ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第七章 決断

147、番のいない発情期 1

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 この一年で習得した先輩スキルはかなりのもので、あの絢香のつがい事件からも俺は穏やかに先輩と過ごしてきた。

 昨年の梅雨はトラウマ等が発生して塞ぎ込んでいたから、まさか自分が発情期を迎えるとは思ってもなく、あれよあれよという間につがい契約がされていた。そして今、俺たちはつがいになってちょうど一年目を迎えた。

 今更未来は変えられない。

 絢香のつがいである、正親の身元を知ってしまえば変に怯えなくて済む。絢香を守るのに、あいつの存在を確認できたのは良かったのかもしれない。それだけでも先輩と付き合っていた意味を見出せた、このつがいの意味をそう思うしかない。

 お爺様の言う通り、先輩に精一杯愛してもらってそれで別れれば何も問題ない。上條親子二代、そして親戚にまで桐生は痛めつけられている。あの気丈なお爺様にあんな顔をさせる程だ。もう無駄な罪悪感を持つ必要なんて無いんだ。

 だけれど、もうすぐやってくる発情期が怖い。

 唯一、理性を抑えられない時期だ。発情に狂った俺は何を口にしてしまうかわからない。だから発情期を一緒に過ごすのを今後は控えたい、それが俺の差し迫った悩みだった。

 そんな悩みを週末、岩峰家にいた時にこっそりと勇吾さんに伝えた。

 あの時の、お爺様との会話は勇吾さんには言ってない。それはお爺様のプライベートの話も関係してくるからであって、仕事絡みの勇吾さんには言えないし、優しい勇吾さんはそんな事情を知らない方がいい。

 あの時から俺はお爺様に対して感情が変わった。俺は愛されている、そう思えるにも良い事件だったと思う。

 今では頼れる唯一の肉親であるのだから。勇吾さんも俺の態度の変化には驚いていたけど、いいんだ。俺はもう、愛情には素直に生きるんだから。

「で、勇吾さんどうしたらいいと思う?」
「そうだね、確かにこないだの絢香さんのつがいを知った時からまだ時間は過ぎてないし、良太君の中で消化しきれてないことは言葉に出てしまう可能性もあるからね、今回は僕と一緒に薬でやり過ごそうか?」

「迷惑かけるけど、そうしてくれると俺としては助かる」
「迷惑なんかじゃないよ、それに良太君に合うかもしれない抑制剤も一つ候補があるから、それもつがいがいるうちに試したかったんだ」

 ぼすっと、俺は勇吾さんに抱きついた。そんな俺の頭を撫でてくれた。勇吾さんにべったりとくっつくのは、先輩を愛していると自覚してから初めてかも。お爺様の想いを聞いた今、なんとなく勇吾さんと愛情を確認しても良いのかもと思えた。

「久しぶりに、僕だけに甘えてくれるの、楽しみだな。良太君が僕に遠慮しているのは少し寂しかったんだよ」
「そんなことない。俺が本当の意味で、嘘がなく甘えられるのは絢香や勇吾さんだけ。俺の本当の家族だけ。今は先輩とは仮のつがいごっこをしているだけだから」

 そう、先輩との生活は仮の姿。

 そうやって少しずつ自分自身を騙してき、別れた後に自分の心を守るんだ。俺の好きな人は勇吾さんだけになる日がもうすぐくる。

 忘れてはいけない。

 俺のやるべき、なすべき事を。
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