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本編
10、美香に相談
しおりを挟む俺の実家はホテル事業をしている。親は今海外事業に力を入れているので、実質俺が国内の事業を見ている。まだ見習いだがいずれは俺が継ぐ企業なので、学業が終わると定期的にホテルへと出向いていた。
その日は丁度、美香も仕事でうちのホテルのラウンジを使用していた。大学生の彼女は、在学中にもかかわらずいくつかの事業を立ち上げた実業家だった。仕事と学業をそつなくこなしている優秀なアルファなのだ。
俺に気がついた美香が声をかけてきた。
「司、ちょうど良かったわ、今仕事終わったの。こっちに来て一緒にお茶でもしましょう」
「ああ、俺もちょうど美香に話があったんだ」
一応どんな関係にしても精算しないと、せっかく好きになったオメガちゃんに嫌われちゃうぞと光輝に言われていたのを思い出した。嫌われるも何もまだ存在すら気づいてもらえてないが、正樹のような男にはいい加減な人間だと思われない方が賢明だと思った。
「あら、司から話があるなんて珍しいね。部屋に行く?」
「いや、もう関係を終わらせたいんだ」
「えっと、いきなりだね。理由を聞いても?」
「好きな人ができた」
「えええぇ!! マジ? 司に好きな人? 滅茶気になる。あの鉄の西条司が……」
美香は俺に別れを切り出されても……というか付き合ってはいないが。冷静だった、がしかし俺に好きな人ができたと聞いた途端、目を大きく見開き驚いていた、というか笑った。
やはり楽な女性だ。こいつも同じで俺をただの性欲処理としてしか見てなかったと、改めて気づけて嬉しくなった。こういうさっぱりした人種は一番いい、これからもビジネスで絡むし後腐れなく話せる間柄なのはありがたい。
「鉄の……なんだ? それは」
「いいの、いいの、気にしないで。それにしても凄く貴重なこと聞けたわ。もちろん体の関係は終わりでいいよ、その代わり友達としてその話は聞きたいな!」
「ああ、それは助かる。実は恋をするのも初めてで、どうしていいのかわからなかったんだ。美香はオメガと付き合ったことあるって言っていたな? オメガの生態について教えてほしい」
「生態って……動物じゃないんだから。でも相手オメガなんだ、本気だね」
「ああ」
美香は終始ニコニコしていた。そして俺の話を聞いては途中吹き出し笑った。そんなに面白いか? よくわからないけど友人との恋バナというやつか、これは。初めての経験だが、正樹の良さについて話せるのはとても楽しかった。
「んも――、笑えた。司って意外と純粋なのね。でもだめよ、見ているだけじゃ」
「でも俺と正樹はまるで接点がないし、どうやってコンタクトをとっていいのかまるでわからないんだ」
「ただ単純に話しかけて、呼び出して告白すればいいじゃない。コンタクトも何も話しかけなきゃ始まらないよ」
「でも俺は学校で凶悪アルファみたいなレッテルを貼られて、オメガから怖がられているしな。きっと彼も俺をそういう人間だと噂で聞いているはずだ」
美香は俺がフェロモンレイプしたオメガを断罪したことは知っていた。
「でもでもうるさいわね、全く。それでもよ!! せっかく本気になる相手見つけたのに、始まる前に怖気づいてどうするの。いいから当たって砕けろ!!」
「他人事だと思って。砕けたら辛い」
「しょうがないでしょ、今まで自分がしてきた報いだと思って真摯になるチャンスよ。オメガは必ずしも司にフェロモンレイプしてきたような人種だけじゃないの、そういう人にまで嫌われようとした司がまいた種。頑張りなさい‼ またいつでも話聞いてあげるから」
「ああ。ありがとう、美香に聞いてもらえて助かったし、やってみるよ」
そうして美香とは別れた。付き合ってはないけどな、でも助かったのは本当だ。学校で正樹が一人になったところ話しかければ、迷惑はかからないだろう。とにかく行動する勇気をもらえた。
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