気持ちが無いって言ったら嘘になるけどな。
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