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番外編【隆二視点】
本当の出会い 1
しおりを挟むある日、加賀美が運命の番を知ったと言った。しかし、自分はベータの女性と将来を考えているので、その運命の糸を切りたいと。
その運命は、なんと加賀美の婚約者の弟だった。
運命とは、本当に皮肉なものだと思った。僕も高校時代に運命のオメガを知った。しかしその時の彼にはすでにアルファの婚約者がいた。諦めきれずになんども告白して、その彼を困らせた。運命だからなのか、会うと必ずと言っていいほど、お互いが興奮状態になる。
幼かったからとはいえ、僕はその運命のオメガを惑わせてしまった。
いい加減に彼の幸せを願った方がいいと思い、自分から彼に最後の言葉をかけた時、その彼は焦ったように僕に縋りつき、「結婚はもう避けられないし、婚約者を愛している。それなのに、この体はあなたを求めてしまう」涙ながらに言われた。
体だけでもいいなんて思ってしまいそうな自分を諫めて、彼の前から姿を消した。その数日後、僕の帰宅途中の道で、抑制剤の使用をやめた彼が目の前に現れ、そのままビルの間の人目のつかない場所で僕らは、本能のまま交わった。
最後に運命としてみたかった、そう言われた。
そんなことのためだけに彼の体を知りたくなかったし、抗えなかった自分に苦しくなる。そんな僕の苦しみを知らない彼は、その週に婚約者と番になった。
彼が、僕の目の前に現れたとき、以前まで強く僕を惹きつけるフェロモンは何も感じ取れなかったので、すぐにわかった。そして、彼の他のアルファに噛まれたうなじを見ると、僕の中のなにかが崩れた。
そこから体調が悪くなり、体力低下でしばらく入院した。バース科の医師いわく、運命の番と接点を持ってしまったのに、運命の糸が人為的に切れたことへの後遺症らしい。愛する人を奪われたことを、アルファの本能が受け入れられない状態になったということだった。
――そうか、僕は彼を愛していたんだ。
その時やっと涙が出てきて、それに気が付いた。
加賀美はすでに運命を見て、さらに詳しく調べていることから、もうその運命に執着をしているのだろう。運命の糸を切ったら酷い後遺症になると、僕の経験からわかっていた。
それでも彼は今の愛する婚約者を選ぶというのなら、あの時のオメガと一緒だと思う。その後、そのオメガがどうなったのかは知らないけれど、少なからずあの時のオメガも僕を求めていたのだから、番ができたとはいえ、なにかしらの後悔や辛さは残っただろう。
――もうすでに執着している目をした加賀美。
それなのに、加賀美が運命の糸を切りたいと言う。あれは本心ではなく、自分に言い聞かせているだけだ。きっと彼は後悔することになる。でも、もしかしたら自分から欲しがる女性が側にいるなら、あの時の僕ほどにはならないかもしれない。
それよりも、相手のオメガの男の子のほうが心配になった。
まだ番に夢見る十代なのに、自分が知る前から運命のアルファに拒絶されていると知ったとき、その子はどうなるのだろう。まだ運命に気が付いていないオメガの男の子のことを考えると不憫でしかなかった。出会っても絶対に好きになってもらえないことが、すでに出会う前から決まっている。
自分が経験したようなあの虚無を、オメガの子に味合わせるのは可哀想だと思った。だから、僕は加賀美に協力することにした。
加賀美は僕のあの苦しみを見ているのに、簡単に考えすぎている。まぁ、経験してみなければわからないこともある。抗うことがどんなに大変か、自分で感じてみればいい。
――だったら、僕が彼の運命になる。
それは番という意味ではなく、社会で成功する喜びをサポートするという意味だった。運命のいたずらは、もうこりごりだ。彼を導き、運命なんて存在はこの世にいなくても社会では普通に生きていけるし、本能ではなく、心が震えるそんな恋愛ができるようにしてあげたかった。
そんな些細なことがきっかけだった。それなのに、まさか僕が彼に運命を感じてしまうなんて……
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