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外伝 儚く散った公爵令息
15 それぞれの最後 アシュリー
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どうしてこうなるの?
僕は殿下と念願の番になれたはずなのに。発情期が終わって気がつくと、僕の前にはリーグがいた。
「なに、ここ、どこ?」
「ここは、国境付近にある小屋です」
リーグが固そうな椅子に座り、淡々と話す。見渡すと、ベッドと椅子だけがある簡素な小屋だった。僕はそのベッドの上にいた。
「えっ、どういうこと? 殿下は、僕の番は!」
「いません、あなたは相当なことをした。殿下を騙し、王家を侮辱した」
いったいリーグが何を言っているのか、全くわからない。
「あなたの家族はもう全員処刑されました」
「えっ何言っているの……」
以前のように明るく笑う彼はいなかった。僕を恨んでいるかのような瞳を向ける。
「アシュリー様がしでかしたことにより、王族侮辱罪で一家斬首刑。まだ幼い弟君も命を落とされました」
「うそ、うそうそうそ! なんでそんなことに!?」
「お前がしでかしたんだろう!」
リーグの態度が急に変わり、凄い勢いで彼が怒鳴ることに僕は驚く。
彼からこんなに乱暴な言葉を聞いたことがない。
それからリーグは、また感情を殺すかのように淡々とした口調で語る。
あの酷いヒートのあと、僕はずっとうなされ医師による処置を受けていた。そして今、目覚めたら何もかもが終わったあとだった。僕が王家の薬を盗んで、それを使って殿下にフェロモンレイプをして番が成立したことになっていた。
後宮官僚と手を組んだ騎士の守りの中、僕と殿下はずっと交わっていた。そこに王妃陛下の私兵が乱入し、僕と殿下は引き離される。僕は薬の効果が抜けるまで処置をされ今に至る。
その薬はシリル様も使用して、助けに入ったリアム様がラットを起こし二人は番になった。僕が殿下を引き留めなければ、殿下がシリル様のヒートにあてられてラットを起こし、二人の初夜で番契約が成立したはずなのに、僕という罪人がすべてを狂わせた。
そういう流れになって調査をしているとのことだった。
一通りの流れをリーグが語ったあと、彼が年相応な顔をして感情をあらわにする。
「俺が、俺がお前を嫁にもらう話でまとまっていたのに!」
「そ、そんなの、だって僕は殿下と結婚するために……」
「それからお前の父親も、相当な罪人だった」
僕の父と後宮官僚がひそかに手を結び、僕を次期王太子妃になるように手を回していたという証拠が出てきた。本来、僕が閨担当になる予定はなかったのだが、今年の担当候補のオメガ二人が不慮の事故に遭い、急遽抜擢され僕一人になった。
あれはそういうことだったのかと、今さら一年前の出来事を思い出した。
実家に来た綺麗な女性、あれは後宮関係者だった? 僕を後宮に入れるために他のオメガを排除するというような話――今思えばすべての辻褄が合う。
後宮官僚の一人に野心があり、使いやすいと思った借金まみれの僕の父であるミラー男爵に目を付けたのが始まりだった。その息子の僕も扱いやすかったそうだ。処女はとにかく簡単に心が落ち、家の教育もままならなかった僕はちょうど良かったと、捕らえられた後宮官僚が吐いた。その彼はすでに処刑済みだった。
二人のオメガ殺害事件は、後宮官僚が裏で手を回して引き起こしたことだと明るみになった。僕が閨担当になった頃からずっと調査がされていたことだったらしい。そこから父と後宮の繋がりも認められた。それとは別に。僕が殿下をたぶらかした罪も重なり、僕の家はどう足掻いても逃れられない処罰が下る。一家斬首刑、すでに刑は執行されて弟が亡くなったと聞かされた。
僕は泣き叫び崩れ落ちた。そもそもの始まりは、弟の今後の生活のためだったのに、それなのに、その弟が死んだ……僕のせいで。
弟と穏やかな生活に戻りたかった――それを夢見て王都に来たのに。
なのに、僕は、僕はいったいどんな浅はかな夢を見ていたのだろう。
「それから、あの騎士たちはお前の指示で、シリル様を犯したと言った」
「えっ、シリル様を……犯した?」
シリル様は、とても酷い状況に遭っていた。
僕を慕うベータの騎士たちにより、シリル様は何日も犯され続けた。リアム様との番成立後、彼らに囚われ地下でずっと。
番以外との性行為はオメガには苦痛以外の何物でもない。下手すると死んでしまう。そういうことをシリル様がずっとされていた。助けられた時にはもう間に合わず、シリル様は命を落とされた。
――知らない、そんなこと知らない。
シリル様を、番のいるオメガを犯せだなんて言うわけがない。どうして僕にそんな罪までかかっているの?
「すべてお前のせいだ」
「知らない。僕はそんなこと、僕一言も言ってない!」
リーグは呆れたという顔をする。
「あんなに大切に、花のように育てられてきた……俺に温情をくれたシリル様を。お前が殿下の愛人という日陰の存在になるよりは、俺という騎士の嫁になる方が幸せだろうと、シリル様はそう言って俺にあの薬をくれたんだ。そんなシリル様に、最も過酷で辛いことをして、お前は陥れた。もうそういう証言がとられているんだよ」
「いや、ちがうっ、僕はただ殿下を愛しただけ!」
「それが間違いなんだよ。ただの娼夫が何をやった」
「ちがう、ちがう、そんなはずない」
「シリル様はリアム様の番になってから、何日も何人もの男に犯され続けた。お前も同じ死に方をするべきじゃないか?」
「えっ……」
リーグの目は笑っていなかった。そして僕を好きだと言った時の、あの純粋な顔はもうどこにもない。
「本来ならお前も斬首刑なんだよ、それを殿下により生かされた。どうしてだと思う?」
「いやだ、いやだ、お願い、やめて」
リーグが怖い顔で僕に近づく。こんなに恐怖を感じたことは今までなかった。
「シリル様よりも苦しめろと、殿下がお望みだからだ」
「や、や、やだ!」
僕は何を間違えたの? ただ愛しただけなのに、どうしてこうなったのだろう。
そして苦痛にまみれた数日を過ごし、ようやく僕は解放された。
そう僕は命を堕とした。やっと楽になれるそう思った、それだけだった。
僕は殿下と念願の番になれたはずなのに。発情期が終わって気がつくと、僕の前にはリーグがいた。
「なに、ここ、どこ?」
「ここは、国境付近にある小屋です」
リーグが固そうな椅子に座り、淡々と話す。見渡すと、ベッドと椅子だけがある簡素な小屋だった。僕はそのベッドの上にいた。
「えっ、どういうこと? 殿下は、僕の番は!」
「いません、あなたは相当なことをした。殿下を騙し、王家を侮辱した」
いったいリーグが何を言っているのか、全くわからない。
「あなたの家族はもう全員処刑されました」
「えっ何言っているの……」
以前のように明るく笑う彼はいなかった。僕を恨んでいるかのような瞳を向ける。
「アシュリー様がしでかしたことにより、王族侮辱罪で一家斬首刑。まだ幼い弟君も命を落とされました」
「うそ、うそうそうそ! なんでそんなことに!?」
「お前がしでかしたんだろう!」
リーグの態度が急に変わり、凄い勢いで彼が怒鳴ることに僕は驚く。
彼からこんなに乱暴な言葉を聞いたことがない。
それからリーグは、また感情を殺すかのように淡々とした口調で語る。
あの酷いヒートのあと、僕はずっとうなされ医師による処置を受けていた。そして今、目覚めたら何もかもが終わったあとだった。僕が王家の薬を盗んで、それを使って殿下にフェロモンレイプをして番が成立したことになっていた。
後宮官僚と手を組んだ騎士の守りの中、僕と殿下はずっと交わっていた。そこに王妃陛下の私兵が乱入し、僕と殿下は引き離される。僕は薬の効果が抜けるまで処置をされ今に至る。
その薬はシリル様も使用して、助けに入ったリアム様がラットを起こし二人は番になった。僕が殿下を引き留めなければ、殿下がシリル様のヒートにあてられてラットを起こし、二人の初夜で番契約が成立したはずなのに、僕という罪人がすべてを狂わせた。
そういう流れになって調査をしているとのことだった。
一通りの流れをリーグが語ったあと、彼が年相応な顔をして感情をあらわにする。
「俺が、俺がお前を嫁にもらう話でまとまっていたのに!」
「そ、そんなの、だって僕は殿下と結婚するために……」
「それからお前の父親も、相当な罪人だった」
僕の父と後宮官僚がひそかに手を結び、僕を次期王太子妃になるように手を回していたという証拠が出てきた。本来、僕が閨担当になる予定はなかったのだが、今年の担当候補のオメガ二人が不慮の事故に遭い、急遽抜擢され僕一人になった。
あれはそういうことだったのかと、今さら一年前の出来事を思い出した。
実家に来た綺麗な女性、あれは後宮関係者だった? 僕を後宮に入れるために他のオメガを排除するというような話――今思えばすべての辻褄が合う。
後宮官僚の一人に野心があり、使いやすいと思った借金まみれの僕の父であるミラー男爵に目を付けたのが始まりだった。その息子の僕も扱いやすかったそうだ。処女はとにかく簡単に心が落ち、家の教育もままならなかった僕はちょうど良かったと、捕らえられた後宮官僚が吐いた。その彼はすでに処刑済みだった。
二人のオメガ殺害事件は、後宮官僚が裏で手を回して引き起こしたことだと明るみになった。僕が閨担当になった頃からずっと調査がされていたことだったらしい。そこから父と後宮の繋がりも認められた。それとは別に。僕が殿下をたぶらかした罪も重なり、僕の家はどう足掻いても逃れられない処罰が下る。一家斬首刑、すでに刑は執行されて弟が亡くなったと聞かされた。
僕は泣き叫び崩れ落ちた。そもそもの始まりは、弟の今後の生活のためだったのに、それなのに、その弟が死んだ……僕のせいで。
弟と穏やかな生活に戻りたかった――それを夢見て王都に来たのに。
なのに、僕は、僕はいったいどんな浅はかな夢を見ていたのだろう。
「それから、あの騎士たちはお前の指示で、シリル様を犯したと言った」
「えっ、シリル様を……犯した?」
シリル様は、とても酷い状況に遭っていた。
僕を慕うベータの騎士たちにより、シリル様は何日も犯され続けた。リアム様との番成立後、彼らに囚われ地下でずっと。
番以外との性行為はオメガには苦痛以外の何物でもない。下手すると死んでしまう。そういうことをシリル様がずっとされていた。助けられた時にはもう間に合わず、シリル様は命を落とされた。
――知らない、そんなこと知らない。
シリル様を、番のいるオメガを犯せだなんて言うわけがない。どうして僕にそんな罪までかかっているの?
「すべてお前のせいだ」
「知らない。僕はそんなこと、僕一言も言ってない!」
リーグは呆れたという顔をする。
「あんなに大切に、花のように育てられてきた……俺に温情をくれたシリル様を。お前が殿下の愛人という日陰の存在になるよりは、俺という騎士の嫁になる方が幸せだろうと、シリル様はそう言って俺にあの薬をくれたんだ。そんなシリル様に、最も過酷で辛いことをして、お前は陥れた。もうそういう証言がとられているんだよ」
「いや、ちがうっ、僕はただ殿下を愛しただけ!」
「それが間違いなんだよ。ただの娼夫が何をやった」
「ちがう、ちがう、そんなはずない」
「シリル様はリアム様の番になってから、何日も何人もの男に犯され続けた。お前も同じ死に方をするべきじゃないか?」
「えっ……」
リーグの目は笑っていなかった。そして僕を好きだと言った時の、あの純粋な顔はもうどこにもない。
「本来ならお前も斬首刑なんだよ、それを殿下により生かされた。どうしてだと思う?」
「いやだ、いやだ、お願い、やめて」
リーグが怖い顔で僕に近づく。こんなに恐怖を感じたことは今までなかった。
「シリル様よりも苦しめろと、殿下がお望みだからだ」
「や、や、やだ!」
僕は何を間違えたの? ただ愛しただけなのに、どうしてこうなったのだろう。
そして苦痛にまみれた数日を過ごし、ようやく僕は解放された。
そう僕は命を堕とした。やっと楽になれるそう思った、それだけだった。
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