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第四章 揺れる心
50 運命
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「今の話……聞いてた?」
麗香がドアのところで立ちすくんでいる爽を見ていた。すべて察したような、蒼白な顔をする麗香。その向こうに爽の運命の男――加賀美響也が見えた。
加賀美が爽に声をかける。
「爽……どうして番のいない状態で、俺の前に現れたんだ!」
加賀美は初めて対面した爽を、蔑んだ目で見ていた。麗香が言ったことは間違えている。好きではなく、恨まれているらしいと瞬時に爽は感じた。
そう感じたはずなのに、加賀美と目が合った瞬間、爽の体が異変を起こした。体中からフェロモンが出てきているのが、爽にも加賀美にもわかった。
――俺、どうして? どうして!
妊娠したのに、まだフェロモンが出てきたことに爽は戸惑う。オメガは不安になるとフェロモンコントロールができなくなると聞いたことがあるが、それは妊婦には通用しない話だ。それなのに、爽の体は反応した。
――俺は、俺は……
ドアの前で全ての話を聞いていたので、爽はもう嘘をつけないと悟った。今の加賀美の言葉から、爽が加賀美のことを運命だと知っていたとばれている。妊娠したから運命に会っても大丈夫なんて、そんなことすら意味がないことなのだろうか。運命とは、何がなんでも拒めないものなのだろうか。
「ご、ごめんなさいっ、俺、妊娠したから大丈夫だって、そう思って……」
「くそっ! ここまで耐えてきたのに、なんで今なんだ!」
爽の瞳からは大粒の涙が出てきた。
運命の男は爽の発情を迷惑行為として、不快感を表している。運命にそんな風に言われたこと、そして、彼の香りに惹かれる自分にも本当に嫌気がさす。加賀美も爽と同じで、運命に気が付いていた。だが麗香の前では抗っていた。
彼のその顔を見てやっとそこに気が付いた。
どうして爽は自分だけが、運命に耐えていたなんて浅はかなことを考えていたのだろう。普通に考えたらわかったはずなのに。
恋人と会っている時に、同居している弟がいることから、運命の相手が誰かだなんて、爽以上に想像ができていたこと。それでも彼は抗っていた。
――彼も抗って、俺も抗っていた。
お互いが運命に気が付かないふりをしていた。お互いにたった一人の大切な相手を想って……それが加賀美にとって麗香で、素にとっては隆二だった。
加賀美はベータの麗香を愛し、愛するために策略をした。
爽は、隆二と向き合うために運命を確かめに行った。運命ん二人は、互いに自分だけのことを考えて行動していた。
運命の相手のことをは、互いに何も考えていなかった。爽は、似た者同士だと思った。そう思うと、加賀美が策略を張り巡らせていて、爽を陥れようとしていたとしても憎めなかった。自分の愛の為に取った行動なら、爽にだって痛いほどわかるから……
「とにかく、うっ!」
「え、響也!」
加賀美が言葉を発しようとした瞬間、苦しそうにうずくまった。きっと爽の……運命のオメガのフェロモンを感じたのだろう。麗香が加賀美を支える。全てが爽の目にはスローモーションに見てていた。古いテレビでも見ているかのような感覚。
そして爽はやはり発情した。
「え、そ、爽、爽!」
赤い顔して息を切らす。その場に倒れた弟を見た麗香は、婚約者を放置し爽に近寄った。婚約者に触った手で爽に触れると、むしろそれは逆効果で息がどんどんと上がっていくだけだった。
「ごめんっ、ねぇちゃん……」
麗香に抱きしめられた爽は覚悟した。もう止められない、この場でアルファとオメガは二人だけ。爽の香りは確実に運命に届いている。彼も胸を押さえてうずくまっている。
その異様な光景に、ベータの麗香は固まる。全てはもう遅かった。
「どうして、どうしてお前はまだ榊の番になっていないんだ!」
「どうしてあなたがっ、はぁっ、りゅ、隆二を……」
麗香が苦い顔をして、爽を抱えていた腕に力を込めた。
「爽、ごめんなさい、ごめんなさいっ」
「え? 姉ちゃん?」
そこで、爽のポケットから麗香が緊急抑制剤を取り出した。妊娠していたから絶対いらないモノだったが、いつもの癖でお守りのように必ず肌身離さず携帯していた注射器だった。
「とにかく、爽は発情しているから、コレを打つわ」
「だ、だ、め。俺のお腹の子に、影響が」
運命に会うと妊娠していても関係ないのかもしれない。運命とはそれほどのフェロモンなのかもしれない。
爽は心から隆二を受け入れていたのは事実だ。発情期に妊娠しないわけがないし、それに隆二が策略で近づいたにしても爽はすでに彼を愛していた。だからそれでもいいと思った。
彼がたとえ爽を愛していなくても、爽は愛おしい男の遺伝子を流したくなくて必死だった。
「でも、妊娠していたら、発情なんてしないのよ! あなたは榊さんに騙されてるの!」
「え? でも」
隆二の名前を聞いた途端、爽は震えた。
麗香は騙されていると言った。いったい麗香は隆二の何を知っていて、そんなことを言うのだろうか。だがそんなことは爽にとってもうどうだってよかった。
今発情しているのは運命の力だとわかっていたが、爽の心はいつも抱いてくれる優しい男を求めた。たとえ嘘でもいい。騙されていてもいい。爽が隆二を求めていることこそが真実だった。隆二がどういうつもりで抱いてきたのかは、もう気にしない。
三上姉弟が必死に話している最中、加賀美は自分に緊急抑制剤を打っていた。
「くそっ、運命を前じゃ、こんなの効かないっ、くそっ、爽、抱かせろ! もう俺の体も限界なんだ」
「え? 響也、なに、言って……」
加賀美のセリフに麗香が焦った声を出す。
爽は意識が朦朧とする中、運命が抱かせろと言った言葉に震えた。体が運命に抱いてもらいたくて、オメガの芯が濡れてくる。
――だめだ、だめだ、こんな罪深いことをしてはだめだ。だめだ。だめ、だめ。助けてっ、隆二!
そこで麗香が爽を力強く抱きしめて、自分の婚約者から弟を守っていた。どんな心境なのかは、爽にはもうわからない。ただ姉を守ろうと動いてきた自分が、一番姉を傷つけているのだけはわかった。
「響也、あなたに爽は渡さないわ!」
「どけ!」
彼の怒号に覚悟をした。
――ついに、俺の罪深い断罪がはじまる。
体はもう拒絶できそうになかった。だけど、心は隆二を求めていた。今さらながら愛を確信した発情期になぜ番にならなかったのかと後悔をする。
爽は好きでもない男の番にされる。もう運命はそう決まっている。きっと姉の前でよがり狂って男を求めてうなじを差し出す。そんな恐怖の時間しか来ないことを、爽は知っていた。
オメガの発情がどんなものか、経験した人にしかわからない。爽は隆二を受け入れた発情期を思い出すと、加賀美に対して善がり狂う自分しか想像できなかった。
――俺はどうして、子供にこだわったのだろう。どうして、心は隆二を求めているのに、抗おうとしていたのだろう。彼が、好き。このフェロモンに囲まれても、やはり俺の好きな人は隆二だって、そうわかった。
だがもう遅い。ラットを起こしたアルファを止められるのは、緊急抑制剤だけ。それが効かないのなら、オメガと性交するしかない。そして、この部屋にいるオメガは爽だけ。愛しえいる麗香でさえ、彼のラットは止められないと彼女もわかっているようだった。
麗香の怯える声が爽の耳に届く。
「響也、来ないで! この子は私の弟よ」
「ちがう、俺のオメガだ。麗香、すまない。お前を愛しているけど、運命の前ではどうにもならない」
「え、何言って」
麗香が恐怖に震えている。
「麗香、お前が悪い。俺と爽を引き寄せたのはお前だ。俺たちは散々合わないようにお互いに動いていた。それなのに、お前が俺たちの努力を無駄にした」
「や、やめてっ、お願い」
麗香が爽を放し、近づいてきた加賀美に縋りつく。爽は発情した状態で床に伏せながらそれを見ていた。
「いまさら自分のオメガを他の奴にやれるほど、俺はアルファを捨てられなかったようだ。俺は、爽と対面するまでは耐えられると思ったんだ。だから、親友に、俺の運命を番にしてくれと頼んだ」
爽は意識が朦朧とする中、その言葉に反応した。親友に、運命を番にしろと頼んだ。それはつまり――
「はっ、はぁ、し、親友って……」
爽の言葉を拾った加賀美がこちらを見る。欲望にぎらついた瞳に一瞬にして爽の体が固まった。そして麗香も全てを知っているようで、涙しながら加賀美に縋っていた。
「や、やめて、もうこれ以上爽に何も言わないで…っ」
麗香が泣きじゃくる。しかし無情にも加賀美は最終審判を下した。
「榊隆二だ」
「そ、んな」
これまでの流れでわかっていたことだったが、確実のものとなってしまい、爽の心は泣き叫んでいた。
「お前が俺の運命だと知ったとき、お前のことを榊に頼んだ。だから、すんなり就職できただろう?」
運命を知ったとき……就職。
その言葉、たしかに高卒ですぐに入社したのは隆二の家の会社。隆二と出会う前の入社の時点で、爽はすでに加賀美に知られていたといことになる。もしかしたら麗香にも知られていたのだろうか。
それよりなにより、隆二は爽が就職する前から、加賀美の運命だと知っていて近づいたことが衝撃的だった。
ただ恋に落ちたのではなく、目的があって爽に近づいた。
「まさか、そんな前から、隆二は、俺、のこと……」
息を切らしながら答えると、加賀美は麗香を振り払い爽の方に歩いてくる。
「俺と榊と相原、三人でお前のことを話し合った。お前は俺の筋書きどおりに榊と出会い、付き合いを始めたんだ。それを、すぐに番になればいいものを!」
そこにはあの清廉潔白のような男、相原も交えていたと知る。
爽の思考はもうすでに止まっていた。麗香がアルファの威圧に合い、動け素に泣き叫んでいる。このカオスな状況を爽は見ていた。
――俺はいったい今まで何をしてきたのだろう。姉ちゃんを大切にするために始めたことなのに……
その姉が、婚約者からのバースハラスメントを受けて動けずにいる。自分が守るべき姉が、守ってもらう男から見放されている。
爽は、今までの全てがもう馬鹿らしくなってきた。
「いやぁ、やめて! お願い、響也ぁ!」
姉の声が部屋に鳴り響く、爽は絶望と発情のはざまにいた。
麗香がドアのところで立ちすくんでいる爽を見ていた。すべて察したような、蒼白な顔をする麗香。その向こうに爽の運命の男――加賀美響也が見えた。
加賀美が爽に声をかける。
「爽……どうして番のいない状態で、俺の前に現れたんだ!」
加賀美は初めて対面した爽を、蔑んだ目で見ていた。麗香が言ったことは間違えている。好きではなく、恨まれているらしいと瞬時に爽は感じた。
そう感じたはずなのに、加賀美と目が合った瞬間、爽の体が異変を起こした。体中からフェロモンが出てきているのが、爽にも加賀美にもわかった。
――俺、どうして? どうして!
妊娠したのに、まだフェロモンが出てきたことに爽は戸惑う。オメガは不安になるとフェロモンコントロールができなくなると聞いたことがあるが、それは妊婦には通用しない話だ。それなのに、爽の体は反応した。
――俺は、俺は……
ドアの前で全ての話を聞いていたので、爽はもう嘘をつけないと悟った。今の加賀美の言葉から、爽が加賀美のことを運命だと知っていたとばれている。妊娠したから運命に会っても大丈夫なんて、そんなことすら意味がないことなのだろうか。運命とは、何がなんでも拒めないものなのだろうか。
「ご、ごめんなさいっ、俺、妊娠したから大丈夫だって、そう思って……」
「くそっ! ここまで耐えてきたのに、なんで今なんだ!」
爽の瞳からは大粒の涙が出てきた。
運命の男は爽の発情を迷惑行為として、不快感を表している。運命にそんな風に言われたこと、そして、彼の香りに惹かれる自分にも本当に嫌気がさす。加賀美も爽と同じで、運命に気が付いていた。だが麗香の前では抗っていた。
彼のその顔を見てやっとそこに気が付いた。
どうして爽は自分だけが、運命に耐えていたなんて浅はかなことを考えていたのだろう。普通に考えたらわかったはずなのに。
恋人と会っている時に、同居している弟がいることから、運命の相手が誰かだなんて、爽以上に想像ができていたこと。それでも彼は抗っていた。
――彼も抗って、俺も抗っていた。
お互いが運命に気が付かないふりをしていた。お互いにたった一人の大切な相手を想って……それが加賀美にとって麗香で、素にとっては隆二だった。
加賀美はベータの麗香を愛し、愛するために策略をした。
爽は、隆二と向き合うために運命を確かめに行った。運命ん二人は、互いに自分だけのことを考えて行動していた。
運命の相手のことをは、互いに何も考えていなかった。爽は、似た者同士だと思った。そう思うと、加賀美が策略を張り巡らせていて、爽を陥れようとしていたとしても憎めなかった。自分の愛の為に取った行動なら、爽にだって痛いほどわかるから……
「とにかく、うっ!」
「え、響也!」
加賀美が言葉を発しようとした瞬間、苦しそうにうずくまった。きっと爽の……運命のオメガのフェロモンを感じたのだろう。麗香が加賀美を支える。全てが爽の目にはスローモーションに見てていた。古いテレビでも見ているかのような感覚。
そして爽はやはり発情した。
「え、そ、爽、爽!」
赤い顔して息を切らす。その場に倒れた弟を見た麗香は、婚約者を放置し爽に近寄った。婚約者に触った手で爽に触れると、むしろそれは逆効果で息がどんどんと上がっていくだけだった。
「ごめんっ、ねぇちゃん……」
麗香に抱きしめられた爽は覚悟した。もう止められない、この場でアルファとオメガは二人だけ。爽の香りは確実に運命に届いている。彼も胸を押さえてうずくまっている。
その異様な光景に、ベータの麗香は固まる。全てはもう遅かった。
「どうして、どうしてお前はまだ榊の番になっていないんだ!」
「どうしてあなたがっ、はぁっ、りゅ、隆二を……」
麗香が苦い顔をして、爽を抱えていた腕に力を込めた。
「爽、ごめんなさい、ごめんなさいっ」
「え? 姉ちゃん?」
そこで、爽のポケットから麗香が緊急抑制剤を取り出した。妊娠していたから絶対いらないモノだったが、いつもの癖でお守りのように必ず肌身離さず携帯していた注射器だった。
「とにかく、爽は発情しているから、コレを打つわ」
「だ、だ、め。俺のお腹の子に、影響が」
運命に会うと妊娠していても関係ないのかもしれない。運命とはそれほどのフェロモンなのかもしれない。
爽は心から隆二を受け入れていたのは事実だ。発情期に妊娠しないわけがないし、それに隆二が策略で近づいたにしても爽はすでに彼を愛していた。だからそれでもいいと思った。
彼がたとえ爽を愛していなくても、爽は愛おしい男の遺伝子を流したくなくて必死だった。
「でも、妊娠していたら、発情なんてしないのよ! あなたは榊さんに騙されてるの!」
「え? でも」
隆二の名前を聞いた途端、爽は震えた。
麗香は騙されていると言った。いったい麗香は隆二の何を知っていて、そんなことを言うのだろうか。だがそんなことは爽にとってもうどうだってよかった。
今発情しているのは運命の力だとわかっていたが、爽の心はいつも抱いてくれる優しい男を求めた。たとえ嘘でもいい。騙されていてもいい。爽が隆二を求めていることこそが真実だった。隆二がどういうつもりで抱いてきたのかは、もう気にしない。
三上姉弟が必死に話している最中、加賀美は自分に緊急抑制剤を打っていた。
「くそっ、運命を前じゃ、こんなの効かないっ、くそっ、爽、抱かせろ! もう俺の体も限界なんだ」
「え? 響也、なに、言って……」
加賀美のセリフに麗香が焦った声を出す。
爽は意識が朦朧とする中、運命が抱かせろと言った言葉に震えた。体が運命に抱いてもらいたくて、オメガの芯が濡れてくる。
――だめだ、だめだ、こんな罪深いことをしてはだめだ。だめだ。だめ、だめ。助けてっ、隆二!
そこで麗香が爽を力強く抱きしめて、自分の婚約者から弟を守っていた。どんな心境なのかは、爽にはもうわからない。ただ姉を守ろうと動いてきた自分が、一番姉を傷つけているのだけはわかった。
「響也、あなたに爽は渡さないわ!」
「どけ!」
彼の怒号に覚悟をした。
――ついに、俺の罪深い断罪がはじまる。
体はもう拒絶できそうになかった。だけど、心は隆二を求めていた。今さらながら愛を確信した発情期になぜ番にならなかったのかと後悔をする。
爽は好きでもない男の番にされる。もう運命はそう決まっている。きっと姉の前でよがり狂って男を求めてうなじを差し出す。そんな恐怖の時間しか来ないことを、爽は知っていた。
オメガの発情がどんなものか、経験した人にしかわからない。爽は隆二を受け入れた発情期を思い出すと、加賀美に対して善がり狂う自分しか想像できなかった。
――俺はどうして、子供にこだわったのだろう。どうして、心は隆二を求めているのに、抗おうとしていたのだろう。彼が、好き。このフェロモンに囲まれても、やはり俺の好きな人は隆二だって、そうわかった。
だがもう遅い。ラットを起こしたアルファを止められるのは、緊急抑制剤だけ。それが効かないのなら、オメガと性交するしかない。そして、この部屋にいるオメガは爽だけ。愛しえいる麗香でさえ、彼のラットは止められないと彼女もわかっているようだった。
麗香の怯える声が爽の耳に届く。
「響也、来ないで! この子は私の弟よ」
「ちがう、俺のオメガだ。麗香、すまない。お前を愛しているけど、運命の前ではどうにもならない」
「え、何言って」
麗香が恐怖に震えている。
「麗香、お前が悪い。俺と爽を引き寄せたのはお前だ。俺たちは散々合わないようにお互いに動いていた。それなのに、お前が俺たちの努力を無駄にした」
「や、やめてっ、お願い」
麗香が爽を放し、近づいてきた加賀美に縋りつく。爽は発情した状態で床に伏せながらそれを見ていた。
「いまさら自分のオメガを他の奴にやれるほど、俺はアルファを捨てられなかったようだ。俺は、爽と対面するまでは耐えられると思ったんだ。だから、親友に、俺の運命を番にしてくれと頼んだ」
爽は意識が朦朧とする中、その言葉に反応した。親友に、運命を番にしろと頼んだ。それはつまり――
「はっ、はぁ、し、親友って……」
爽の言葉を拾った加賀美がこちらを見る。欲望にぎらついた瞳に一瞬にして爽の体が固まった。そして麗香も全てを知っているようで、涙しながら加賀美に縋っていた。
「や、やめて、もうこれ以上爽に何も言わないで…っ」
麗香が泣きじゃくる。しかし無情にも加賀美は最終審判を下した。
「榊隆二だ」
「そ、んな」
これまでの流れでわかっていたことだったが、確実のものとなってしまい、爽の心は泣き叫んでいた。
「お前が俺の運命だと知ったとき、お前のことを榊に頼んだ。だから、すんなり就職できただろう?」
運命を知ったとき……就職。
その言葉、たしかに高卒ですぐに入社したのは隆二の家の会社。隆二と出会う前の入社の時点で、爽はすでに加賀美に知られていたといことになる。もしかしたら麗香にも知られていたのだろうか。
それよりなにより、隆二は爽が就職する前から、加賀美の運命だと知っていて近づいたことが衝撃的だった。
ただ恋に落ちたのではなく、目的があって爽に近づいた。
「まさか、そんな前から、隆二は、俺、のこと……」
息を切らしながら答えると、加賀美は麗香を振り払い爽の方に歩いてくる。
「俺と榊と相原、三人でお前のことを話し合った。お前は俺の筋書きどおりに榊と出会い、付き合いを始めたんだ。それを、すぐに番になればいいものを!」
そこにはあの清廉潔白のような男、相原も交えていたと知る。
爽の思考はもうすでに止まっていた。麗香がアルファの威圧に合い、動け素に泣き叫んでいる。このカオスな状況を爽は見ていた。
――俺はいったい今まで何をしてきたのだろう。姉ちゃんを大切にするために始めたことなのに……
その姉が、婚約者からのバースハラスメントを受けて動けずにいる。自分が守るべき姉が、守ってもらう男から見放されている。
爽は、今までの全てがもう馬鹿らしくなってきた。
「いやぁ、やめて! お願い、響也ぁ!」
姉の声が部屋に鳴り響く、爽は絶望と発情のはざまにいた。
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