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番外編 2
北海道旅行 2
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「うっわー! すげえな、ここ」
「ああ、M&Tの北海道進出には、かなり力を入れたぞ」
司が以前から力を入れていたのは知っていた。三人目ができたことで、嫁と子どもを連れて行っても安心して過ごせる、遠く離れた場所。そんなことをむにゃむにゃと寝言で言っていたと思ったら、なんと北海道まで視察に行って、広大な場所を見つけたーって興奮して帰って来た日が懐かしい。
子育てに追われている俺と二人で過ごすのは限界があると知り、だったら旅行中に子どもが親のことを忘れて楽しめるような施設を作って、大人の時間を持とうというなんとも邪な考えからこのヴィラ計画を立てたと言う。恐ろしいアルファの強欲を見た瞬間だった。
桜の小道を抜けると、そこはたくさんの家がある村のような環境。だが自然あふれる木々はただの自然ではなく、きちんと庭師により剪定されている。よく見ると、これは某夢の国にいるようなキャラっぽいカットの木のような?
司の仕事と家族旅行を一緒に兼ねているという高校生の頃から変わらずの職権乱用中だったので、まだ誰も観光客のいないこの場所を、俺たち家族だけで楽しんでいた。ちゃんとお店は全てオープンしていて、この村全体がすでにM&T王国みたいな感じ。沢山の屋台があり、ここは家族連れで楽しめるように、子どもが夢中になれるようなお店もちらちらあった。っつーか、この構造、某夢の国……のとあるエリアっぽいような?
それぞれに厳重な管理の行き届いたヴィラは完全防音。それでいて中は外から見えないのに、室内からは外が見える解放感というのを再現したと聞いていた。
司の手掛けたヴィラ事業は、番が心置きなく一緒に過ごせるコンセプトも兼ね揃え、年々数を増やしていた。しまいには、北海道の広大な敷地をまるまる使ったテーマパークのような王国まで建ててしまうなんて、俺の旦那すげぇ。家族が安心して旅行ができて、なおかつ旅行中も安心して愛し合える環境……らしい。
この事業は、番が発情期を過ごす「発情期棟」が人気だったが、昨今ではベータ同士や、アルファとベータ、ベータとオメガなど、幅広い客層にご利用いただいている。会員資格が半端ない年収なのと、会費もバカ高いのでそれなりの客層なのは相変わらずだ。
西条ホテルグループがそういう層をターゲットにしているので、ブランドイメージは崩せない。高所得者が安心して使えるというのが目的だった。
庶民の出の俺がそういうところに出入りしているのは気が引けるが、金を払う側さえ身分がしっかりしていれば、妻側はどうでもいいらしい。
カップル利用も既婚者のみに限られているという、安心安全な場所だった。そして発情期エリア以外は家族利用も可能ということだが、子どもは十歳以下でなければ利用できない。正確には十歳のバース検査を受ける前までだった。
アルファの独身者は入れない仕組みらしい……独身者って、子どもも独身者に入れるの? どんだけ独身アルファを警戒してるんだか。
「だって、オメガの相手がベータだった場合、番にはなってないだろう? ここは愛を深めに来る場所なのに、脅威があったら可哀想じゃないか」
「あっ、そ」
という司の言葉だった。
とまぁ、司の事業の話はさておき、明日オープンのこの場所で、前日の今日だけ貸し切りで俺たち家族が利用させてもらうことになった。そのままこの大型連休はここに寝泊まりして北海道を全て満喫する予定だ。
villaに入る前に、ひと際大きい建物に入る。ここがメインロビーだ。レストラン、温泉などの施設が入っている場所。夫婦で楽しみたいカップルのために託児施設もある。
司が到着すると、ホテルの支配人が出てきて挨拶をされ、俺たち家族はラウンジに通された。一息ついてから泊まる一軒家に行く予定。まずはチェックインの時にここを利用して、ウェルカムドリンクとお菓子が運ばれる。俺たちしかいないからチェックインなんて必要ないけれど、一応本社から来た司が疑似体験をしてサービスを確認するのが仕事なので、一連の流れを俺たち家族で受ける。
「ん? そういえばさ、あのM&Tチョコレートやめたの?」
司こだわりの一口千円する高級チョコ。初めて泊まったときに紹介されてちょっと笑ったんだよな。でも味は確かだった。あのチョコ楽しみにしていたのに。
「ああ、ここは北海道だろう?」
「そうだな」
「だから、これだ!」
よく見る四角い個包装のお菓子。これは……
「ラングドシャだよ。ロイヤルミルクティー味がMの恋人で、ビターチョコレートがTの恋人だ」
「……おい」
完全に銘菓のパクリじゃねえか。
「北海道といえばこれだって、カイが言ってたぞ」
「海斗さんは……イギリス人だ。信用するな。お前のvillaが、これじゃ開業そうそうつぶれるぞ。前日に俺が気づいて良かった」
「え? カイは日本人だぞ。正樹忘れたの? あははー」
「……」
櫻井の嫁である海斗さん。日本を長く離れたせいか、少し常識がおかしいようだ。今度注意しておこう。それとここの従業員たち、大丈夫か? いや、あまりにおかしすぎてむしろ受入れ体制寛大なのだろうか……謎だ。
「にしてもさ、ここの王国のキャラがネズミの着ぐるみはまずいんじゃねえの?」
「いや、着ぐるみじゃない。ネズミ型ロボットだ」
「……」
なんか聞いたことあるような……
「ネコ型ロボットじゃなくて?」
「正樹、それじゃぁ、パクリだ。ここは日本だよ、健全にいかないとな」
「……」
隣では双子たちが、静かにラングドシャを綺麗に食べていた。所作だけはいいんだよな。これも母の教えだったり、上等教育は主に司の部下であるイケオジ支配人が、近所のおじいちゃんみたいな感じで、双子と遊んでは教えてくれていた。ちなみに娘はベビーカーですやすやと寝ていた。
子育てにありがたい環境だ、そんなことを考えながら俺は現実逃避をしていた。
※M&Tチョコレート……それは、M&Mが、まさき&まさきだと勘違いして嫉妬した司が考え出した。正樹&司チョコレート。「運命を知らないアルファ」参照!
「ああ、M&Tの北海道進出には、かなり力を入れたぞ」
司が以前から力を入れていたのは知っていた。三人目ができたことで、嫁と子どもを連れて行っても安心して過ごせる、遠く離れた場所。そんなことをむにゃむにゃと寝言で言っていたと思ったら、なんと北海道まで視察に行って、広大な場所を見つけたーって興奮して帰って来た日が懐かしい。
子育てに追われている俺と二人で過ごすのは限界があると知り、だったら旅行中に子どもが親のことを忘れて楽しめるような施設を作って、大人の時間を持とうというなんとも邪な考えからこのヴィラ計画を立てたと言う。恐ろしいアルファの強欲を見た瞬間だった。
桜の小道を抜けると、そこはたくさんの家がある村のような環境。だが自然あふれる木々はただの自然ではなく、きちんと庭師により剪定されている。よく見ると、これは某夢の国にいるようなキャラっぽいカットの木のような?
司の仕事と家族旅行を一緒に兼ねているという高校生の頃から変わらずの職権乱用中だったので、まだ誰も観光客のいないこの場所を、俺たち家族だけで楽しんでいた。ちゃんとお店は全てオープンしていて、この村全体がすでにM&T王国みたいな感じ。沢山の屋台があり、ここは家族連れで楽しめるように、子どもが夢中になれるようなお店もちらちらあった。っつーか、この構造、某夢の国……のとあるエリアっぽいような?
それぞれに厳重な管理の行き届いたヴィラは完全防音。それでいて中は外から見えないのに、室内からは外が見える解放感というのを再現したと聞いていた。
司の手掛けたヴィラ事業は、番が心置きなく一緒に過ごせるコンセプトも兼ね揃え、年々数を増やしていた。しまいには、北海道の広大な敷地をまるまる使ったテーマパークのような王国まで建ててしまうなんて、俺の旦那すげぇ。家族が安心して旅行ができて、なおかつ旅行中も安心して愛し合える環境……らしい。
この事業は、番が発情期を過ごす「発情期棟」が人気だったが、昨今ではベータ同士や、アルファとベータ、ベータとオメガなど、幅広い客層にご利用いただいている。会員資格が半端ない年収なのと、会費もバカ高いのでそれなりの客層なのは相変わらずだ。
西条ホテルグループがそういう層をターゲットにしているので、ブランドイメージは崩せない。高所得者が安心して使えるというのが目的だった。
庶民の出の俺がそういうところに出入りしているのは気が引けるが、金を払う側さえ身分がしっかりしていれば、妻側はどうでもいいらしい。
カップル利用も既婚者のみに限られているという、安心安全な場所だった。そして発情期エリア以外は家族利用も可能ということだが、子どもは十歳以下でなければ利用できない。正確には十歳のバース検査を受ける前までだった。
アルファの独身者は入れない仕組みらしい……独身者って、子どもも独身者に入れるの? どんだけ独身アルファを警戒してるんだか。
「だって、オメガの相手がベータだった場合、番にはなってないだろう? ここは愛を深めに来る場所なのに、脅威があったら可哀想じゃないか」
「あっ、そ」
という司の言葉だった。
とまぁ、司の事業の話はさておき、明日オープンのこの場所で、前日の今日だけ貸し切りで俺たち家族が利用させてもらうことになった。そのままこの大型連休はここに寝泊まりして北海道を全て満喫する予定だ。
villaに入る前に、ひと際大きい建物に入る。ここがメインロビーだ。レストラン、温泉などの施設が入っている場所。夫婦で楽しみたいカップルのために託児施設もある。
司が到着すると、ホテルの支配人が出てきて挨拶をされ、俺たち家族はラウンジに通された。一息ついてから泊まる一軒家に行く予定。まずはチェックインの時にここを利用して、ウェルカムドリンクとお菓子が運ばれる。俺たちしかいないからチェックインなんて必要ないけれど、一応本社から来た司が疑似体験をしてサービスを確認するのが仕事なので、一連の流れを俺たち家族で受ける。
「ん? そういえばさ、あのM&Tチョコレートやめたの?」
司こだわりの一口千円する高級チョコ。初めて泊まったときに紹介されてちょっと笑ったんだよな。でも味は確かだった。あのチョコ楽しみにしていたのに。
「ああ、ここは北海道だろう?」
「そうだな」
「だから、これだ!」
よく見る四角い個包装のお菓子。これは……
「ラングドシャだよ。ロイヤルミルクティー味がMの恋人で、ビターチョコレートがTの恋人だ」
「……おい」
完全に銘菓のパクリじゃねえか。
「北海道といえばこれだって、カイが言ってたぞ」
「海斗さんは……イギリス人だ。信用するな。お前のvillaが、これじゃ開業そうそうつぶれるぞ。前日に俺が気づいて良かった」
「え? カイは日本人だぞ。正樹忘れたの? あははー」
「……」
櫻井の嫁である海斗さん。日本を長く離れたせいか、少し常識がおかしいようだ。今度注意しておこう。それとここの従業員たち、大丈夫か? いや、あまりにおかしすぎてむしろ受入れ体制寛大なのだろうか……謎だ。
「にしてもさ、ここの王国のキャラがネズミの着ぐるみはまずいんじゃねえの?」
「いや、着ぐるみじゃない。ネズミ型ロボットだ」
「……」
なんか聞いたことあるような……
「ネコ型ロボットじゃなくて?」
「正樹、それじゃぁ、パクリだ。ここは日本だよ、健全にいかないとな」
「……」
隣では双子たちが、静かにラングドシャを綺麗に食べていた。所作だけはいいんだよな。これも母の教えだったり、上等教育は主に司の部下であるイケオジ支配人が、近所のおじいちゃんみたいな感じで、双子と遊んでは教えてくれていた。ちなみに娘はベビーカーですやすやと寝ていた。
子育てにありがたい環境だ、そんなことを考えながら俺は現実逃避をしていた。
※M&Tチョコレート……それは、M&Mが、まさき&まさきだと勘違いして嫉妬した司が考え出した。正樹&司チョコレート。「運命を知らないアルファ」参照!
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