ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第七章 決断

157、最後の夏休み 7

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 風呂から上がると、いい匂いがしてきた。ちょうど肉や魚、野菜などがいい具合に焼きあがっているところだった。風呂上がりに冷たいレモネードをもらって、沢山遊んでお腹が空いた俺たちは思う存分バーベキューを楽しんだ。

「楽しいな先輩、こういうの素敵ですね」
「ああ、良太が隣にいて笑って、本当に素敵な夜だ」

 一通りおなかいっぱい食べて、先輩と二人まったりとしていた。

 先輩のご両親は俺たちのイチャイチャなんて気にする必要がないくらい、息子たちの前で抱き合ったり、食べさせあったりしていた。

「お腹いっぱい! 先輩は? 何か取りますか?」
「いや、そろそろ良太が食べたいな」
「ふふっ、僕は食べ物じゃありませんよっ」
「じゃあ、今はその肉でいいから食べさせてっ」

 先輩の両親に当てられて、なんだか俺も先輩とくっついて居たくなった。でもご両親はアツすぎる。最初は一緒にバーベキュー楽しんで話しながらご飯食べていたはずなのに、いつのまにかニ組のカップルに分かれて、イチャイチャタイムだ。人の家のことだから何も言えないけど、目のやり場に困るのは確かだ。

 あっ、なんかあの二人の雰囲気がさらに怪しくなっている。先輩は俺の前に口を開けて待っているから見えてないけど、俺からは丸見えだよ。

 お母さんがお父さんの膝の上に座って、キスした! しかも濃厚なヤツ。えっ、いいの? ここに息子さんいますよ――。ディープキスだよね、あれ。俺は流石に焦ってしまって、先輩に食べさせるために持っていた肉を落としてしまった。

「ん? 良太? どした、お肉持つのに疲れちゃった?」
「え、ああっ!」

 落とした肉を先輩が拾って、ゴミ箱に入れた時、先輩も俺と同じ方向を見てしまった!

「あぁ、あれ見て驚いたの? うちじゃよくある光景なんだけど、そっか、良太は人のラブシーンをあまり見たことないのか、ごめんね。あの人たち、外では真面目ヅラしてるからどうしても家族の前ではタガが外れちゃうみたいなんだ」
「いやっ、あのっ、なんかすいませんっ」

 俺は真っ赤な顔で下を向いた。

 いやいやいや――、さっきまで散々ラブラブな姿は見ていたけど、流石に、あの光景は、エロビデオだよ。今から始まっちゃうみたいな雰囲気だよっ、先輩は息子としてありなの!?

 えっ、普通の家庭ってこういうものなの? そもそも先輩は上流家庭だから、普通の家庭ではなくて、って俺? なんか頭の中がパニクってきたよ。そもそも両親揃ってなかった家だし、親は早くに亡くなったから、わからないよ――。普通って? 夫婦って?

「ふふっ、ちょっと待っていて」

 先輩はそんなパニクっている俺を楽しそうに見て、ご両親のところに邪魔をしにいった。えっと、いいの? アルファって自分のつがいを愛している時、息子とは言え、アルファが近くに来ても? なんか揉めているよな……。でもお母さんはケラケラと笑っていた。

 アルファ二人が言い合っているのって、迫力あるな。なんか俺が困ったから邪魔したわけで、俺っ、いたたまれない、帰りたいっ。

 流石にアルファ上位種の親子喧嘩は怖くて、俺はこっそり逃げ出そうとしてしまった。そしたらアルファ二人を呆れた顔で見ていたお母さんが俺に気がついた。

「ちょっとっ、良太君! 待って、ど、どこ行くの?」
「なんかっ、すいませんっ、家族水入らずのところに僕なんかがお邪魔したからっ、喧嘩になっちゃって。僕っ、帰りますっごめんなさいっ!」
「ええっっ? あっ、あのバカアルファ達がいけないねっ、ちょっと桜、良太君が逃げちゃうよ!」
「ああ?」

 ひっ、先輩の口が悪くなっている、怖い! お母さんが大声で先輩達に声をかけたら二人揃って怖い顔で俺を見る。

 怖いよ――。

 ここからどうやって帰ったらいいかはわからないけど、ここにいちゃいけない気がして半べそかいて走り出したら、その場で先輩が勢いよくこっちに来て抱きしめられた。

「良太! ごめんっ、良太のせいで喧嘩してたわけじゃなくてっ、ごめんね怖がらせたよね?」

 勢いよく抱きしめられたら涙が出てきた、だって怖かったし。

「ひっくっ、ごめんなさいっ、二人の迫力が怖くてっ、僕のせいでっ、ごめんなさいっ」
「違うよ、違うからっ」
「僕はっ、普通の家庭で育ってないから、あんな風な夫婦を見るのも初めてでっ、先輩とお父さんの親子喧嘩も怖くて。先輩が僕のせいでご両親に何か言ったから、喧嘩になったんでしょ?」
「いや、どちらかというと我が家がおかしいと思うよ? それに、あんなの喧嘩でもなんでもないよ。大丈夫だからっ、ねっ、疲れたならもうホテルに帰ろう」

 俺は先輩の胸に抱きしめられて、泣いてしまった。そしたらお父さんが心配そうに謝ってきた。

「良太君、すまなかった。そのっ、あまりに由香里が可愛くて、君たちがいるのにコトを始めそうになってた。悪かったね。家だとそのまま桜は自室に行ったり、使用人は気を利かせて居なくなるからっ、ついいつもの癖で。良太君も家族だと思って気が抜けてしまったみたいだ。本当に申し訳ないっ、由香里がまだ君と話したいと言ってるんだけど、もう嫌になったかな?」

 ええっ!

 やっぱり始めるところだったのか! 衝撃的だった。アルファ旦那あるあるなのこれ? なんかびっくりしすぎて涙も止まったよ。

「父さん! そんな直接的な言い方、恥じらいある良太が困ってるでしょ。もう少しデリカシーを持ってください。母さんみたいなオメガばかりではないのですからっ」
「たしかに良太君は恥じらいがあって、そりゃあ可愛いけど、俺の由香里をバカにするとはっ、息子でも許さないぞっ、痛っ!」

 お父さんがわめき出したら、お母さんに頭叩かれている。なんかコントみたいになってるよ。怖く無くなったかも?

「もう楓は黙れっ、良太君ほんとうごめんねっ、びっくりしたよね。アルファ二人が話し始めるといつもこういう変な方向にいくからさっ。良太君は少しオメガの僕と話そうねっ、ああっこんなにお目目赤くして、かわいそうにっ、お前達はもう片付け組だ。こっちの邪魔しないでねっ、良太君を怖がらせた罰は、全てのお片づけだよっ。それから楓、今夜はもう無しだからね」
「由香里、そんなっ、」

 そんな情けない顔をしたお父さんは素直に片付けを始めた。それに先輩もその指示に従っている、あらためてお母さんの凄さを知った。

「凄い。あの凄いアルファ二人が使用人みたいになってる……」

 俺がボソっと言うと、お母さんはケラケラと豪快に笑った。

「そうだよ、どんなに凄いアルファだって、つがいのオメガには逆らえないんだ。それに桜は僕の息子だからねっ、なんだかんだ言っても僕の言うことは聞いてくれるんだよ、案外いい子でしょ。良太君もいずれ子供を産んだら、桜と子供は良太君のいいなりになるから楽しみにしておいで」
「こども……」

 それを聞いて少し悲しくなった。

 そんな未来は来るはずもない、そんなことは言えなかった。この人は俺がすでに嫁にきているくらいに思ってくれているから。

「そんな顔しないで、まだ先だよ。怖いよね、男が子供を産むとか。でもその時が来たら自然に怖い気持ちは無くなるから」

 俺の頭をポンポンって叩いてくれるその手はすごくいい匂いがして、また母さんのことを少し思い出してしまって、胸が苦しくなった。

「ん? どしたの、また泣きそうになって」
「あっ、いえ、すいません、由香里さんの手はなんだか亡くなった母を思い出してしまって、その香りを嗅ぐとどうしても胸がキュってなって、でも心地よくて、勝手に浸っていてすいません」
「良太君は、幼い頃にお母様を亡くされたんだもんね、まだまだ子供でいたいのにできなかったんだ。これからは僕が君のお母さんなんだから、良太君は僕に無条件に甘えていいんだよ、僕の香りが落ち着くならいつでも抱きしめてあげるから」
「うっ」

 勝手に出てきてしまった涙を隠されるように、ぎゅっと抱きしめられた。

 男性なんだけど、先輩よりも線が細くて柔らかい、やっぱり母さんみたいだった。俺は思わずぎゅっと抱きしめ返して、スンって由香里さんの匂いを嗅いだ。

「ありがとうございます。凄く安心する。先輩とはまた違った安心感でとても落ち着きます」
「ふふっ、そう? 僕もまた可愛い息子ができて嬉しいな」

 穏やかに二人で話していると、アルファ親子はまじめに清掃をしていたのを終えたみたいで、こちらに合流した。

 部屋の中は使用人の方達が綺麗に整えてくれていて、外からみんなで撤収して室内に入り、テーブルに案内されて四人で食後のコーヒーを飲むことになった。
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