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第九章 運命の二人
200、閑話 〜それぞれの想い〜
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「岩峰先生! 予約の患者さんです」
「ああ、すぐ行くよ」
僕はあれから必死に仕事をこなしていた。あの新薬は爆発的なヒット商品となり、大成功だった。それに伴い、僕の診察も増えた。今はまだうちの病院からしか処方ができないことになっていたからだ。
あれから絢香さんは総帥の家に行くことなく、まだ我が家にいる。
それは傷ついた岬に寄り添うために。総帥は僕たち家族には罪悪感で一杯のようだった、だから総帥からも言われてきっと僕のことも見守ってくれているんだと思う。籍は入れて桐生絢香になっているが、名目上、新薬治験一号ということで、しばらくは泊まり込みでの診察も兼ねるということになった。
仕事は忙しかったが、僕も岬のケアのために早く家に帰るようにしていた。
「勇吾さん、お帰りなさい」
「絢香さん、ただいま。変わりなかったかい?」
「ええ、今日は高坂さんが一日遊んでくれて、みさちゃん、喜んでたよ」
「そうか、それは良かった」
あれからコトの真相を見届けた高坂は、心配で仕方ないからと、僕の家に居候している。ちょうど新薬のことでもアルファ側の医師が必要で、大学病院を辞めてうちの病院にきてくれた。
その時に全てを話した。
そして岬に会ったことのあるアルファでもあったので、高坂自らがトラウマ対策として早めに手を打った方が良いと言い、我が家に住み着いて岬と過ごしてくれている。結果、岬はあの後の良太君の処置も良かったのか、高坂も受け入れて、アルファへ対するトラウマもないようだった。
ただ、知らない大人を怖いという恐怖心はついてしまった。幼い子供が誘拐事件にあったんだ、そこだけは無邪気な子供ではいられなくなってしまった。性的被害にあったけれど不幸中の幸いなのは、まだバース性も感知できない子供だったせいか、あれがいやらしいことだとは理解していなかったので、オメガ性が傷ついたわけではないようだった。
「よう! 勇吾お疲れ様、また患者増えて大変そうだったな。あれから上條の薬もうちの病棟で使うことになって、こっちも少し増えてきたぞ」
「そう、今日も岬と遊んでくれてありがとう」
「ああ、岬は可愛い、素直でいい子だ。あの子を思いだす」
「そうだね」
リビングに行くと、酒を飲んで寛いでいる高坂がいた。早く帰ったつもりだったが、岬はもう眠ったようだった。
「勇吾さんもお酒、飲む? あっお腹が空いているかしら? ご飯もあるよ」
「うん。ご飯食べようかな、二人はもう済んだ?」
「ええ、みさちゃんと三人でお先にいただききました」
なんとも奇妙な暮らしをしている。総帥も高坂に危険は無いと判断して、絢香さんと一緒にいることを許しているし、再会した時に高坂はまだ僕を好きだと言った。総帥もなんとなくそれを感づいている、鋭い人だから。
僕はというと、とてもそんな気持ちにはなれないが高坂には感謝している。岬と絢香さんとの三人だと、多分前の流れを引きずってしまっただろう。新しい風というのは大切だった。ただただ感謝しかない。
「今日、桐生さんのところに行っていたんだけど、藤堂さんったら、まだ良のこと見張っているんだって。良を守るのは自分の使命だって言って、他の仕事は断るから困っていたわ。彼、優秀だから自分付きにしたいって、桐生さん嘆いていたわよ」
「藤堂さん、だいぶ良太君にのめり込んでいたもんね。良太君認定ストーカーとかって良太君から聞たことあるよ」
僕はふと、良太君と以前にした会話を思い出して笑ってしまった。
「ふふっ、良も珍しく藤堂さんには懐いていたものね、でもまだ良は外に出してもらえてないみたい」
「しばらくは難しいだろうね、あの子は相当愛されているし、あの子自身も上條を愛していたから、今は誰にも邪魔されずにやっと幸せになっているんじゃないかな?」
絢香さんはこの話題を出したことに、ハッとしてしまったみたいだ。
「勇吾さん……」
「絢香さん、そんな顔しないで。初めからわかっていたことだから、可愛そうなのは良太君だよ、彼を本気で愛していたのに、僕のことも本気で愛してくれたんだ」
「それは、見てればわかるよ。良はあなたが好きでたまらなかったわ」
絢香さんが悲痛な顔をした。絢香さんだって自分のせいで良太君がこの場からいなくなったって思っている。
「良太君の一番は、絢香さんだったけどね!」
「うふっ、それは当然でしょ。私があの子を十歳の頃から育てたんだから!」
そんな風に笑い合えるほど、傷はもちろん深いけど僕たちは前に進んでいる。
「なんか俺の知らない絆に妬けるな、絢香さんも一杯やらない?」
「あらっ高坂さん? 元ホステスを舐めない方がいいわよ。私相手にお酒なんて」
「わぉっ、それはお手柔らかにっ。勇吾も飯食ったらこっちで一杯やろうぜ」
「ああ、そうだね。今夜は飲もうかな」
高坂の明るさには僕も絢香さんも救われている。
――良太君、君は今、幸せかな?――
今はすでに上條君との発情期も無事に終えて、もう落ち着いている、そんな頃かな? 不器用な二人はきちんと愛を確認し合うことができたかな。
上條君の胸の中で甘えられている? それとも、僕たちを傷付けたと思って素直になれないでいるかな?
会えるなら会って伝えたい。もう重い、重い、鎖は捨てていいんだよって、僕たちはこうやって前を向いて生きている。
どうか良太君が今、心から満たされて幸せになってくれていることを願う。そればかりが僕の心を占めているよ。
「ああ、すぐ行くよ」
僕はあれから必死に仕事をこなしていた。あの新薬は爆発的なヒット商品となり、大成功だった。それに伴い、僕の診察も増えた。今はまだうちの病院からしか処方ができないことになっていたからだ。
あれから絢香さんは総帥の家に行くことなく、まだ我が家にいる。
それは傷ついた岬に寄り添うために。総帥は僕たち家族には罪悪感で一杯のようだった、だから総帥からも言われてきっと僕のことも見守ってくれているんだと思う。籍は入れて桐生絢香になっているが、名目上、新薬治験一号ということで、しばらくは泊まり込みでの診察も兼ねるということになった。
仕事は忙しかったが、僕も岬のケアのために早く家に帰るようにしていた。
「勇吾さん、お帰りなさい」
「絢香さん、ただいま。変わりなかったかい?」
「ええ、今日は高坂さんが一日遊んでくれて、みさちゃん、喜んでたよ」
「そうか、それは良かった」
あれからコトの真相を見届けた高坂は、心配で仕方ないからと、僕の家に居候している。ちょうど新薬のことでもアルファ側の医師が必要で、大学病院を辞めてうちの病院にきてくれた。
その時に全てを話した。
そして岬に会ったことのあるアルファでもあったので、高坂自らがトラウマ対策として早めに手を打った方が良いと言い、我が家に住み着いて岬と過ごしてくれている。結果、岬はあの後の良太君の処置も良かったのか、高坂も受け入れて、アルファへ対するトラウマもないようだった。
ただ、知らない大人を怖いという恐怖心はついてしまった。幼い子供が誘拐事件にあったんだ、そこだけは無邪気な子供ではいられなくなってしまった。性的被害にあったけれど不幸中の幸いなのは、まだバース性も感知できない子供だったせいか、あれがいやらしいことだとは理解していなかったので、オメガ性が傷ついたわけではないようだった。
「よう! 勇吾お疲れ様、また患者増えて大変そうだったな。あれから上條の薬もうちの病棟で使うことになって、こっちも少し増えてきたぞ」
「そう、今日も岬と遊んでくれてありがとう」
「ああ、岬は可愛い、素直でいい子だ。あの子を思いだす」
「そうだね」
リビングに行くと、酒を飲んで寛いでいる高坂がいた。早く帰ったつもりだったが、岬はもう眠ったようだった。
「勇吾さんもお酒、飲む? あっお腹が空いているかしら? ご飯もあるよ」
「うん。ご飯食べようかな、二人はもう済んだ?」
「ええ、みさちゃんと三人でお先にいただききました」
なんとも奇妙な暮らしをしている。総帥も高坂に危険は無いと判断して、絢香さんと一緒にいることを許しているし、再会した時に高坂はまだ僕を好きだと言った。総帥もなんとなくそれを感づいている、鋭い人だから。
僕はというと、とてもそんな気持ちにはなれないが高坂には感謝している。岬と絢香さんとの三人だと、多分前の流れを引きずってしまっただろう。新しい風というのは大切だった。ただただ感謝しかない。
「今日、桐生さんのところに行っていたんだけど、藤堂さんったら、まだ良のこと見張っているんだって。良を守るのは自分の使命だって言って、他の仕事は断るから困っていたわ。彼、優秀だから自分付きにしたいって、桐生さん嘆いていたわよ」
「藤堂さん、だいぶ良太君にのめり込んでいたもんね。良太君認定ストーカーとかって良太君から聞たことあるよ」
僕はふと、良太君と以前にした会話を思い出して笑ってしまった。
「ふふっ、良も珍しく藤堂さんには懐いていたものね、でもまだ良は外に出してもらえてないみたい」
「しばらくは難しいだろうね、あの子は相当愛されているし、あの子自身も上條を愛していたから、今は誰にも邪魔されずにやっと幸せになっているんじゃないかな?」
絢香さんはこの話題を出したことに、ハッとしてしまったみたいだ。
「勇吾さん……」
「絢香さん、そんな顔しないで。初めからわかっていたことだから、可愛そうなのは良太君だよ、彼を本気で愛していたのに、僕のことも本気で愛してくれたんだ」
「それは、見てればわかるよ。良はあなたが好きでたまらなかったわ」
絢香さんが悲痛な顔をした。絢香さんだって自分のせいで良太君がこの場からいなくなったって思っている。
「良太君の一番は、絢香さんだったけどね!」
「うふっ、それは当然でしょ。私があの子を十歳の頃から育てたんだから!」
そんな風に笑い合えるほど、傷はもちろん深いけど僕たちは前に進んでいる。
「なんか俺の知らない絆に妬けるな、絢香さんも一杯やらない?」
「あらっ高坂さん? 元ホステスを舐めない方がいいわよ。私相手にお酒なんて」
「わぉっ、それはお手柔らかにっ。勇吾も飯食ったらこっちで一杯やろうぜ」
「ああ、そうだね。今夜は飲もうかな」
高坂の明るさには僕も絢香さんも救われている。
――良太君、君は今、幸せかな?――
今はすでに上條君との発情期も無事に終えて、もう落ち着いている、そんな頃かな? 不器用な二人はきちんと愛を確認し合うことができたかな。
上條君の胸の中で甘えられている? それとも、僕たちを傷付けたと思って素直になれないでいるかな?
会えるなら会って伝えたい。もう重い、重い、鎖は捨てていいんだよって、僕たちはこうやって前を向いて生きている。
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