運命の番は姉の婚約者

riiko

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第二章 男を誘う

22 真実

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 行くところは、いつものホテルなのだろうか。そんなことを考えている時点で、爽は隆二に慣れてきている気がした。
「爽、話をしよう」
「……俺、もう帰るから」
「爽、それはないんじゃない?」
「どうして? 俺、なんか疲れちゃったし帰りたい」
 感がることをやめたい爽は、これ以上隆二と会話をしたくなかった。しかしその場を去ろうとした瞬間、抱きしめられた。
 まるで恋人同士の二人、そんな行動であり、周囲の人もそう思っただろうと感じる。隆二が優しい声で耳元で囁く。
「どうして今日、会いに来てくれなかったの。どうして、あんなところにいたの?」
 質問攻めだった。
「そ、それは……」
「とにかく、ちゃんと話したい」
 抱きしめた腕が少し緩むと、今度は爽の腕を隆二がしっかりとつかむ。爽の顔の前にその美しい顔を近づけると、爽は思わず横を向いて目をそらした。
「俺は、話はないし、はっきり言うけど、俺もう隆二と会わない」
「なんで?」
 相変わらず視線を感じる。
「若いから、いろんな人と試したいの。だから今日も男をひっかけるつもりでバーに行った」
 曖昧に会う約束なんかして、卑怯だったかもしれない。なんとなく、隆二が向き合おうとしているのは感じていたのに、はぐらかしていた。だから、目的を言うべきだと思った。
 すると隆二の優しかった声が低くなる。
「へぇ、一度寝たら、もうそんな覚めた態度になるんだ? あっ、一度じゃないか」
 爽の体は条件反射かのようにぞくっとした。その声、その顔、もしかしたら怒らせたかもしれない。少し怖くなり黙ってしまったら、隆二が爽の顎を掴み上を向かせるといきなりキスをしてきた。
「ちょ、やめっ、んんん、離せよっ!」
「だーめ」
 そう言われて、店の前で路駐していた車に乗せられた。助手席に座らされ、器用に爽のシートベルトを閉める隆二。カチャっと音を確認すると扉を閉めて、彼は運転席に乗り込んだ。あまりの早業すぎて驚く。
「拉致、手慣れてるね?」
「拉致って……。でも、好きな子を助手席に縛り付けるのは手慣れているかもね」
「好きな子って……隆二酒飲んだだろう、運転は」
 話しながら隆二は自身のシートベルトを締めて、車を発進させた。
「ああ。車で来てたから、ノンアルにしてた」
「そう」
 どこへ行くのかわからない車は、夜の街を走り出した。拉致と言っておきながら、相手が隆二だからか怖くはなかった。さきほどの威圧には少し驚いたが、体の全てを見せた相手だからか車の中にいても安心しきっている自分に驚く。
「あのね、はっきり言うけど。俺は他の男とも経験したいから寝た人とはもうしないよ。だから降ろしてよ」
「どういう事? 爽は処女喪失したばかりで、もうそんなビッチ発言なの?」
「そんなの隆二には関係ないだろう。そういうわけだから」
 信号が止まったときに降りようとした。しかし、鍵のロックは開かなかった。隆二は相当遊んでそうだと思っている爽からしたら、今の会話で「じゃあっ」とさよならしてくれると思ったのだが、予想とは裏腹に運転席から爽の手を握ってきた。
「あんなセックスで、他の男を満足させられると思っているの?」
「えっ」
 隆二の言葉に驚く。
 その瞬間、青信号になり車はまた進む。隆二はまっすぐ前を向きながら話す言葉を脳裏で反芻した。
 ――あんなって、他に比べようもないからわからないけど、そんなに嫌だったのかよ。
 爽ばかりが満足してしまったことについては、いまさらながら 申し訳ない気持ちになる。急に恥ずかしくなってきた。あれから隆二の行為を思い出して自分を慰めていたことが、途端に後ろめたく感じた。
「爽は何回もイってたけど、僕はあんな行為じゃ満足してない」
「あっごめん、俺ばかり気持ちよくなって……無駄に時間使わせちゃったよね。次は満足できる人見つけて?」
 言いながら爽は落ち込む。その態度を見た隆二は慌てて訂正する。
「あっ、いや、そういうわけじゃない。爽の中は最高だった」
