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転生したくない 【良い】はそっちの意味じゃない

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平凡な家に生まれ、普通の成績で普通の学校を卒業して平平凡凡をした生活を送り、死んだ。
心残りと言えば、新婚旅行で海外に行かなかったことか。
結局、一度たりとも海外に行くことなく日本と言う場所に閉じこもって終わったことぐらい。

「え、転生ですか」
「そうですか、別に刺激など求めていませんが、ええ、普通に。そうして生きて来ましたし」
「もっと幸せな生活ですか。いえ、今世も十分満足してます。大丈夫です」
「いえ、大丈夫の意味はそっちではなく。はい」
「ハイもそっちの意味じゃないです。え、いや待って」


・・・
「ち、男か。商館に男が生まれてもいらねーだよ」

 え、生まれたばかりなのに、なんで逆さに持って。ちょっ、やめ……

「神様、あやまっても無駄です。もう良いんですって」
「あ、【良いです】はそっちの意味じゃなくて、うわー」

「じゃあ、この子のことよろしくお願いします。ありがとございました」
口減らしに奴隷として売られた。
今は10歳ぐらいか。
10歳の子供なんて、働かせてもろくな手伝いもできないのに。
「ここに入れ」
 周りには沢山の子供や老人、手足の無い大人。
「さっさと歩け、あの台の上に乗るんだ」

 鞭を持った男が鞭をバシバシ叩いて脅してくる。
 皆が一列になって台の上に並んでいく。
 僕も良くわからないまま前に人に付いて行く。
 最後の人が台に上がると、入り口が閉められた。
 今は、動物園の檻の中にぎゅうぎゅうに人を詰めた状態だ。

 なにやら周りから御経のような文言が聞こえてくる。
 暗い中よく見るとこの檻を囲んで沢山の黒いローブを来た大人が居た。
 皆が小声で御経を唱えているようだ。
 それからすぐに老人が倒れた。僕も力が抜けていき立っていられなくなる。
 座ったり寝そべったりするような広さはなく、倒れた人の上に重なるように別の人が倒れ込む。僕も誰かの上に倒れ、その上に人がかぶさって来た。重いがそんなことよりももっと重要なことがある。力が入らないだけではなく自分の意識が消えていくのが解る。

 これ、生贄を使ったなんかの儀式だ。どう見ても良くないやつ。
 生まれ変わって意識を取り戻してまたすぐに死ぬのか。

「神様、またですよ。あやまっても無駄です。もう良いって言ったでしょ。転生なんか」
「あ、許してくれるのって、良いってそっちの意味じゃないって前も……」

 うえ、なんで4本足。
 周りいるのは牛と人間。
 僕は牛なのか……
 子牛…… 解ってるって。
 ほらね……
 

「あんまり痛くはなかったけど、母牛のミルク。つまり、牛乳飲んで育ってそれですぐですよ。楽しむことも何もなく肉にされたんですよ。だからもう生まれ変わりたく無いんです」
「最後が牛は悪かったって、悪いとも思ってないでしょ」
「なんで今回はそんなに口が悪いかって」
「だって良いようにいったらそれで許されたって言うんでしょ。今回は許しません」
「だから輪廻に帰してくださいよ」
「最後にもう一度だけ。わかりましたよ。ほんとに。最後ですかね」

「ほら、やっぱり。女に生まれて少女のうちに売られて、妊娠したら捨てられて、馬車にひかれて終わりって、だから言ったでしょ。異世界なんて良いことなんですよ。あの世界、一体何人の人が天寿を全うしているんですか」
「そうでしょ、ほら。そんな宝くじが当たる程度の確率と一緒なんだから。平凡な私がそんな確率で恵まれた人生送る中に入るわけない。もっと現実を見てください」
「え、世界の魂が擦り切れて消滅しかかっている。まあそうでしょうね。だいたい少女時代の僅かな期間しか生活していませんが、神を信仰している人、一人もいませんでしたよ。そういえば信者もいないのに、あなたよく神様続けていますね」
「どうしたら良いって?」
「転生者のチートで生活向上させたかった」
「うーん、それ以前に問題がありますよ。転生者が生きていけないのだから。そうですね、貴方が直接転生して神の御業を見せつけ、神様を信仰する宗教でも作ったらどうですか。そうして神殿か行道徳を教え導いて行けば」
「え、できない。じゃあ転生者にチート能力は。そもそも私に魔法が使えたら、え、無理」
「うーん、無理ですね。そういうことで、私はそろそろ消えたいので、他の魂と遊んでください。じゃあ」

「うげ、なんでまた生まれ変わっているんだ。知らないうちに聖職者になって、前世思い出したタイミングが悪魔認定されて明日死刑とは。だから無理って言ったのに」

「ほら、無理だって。え、かなり満足。あれから100年経ってる。聖者認定で宗教ができた。唯一神になったの。へーだいぶ道徳が向上。文化も出て来た。そうですか。で何の用ですか?」
「そろそろどうかって、恩があるから。いや良…… アブね。だめです。生まれ変わりません。もう消滅させて。ほんと。マジ。生まれ変わるぐらいなら銅像になって世間を見ている方がマシって。いや本気じゃないから。ダメーーーーー」

「いや、像が壊れるまで1000年もあって、人の人生見るの楽しいだろって。ちゃんと報告に来る人まれだから。覚えきれないし、1回しか来ない人続きが気になるだけだから。神格化?そんな馬鹿な。変われって、嫌ですよ。あっちの大陸の神になれって、地球の宗教戦争知らなんですか。唯一神で宗教一つしかないのならその方がっ」

「あっちの大陸じゃなくて、別の世界じゃないか。まだサルみたいなのしかいないし。この世界を見守るの。やだなー。まあしょうがない。神のシステムのマニュアルはこれか。うわこれか転生者の呼び出し。うーん、まだ呼び出すのは無理か。しょうがないしばらく我慢するか、呼び出せるようになったら転生者で遊ぼう・・・・・・」
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