社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし

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第2章

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頬に触れる温かさと、規則正しく響く心臓の音。
穏やかな揺れが俺を現実へと引き戻した。

「……ん……」

ゆっくりとまぶたを開けると、最初に目に入ったのはレイの顔だった。
彼の腕がしっかりと俺を支えていて、俺はまるで抱き込まれるように彼の胸に収まっている。

「……レイ?」

俺が掠れた声で呼ぶと、レイは微かに目を細めた。

「目が覚めたか」

低く落ち着いた声が、馬車の静寂の中で響く。

「……なんで、こんな……?」

ぼんやりした頭で状況を把握しようとするが、まだ完全に目覚めていないせいか、考えがまとまらない。
けれど、すぐに自分がどんな体勢になっているのかを理解した。

「……え、あ……ちょ、ちょっと待って、なんで俺、抱えられてんの!?」

思わず身を起こそうとするが、すぐに腹部に鈍い痛みが走る。

「……っ!」

体が強張り、息を呑む。

「無理をするな」

レイが優しく肩を押さえつけた。

「お前、昨夜の疲れが取れていないんだ。ずっと顔色が悪かったし、今朝も熱があった」

「……俺、熱なんて……」

言いかけたが、確かに体が妙にだるい。
そうだ。昨日はあのアランの一件があり、心配したレイがもう一日付近の村に宿をとったのだ。そして今朝に再出発したわけだが──。

「気づかなかったのか?」

レイはため息をつきながら、俺の額に手を当てた。
彼の指先はひんやりとしていて、妙に心地よかった。

「……微熱だな。連日の疲労とストレスが溜まってるんだろう」
「……ごめん、俺のせいで遅れてるな……」

素直に謝ると、レイの表情が少しだけ柔らぐ。

「これくらい大丈夫だ。もう少し休んでろ」
「でも、もう王都に着くんだろ?」
「まだ時間がある」
「そっか……」

俺は大人しく、レイの腕の中に身を預ける。
……本当は、このままでいたい。
けれど、それを口にするのは恥ずかしくて、結局黙ったままでいた。
そんな俺の様子を見ていたのか、レイがふっと小さく笑う。

「なんだよ?」
「……いや。お前、だいぶ素直になったなと思って」
「……そうかな?」

俺が疑問を口にすると、向かいの座席に座っていたエミリーが、くすっと笑った。

「ええ、とても」
「エミリー、お前もかよ……」
「ですが、それも良いことです。レイ様にもっと甘えてください」
「……っ!」

俺は思わず口を閉じた。
レイは無言のまま、少しだけ俺を引き寄せる。

「俺は、お前が俺に甘えるのは歓迎するが?」
「もうお前ら黙れ……!」

顔が熱くなるのを感じて、俺はレイの胸に額を押し付けた。
ああ、でもこの平和な空気はいいな……。
ここ最近、ちょっと荒んでいたこともあって、すごく安心する。
そうして暫く、馬車は静かに進み続けていた。
外は静かで、鳥のさえずりが微かに聞こえている。
俺はうとうとしながら、レイの体温に包まれていた。
こんなに安堵できるのは、きっとレイだからだろう。
再び目を閉じようとしたその時だった。

——「……カチリ」

何かが鳴った。瞬間、レイの体が硬直する。エミリーも背を伸ばした。
俺も、遅れて違和感を覚えた。

「……レイ?」
「……静かに」

レイは小さく呟きながら、すっと俺の体を抱えたまま移動し、俺を馬車の座席の下に押し込んだ。

「レイ?何……」
「エミリー」

レイが短く呼ぶと、向かいに座っていたエミリーがすぐさま反応する。

「何があった!?」

エミリーが外に声を飛ばしながら、窓を覗き込む。
その直後、

——ズバンッ!!

矢が馬車の壁を突き破り、座席のすぐ横に突き刺さった。

「う、わっ……!」
「伏せろ!!」

レイが叫び、俺を抱えて座席の下へ押し込む。

——外から、甲高い声が響く。

「標的を確認!フランベルクの鍵ではなく——アラン・エヴァンスの抹殺が優先だ!」

その言葉に、俺は息を呑んだ。

「……まさか……!」
「……アランを殺しに来たか」

レイの表情が険しくなる。
俺はようやく、襲撃者の正体を理解した。
——隣国の間者たちだ。
彼らは、俺たちではなく、後方の馬車に乗せられているアランを狙っている。
恐らくアランは捨て駒にされたのだろう。

「……どうする、レイ?」
「決まっている」

レイは剣を抜き、馬車の扉に手をかけた。

「アランには生きてもらわないと困る」

外の気配が、こちらに向かってくる。
レイの表情がさらに鋭くなるのを見て、俺は唇を噛んだ。
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