 その言葉を聞いてホッとしたのと同時に、恥ずかしくて俯いてしまった。じゃあ何がいけなかったのだろうか。隆二尾言いたいことわからない。
「それはよかった? えっと、じゃあ、もういい?」
 赤くなりながら、爽は運転席の隆二を見た。ちらりと爽を見る隆二。
「そんなウブな反応する爽が心配なんだよ。下手したら犯罪に巻き込まれることもある」
 ――なんだ? 隆二、ただのいい人か!?
「犯罪って、ただ寝るだけだし」
「安全な世の中とはいえ、低俗な場所に出入りしていたらオメガは売り飛ばされる心配がある。別の男なら病気の心配もあるよ。それでも他の男とも寝たいの?」
「……それは気を付ける。次はもうバーでひっかけないから大丈夫。会社の人紹介してもらうから安心して? 心配してくれてありがとう」
 それでも納得しない顔をしている隆二。何が言いたいのだろうか。
「じゃなくて、セックスしたいんでしょ? だったら僕でいいでしょ?」
「えっと、だから一度した相手とはしたくない」
「だから、なんで? 爽の事、あんなに気持ちよくできる男いると思う? 爽は経験ないからわからないと思うけど、あんなセックス、僕は他では知らない。僕たちは相性がいいんだよ」
 その恥ずかしい言葉に、喜ぶ自分がいることに、また恥ずかしくなる爽だった。
 爽にとっても、かなり特別で貴重な経験だった。
 まだ隆二しか経験がないが、あの行為が特別で気持ちよく、大事にされているような極上のものだと感じてしまった。それは隆二が爽のことを特別よかったと思ってくれていたから? そう言われて単純に嬉しかった。なぜか隆二のその一言に、爽の体中の細胞がざわめき出す。しかし、今の爽が求めているのはたった一人の相手ではない。
「そうなの? でも! 別に相性よくなくてもいいんだけど」
「は? 爽は何のためにセックスするの?」
 困った爽は、あからさまに困った顔をした。妊娠するため……なんて言っていいのかわからない。
「ねえ、何か困ったことでもある? 相談のるよ?」
 ――うーん。困った。
「俺は恋人が欲しくない。その場限りの人を求めているんだ。バーで意気投合した相手なんてそんなものでしょ? いきなり恋人とか、ちょっと引くよ。とにかく俺はそういう性癖。だからもう用はない」
「性癖って、処女だったのに随分な事言うんだね。だったら僕がセフレになるよ」
 隆二が言うと色々卑猥に聞こえるのはなぜだろうか。爽は自分の口から吐き出した言葉にさえ恥ずかしいのに、彼は性癖とか処女、セフレとかセックスとか、その単語をぽいぽいと言い放つ。
 ――恥ずかしくないのか? 俺が恥ずかしい。
 隆二はちらりと爽を見ると、笑った。
「何? セフレって言葉気に入った? 可愛い顔して、やっぱり心配だな。僕にしなよ。体だけの関係が欲しいんでしょ」
 爽は自分で言っておきながら、違うんだよなと心の中で呟く。隆二が納得する説明をするまで、この会話は雰囲気がしたので、仕方なく爽は真実を話すことにした。いや、真実ではないが、設定を話しだした。
「違うんだ。正直に話すけど、実は最近母性本能に目覚めて、子供が欲しいの。だけど誰かと付き合うとか嫌だし、子種だけが欲しくて。それで色んな男と寝れば、誰かしらの子供が孕めるかと思って。父親は必要ないから誰の子かわからない方が都合いい」
「え……」
 さすがに隆二は驚いている。運転をしているので、前を見ていたが、彼が動揺したことは爽に伝わった。成功したと思った爽は続ける。
「自分の子供孕ませようとしているオメガなんて気持ち悪いでしょ? ネタバレした以上、隆二とはもう寝ないから安心して。これで全部話したからいいでしょう」
「えっと、なんで子供だけ欲しいの? 旦那いらないの?」
 戸惑いながらも、まだ爽の話を聞こうとしている。
「うん、いらない。俺は結婚する気ないし」
「本気で子供だけ産みたいの?」
「そうだよ。しつこいなぁ」
 爽のその言葉を最後に、隆二は黙ったまま車を走らせた。とにかく、車はいつか停車する。その時、そこから帰ればいいだけだと思た爽は、窓の外に目を向けて黙った。
 車内には初めて沈黙ができた。
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