2 / 13
二
しおりを挟む
施設で過ごす子ども達にとって、この少年ホーム光は家である。朝起きて皆で食事を摂り、身支度をさせると「いってらっしゃい」と学校へと送り出す。夕方は「おかえり」と出迎え、共に宿題をしたり余暇を過ごしたりして、夕食や入浴、就寝。
休日においては、朝食後に宿題や勉強をする学習の時間を設けてある。昼食後は基本的に自由。許可なく外出することは許されていないため寮の敷地内で過ごすことにはなるのだが、グラウンドで職員と一緒に運動をしたり、テレビを見たりゲームをしたり、各々の余暇活動によってその日を過ごす。
おれ達職員にとっては職場だが、彼らにとってはここは家なのだ。遊んで過ごす者、ダラダラ過ごす者。そいつらを見守り、時に職員も同じ様にして過ごす。寝食を共にしながら、そこに寄り添う形で職員が勤めることとなる。とはいえやはり、職員にとっては仕事である。早番、遅番、時に宿直といった勤務形態で子ども達と関わる。おれは家から出てきてここで仕事という名目で彼らと一日の大半の生活を共にし、勤務時間が終われば自分の家へと帰る。自分の家と彼らの家を行き来し、そこに仕事という名目があることに、違和感とまでは言わないが、何だか不思議な心持ちがしていた。
この日は休日。遅番だったおれは、子ども達に出迎えられる様にして出勤する。何気無しに昨日まで通り三階の職員室へと向かった。早番の職員と挨拶を交わし、先輩にコーヒーを淹れ、ひとしきり引き継ぎを聞いていたのだが、今日早番であるはずの菊崎の姿を見ていないことに気付いた。またどこかしらで子どもと遊んでいるのかもしれない。子ども達と遊ぶのも児童養護施設での職務の一つである。遊びを通して子どもの内面に触れ、関係を築いていく。勤務に入りはじめた春休みなどはおれも、天気の良い日には小学生達にグラウンドに引っ張り出され、クタクタになるまで駆け回った。日が暮れるまで遊び、そして共に飯を食らう。何でも無く思える日常の積み重ねの先に、子ども達からの信頼が待っているのであろう。
リビングから奥に進むと、ベッドが備えられた居室がある。梯子が据えられた、ロフトの様な二段ベッドの様な。ベッドの下の部分には机と収納。それが各部屋四つ。つまり四人相部屋。それが廊下に沿って十部屋程ある。この各々の場所で、学習の時間には宿題をこなしたり、余暇を過ごしたりする。
その一室に菊崎はいた。床にはゴミが飛散している。よく見るとそのゴミは学習ドリルの様な問題集だと分かった。ただその有様はというと、何ページもビリビリに破かれ原型を留めていない。これはどう見てもゴミだ。おれがどうしたのかと尋ねる前に、おれに気付いた菊崎がその答えを口にした。
「お!田村君、おはよう!勇輝がさ、破っちゃったんだよね」
これをやらかしたのは、新中学生の勇輝。朝の学習の時間、自室の机で漫画を読んでいた勇輝に職員が注意をしたところ逆ギレをして、そばに置いてあったこの問題集を破って投げ捨てたとのこと。破いたことと、ひとまずは片付ける様にと注意は促したが、その指示は無視して放置していったのが現状である。出勤の際にグラウンドでも、三階に上がってからも勇輝の姿は見当たらなかった。二階フロアの高校生の所にでも遊びに行っているのだろう。
環境が大きく変わる新年度。大人でも、社会人の一年生や二年生なら五月病などという心の病に罹る者がいるらしいから、中学生になったばかりの勇輝の内面が安定しないことも分からなくもない。ましてや親元ではなく、集団での寮生活。毎年の様にとまではいかずとも、担当職員も変わっていき、現に今年度からはおれや菊崎の様な新米までいる。
小学生の宿題を見ていた菊崎は、その問題集を破り捨てる現場に直接的に居合わせてはいないらしいが、さすがに捨て置く訳にはいかないと思ったらしく、その後取った行動は……。
「こいつをテープで貼り合せてんだけどね、まぁ捗らないわけよ」
菊崎はカラカラと笑っている。おれにはどうも笑って取り組める様なものには思えなかった。よくよく飛散した切れ端を見ると、ご丁寧に細かく破かれた物もあり、それら全てを繋ぎ合わせるとなると、考えただけで気が遠くなった。ジグソーパズルさながら、設問や図形を見ながら一つ一つ揃えてはテープで貼っては探してを繰り返す。これが理科の問題集の様子だからまだマシなのであろう。ひたすら文字や文章だらけの国語の本であったならと考えると……。
おれと同じく遅番でやってきた職員も、一緒にこの有様の訳を聞いていたのだが、本人にやらせれば良いという様なことを再々と。『てめぇで壊した物はてめぇで直せ』。確かにそれは道理であるし、おれも口にこそはしなかったが、菊崎に対して同じ想いを抱いた。だが、そもそも勉強したくないから勉強していなかった者が、わざわざ破り捨てた勉強道具を自分で直すだろうか。学校の教科書ならまだしも、自主学習用に購入された、個人的に持たされた問題集だ。破って捨てて終わり、そう思って放っておいているに決まっている。現に勇輝は、菊崎が問題集を復元していることは知らないのであろう。
夕食前、グラウンドで子ども達と遊び終わり、改めて勇輝の居室を見ると、塵っ葉一つもなく片付けられていた。早番の者は、定時が十五時。定刻通りに颯爽と笑顔で帰っていった菊崎だったが、復元が終わったとは思えない。夕食後、勇輝に問題集のことを尋ねたが、「知らない」と言うのだからやはり、修復し終わって、勇輝の手に返したのではないことは確かであった。
二日後、おれは菊崎と共に遅番勤務であった。菊崎は、勇輝が帰寮してくるなり職員室へと呼びつけた。室内で事務仕事をしていたおれは、席を外そうかと菊崎に訊いたが、構わないというので、二人の様子を横目にそのまま仕事を続けることにした。
二人は椅子を差し向かいにして座ると、菊崎は自分のリュックから汚い本を取り出し、ポンと勇輝の膝に置いた。
「とりあえず直せるところまでは直した。所々見つかんなかったけどよ」
汚いそれは、セロテープでつぎはぎだらけの問題集であった。勇輝は問題集を手に取り中を検めている。おれの方から見ても、所々端っこが欠けていたり、穴が空いているらしきページもあったが、確かに元に戻っていた。
「ただなぁ……。こんだけテープだらけじゃあ何も書けねぇよな」
ガハハと笑いながら菊崎が話すものだから、「確かに」と答える勇輝の方も少し口元が緩んでいた。
「俺が勝手にやったことだからさ、直って良かった良かった、で終わらせても良いんだけど、それじゃあ締まんねぇからよう、さすがに一つ二つは小言を言わせてもらうぞ」
菊崎は笑いをピタリと止め前のめりに座った。勇輝もその空気に合わせた様に顔を引き締め直し、おれも釣られて少し背筋が伸びた。
「こいつはお前のもんには違ぇねぇよ。てめぇのもんなんだから、てめぇでどうしようと勝手と言やぁ勝手……なんだが。事の経緯を聞くと、それで済ませちまうにはどうかなと思ってよ。勉強が嫌でサボってました。そこを注意されて腹が立ったので破いて捨てました。勉強なんざ七面倒だって気持ちは分かんなくもねぇし、その時たまたま虫の居所が悪かっただけなのかもしんねぇけどさ、これはあんまりじゃねぇか?」
勇輝は黙って聞いている。パソコンに向かってはいるが、おれの方もすっかり菊崎の話に耳を傾けていた。
「俺もガキの時分にゃあ、『勉強なんざ馬鹿のやる事だ!』って大してやってはきてねぇし、だったらどうすりゃ良かったんだって言われても困りはするんだけどよう。少なくとも、お前の為を想って言ってくれてはいたんだろうから、すっかりボロになっちまったけど、こいつを持って注意してきた職員に一つ、頭下げに行っといた方が良いんじゃねぇか?」
勇輝は黙って頷いていた。話が終わると勇気は立ち上がり、職員室から出て行く間際に「菊崎さん、ごめんよ」と一言残していった。
「俺に謝れって言ったんじゃねぇのに、全く」と、気恥ずかしそうに菊崎は独り言を漏らしていた。
休日においては、朝食後に宿題や勉強をする学習の時間を設けてある。昼食後は基本的に自由。許可なく外出することは許されていないため寮の敷地内で過ごすことにはなるのだが、グラウンドで職員と一緒に運動をしたり、テレビを見たりゲームをしたり、各々の余暇活動によってその日を過ごす。
おれ達職員にとっては職場だが、彼らにとってはここは家なのだ。遊んで過ごす者、ダラダラ過ごす者。そいつらを見守り、時に職員も同じ様にして過ごす。寝食を共にしながら、そこに寄り添う形で職員が勤めることとなる。とはいえやはり、職員にとっては仕事である。早番、遅番、時に宿直といった勤務形態で子ども達と関わる。おれは家から出てきてここで仕事という名目で彼らと一日の大半の生活を共にし、勤務時間が終われば自分の家へと帰る。自分の家と彼らの家を行き来し、そこに仕事という名目があることに、違和感とまでは言わないが、何だか不思議な心持ちがしていた。
この日は休日。遅番だったおれは、子ども達に出迎えられる様にして出勤する。何気無しに昨日まで通り三階の職員室へと向かった。早番の職員と挨拶を交わし、先輩にコーヒーを淹れ、ひとしきり引き継ぎを聞いていたのだが、今日早番であるはずの菊崎の姿を見ていないことに気付いた。またどこかしらで子どもと遊んでいるのかもしれない。子ども達と遊ぶのも児童養護施設での職務の一つである。遊びを通して子どもの内面に触れ、関係を築いていく。勤務に入りはじめた春休みなどはおれも、天気の良い日には小学生達にグラウンドに引っ張り出され、クタクタになるまで駆け回った。日が暮れるまで遊び、そして共に飯を食らう。何でも無く思える日常の積み重ねの先に、子ども達からの信頼が待っているのであろう。
リビングから奥に進むと、ベッドが備えられた居室がある。梯子が据えられた、ロフトの様な二段ベッドの様な。ベッドの下の部分には机と収納。それが各部屋四つ。つまり四人相部屋。それが廊下に沿って十部屋程ある。この各々の場所で、学習の時間には宿題をこなしたり、余暇を過ごしたりする。
その一室に菊崎はいた。床にはゴミが飛散している。よく見るとそのゴミは学習ドリルの様な問題集だと分かった。ただその有様はというと、何ページもビリビリに破かれ原型を留めていない。これはどう見てもゴミだ。おれがどうしたのかと尋ねる前に、おれに気付いた菊崎がその答えを口にした。
「お!田村君、おはよう!勇輝がさ、破っちゃったんだよね」
これをやらかしたのは、新中学生の勇輝。朝の学習の時間、自室の机で漫画を読んでいた勇輝に職員が注意をしたところ逆ギレをして、そばに置いてあったこの問題集を破って投げ捨てたとのこと。破いたことと、ひとまずは片付ける様にと注意は促したが、その指示は無視して放置していったのが現状である。出勤の際にグラウンドでも、三階に上がってからも勇輝の姿は見当たらなかった。二階フロアの高校生の所にでも遊びに行っているのだろう。
環境が大きく変わる新年度。大人でも、社会人の一年生や二年生なら五月病などという心の病に罹る者がいるらしいから、中学生になったばかりの勇輝の内面が安定しないことも分からなくもない。ましてや親元ではなく、集団での寮生活。毎年の様にとまではいかずとも、担当職員も変わっていき、現に今年度からはおれや菊崎の様な新米までいる。
小学生の宿題を見ていた菊崎は、その問題集を破り捨てる現場に直接的に居合わせてはいないらしいが、さすがに捨て置く訳にはいかないと思ったらしく、その後取った行動は……。
「こいつをテープで貼り合せてんだけどね、まぁ捗らないわけよ」
