30 / 32
兄弟
しおりを挟む
「お久しぶりです、グリフ兄様。2年、いや3年ぶりぐらいですか?」
「5年ぶりぐらいじゃないのか? 薄情な弟ばかりで、俺は悲しいよ」
「そ、そうでしたっけ……? 月日が経つのは早いものですね」
王家が開いた晩餐会で、久しぶりに侯爵家の兄弟が集った。
「真面目すぎて気が合わなかったけど、侯爵家のことを心配せずに、好きに生きれたのは長男が居たからだね。感謝しないと」
ルークスは苦笑いしながら、長男に感謝の意を述べた。長男グリフは「ほんとにお前ら、好き勝手に生き過ぎだぞ」と愚痴をこぼしたが「だが、兄弟が悔いの無い人生なら、それでいい」と言った。
「丸くなったよね、あの冷血漢と呼ばれた男が……」
「それを言うなって。それこそ十何年前の話だ?」
「……奥方様が出来る人だもんね。そういえば、最近お会いしてないなあ」
グリフの妻は、穏やかだが芯の有る、しっかりとした女性だ。最後に逢ったのは、次兄のルークスがブラッド王子と結婚することになり、家族会議のために侯爵家に戻った時だろうか。
ルークスが女になったこと。そして妻と離婚してブラッド王子と再婚する事になり、侯爵家では大混乱に陥ったが、しっかりと家族全員の声に耳を傾けてくれた彼女のおかげで、騒ぎは沈静化した。マリオンも半ばパニックになっていたので、冷静に対応してくれた彼女には感謝しているぐらいだ。
「だから、たまには戻って来いって言ってるだろう? 特にマリオン。仕事が忙しいのは分かるが、父上や母上も心配されているぞ」
「仕事の忙しさより、蝶人間の世話がね。産卵を控えてる蝶人間が2匹もいるしなあ」
蝶人間の産卵は、稀に卵が詰まったりするから、十分な注意を払う必要がある。そのため、蝶人間の産卵が近づいてくると、マリオンは外出を控えるようにしていた。
「私が代わりに面倒見てあげるから、行ってきたらどうだい、マリオン?」
「ルークス兄様は世話するのが上手だから、見てもらえるなら安心だけど……。陛下が、兄様の外出をお許しになるかなあ?」
「大丈夫だよ。ブラッドはマリオンの温室を気に入っているからね」
「そういえばそうだね。この前も1週間ほど滞在されていたね」
マリオンの温室は仕立て屋の仕事で儲けたお金の大半を注ぎ込んでいる。王室が所有する温室と比べても遜色ないほど、規模が大きく、華やかな温室となっており、観覧希望者が後を絶たなかった。
「グリフ兄様、あの古いオレンジの木とか、まだある? あれ甘くて美味しかったんだよな」
「腕のいい庭師が居るからな。収穫量は減ってきてるけど、まだ枯れていないぞ。今が食べごろだから、来るなら早く来たほうがいいかもな」
「そうなんだ。それなら食べに行こうかな」
「また食べすぎてお腹壊さないで下さいよ」
「そういえば、そんなこともあったなぁ」
兄弟は笑い合いながら、昔を懐かしんだ。
「ほんと、しっかりした長男が居て良かったよね、ルークス兄様。……いや、姉様……? それとも王妃様とお呼びしたほうが……?」
「マリオンに姉様とか言われるのは、なんか嫌だね。今まで通り兄様でいいよ。それに私は、男に戻るのをあきらめたわけじゃないしね」
「ルークス兄様、酔っ払ってます? ……それ、くれぐれも陛下には言わないで下さいね?」
「言うわけないよ。……言ったら最後、太陽の光すら浴びれない生活に逆戻りじゃないか。マリオンも、ここだけの話にしておくれよ」
「……僕も、命は惜しいので」
幽閉されていた時の事を思い出したのか、憮然とした表情になったルークスの言葉に、マリオンは戦々恐々とした。マリオンにとって、ブラッド陛下――先代の国王崩御に伴い、数か月前に即位したので、ブラッド王子は新国王となった――の、理不尽な怒りや嫉妬の矛先が向けられることほど、恐怖するものはないからだ。
それを制御できるのは、この世にルークスしか居ないと、この数年で思い知ったのだ。
「5年ぶりぐらいじゃないのか? 薄情な弟ばかりで、俺は悲しいよ」
「そ、そうでしたっけ……? 月日が経つのは早いものですね」
王家が開いた晩餐会で、久しぶりに侯爵家の兄弟が集った。
「真面目すぎて気が合わなかったけど、侯爵家のことを心配せずに、好きに生きれたのは長男が居たからだね。感謝しないと」
ルークスは苦笑いしながら、長男に感謝の意を述べた。長男グリフは「ほんとにお前ら、好き勝手に生き過ぎだぞ」と愚痴をこぼしたが「だが、兄弟が悔いの無い人生なら、それでいい」と言った。
「丸くなったよね、あの冷血漢と呼ばれた男が……」
「それを言うなって。それこそ十何年前の話だ?」
「……奥方様が出来る人だもんね。そういえば、最近お会いしてないなあ」
グリフの妻は、穏やかだが芯の有る、しっかりとした女性だ。最後に逢ったのは、次兄のルークスがブラッド王子と結婚することになり、家族会議のために侯爵家に戻った時だろうか。
ルークスが女になったこと。そして妻と離婚してブラッド王子と再婚する事になり、侯爵家では大混乱に陥ったが、しっかりと家族全員の声に耳を傾けてくれた彼女のおかげで、騒ぎは沈静化した。マリオンも半ばパニックになっていたので、冷静に対応してくれた彼女には感謝しているぐらいだ。
「だから、たまには戻って来いって言ってるだろう? 特にマリオン。仕事が忙しいのは分かるが、父上や母上も心配されているぞ」
「仕事の忙しさより、蝶人間の世話がね。産卵を控えてる蝶人間が2匹もいるしなあ」
蝶人間の産卵は、稀に卵が詰まったりするから、十分な注意を払う必要がある。そのため、蝶人間の産卵が近づいてくると、マリオンは外出を控えるようにしていた。
「私が代わりに面倒見てあげるから、行ってきたらどうだい、マリオン?」
「ルークス兄様は世話するのが上手だから、見てもらえるなら安心だけど……。陛下が、兄様の外出をお許しになるかなあ?」
「大丈夫だよ。ブラッドはマリオンの温室を気に入っているからね」
「そういえばそうだね。この前も1週間ほど滞在されていたね」
マリオンの温室は仕立て屋の仕事で儲けたお金の大半を注ぎ込んでいる。王室が所有する温室と比べても遜色ないほど、規模が大きく、華やかな温室となっており、観覧希望者が後を絶たなかった。
「グリフ兄様、あの古いオレンジの木とか、まだある? あれ甘くて美味しかったんだよな」
「腕のいい庭師が居るからな。収穫量は減ってきてるけど、まだ枯れていないぞ。今が食べごろだから、来るなら早く来たほうがいいかもな」
「そうなんだ。それなら食べに行こうかな」
「また食べすぎてお腹壊さないで下さいよ」
「そういえば、そんなこともあったなぁ」
兄弟は笑い合いながら、昔を懐かしんだ。
「ほんと、しっかりした長男が居て良かったよね、ルークス兄様。……いや、姉様……? それとも王妃様とお呼びしたほうが……?」
「マリオンに姉様とか言われるのは、なんか嫌だね。今まで通り兄様でいいよ。それに私は、男に戻るのをあきらめたわけじゃないしね」
「ルークス兄様、酔っ払ってます? ……それ、くれぐれも陛下には言わないで下さいね?」
「言うわけないよ。……言ったら最後、太陽の光すら浴びれない生活に逆戻りじゃないか。マリオンも、ここだけの話にしておくれよ」
「……僕も、命は惜しいので」
幽閉されていた時の事を思い出したのか、憮然とした表情になったルークスの言葉に、マリオンは戦々恐々とした。マリオンにとって、ブラッド陛下――先代の国王崩御に伴い、数か月前に即位したので、ブラッド王子は新国王となった――の、理不尽な怒りや嫉妬の矛先が向けられることほど、恐怖するものはないからだ。
それを制御できるのは、この世にルークスしか居ないと、この数年で思い知ったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~
ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。
彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。
――死んだはずの彼女が、生きている?
同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。
「今さら、逃げ道があると思うなよ」
瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。
秘された皇子と、選び直した愛。
三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?
* * *
後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる