1 / 12
1
日本庭園の秋
しおりを挟む
私は秋が得意ではありませんでした。修学旅行で奈良に行ったときも。東大寺大仏殿に行ったときのことです。
友だちはみんな私と一緒に写真を撮ろうとしました。すべて断りました。
みんなは「どうして?」と不思議がりました。
彼らには『見えて』いなかったんです。私には紅葉が、灰色に写っていることを。
紅葉って儚く散ります。その散った紅葉をゴミ箱に捨てます。
私は小さい頃思いました。
「どうして、あんなに綺麗に咲いていた紅葉を捨てちゃうの」
両親は言いました。
「それはね、そういうものなの」
友だちといっても、偽りの関係でした。だって彼らは何か自分たちが都合のいいときだけ、私を「使う」んです。
用事がなくなれば、ポイ、でした。私の携帯に入っている連絡先は、コロコロと変わりました。私からメールを送っても、エラーで返ってくることなんて、数え切れないぐらいありました。
そんな私と紅葉を重ねあわせていて。私は秋が嫌いでした。友だちも嫌いでした。
すべて、信じることができませんでした。
貴方と出逢うまでは。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
修学旅行から十数年経ち、私は社会に揉まれていました。
大学生の時に、文字通りの「友達」はできましたが、卒業後は連絡はとっていません。
心のどこかでは、ポッカリ穴が空いていたのです。
思っている以上に、大きく。
「今年も秋が来たか…」と呟くと、足元に紅葉が。
真っ赤に染まり綺麗なはず。
だけどあのころと変わらず、灰色にしか見えないのです。
はぁ…とため息を一つついたあとに、最近の「癒し」を聴くために、イヤフォンを耳に刺しました。
「こんばんは。私の周りでは紅葉が色づき始め、まるで絨毯のようになってきましたよ。みなさんのところではどうですか?」
低く淡々としているけれど、真っ直ぐな声。
貴方の声を聞いた時に、そう思いました。
疲れ切った私の心に一筋の光が入り、また声を聴きたいと感じました。
何度も聴くうちに、今度は直接お話ししてみたいと思うようになりました。
気づけば指が動いてました。
「よろしかったら直接お話しませんか」
貴方は快く受け入れてくれましたね。
趣味や世情、日ごろ考えていることを、数え切れないくらい話しました。
気づけばお互いに口にしていたのは
「逢って語ろう」
約束の日になりました。
秋になり、紅葉が赤く染まり始めた頃です。
待ち合わせ場所に着き、貴方の姿をみました。
「…………」
気づけばお互い見つめ合っていました。
目を合わせることが苦手な私ですが、不思議と不快感はありませんでした。
実際に会うのは「初めて」なのに、よそよそしさは無く、いつものような会話が始まりました。
その場の流れか、突然の思いついたのかは定かではありません。
ある提案をしました。
「庭園を散歩したいです」
平日の日中。大都会の日本庭園。
木陰のベンチに座り、紅葉の鮮やかさに圧倒されました。
時間はゆっくり流れ、言葉を交わすことなく、ただ眺める。
今まで感じたことの無いくらい、心が癒されていきました。
庭園をのんびり歩きながら、貴方は言いました。
「私は、長いトンネルを歩いていました。暗い、本当に暗いトンネルでした。
私にはそのトンネルが『長すぎました』。
私の周りの人たちは、『桜の花道』を歩いていました。
いつしか、私は、『景色』を見ることをやめました。
でも、『今』からは。
私にも『桜の花道』を歩くことができそうです。
本当に、逢えてよかった」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あっという間に終わりの時間がやってきました。
私の足元に紅葉が降ってきました。
「綺麗…」
自然と口に出していました。
貴方と出会い、灰色だった日常に彩りが戻ってきました。綺麗な日常です。秋がいちばん好きになりました。
私は気付いたんです、冬を待たなければ、『さくら』は咲かないことを。春と秋は、はなれ離れではありません。夏がつないでくれます。『四季』っていいな、とても好きです。
秋っていいですね。私は秋の夜長で、本も読むようになりました。本も好きになりましたよ。
貴方は去り際に『またね』と言ってくれました。
『さようなら』ではありませんでした。
言葉ではうまくあらわせないけど、私はそれがとても嬉しかったのです。
その日から、私にとって貴方は『貴方』になりました。
そして。私は『私』になりましたよ。
友だちはみんな私と一緒に写真を撮ろうとしました。すべて断りました。
みんなは「どうして?」と不思議がりました。
彼らには『見えて』いなかったんです。私には紅葉が、灰色に写っていることを。
紅葉って儚く散ります。その散った紅葉をゴミ箱に捨てます。
私は小さい頃思いました。
