ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第二章 運命

23、6月の憂鬱 4

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 あれから毎晩先輩の手料理? を食べている。

 約束の一週間のメニューが終わっても、まだバリエーションはあるからって言われて。それはどれも美味しくて、最近は食欲も増してきているのでガッツリ系のステーキとかもでてくる。

 そして俺は、やっぱり毎晩少しだけうなされているみたい。でも前みたいな汗だくのひどいのは無いって言っていた。

「良太! お茶にしようか、今日はチョコレートがある。このチョコ美味しいって女の子に人気らしいよ。ちょうど新作が出たらしくて、この間、取引先から貰った」

 今日は一粒で結構な値段のする、俺でも知っている高級チョコレート! わあ! 俺チョコめっちゃ好きだし。やった! 喜んだ顔をしたら、それを見て先輩が笑っていた。俺かなり餌付けされているよね? でもいいか!

「僕、甘いもの好きだけど、特にチョコレートはすごく好きです! しかもこのブランドって、凄く有名なところのですよね。今日は紅茶だ、先輩ってすごくマメで器用ですね!」

 そうか? と言って、先輩が綺麗な仕草で香りの良い紅茶を入れてくれている。

「汚部屋の住人とか、初めは驚きましたけど今は綺麗で、ご飯の用意もしてくれて僕なんかがこんな恩恵、申し訳ないです。先輩はまだつがいつくらないんですか? これだけできるならもうつがいの方の発情期のお世話も完璧ですね」
「僕なんかなんて言わないで? 良太だからこんなに色々したくなるんだよ。ねぇ、良太は俺のつがいが気になる?」

 ん…どう言う意味だろう、俺だから? 優等生だから良くしてくれているのかな? 先輩のつがい、気になるに決まっている! だって俺のジジイへの報告がこれにかかっているんだから。

「気になるっていうか、僕で予行練習しているって言っていたから、もう完璧だって思って。もうすぐ寮の工事始まるし、夏休みが終わったら僕はまた一人で生活しなくちゃいけないから、僕の方が一人じゃ生活できなくなりそうですよ」
「だったら、俺無しじゃ生きられなくなってみたら?」
「ははっ、最近の先輩は冗談が多すぎます! 笑えるところのない冗談なんてうけないですよ? チョコいただきますね!」

 俺はアルファのよくわからない類の言葉を理解するのは難しいから、いいかげん真顔で笑えないこと言わないで欲しいな。

「良太はよく話すし、よく笑うようになったね! どんどん可愛くなる」
「もぅなんですか、それ。男が可愛いって嬉しくないですよ。それに先輩が優しいし、ここは居心地がいいから、だからたくさんしゃべっちゃうのかな、へへっ」

 笑いながらチョコを一粒頂いた。

 「わあぁ、めちゃくちゃ美味しい!」

 満面の笑顔の俺、それをじっと見ていた先輩は、そのまま目の前にきて、真面目な顔で、そのまま、えっ? 顔が近づいていた。

「んっ……んんん!?」

 突然先輩が、キスしてきた。

「クチュっ、んはっ、あ、……ん」

 いつものようにこめかみや、ほっぺや、おでこじゃなくて、口に! 思わず驚いて苦しくて口を少し開けたら、先輩はその隙間に舌を入れ込んで、俺の口内をむさぼっている。

「んん……ぷはっ…な」

 びっくりして何もできなくて、でも苦しくてプハって息継ぎをして、それが終わるとまた口を塞がれる。

 それでも必死に抵抗するが、手を掴まれているからまったく動けなくて涙が出てきて、しばらく先輩の好きにされた。部屋にはクチュッ、チュッ、という唾液が混じるいやらしい音が響いた。

「んんっ、ふっ、あっ、ん」

 どれくらい経過したのかわからないが、キスが続くにつれて思いのほか気持ち良くなってきた。

 なんで口の中がこんなに気持ちいいのかなって不思議に思っていたら、先輩の唇が離れていった。あっ、もういなくなっちゃうと思って先輩の離れていく少し濡れている唇を見てしまった。そしたら、俺の涙に先輩の手が触れた。

 なんて目で見てくるんだよ。俺はどうしていいかわからなくって、涙が止まらなかった。

「あっ! しまった、ごめん! 泣かないで!」

 ずっと俺のあえぐ声や吐息しか流れていなかった部屋に、やっと先輩が言葉を発した。

「良太がチョコ食べていたら思わず。つがいの話もしていたし。そのっ、言い訳だけど、前に付き合ってた彼女がチョコレート好きで、チョコ食べた後、味見でそのままキスをすることが多くて、そのつい、いつもの癖で無意識だった。ごめんっ! ほんとうに申し訳なかった」

 さっきまでの色気を隠すかのように、いきなり正気になった先輩は必死に言い訳をしてきた。

「えっぐ、ぐすっ、ぼく、女の子じゃありません……もう間違えないでください、ぐすん」

 女の子と勘違いされたのも悲しかったし、その話を聞いてなぜか胸がぎゅぅってなって、また涙が出てきた。

「うん、ほんとにごめん。キス初めて? もしかしてファーストキス奪ったか? ねえ涙止めて、りょうたぁ」

 先輩は俺のファーストキスを奪ったと思ってオロオロし始めた。

「……もういいです。初めてじゃないし、もう忘れますから……謝ってくれたし、わすれ…ます」
「えっ初めてじゃないの? いつ、誰とだ? ファーストキスはいつの話だ」

 っておい! 今その話かよ? お前、おろおろして謝っていた控えめな態度はどこいったよ。なぜか自分の罪をもう忘れたのか、不審なオーラがでているよ? 思わず涙が止まった。

「もう! ぐすんっ。キスのこと忘れますから! この話は終わりにしましょう、僕にとってのファーストキスは思い出したくもないもので……」
「ああ、泣かないで。どうして? 思い出したくないの? 好きな人としたんじゃないの?」

 食いついてくるな? もうこの話終わりにしたいから素直に話した。

「子供の頃、無理やりされて……」

 すかさず「誰にされた」って、なんか怒っているよ? アルファにそのオーラで言われると、逆らえないのがバースの力。もうあきらめて素直に話した。

「母が亡くなった十歳の時に、児童擁護施設に引き取られた先の園長に襲われて……無理やり口の中舐めまわされました。だからそれは気持ち悪くて、もう思い出したくないんです。ぅうっ。男なのに、泣いたりしてすいません」
「えっ、じゃあ良太の処女はその男に奪われたのか!?」

 って、えっ? しょじょ!? なにそれ! 一気におかしくなって笑えてきた、なんだ、それ。

「処女って、男だし! さすがに経験は無いですよ! 先輩ほんと面白いこと真面目な顔で言うんですね。そういうのはオメガとかの話ですよね! なんか涙止まっちゃった! ははっ」
「俺は、冗談は言わない。真面目に聞いている。その男にどこまでされた!」

 えっ、なんで俺が怒られているの?

「?えっと、口の中を舐めまわされて、それで気持ち悪くなってその場で吐いちゃって、すぐに逃げたからその養護施設もそれっきり、その後は二度と会うことがなかったし、それ以上何かされたとかは無いです。だから無理やりされたのはキスだけでしたよ?……なんで先輩、怒っているんですか?」

「怒っているんじゃなくて、いや怒っているな、その男に。そいつを見つけて俺がお前の仕返しをしてやるからな! もしかして俺にキスされて、吐きそうか? トラウマに触ってしまったんだな、だからそんなに泣いて……すまなかった! ああ、トイレいくか? いや、今吐いてないなら、これから吐くかもしれない……吐き気止めか!? 待っていろ、今すぐ医務室でもらってくるから!」

 落ち着けよ。オロオロしたり、怒ったり、慌ただしいやつだな。俺は先輩の腕を掴んだ。

「大丈夫です! 先輩こそ落ち着いてください。確かにキスはトラウマでしたが、先輩とは気持ち悪いって思わなかったです。だからもうトラウマは無くなったのかもしれませんし、今更過去関わった人なんてどうでもいいので、もう忘れてください、ね?」

 さすがに気持ち良かったとも言えなかったが、なぜか、チュッて今度は触れ合うだけのキスをしてきた。なぜ? 俺はまた拒否する暇もなく固まってしまった。

「じゃあ、俺のキスで上書きできたってことか。お前のそれはファーストキスじゃない、ただその辺の豚にしゃぶられただけだ。俺との今のキスがファーストキスだ、わかったな?」

 ……豚って。その辺に豚は居ないからっ!

「……もう、わかりましたから! これで終わりです! 先輩も忘れてくださいね」

 その日の夜、俺は梅雨になって初めてうなされることなく安眠できた。翌朝、昨夜は静かに眠っていたよって先輩は話してくれた。
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