63 / 237
第三章 幸せへの道
63、岩峰家 2
しおりを挟む「良! 心配したのよ、風邪ひいて熱が酷かったって?」
「絢香……」
「先週帰ってこないから、心配でしょうがなかったの。寂しかったでしょ? 私が看病したかったのに。えっ、良、あなた……」
「あっ……」
岩峰家に着くと同時に絢香がやってきた。俺のことを本当に心配してくれていた、でも俺の異変にすぐに気がついた。
さすがオメガだ。
俺から出る匂いで、アルファと関係を持ったと気づいたのだろう。俺は自分から言うつもりだったし覚悟はしていたけど、絢香のその戸惑いを見て、いきなり現実問題だって、ここで自分の置かれた状況をキチンと見えた気がした。
そして、俺は涙が溢れてきてしまった。
肝心なことは何も言えず、立ち尽くしてしまった。後ろからついてきた勇吾さんが、動揺した俺の肩を抱えてくれて、代わりに絢香に説明してくれた。
「絢香さん、気づいたと思うけど良太君は番ができた。そのことで話を聞いて欲しいけど、大丈夫かな? 君には良太君の支えになってあげて欲しい」
「まさか、番に?……良」
絢香は驚いたままだった。俺の空気感に、望まれたものでは無いことを感じたのだろう。
「良太君、絢香さんに会って安心しちゃったんだね? 今まで他人事のように処理していたからね。やっと安心できる場所に帰ってきたんだ、良く頑張ったよ。絢香さん?」
勇吾さんがそう言うと、絢香は俺を抱き寄せた。泣きながら抱きしめて、きつく、きつく抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫よ。あなたには、何があっても私がいる。それだけでいいから、何も言わなくてもいいのよ、愛しているわ、愛している……」
俺は絢香の腰に自分の腕を絡めて、そしてわんわん泣いた。こんなに大きな声をだして泣いたのは、きっと初めてだった。
勇吾さんは俺と絢香を連れて行くと、ソファに座らせた。すっかり帰りが遅くなってしまったので、遊び疲れた岬は先に華と眠ってしまったと言っていた。そしたら勇吾さんはちょうど良かったねって言った。
「絢香さん、岬のことありがとう。ハーブティー煎れたから飲もう。良太君ちゃんと話せる?」
勇吾さんは、俺が動揺しすぎていたから心配してくれた。さすが俺の未来の旦那様だ。
もう早速だけど、俺は勇吾さんが夫になってくれる人で安心した。それにやっぱり俺一人では説明というか、話がきちんとできるか不安になった。だから、やっぱり勇吾さんにもいて欲しくなってしまった。
「勇吾さん、さっきは一人で話すって言ったけど、やっぱり勇吾さんにも側にいて欲しい。俺、絢香の前だとなんでも話せる自信はあるけど、絢香に嫌われたくない、軽蔑されたくない。自分の口から、言う自信がない……」
「良、私は決して嫌いにならない! 私たちの歴史をバカにしないで! あなた以上に愛している存在はいないわ。良も私をそう思ってくれているでしょ? それとも番ができたら、私のことはもう嫌になっちゃったの?」
俺は、絢香のその言葉にまた涙が出てきてしまった。そんなボロボロの俺の手に勇吾さんは自分の手をあてて落ち着かせてくれた。
「絢香さん、違うんだよ。大切だからこそ、自分の見られたくない部分ってあるでしょ? 良太君の一番は誰が見ても君だよ」
「そんなこと勇吾さんに言われなくても知っているわ……ごめんなさい」
「うん、もうこの流れでわかったとは思うけど、良太君は無理やり番にされた。不幸なことにアルファに見染められてしまったんだよ。運悪くそこで発情期も重なって、そのまま良太君が一番嫌悪している状況に」
それだけ聞くと、先輩、極悪人だな。
「アルファは良太君を手放そうとはしない。そんなやりとりを、総帥とそのアルファとしてきたばかりだ。良太君は気丈にもずっと耐えてきた。だから君に会った途端、子供に戻ってしまったんだね。君の前では良太君は素直だから」
絢香は驚いていた、そりゃそうだ。
俺が嫌悪し続けていた状況が、俺に降りかかった。母さんと同じ、親子揃って呪われているな、勇吾さんは的確に要点だけ伝えてくれた。
決して俺のオメガとしての汚点を伝えることはなかった。番は俺自身の失敗でもあるのに全部を先輩のせいにした、俺への配慮だ。
絢香、俺はいつでも泣かせているね、ほんとにごめん。
「勇吾さん、話してくれてありがとう。もちろん、何があっても私は良の味方、いつでもあなたを抱きしめる」
絢香は俺を抱きしめた。
「良、言いたくないことは言わなくていいのよ。きっと桐生さんと勇吾さんが良のために、力を貸してくれたのでしょう? 私のことも頼って欲しいわ、お二人のような力は無いけれど、誰にも負けない良への想いはあるから……それじゃだめかしら……」
俺にとっては絢香の胸の中だけが唯一、俺を救い出してくれる。あの頃から何も変わってない。
俺が絢香を守るって言って生きてきたはずなのに、結局はあの汚い子供時代と同じ、絢香に守られて俺は息を吸うことができるのだと、しみじみ思った。
「絢香、ありがとう……。勇吾さんも、代わりに話してくれてありがとう。俺、あいつに必ず復讐してやる。ごめん、弱気になったけど、向こうは俺のこと好きだから今のとこ番解除はないし、俺が死ぬことは無い。やれるだけのことやるよ」
「良太君、そんなことを考えていたのか?」
「勇吾さん、俺どうしたって憎い。それなのにまたあいつに抱かれなくちゃいけないんだよ? お爺様にあと二年は関係を持てって言われて、やるって言っちゃたけど、俺、やっぱり怖いよ」
「良太君……」
「自分が自分じゃなくなるオメガの感覚、それをこれから味わうんだよ。憎いって思わないと心が持たないよ」
絢香が俺に向き合ってきた。何も説明してないのに、そこには触れずに俺のことを考えてくれた答え。
「生きるために必要なら、復讐しなさい。でももう嫌だと思ったら、二人で逃げよう。今度こそ二人で永遠に眠りましょう。あの時は私が一人で死ぬって言ってしまったけど、もうあなたを置いていかないから」
俺も勇吾さんも驚いている。はは、女は強いな、絢香最強だ!
絢香にそこまで愛してもらえるなんて、嬉しすぎる。もうこの時は俺も絢香もどうかしていたと思うけど、俺には最高の絢香との人生の終着点が見えた。
だから今は頑張れる、そう思った。失敗しても幸せな未来しかないのだから、俺は嬉しすぎて、絢香に抱きついて泣くしかできなかった。絢香の耳元でずっと大好きって囁いていた。
絢香もずっと俺をあやしてくれた、あの頃の小さい俺はまだここにいるんだ。
いつだって俺には絢香だけ、絢香は何があっても俺を守り、甘やかして、支えてくれる。最高の天使だ。死ぬ時も俺を守ってくれる。そう思ったら、今の生を絢香のために、もがいて苦しんででもやり遂げなくてはと、俺はまた強くなれた気がした。
俺を救うのは、いつだって絢香だ。
64
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる