僕の白い蝶【完結】

ちゃむにい

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結婚式

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(それにしてもルークス兄様は、お綺麗だなあ。子供を何人も産んでいるようには見えないや。これは陛下が惚れこんでも、しょうがないかな……)

ルークスは、兄弟であるマリオンが見惚れてしまうほど、美しい顔立ちをしていた。

男だった頃から、流行に敏感でお洒落だったから、女になってからも化粧やドレスに関心が深く、すぐに女として美しい装いをするようになった。老若男女男女問わず、誰もが振り返ってしまう、凛とした佇まいは王妃として相応しいもので、立ち振る舞いにも品があった。
元々男だったと言われても、信じられないぐらい、既にルークスは女として馴染んでいた。男であった時から「歩く卑猥物だ」と陛下に称されるほど、匂い立つような色気があったルークスだが、陛下が愛人の1人も囲わず、ルークスだけを日夜寵愛しているためか、さらに妖艶さが増した美貌は、マリオンの製作意欲を沸かせた。

けれども、それは良いことばかりではなかった。ルークスが近い距離にいると、なんだか良い匂いがして、マリオンはドキドキしてしまった。胸もセリーヌより大きいぐらいだし、もし、本当に女で、姉として存在していたら、きっと目に毒だったことだろう。
ルークスが兄で良かったと、マリオンは胸を撫で下ろすのだった。

「マリオンの温室は度々行っているけど、何時になったら、私の温室に遊びに来てくれるんだい? 蝶人間も大分増えたし、ブラッドも見に来て欲しいみたいだよ」

そのルークスはマリオンの気持ちを知ってか知らずか、可愛らしく口を尖らせ、上目遣いでマリオンを見た。

(うわぁ……。近すぎるって……! 女になったのに、兄様、距離感が男のままなんだよなあ)

胸が強調されたルークスのドレスは、以前マリオンが作ったものだ。零れ落ちそうなほど大きな胸の膨らみを品よく隠しているが、ここまで近い距離にいたら意味がない。何より声も届かないぐらい遠くから感じる、陛下の刺すような視線が怖くて、視線を明後日の方向に泳がせながら、マリオンは口を開いた。

「行きたいですけど……。犬が怖くって」
「あぁ……。趣味の悪い、あの犬のことかい? ……あまりに鳴き声がうるさいから、ブラッドの声も聞こえないって言ったら、手放してくれたよ」
「そ、そうなんですか……。陛下の寵愛が深くて何よりです……」
「寵愛ねぇ……? あの男、犬と私の浮気を本気で心配してたんだよ。私を色情魔か何かだと思っているのかね? さすがの私でも犬はお断りだよ」

まさか犬より陛下が怖いとは言い出せず、マリオンは言葉を濁した。

ルークスがブラッド王子によって幽閉された時、マリオンは気を揉んだものだ。ルークスと連絡が取れなくなり、まさか王子に殺されてしまったのかと気が休まることはなかった。
何度も何度も王子に手紙を送った結果、渋々王子は「ルークスを女にして、妊娠させた。これから妃にする予定だ。心配しないように」とマリオンに返事を出したが、心配しないわけがなかった。
王子からの手紙を見たマリオンは、あまりの内容に卒倒しそうになった。それから数年が経った今も、陛下とルークスの関係性はあまり変化がなく、お世辞にもルークスは幸せそうに見えないけど、マリオンはこうやって兄と喋れることを神に感謝した。

「兄様。お願いですから、長生きしてくださいね」
「あんな危険な男を残して、死ねるわけないだろう? 国が滅びてしまうよ。私が先に死にそうな時は、誓いの言葉通り、あの男も道連れにするしかないね」
「結婚式の時の、あの斬新な誓いの言葉ですか……」
「私にとっては、最悪な思い出の1つでしかないけど、あのウェディングドレスは素晴らしかったよ。セリーヌに、あんな才能があるなんて、知らなかったな」

王子との結婚式で、兄の花嫁姿を見ることになるとは思わなかったし、まさかそのウェディングドレスと、王子が飼育する蝶人間のドレスの製作依頼が舞い込むことになるなんて、驚きでしかなかったが、仕事としては楽しかった。
蝶人間が籠に入れた花びらを空中から撒いたり、花嫁の傍で寛ぐ姿は、とても優美で人の目を惹いた。

マリオンは「なんで思いつかなかったんだろう。自分たちの結婚式でも、これしたかったね」「もう1回、結婚式する?」とセリーヌと本気で話し合ったぐらいだ。
――もっとも、王子の結婚式を見た蝶人間の愛好者から、同じような結婚式の依頼が相次ぎ、自分たちの結婚式どころではなくなってしまったのだが。
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