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第一章 生い立ち〜出会い
3、桐生良太 2
しおりを挟むホームレス、そんな生活が淡々と過ぎた頃、知らない女に声をかけられた。この頃には母に守られて生きていた時のような、活発な子供という存在はとうに消えていた。
だいぶ俺の人格はできあがった。オメガは繊細とか誰が言った? 俺は一人で生きていく術を身につけた気でいた。
「良太君? 良太君だよね」
俺の名前を知っている、そんな奴いるのか?
ああ、いたな。ホームレスを始めてすぐに俺に声をかけてきた奴が。もと同級生、ボロボロの俺を見てビビってたから物乞いをした。金とその時に持っていた食い物をくれたな、俺はそいつから貰ったものを奪うとすぐに逃げたけど。
「あっ、ごめんねっ、怖がらないで。あのね、あなたがあまりに雪華さんに似ていたから、あっ、雪華さんは私の尊敬する女性でね。その人にも君くらいの子供がいたはずだからつい、間違っていたらごめんね、でも君は……」
久しぶりに聞いた母さんの名前、それを聞いて思わず固まってしまった。あんなに人を信用してはいけないって思っていたけど、俺は母さんの名前に気が緩んでつい、答えてしまった。
「あんた、母さんとどんな関係?」
その女は嬉しそうにした。
「やっぱり良太君だ! 私は安田絢香。三年前に雪華さんと同じ職場でお世話になったの」
そういうことか、でもそれだけでなんで声を掛けるんだ?
「番ができて突然辞めて連絡取れなかったから、お母さんどうしてる? 番の人と幸せに暮らしている? でも君はボロボロだね……今の状況教えてくれないかな?」
「あんた、頭ゆるいの? 番イコール幸せって考え、笑える。オメガが幸せになれるはずないだろう。母さんは番解除されて三ヶ月前に死んだ。俺は親を亡くしてホームレスになった、もういい?」
惨めだ、こんな簡単に語れちゃう母さんと俺の人生。
「えっ、雪華さんが!? ごめんなさいっ、そんなことにっ……」
俺の言葉に女は泣き出した。俺は面倒くさくなって去ろうとしたら、待ってと腕を掴まれた。母さんが死んでから大人に触られることがダメになっていたけど、その手は不思議と嫌じゃなかった。
「良太君、ホームレスってまだ子供でしょ。なんで国に保護されないの?」
「あんた、さっきからおめでたいね。オメガの子供だよ? 養護施設ですぐにそこの園長にレイプされそうになって逃げた。大人の保護っていうのはそういう意味なんだよ」
「えっ! そん……な、そんなことが。じゃあ良太君は今までどうしていたの?」
「あんた、昔の母さんの知り合いだからって何。聞いてどうするの? 俺のこと養ってくれる? それとも子供が対象のロリコン? 俺は絶対に体は売らない、もういいだろう」
俺みたいな子供からそんな言葉が出たことに驚いているようだった。もちろん、こいつがそういう大人に見えた訳ではなかったが、牽制する必要があると思って言葉を選んだ。
「……養うよ。もちろん子供とそういうことはしない。それに私もオメガなの、だから安心して? とりあえず私の家に行こう。ご飯とお風呂だね。うん、それからこれからを話そう」
「えっ」
俺は驚いた。
別に養ってもらいたくて言ったんじゃない、ただの牽制で、皮肉だ。目の前の女は、さぁ行こうと俺の腕を掴んでくる。
「あんた何、言ってんの!? こんな胡散臭くて汚い子供を家に入れるの? 養うって、バカなの? オメガならそんな金ないだろう」
「大丈夫! 私、稼いでいるから。君一人なら養えるよ、それに今よりはましな生活はできると思う。さぁ汚い子供は綺麗にならなくちゃねっ! 行こう」
それが俺のこれからの人生で、何よりも大切な存在になる、俺が生涯かけて守ると誓った絢香との出会いだった。
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