2 / 8
2
しおりを挟む
「これかぁ……」
神殿には、天馬に跨った女神様の像が安置されていた。何かと戦うところなのだろうか、女神様は大粒のエメラルドが埋まった杖を掲げており、その姿は神々しいまでに美しかった。
小百合は、どうか翔を助けて下さいと、目を閉じて祈った。
そして数秒後、小百合は目を見開いて驚いた。
「服は!?」
そう。素っ裸だったのである。
小百合は学校の制服を着ていたはずだが、靴下さえなくなってしまっている。
慌てて前を手で隠したが、この誰も居ない奇妙な空間の中では無意味であるような気がして、しばらくしてから手を離した。
眼前には何もなく、物音一つしなかった。
これが神域なのだろうか、と思ったが、何もない、ただ白いだけの通路が永遠に続いているのを見て、とんでもないところに来てしまった、と感じた。
「衣服の着用は許されておりません。穢れておりますので」
「貴方は……?」
唐突に背後から声をかけられて、小百合はビクリと背を震わせた。神様だろうかと思って振り返ってみると、背中から白い翼の生えた、金髪碧眼の幼い少女がいた。
「神様に仕えている者です。名前はありませんが、人間は私のことを天使と呼びます」
神々しい気配を感じ、小百合は緊張したが、素っ裸なのを思い出して、再び大事な場所を手で隠した。
「勇者様。申し訳ありませんが、時間がありません。すぐにご用意しますので、神様に謁見し、神通の儀を行う前に、身を清めてください」
淡々と喋る天使から、聞き捨てならない言葉を聞かされ、小百合は聞き返した。
「神通の儀とは何ですか?」
「ご存知ないのですか?」
天使は、きょとんと豆鉄砲を食らったような顔で小百合を見た。
「……ああ、異世界から召喚されたばかりの方なのですね? どこまで説明を受けていらっしゃいますか? 勇者様は神様と交わる事で神力を授かるのです」
「交わるって、まさか……」
天使の話を聞いて、ひしひしと嫌な予感が した。身を清めてから交わるとなると、どうしても、あれしかないような気がした。
「人間が子供を作る時と同じ方法を用います」
「何それ……!? 聞いてないし!!?」
翔が死ぬかもしれない――
そう思ったらいても立ってもいられなくて、召喚した神官の詳しい説明を聞くのを後回しにして、ここに来たのだ。
小百合が勇者であるという事は聞いたが、こちらの世界の事情は何一つ知らない。
天使は焦る小百合を値踏みするように見てから、微笑んだ。
「貴方様は神様に選ばれたのです。そうでなければ例え勇者でも、神域に立ち入る事は出来ません。……湯がご用意出来たようです。神様がお待ちですので、早くお入りください」
天使は「お手伝いしますね。こちらです」と言って、光の扉を開け、戸惑う小百合を、湯へ案内した。
そこは、開放的な空間になっていた。深紅の薔薇の花と白い薔薇の花びらを浮かべた湯に、趣のある床や柱。そして、真っ青な空と雲海が目に飛び込んできた。まるで現実味のない風景が広がっている。
それは、この世のものではないような気がして――
――小百合は半ば放心状態で天使に体を洗ってもらうと、お湯に入った。
神殿には、天馬に跨った女神様の像が安置されていた。何かと戦うところなのだろうか、女神様は大粒のエメラルドが埋まった杖を掲げており、その姿は神々しいまでに美しかった。
小百合は、どうか翔を助けて下さいと、目を閉じて祈った。
そして数秒後、小百合は目を見開いて驚いた。
「服は!?」
そう。素っ裸だったのである。
小百合は学校の制服を着ていたはずだが、靴下さえなくなってしまっている。
慌てて前を手で隠したが、この誰も居ない奇妙な空間の中では無意味であるような気がして、しばらくしてから手を離した。
眼前には何もなく、物音一つしなかった。
これが神域なのだろうか、と思ったが、何もない、ただ白いだけの通路が永遠に続いているのを見て、とんでもないところに来てしまった、と感じた。
「衣服の着用は許されておりません。穢れておりますので」
「貴方は……?」
唐突に背後から声をかけられて、小百合はビクリと背を震わせた。神様だろうかと思って振り返ってみると、背中から白い翼の生えた、金髪碧眼の幼い少女がいた。
「神様に仕えている者です。名前はありませんが、人間は私のことを天使と呼びます」
神々しい気配を感じ、小百合は緊張したが、素っ裸なのを思い出して、再び大事な場所を手で隠した。
「勇者様。申し訳ありませんが、時間がありません。すぐにご用意しますので、神様に謁見し、神通の儀を行う前に、身を清めてください」
淡々と喋る天使から、聞き捨てならない言葉を聞かされ、小百合は聞き返した。
「神通の儀とは何ですか?」
「ご存知ないのですか?」
天使は、きょとんと豆鉄砲を食らったような顔で小百合を見た。
「……ああ、異世界から召喚されたばかりの方なのですね? どこまで説明を受けていらっしゃいますか? 勇者様は神様と交わる事で神力を授かるのです」
「交わるって、まさか……」
天使の話を聞いて、ひしひしと嫌な予感が した。身を清めてから交わるとなると、どうしても、あれしかないような気がした。
「人間が子供を作る時と同じ方法を用います」
「何それ……!? 聞いてないし!!?」
翔が死ぬかもしれない――
そう思ったらいても立ってもいられなくて、召喚した神官の詳しい説明を聞くのを後回しにして、ここに来たのだ。
小百合が勇者であるという事は聞いたが、こちらの世界の事情は何一つ知らない。
天使は焦る小百合を値踏みするように見てから、微笑んだ。
「貴方様は神様に選ばれたのです。そうでなければ例え勇者でも、神域に立ち入る事は出来ません。……湯がご用意出来たようです。神様がお待ちですので、早くお入りください」
天使は「お手伝いしますね。こちらです」と言って、光の扉を開け、戸惑う小百合を、湯へ案内した。
そこは、開放的な空間になっていた。深紅の薔薇の花と白い薔薇の花びらを浮かべた湯に、趣のある床や柱。そして、真っ青な空と雲海が目に飛び込んできた。まるで現実味のない風景が広がっている。
それは、この世のものではないような気がして――
――小百合は半ば放心状態で天使に体を洗ってもらうと、お湯に入った。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる