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兄弟
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「お久しぶりです、グリフ兄様。2年、いや3年ぶりぐらいですか?」
「5年ぶりぐらいじゃないのか? 薄情な弟ばかりで、俺は悲しいよ」
「そ、そうでしたっけ……? 月日が経つのは早いものですね」
王家が開いた晩餐会で、久しぶりに侯爵家の兄弟が集った。
「真面目すぎて気が合わなかったけど、侯爵家のことを心配せずに、好きに生きれたのは長男が居たからだね。感謝しないと」
ルークスは苦笑いしながら、長男に感謝の意を述べた。長男グリフは「ほんとにお前ら、好き勝手に生き過ぎだぞ」と愚痴をこぼしたが「だが、兄弟が悔いの無い人生なら、それでいい」と言った。
「丸くなったよね、あの冷血漢と呼ばれた男が……」
「それを言うなって。それこそ十何年前の話だ?」
「……奥方様が出来る人だもんね。そういえば、最近お会いしてないなあ」
グリフの妻は、穏やかだが芯の有る、しっかりとした女性だ。最後に逢ったのは、次兄のルークスがブラッド王子と結婚することになり、家族会議のために侯爵家に戻った時だろうか。
ルークスが女になったこと。そして妻と離婚してブラッド王子と再婚する事になり、侯爵家では大混乱に陥ったが、しっかりと家族全員の声に耳を傾けてくれた彼女のおかげで、騒ぎは沈静化した。マリオンも半ばパニックになっていたので、冷静に対応してくれた彼女には感謝しているぐらいだ。
「だから、たまには戻って来いって言ってるだろう? 特にマリオン。仕事が忙しいのは分かるが、父上や母上も心配されているぞ」
「仕事の忙しさより、蝶人間の世話がね。産卵を控えてる蝶人間が2匹もいるしなあ」
蝶人間の産卵は、稀に卵が詰まったりするから、十分な注意を払う必要がある。そのため、蝶人間の産卵が近づいてくると、マリオンは外出を控えるようにしていた。
「私が代わりに面倒見てあげるから、行ってきたらどうだい、マリオン?」
「ルークス兄様は世話するのが上手だから、見てもらえるなら安心だけど……。陛下が、兄様の外出をお許しになるかなあ?」
「大丈夫だよ。ブラッドはマリオンの温室を気に入っているからね」
「そういえばそうだね。この前も1週間ほど滞在されていたね」
マリオンの温室は仕立て屋の仕事で儲けたお金の大半を注ぎ込んでいる。王室が所有する温室と比べても遜色ないほど、規模が大きく、華やかな温室となっており、観覧希望者が後を絶たなかった。
「グリフ兄様、あの古いオレンジの木とか、まだある? あれ甘くて美味しかったんだよな」
「腕のいい庭師が居るからな。収穫量は減ってきてるけど、まだ枯れていないぞ。今が食べごろだから、来るなら早く来たほうがいいかもな」
「そうなんだ。それなら食べに行こうかな」
「また食べすぎてお腹壊さないで下さいよ」
「そういえば、そんなこともあったなぁ」
兄弟は笑い合いながら、昔を懐かしんだ。
「ほんと、しっかりした長男が居て良かったよね、ルークス兄様。……いや、姉様……? それとも王妃様とお呼びしたほうが……?」
「マリオンに姉様とか言われるのは、なんか嫌だね。今まで通り兄様でいいよ。それに私は、男に戻るのをあきらめたわけじゃないしね」
「ルークス兄様、酔っ払ってます? ……それ、くれぐれも陛下には言わないで下さいね?」
「言うわけないよ。……言ったら最後、太陽の光すら浴びれない生活に逆戻りじゃないか。マリオンも、ここだけの話にしておくれよ」
「……僕も、命は惜しいので」
幽閉されていた時の事を思い出したのか、憮然とした表情になったルークスの言葉に、マリオンは戦々恐々とした。マリオンにとって、ブラッド陛下――先代の国王崩御に伴い、数か月前に即位したので、ブラッド王子は新国王となった――の、理不尽な怒りや嫉妬の矛先が向けられることほど、恐怖するものはないからだ。
それを制御できるのは、この世にルークスしか居ないと、この数年で思い知ったのだ。
「5年ぶりぐらいじゃないのか? 薄情な弟ばかりで、俺は悲しいよ」
「そ、そうでしたっけ……? 月日が経つのは早いものですね」
王家が開いた晩餐会で、久しぶりに侯爵家の兄弟が集った。
「真面目すぎて気が合わなかったけど、侯爵家のことを心配せずに、好きに生きれたのは長男が居たからだね。感謝しないと」
ルークスは苦笑いしながら、長男に感謝の意を述べた。長男グリフは「ほんとにお前ら、好き勝手に生き過ぎだぞ」と愚痴をこぼしたが「だが、兄弟が悔いの無い人生なら、それでいい」と言った。
「丸くなったよね、あの冷血漢と呼ばれた男が……」
「それを言うなって。それこそ十何年前の話だ?」
「……奥方様が出来る人だもんね。そういえば、最近お会いしてないなあ」
グリフの妻は、穏やかだが芯の有る、しっかりとした女性だ。最後に逢ったのは、次兄のルークスがブラッド王子と結婚することになり、家族会議のために侯爵家に戻った時だろうか。
ルークスが女になったこと。そして妻と離婚してブラッド王子と再婚する事になり、侯爵家では大混乱に陥ったが、しっかりと家族全員の声に耳を傾けてくれた彼女のおかげで、騒ぎは沈静化した。マリオンも半ばパニックになっていたので、冷静に対応してくれた彼女には感謝しているぐらいだ。
「だから、たまには戻って来いって言ってるだろう? 特にマリオン。仕事が忙しいのは分かるが、父上や母上も心配されているぞ」
「仕事の忙しさより、蝶人間の世話がね。産卵を控えてる蝶人間が2匹もいるしなあ」
蝶人間の産卵は、稀に卵が詰まったりするから、十分な注意を払う必要がある。そのため、蝶人間の産卵が近づいてくると、マリオンは外出を控えるようにしていた。
「私が代わりに面倒見てあげるから、行ってきたらどうだい、マリオン?」
「ルークス兄様は世話するのが上手だから、見てもらえるなら安心だけど……。陛下が、兄様の外出をお許しになるかなあ?」
「大丈夫だよ。ブラッドはマリオンの温室を気に入っているからね」
「そういえばそうだね。この前も1週間ほど滞在されていたね」
マリオンの温室は仕立て屋の仕事で儲けたお金の大半を注ぎ込んでいる。王室が所有する温室と比べても遜色ないほど、規模が大きく、華やかな温室となっており、観覧希望者が後を絶たなかった。
「グリフ兄様、あの古いオレンジの木とか、まだある? あれ甘くて美味しかったんだよな」
「腕のいい庭師が居るからな。収穫量は減ってきてるけど、まだ枯れていないぞ。今が食べごろだから、来るなら早く来たほうがいいかもな」
「そうなんだ。それなら食べに行こうかな」
「また食べすぎてお腹壊さないで下さいよ」
「そういえば、そんなこともあったなぁ」
兄弟は笑い合いながら、昔を懐かしんだ。
「ほんと、しっかりした長男が居て良かったよね、ルークス兄様。……いや、姉様……? それとも王妃様とお呼びしたほうが……?」
「マリオンに姉様とか言われるのは、なんか嫌だね。今まで通り兄様でいいよ。それに私は、男に戻るのをあきらめたわけじゃないしね」
「ルークス兄様、酔っ払ってます? ……それ、くれぐれも陛下には言わないで下さいね?」
「言うわけないよ。……言ったら最後、太陽の光すら浴びれない生活に逆戻りじゃないか。マリオンも、ここだけの話にしておくれよ」
「……僕も、命は惜しいので」
幽閉されていた時の事を思い出したのか、憮然とした表情になったルークスの言葉に、マリオンは戦々恐々とした。マリオンにとって、ブラッド陛下――先代の国王崩御に伴い、数か月前に即位したので、ブラッド王子は新国王となった――の、理不尽な怒りや嫉妬の矛先が向けられることほど、恐怖するものはないからだ。
それを制御できるのは、この世にルークスしか居ないと、この数年で思い知ったのだ。
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