「どうして、あんなに綺麗に咲いていた紅葉を捨てちゃうの」
両親は言いました。
「それはね、そういうものなの」
友だちといっても、偽りの関係でした。だって彼らは何か自分たちが都合のいいときだけ、私を「使う」んです。
用事がなくなれば、ポイ、でした。私の携帯に入っている連絡先は、コロコロと変わりました。私からメールを送っても、エラーで返ってくることなんて、数え切れないぐらいありました。
そんな私と紅葉を重ねあわせていて。私は秋が嫌いでした。友だちも嫌いでした。
すべて、信じることができませんでした。
貴方と出逢うまでは。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
修学旅行から十数年経ち、私は社会に揉まれていました。
大学生の時に、文字通りの「友達」はできましたが、卒業後は連絡はとっていません。
心のどこかでは、ポッカリ穴が空いていたのです。
思っている以上に、大きく。
「今年も秋が来たか…」と呟くと、足元に紅葉が。
真っ赤に染まり綺麗なはず。
だけどあのころと変わらず、灰色にしか見えないのです。
はぁ…とため息を一つついたあとに、最近の「癒し」を聴くために、イヤフォンを耳に刺しました。
「こんばんは。私の周りでは紅葉が色づき始め、まるで絨毯のようになってきましたよ。みなさんのところではどうですか?」
低く淡々としているけれど、真っ直ぐな声。
貴方の声を聞いた時に、そう思いました。
疲れ切った私の心に一筋の光が入り、また声を聴きたいと感じました。
何度も聴くうちに、今度は直接お話ししてみたいと思うようになりました。
気づけば指が動いてました。
「よろしかったら直接お話しませんか」
貴方は快く受け入れてくれましたね。
趣味や世情、日ごろ考えていることを、数え切れないくらい話しました。
気づけばお互いに口にしていたのは
「逢って語ろう」
約束の日になりました。
秋になり、紅葉が赤く染まり始めた頃です。
待ち合わせ場所に着き、貴方の姿をみました。
「…………」
気づけばお互い見つめ合っていました。
目を合わせることが苦手な私ですが、不思議と不快感はありませんでした。
実際に会うのは「初めて」なのに、よそよそしさは無く、いつものような会話が始まりました。
その場の流れか、突然の思いついたのかは定かではありません。
ある提案をしました。
「庭園を散歩したいです」
平日の日中。大都会の日本庭園。
木陰のベンチに座り、紅葉の鮮やかさに圧倒されました。
時間はゆっくり流れ、言葉を交わすことなく、ただ眺める。
今まで感じたことの無いくらい、心が癒されていきました。
庭園をのんびり歩きながら、貴方は言いました。
「私は、長いトンネルを歩いていました。暗い、本当に暗いトンネルでした。
私にはそのトンネルが『長すぎました』。
私の周りの人たちは、『桜の花道』を歩いていました。
いつしか、私は、『景色』を見ることをやめました。
でも、『今』からは。
私にも『桜の花道』を歩くことができそうです。
本当に、逢えてよかった」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あっという間に終わりの時間がやってきました。
私の足元に紅葉が降ってきました。
「綺麗…」
自然と口に出していました。
貴方と出会い、灰色だった日常に彩りが戻ってきました。綺麗な日常です。秋がいちばん好きになりました。
私は気付いたんです、冬を待たなければ、『さくら』は咲かないことを。春と秋は、はなれ離れではありません。夏がつないでくれます。『四季』っていいな、とても好きです。
秋っていいですね。私は秋の夜長で、本も読むようになりました。本も好きになりましたよ。
貴方は去り際に『またね』と言ってくれました。
『さようなら』ではありませんでした。
言葉ではうまくあらわせないけど、私はそれがとても嬉しかったのです。
その日から、私にとって貴方は『貴方』になりました。
そして。私は『私』になりましたよ。
0
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
後悔などありません。あなたのことは愛していないので。
あかぎ
恋愛
「お前とは婚約破棄する」
婚約者の突然の宣言に、レイラは言葉を失った。
理由は見知らぬ女ジェシカへのいじめ。
証拠と称される手紙も差し出されたが、筆跡は明らかに自分のものではない。
初対面の相手に嫉妬して傷つけただなど、理不尽にもほどがある。
だが、トールは疑いを信じ込み、ジェシカと共にレイラを糾弾する。
静かに溜息をついたレイラは、彼の目を見据えて言った。
「私、あなたのことなんて全然好きじゃないの」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる