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本編
11、触れる
しおりを挟む俺はチャンスを見極める為に慎重に動いていた、そして相変わらず正樹を目で追う日々は続いていた。
彼のことを狙っている友人のアルファがやっかいだった。正樹は友達も多いからみんな友人関係なのかと思ったら、正樹と同じクラスのアルファだけは違う目で見ていたのはすぐにわかる、周りも応援モードなのも感じられた。
鈍感なのか、正樹だけはそれに気がつかない。
よく触られていてそれとなく避けているのは笑えたが、それでも相手はアルファだ。狙った獲物は逃さないだろう。いずれあのアルファのモノになってしまうのか? 無性に腹が立って、許せなかった。
いよいよ勇気を持って、正樹を誘おうとその日の放課後、正樹のクラスの前にきた。緊張する。俺は、こんなおどおどした人間じゃなかったはずなのに、正樹を思うとうまくいかない。
その時、彼のクラスの男が話しているのが聞こえた。
『なあ、流石に学校ではやばくないか?』
『でも正樹を番にしたいって言うし、あいつらの関係ももどかしいからさっ』
『それにしてもだまし討ちみたいに、薬を盛るなんて』
『正樹はそれくらいしないとアルファと付き合えないだろう。親心だよ。番ができればこの先、楽になるし』
聞こえた話によると、正樹とそのアルファは周りが認めるカップルで、いや、付き合ってはいないのだが、アルファの好意をクラスメイトは知っていた。ただ、正樹は鈍感で相手の好意に気がつかない。それで周りは二人をくっつけるのに、正樹に発情誘発剤を盛ったという話だった。
なんという人権を無視した外道な話だ。
バース性をそんな風に扱うから、フェロモンレイプを正当化する自分勝手な輩が出てくるんだ。
俺は騙して番にしようとするアルファも許せないが、バース性も理解してないベータの奴らが、何も知らないオメガを騙すという犯罪行為が許せなかった。そいつらを殴り、正樹の居場所を吐かせてすぐにそこへ向かった。
すると、その部屋の前からはあの香りがしていた。甘くない清涼感のある、それでいて力強いハーブの香り、これはあの日に嗅いだ正樹のフェロモンだ!! やはり俺の好みの香りだった。
中の声が聞こえてきた、そこで瞬時に俺はあるところへ電話をかけた。
『あれ、櫻井ひとり? みんなはどした?』
『みんなは、こない』
『ふへっ?』
友人に騙されて呼び出されたことに戸惑っているだろう正樹の声がする。電話口で簡単に用件を伝えていると、話は続いていた。
『……正樹、俺、お前のこと好きなんだ』
『えっ……みんなで出かけるのって、嘘なの?』
『そこかよ』
間に合って良かった、まだ襲われてない。しかし薬まで盛って告白してその返しとは、少しアルファに同情するが、俺は踏み込んだ。
告白の続きは惨敗間違いないだろうが、それを待ってはいられない。正樹の発情前に彼を確保しなくては。ガっと勢いよく開けた扉の前にいる俺を見て、二人は驚いていた。
「えっ? あっ……」
正樹が俺に向かって言葉にならないような単語を言った。そしてアルファも嫌そうに話しかける。
「ん、西条? なんか用?」
正樹がそのアルファに両腕を掴まれてホールドされている場面だった。キスでも迫ろうとしていたのか!? 俺は無言で正樹を掴み、そいつを引き離した。
なんだ、これっ。正樹に触れた手がビリっとした感覚に陥った。
もう離さない、そう瞬時に思った。
「うわっ、ちょっと離してっ、なんか今やばいかも……」
すると、俺に触られて驚いた正樹が焦った声を出した。匂いが一層強くなる。
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