菊崎はカラカラと笑っている。おれにはどうも笑って取り組める様なものには思えなかった。よくよく飛散した切れ端を見ると、ご丁寧に細かく破かれた物もあり、それら全てを繋ぎ合わせるとなると、考えただけで気が遠くなった。ジグソーパズルさながら、設問や図形を見ながら一つ一つ揃えてはテープで貼っては探してを繰り返す。これが理科の問題集の様子だからまだマシなのであろう。ひたすら文字や文章だらけの国語の本であったならと考えると……。
おれと同じく遅番でやってきた職員も、一緒にこの有様の訳を聞いていたのだが、本人にやらせれば良いという様なことを再々と。『てめぇで壊した物はてめぇで直せ』。確かにそれは道理であるし、おれも口にこそはしなかったが、菊崎に対して同じ想いを抱いた。だが、そもそも勉強したくないから勉強していなかった者が、わざわざ破り捨てた勉強道具を自分で直すだろうか。学校の教科書ならまだしも、自主学習用に購入された、個人的に持たされた問題集だ。破って捨てて終わり、そう思って放っておいているに決まっている。現に勇輝は、菊崎が問題集を復元していることは知らないのであろう。
夕食前、グラウンドで子ども達と遊び終わり、改めて勇輝の居室を見ると、塵っ葉一つもなく片付けられていた。早番の者は、定時が十五時。定刻通りに颯爽と笑顔で帰っていった菊崎だったが、復元が終わったとは思えない。夕食後、勇輝に問題集のことを尋ねたが、「知らない」と言うのだからやはり、修復し終わって、勇輝の手に返したのではないことは確かであった。
二日後、おれは菊崎と共に遅番勤務であった。菊崎は、勇輝が帰寮してくるなり職員室へと呼びつけた。室内で事務仕事をしていたおれは、席を外そうかと菊崎に訊いたが、構わないというので、二人の様子を横目にそのまま仕事を続けることにした。
二人は椅子を差し向かいにして座ると、菊崎は自分のリュックから汚い本を取り出し、ポンと勇輝の膝に置いた。
「とりあえず直せるところまでは直した。所々見つかんなかったけどよ」
汚いそれは、セロテープでつぎはぎだらけの問題集であった。勇輝は問題集を手に取り中を検めている。おれの方から見ても、所々端っこが欠けていたり、穴が空いているらしきページもあったが、確かに元に戻っていた。
「ただなぁ……。こんだけテープだらけじゃあ何も書けねぇよな」
ガハハと笑いながら菊崎が話すものだから、「確かに」と答える勇輝の方も少し口元が緩んでいた。
「俺が勝手にやったことだからさ、直って良かった良かった、で終わらせても良いんだけど、それじゃあ締まんねぇからよう、さすがに一つ二つは小言を言わせてもらうぞ」
菊崎は笑いをピタリと止め前のめりに座った。勇輝もその空気に合わせた様に顔を引き締め直し、おれも釣られて少し背筋が伸びた。
「こいつはお前のもんには違ぇねぇよ。てめぇのもんなんだから、てめぇでどうしようと勝手と言やぁ勝手……なんだが。事の経緯を聞くと、それで済ませちまうにはどうかなと思ってよ。勉強が嫌でサボってました。そこを注意されて腹が立ったので破いて捨てました。勉強なんざ七面倒だって気持ちは分かんなくもねぇし、その時たまたま虫の居所が悪かっただけなのかもしんねぇけどさ、これはあんまりじゃねぇか?」
勇輝は黙って聞いている。パソコンに向かってはいるが、おれの方もすっかり菊崎の話に耳を傾けていた。
「俺もガキの時分にゃあ、『勉強なんざ馬鹿のやる事だ!』って大してやってはきてねぇし、だったらどうすりゃ良かったんだって言われても困りはするんだけどよう。少なくとも、お前の為を想って言ってくれてはいたんだろうから、すっかりボロになっちまったけど、こいつを持って注意してきた職員に一つ、頭下げに行っといた方が良いんじゃねぇか?」
勇輝は黙って頷いていた。話が終わると勇気は立ち上がり、職員室から出て行く間際に「菊崎さん、ごめんよ」と一言残していった。
「俺に謝れって言ったんじゃねぇのに、全く」と、気恥ずかしそうに菊崎は独り言を漏らしていた。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる