初めては好きな人と

riiko

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10 僕と寝ない?

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「そんな匂い振りまいて、危ないだろ。ここはあの高校とは違ってアルファがいるんだ。気を付けて」

 ビューティフルフォーはアルファ軍団で、まるで狼の群れのよう。彼らが臣君に向かって、「先に行ってるぞー」と向こうから言っていた。臣君が何か返事をしていたけれど、僕はプチパニックだ。

「お、お、お、臣君」
「奈月、落ち着け」
「あ、う、うん。ひ、久しぶり。僕のこと覚えててくれたの?」

 彼に抱えられたまま僕は挨拶をした。

「そんな甘い匂い、忘れるわけないだろ。奈月は? 俺のこと忘れた日あった?」

 彼の手はまだ僕のお腹を支えている。
 どうして僕は臣君と密着してこんな会話をしているんだろう。しかし、これはチャンスでは? いや、アルファを誘ったことなどないから、どう体の関係に持っていったらいいのかわからない。

「……」
「だんまり?」

 いや、それよりも、くっついているとなんだか変な気持ちになってしまう。耳元で囁かれると、高校時代よりもしっかりと低くなった臣君の声が僕の股間になぜか響いてしまうし、ミントの香りが近くなるとムラムラしてしまう。

「臣君、とりあえず離してっ」
「いやだ」
「ええ⁉」

 一年ぶりなのに、この距離感! 

「どうして奈月がここに?」

 確かに、確かにここにいたらおかしい。それに臣君は僕に警戒しているかもしれない。彼に抱いてほしいとは思ったけど、いざ目の前にすると勇気が出ない。

「うん、入れなかった大学を見てみたくなったんだ」
「そう、なんだ……奈月、これから時間あるか?」
「え?」

 臣君はやっと僕を離してくれた。
 地面に足をつけて僕はようやく生きた心地がして、彼を見た。すると僕に笑顔を見せてきた。不審がっていない? また彼の笑顔が見られたことに僕は安心した。

「せっかくだから案内するよ」
「い、いいの?」
「ああ、いいに決まってるだろ。やっと会えたんだから」

 なぜか臣君と再会して普通に話している自分がいた。あの頃に戻ったような気がして楽しかった。彼に大学を案内してもらい、僕の大学生活のことを話したり、高校時代と変わらないポンポン進む会話が心地良かった。
 構内のカフェに入り、臣君がコーヒーをおごってくれた。

「あ、ありがとう」
「どういたしまして」

 嘘! 目の前に臣君がいる。なんか信じられない。こんな日がまた来るなんて。

「俺、そろそろ奈月に連絡しようと思ってんだ。そんなとき偶然ここに来てくれて、やっぱり俺らは運命感じるよな」
「ふぇ?」

 コーヒーのカップを取ろうとして、手が止まった。

「俺の母親さ、再婚したんだ。そんで母親を楽にさせてあげるって目標は、義理の父親にとられちゃったんだ。笑えるだろ。高校生のガキが母親を楽させてやるんだーって息巻いてたのにな。だから母親の心配はなくなった」

 この一年でそんなことがあったのかと驚いた。

「え、それはおめでとう。お父さんはいい人?」
「ああ、いい人だよ、母さんも幸せそう。金の心配もいらなくなったから、俺は俺だけに専念できる」
「うんうん。良かったね。高校時代から臣君はお母さんっ子だったもんね。お母さんが幸せになったのは嬉しいけど、寂しくない?」
「お母さんっ子って。そんなマザコンに見えてた?」
「違うよ、責任感強くて尊敬してた」

 彼の心配がなくなって、大学生活を満喫していたのか。新しいお父さんができたことで生活にゆとりができたのならそんな嬉しいことはない。
 余裕があることで、臣君は高校時代のような孤高の存在ではなく、アルファグループの頂点みたいな人になっていたんだ。本来臣君はパリピだったのかもしれない。母子家庭時代の彼は仮の姿で、今の彼こそが本物の彼なのかもしれない。高校時代、彼が貧乏で良かった。少しの間だけでも同じ景色を見られていたことさえ尊いと思える。

「俺、起業したよ」
「え? すごいね」

 そうだった。これは僕が聞こうとしていたこと。あっさりと臣君が告げていた。

「約束しただろ。起業したらまた会えるって。だから奈月を迎えに行こうとしていたんだ」
「また、友達に戻ってくれるの?」

 それならそれで嬉しい。
 彼に迫って一度だけの関係で終わるより、友達として今後も続くならその方が嬉しい。だけど、僕が体を売るようになっても友達でいられるのだろうか。だったら、当たって砕ける相手になってくれた方がいいのではないだろうか。もちろん彼と経験ができたら、僕はこの先の一生の宝物にできる。僕の中でいろんな矛盾が生まれる。
 そんな僕の考えを覆す一言が、臣君から出てきた。

「高校時代に、友達は無理だって言っただろ」
「あ、ごめん。アルファとオメガは友達になれない、そう言ってたよね」

 気まずい雰囲気になった。
 そうだった、僕がオメガだから友達になれないと一年前に言われた。アルファの彼からしたら、オメガは友人にはなれない。
 臣君が黙ってしまった。何かを考え込んでいるような。言葉をためている感じが見て取れる。
 彼がここで、「じゃあさよなら」って言ってしまう前に、僕は当たって砕けることにした。

「だったら一回だけ僕と寝ない? オメガの友達がだめなら、そういう関係じゃだめ?」
「……は。聞き間違え? ヤルって何を?」
「え、えっち……僕、セフレを探してるの」
「……」

 軽く言って、軽く考えて抱いてもらおうと思ったけど、臣君が本気で驚いた顔をして言葉を失っていた。やはり僕レベルのオメガではハニートラップはできないらしい。というか全然ハニーでもトラップでもなく、直球でエロさのかけらもなく誘ってしまった。失敗だ!
 乙羽君! 任務終了したよ……

「あ、ごめん。嘘、今の忘れて。言う相手間違えた」

 友達になれないからといって、僕みたいなオメガが大それたことを言ってしまった。今度こそ臣君は不快感を隠さない顔を見せてきた。

「何言ってるの? どういうこと? ちゃんと説明してくんない? 奈月にはそれを言う相手がいるの?」

 大丈夫、僕は当たって砕けた。
 だから、きっと乙葉君に誰かを紹介してもらえる。その事実ができたと思ってもう臣君のことは諦めよう、これ以上醜態を見せられない。

「ごめん、本当に忘れて。僕アルファと寝てみたかったの。ちょうど臣君に会ったから……でも忘れて。実は友達がアルファを紹介してくれることになってるから」
「奈月は、寝るための相手を紹介してもらうの?」

 再会なんかしなきゃよかった。オメガになった友達が、こんなくそな考え方をするようになったとか絶対に知りたくなかったはず。

「ごめん、臣君、もう帰るね」

 涙が出そうになって、僕は慌てて席を立った。そして上着を手に持って彼の前から消えようとしたとき、力強い手が僕の腕をひいた。

「いいよ、セフレになろう」
「え……」
「俺とヤろう」
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