運命を知らないアルファ

riiko

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本編

23、やっと会えた昼休み

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 正樹が復学する初日、家まで迎えにいった。

 事前に百合子さんには、しばらくは西条の車で送迎をするのを許してほしいと伝えていた。百合子さんはなぜか俺には甘くて、正樹のいろんな情報を教えてくれる為に正樹の休んでいたこの一週間、高い頻度でやり取りをしていた。好きな食べ物、好きな漫画、好きなスポーツ選手、温泉や風呂が好きなどなど、ありがたい。

 デートの場所の参考にさせてもらうと感謝を伝えた。

 正樹は学校に着くと、俺と一緒にいるところを見られたくないと言うので裏口に車を止めた。俺がオメガといると変な噂になるんじゃないかと気にしている、むしろ俺と噂になって欲しいのにと思ったが、彼に従った。

 そこで俺の親友に見つかる。

「おお! 噂の正樹君か! 俺、司の唯一の男、池谷光輝イケヤコウキ、コウって呼んでくれ!」
「あぁ……俺は正樹でいい、よろしく」

 ふざけたことを言いやがって。 

「唯一の男ってなんだよ!? 気持ち悪いことを正樹に吹き込むな」
「正樹はそこ華麗にスルーしていたぞ。それにアルファに物怖じしないとか、おもしれ! 司のお気に入りオメガ君なのに気にも止められてない、くくっ」
「別に、他人の恋愛事情に興味ないから」

 人の恋愛に興味ないと言われた。俺の恋愛は正樹にしか向いてないのに、切ない。イラついたので、うるさい光輝の頭をボコってやった。

「イテッ! ごめんごめん! こいつと恋愛とかキモいっ。俺はこのわがままキングの唯一の友達。こいつ結構変わっているアルファだからなかなか面倒くさいんだけど、子供の頃からの腐れ縁なんだ、司のことはなんでも聞いて」
「そうなんだ、別に知りたいこと無いから大丈夫だ」
「うわっ、つれない! もしやツンデレさん? そういうのも良いな」

 ほんとに、正樹がつれない。

「司、俺もう行っていい?」
「あ、ああ、教室まで送るよ」

 俺は慌てて正樹の手を握ろうとしたら、ぺしっと叩かれた。

「やめろよ、俺を女扱いするな」
「女だなんて思ってない、お前は男でオメガだ」
「だから、オメガ扱いするな! ついてくんなよ!!」

 光輝はそのやり取りをみて大声で笑った。

「おいおい! 二人の世界入りすぎだし、ケンカップルかよ、男同士ってそういうのいいよね、俺も男オメガのつがい作ろうかな」
「カップルじゃない! 俺そういう話は聞きたく無い。じゃあ、ってちょっと!!」

 そんなに全否定しなくても……いったい今の俺たちの関係は? 俺は、早く二人きりになりたくて正樹の腕を掴んでその場を去った。

 すると正樹は俺がオメガ嫌いのアルファだから、オメガの自分と関わるなと言う。俺を気遣ってそんなツンツンした態度を取ったのか? それはもう、健気で可愛いしかない。

 俺は物陰で正樹にキスをした、もう止まらない。可愛くて仕方がないからしょうがない。

 そんな朝の正樹との時間を思い返し、午前中の授業はそわそわしていた。昼に正樹を誘って、俺といるところを早速他の奴らに見せつけようと思いながら授業に耐えた。

 もう、少しの間も離れたくない。早く会いたい! こんなに昼が待ち遠しかったのは初めてだった。昼休みに入って、正樹を探すと友人といた。仲のいい一人だ、彼は問題ないはずだが仲よすぎないか? 会話が聞こえてきた。

『ハラ減った! 久々の学食テンション上がるわ』
『ほら、とりあえず、M&Mでも食っとけ』
『そうそうこの手につかないやつな、甘いもん食いたかったんだっ――て、ざけんな! 俺はチョコじゃねぇわ!』

 ん? 食べ物をもらったのか? 

 正樹には簡単に人から物をもらうなとこないだ言ったばかりなのに。クラスメイトにもらった飲み物に発情促進剤を入れられたのを気がつかず、正樹は櫻井の前でヒートを起こした。まぁ、それがきっかけで俺と正樹は結ばれたのだけど。

『ああ、悪い悪い、つい面白くって。腹減っていた時、閃いたんだよぉ! 俺センスいいわぁ。ぷぷっ、それにしてもお前相変わらずキレキレだ! あんなことがあったけど正樹が正樹のままで安心したわ。って律儀に食っているし!』
『俺は一週間甘いもの地獄にいたからな、これくらい朝飯前だ!! ってか俺じゃなければ誰だってんだよ、ふざけてないで早く行くぞ、近藤! 日替わり定食が楽しみだったんだよ俺』

 俺にはわからない会話をしている。それよりなんだ!? 正樹の頭文字をとったお菓子がこの世にはあるのか!? どこのメーカーだ!! 俺の正樹のフルネームを使うとは。急いで調べよう!

 正樹の食事の好みは聞いたけれど、嗜好品についてはまだ調査不足だった。それにしても百合子さんや正樹の言う、料理名や菓子名で知らないことの多いことに気がついた。今後は庶民の食べ物の勉強をしようと心に誓った瞬間だった。

 それはさておき、昼は俺と過ごしてほしくてすぐに近藤こんどうと呼ばれたベータから正樹を引き離すことにした。だがそのベータは、あろうことか正樹を心配して俺に食いかかってきた。

「なんでアルファ様が正樹を誘うんだ? なんの用?」

 さすが正樹の友人だ、アルファの俺に歯向かう人種がここにもいるなんて、下心はなさそうだし正樹を思う気持ちがわかった。櫻井のようなレイプ魔ばかりが近くにいたわけではないことに安堵した。

「近藤! こいつはこの前のアレ、俺を助けてくれてそれで知り合いになったんだ。西条、こっちは友達の近藤。俺たち食堂行くから悪いけどまた今度……っておい!!」

 必死に説明する正樹が可愛くて、思わず後ろから抱きしめた。正樹は今日もほのかにいい香りがした。

「正樹、忘れた? 俺の呼び方」

 正樹の心臓はこっちに聞こえるくらいドキドキしている。俺にときめいてくれているのかな?

 やべぇ、俺の心臓の音も聞こえたらどうしよう、マジで可愛い。

 学校でもこんなに近づけるなんて嬉しすぎだろ。正樹を発見してから陰ながら見ていることが多かったから、こんな尊い日がくるとは思えなかった。

 俺、幸せだぁ!!
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