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第七章 決断
146、閑話 〜初めてのバレンタインデー〜
しおりを挟む二月、俺のクラスはアルファやベータばかりだから、なんら変化には気がつかなかったけど、休み時間にいつもの相原君が、いつものように俺の席の前に座った。
俺の前の席のやつ、相原君が来るとソワソワしだしてどうぞと、毎回自ら席を譲る。それでいいのか? 相原君、可愛いから番がいるのにも関わらず、うちのクラスでは人気なんだよな。そんな相原君は、いつもと変わらない温度で話しかけてきた。
「ねぇねぇ、高校に入って初めてのバレンタインじゃん? 桐生君なんて番ができて初バレンタインだよ!? 何するの?」
「何するって、何かするものなの?」
はて? 俺たちは男同士だし、バレンタインって何かするのか?
「えっ!? バレンタインだよ! チョコレート渡したり、告白したり、年に一度のオメガからアルファへの大イベントだよ」
まじか!? 女の子がなんかする日じゃないの? 俺は毎年、絢香からチョコレートをもらい、その翌月に俺からマシュマロをお返しする。そんな感じしか経験ない。俺からバレンタインに何か渡すなど考えもしなかった。
「でも先輩は甘いもの苦手だし、告白って言っても、もう付き合っているから、やっぱり僕には関係のないイベントかなぁ」
相原君が残念な顔で俺を見る。ん? 何か間違っているかなぁ。
「だーかーらー! アルファが甘いもの苦手ってよくあるからさ、ビターチョコにするとか、手作りで甘さ調整する、あとは自分の体にチョコクリームを塗って、食べてもらうの。これ嫌がる番なんていないから! 絶対やってみて」
「か、体にチョコを?」
戸惑いを隠せないでいると、相原君は俺に一枚の紙をくれた。
ん? 失敗しないアルファ攻略ケーキ。
「これ、今年僕が番に作ろうと思ってた甘さ控えめのケーキレシピ、あげるよ! やっぱり番には手作りだよね。あと、下の方に書いてあるのは体に塗る用のチョコクリームね。それを自分の体にぬって、僕を食べてって言えば大丈夫」
「!?」
何か、何か、聞いてはいけない、そんな話が聞こえてきた。さっきのは聞き間違えではなかったのか!
――良太、甘いくて美味しいよ、ちょうどいい甘さのクリームだね。あれっチョコクリームの先に何か出てきた! コリってして、甘くて美味しい、ピンク色のチェリーかな? ちょっと小さいからきちんと吸わないと食べられないなぁ。はむはむっ、旨い――
うあああぁぁぁぁ――。俺は、俺はッ、公衆の面前で何を想像した!? ってか、妄想の中の俺は、なぜ自分の胸にクリーム塗ろうとした!?
頭をかき乱しだしたら、相原君がびっくりしていた。
「き、桐生君?」
「あっ、ごめん。その、相原君は何するの? ク、クリームは……どこに塗るものなの?」
「そうだな――。唇のよことか、かな? それでキスしてもらうんだ!」
「へっ? そんなとこ?」
「ん、も――、どこだと思ったの? 桐生君ったら!」
相原君が赤い顔して、俺をぱたぱたと叩いた。あれ? 案外ウブなのかな? というか、俺はどんどん自分のオメガへのハードルが下がってきている気がする。自ら何を暴露しているんだか。
そして、俺は律儀にもバレンタインデーの前日にケーキを焼いた。てか、明日の朝に渡す予定で作ったけど、これはもうすでに先輩が部屋に帰ってきたら、用意していたことばれるに決まっている。だって、部屋中がチョコの匂いだ! そこにタイミング悪く先輩も帰ってきた。
「良太ただいまぁ! あれっ、この匂い」
帰ってきたと思ったら、早速部屋の匂いのことを言いながら、走って俺のとこまで来て抱きついてきた。子供か? 犬か!?
「これって、俺への、手作り作ってた?」
「もう、んちゅっ。先輩に隠し事できない、匂いでばれましたよね?」
後ろから抱きしめられたら、顔だけ先輩に向けてほほにキスをした。驚いた顔の先輩。それは、キスに? 手作りチョコに? どっちでもいいや。照れ隠しに首に腕を回して抱きついて顔を先輩の首に埋めた。
「良太、大好きだよ。まさか、今年はこんな嬉しいバレンタインを迎えられると思ってもなかったよ」
「ん? 僕だって先輩が好きなんだから、これくらい用意しますよ」
「そう? 良太のことだからバレンタインなんてスルーすると思ってたのに、それがまさかの手作りなんて、嬉しすぎだよ」
うっ、ばれている。相原君が言ってくれなきゃ手作りどころか、市販のチョコすら用意しなかったと思う。
「初めてお菓子作ってみたから自信ないけど、一口でいいから食べてくれたら嬉しいなっ」
「もちろん食べるよ! ありがとう」
そして、バレンタイン前日だけど夕食後に一緒に食べた。それはほんのり苦いビターチョコのケーキだった。俺には甘さが足りないけど、先輩にはちょうど良かったらしい。
食べ終わったら、先輩がいつものごとくキッチンを片付けてくれた。片付けが終わった先輩がにっこりとした顔で、片手に俺の作ったチョコクリームともう片手にはレシピの紙。
「あっ、それは」
「彼氏に体ごと食べてもらえる、チョコクリームの作り方……良太、これは使わないの?」
俺は作るのに精一杯でレシピの紙や、律儀に作ってしまった例のクリームもしまい忘れていた。先輩がご機嫌な声で、レシピのタイトルを読み上げた。
「あうっ」
「これも良太の手作り? それとも相原君が作ったものをもらった?」
「うっ、あ。そのっ、僕の手作り、で」
「そう、これも俺が食べていいんだよね?」
「は……い」
満面の笑みで、目の前でそのチョコを救って舐めていた、なんて色気だ。そして俺の口にそれを入れてきた、わざと唇のはじまでクリームをのばして。
「あっ 」
「じゃぁ、遠慮なく良太ごといただきますっ」
「ふぁっんっ」
そして唇から始まり、最後は俺の想像を超える場所にまで塗られ、先輩の剛直を入れるために、後ろの孔までみっちり入れられて、体全体チョコの匂いに包まれて食べられてしまった。
翌日、ぐったりした顔でクラスにいると、昼休みに何故か相原君もぐったりとして俺の前に座ってきた。
「相原君、どうしたの? 大丈夫?」
「んー。昨日は散々だったんだよね、僕たちがチョコクリームのこと話していたのが、なぜかバレていて、あまりにねだられるから今回は作らなかったの、そしたら潤のやつ。自分で用意して、その量が半端なくて、全部使い切るまで許してもらえなかった」
「そ、れは、ご愁傷様?」
「あれ? そういう桐生君も今日は色気ダダ漏れだよ? そっちも凄かったんだね、結局手作りはしたの?」
「えっ、あっ、色気? えっと、ちょっとだけど作ったよ。でも相原君ありがとう、僕は相原君から聞かなければバレンタインすらスルーするとこだったから、先輩は凄く喜んでくれたんだ。ほんと用意して良かった! 相原君のお陰だよ」
「なら良かった!」
そうして気怠そうにしている相原君を、番の彼が満面の笑みで迎えにきていた。
翌月のホワイトデーには、なんと塗るタイプのマシュマロなるものを先輩がプレゼントしてきた。そして俺のヒートも重なったことで、俺はノリノリでそのマシュマロを身体中に塗っていたと後で知り、大変大変、恥ずかしい思いをしたのだった。あぁ先輩の中では、全てはあの時の相原君の塗るチョコから始まっていたみたいだった。
恐るべき発情期。因みに先輩は大変満足されたようであった。
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