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第2章
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裁定から数日──俺たちは王都に滞在を続けていた。
表向きは平穏そのもの。
街の人々も変わらず活気にあふれ、通りは行き交う馬車と人で賑わっている。
けれど、その裏では何かが確実に動いていた。
レイや伯父上の調査によると、隣国の間者の動きは依然として活発で、王宮内にも不穏な動きを見せる貴族たちがいるという。
俺たちが王都を離れる前に、何かが起こるかもしれない——そんな不安が日増しに強くなっていった。
それと同時に、俺自身の体調も限界に近づいていた。
「……っ」
目の前がぐらりと揺れる。
王都のエヴァンス邸の広間でレイや伯父上と話している最中だった。
ふとした瞬間、全身から力が抜け、膝が折れそうになる。
「カイル!」
レイの腕が支えに入る。
「…………ちょっと目眩が……」
そう言おうとしたが、次の瞬間——意識が遠のいた。
——気がつくと、俺はベッドの上だった。
「……え?」
ゆっくりと目を開けると、見慣れた天蓋が視界に映る。
俺は客室にいた。
「気がついたか?」
低い声が響く。
ベッドのすぐそばに、レイが座っていた。
「……俺……?」
「倒れたんだ」
レイの声には、隠しきれない苛立ちが滲んでいた。
「何度も無理をするなと言ったはずだ。お前、自分の身体をどうするつもりなんだ?」
「……」
俺は何も言えなかった。
ただ、そうは言っても自分で無理をしている気はないのだ。
ただただ、いきなり体力ががっと消えていく。
「今はまだ動けるから大丈夫——そんな甘い考えでここまで来たんだろう?」
レイの視線が鋭くなる。
「でもな、カイル、お前はもう一人じゃないんだ。自分だけの問題じゃないことを、そろそろ理解しろ」
痛いほど、わかっている。
でも、それでも——
「……まだ、やれることはある……」
俺がそう言いかけたとき——
「やれることですって!?誰がそんな戯言を許可したのかしら!?」
——扉が勢いよく開き、伯母上が乗り込んできた。
「カイル!!いい加減にしなさい!!!」
怒りと心配が入り混じった表情で、俺の元へズカズカと歩み寄る。
「あなた、体調が悪いのに隠していたわね!?それで無理して倒れるなんて、いったい誰に似たのかしら!!!」
「え、いや、あの……」
「レイラでしょうね!!あの子は昔からそう!頑張り屋さん過ぎて!!」
「母上のせいにするのやめて!!?」
「私の妹は昔から無理をする子だったわ!!でもあなたはもっと酷いわね!!レイ、あなたも!!この子が無茶しないようにちゃんと監視してたの!?」
急に矛先を向けられたレイが、微妙な顔をする。
「……していたつもりですよ」
「つもり、じゃダメなのよ!!!あなたの伴侶でしょう!?もっとちゃんと管理しなさい!!」
レイが管理人みたいな言い方になってるなぁ……。
「でも大丈夫よ!!」
伯母上は突然ニッコリと笑った。
「ちゃんと対策は考えてあるわ」
「……対策?」
俺が訝しむと、伯母上は得意げに胸を張った。
「カイルの体調を安定させるには、ある秘薬が必要なのよ!」
「秘薬?」
レイが怪訝な顔をする。
怪しげな話になってないか?これ。
変な宗教とかじゃないよな……。
「ある薬師がね、王宮の庭園に生えている特殊な薬草を使えば、カイルの体調を整えられると言っていたの」
「それは……取りに行かないと……?」
俺がそう言いかけた瞬間——
「ええ、だから取ってきたわよ」
「…………は?」
沈黙。
今、なんて言った?
「取って……?」
「きた?」
レイと俺が同時に聞き返す。
「そうよ?」
伯母上は当たり前のように頷いた。
「王宮の庭園の薬草、もう用意してるから、あとは調合するだけよ!」
「いや、ちょっと待って!?王宮の庭園って、あの王族しか立ち入れない——」
「ええ、だからちょっとだけ拝借したの。問題ないわ」
問題しかないような……えぇ……。
「伯母上……いや、義母上……!?」
「なぁに?」
「それ……どうやって!?」
「詳しくは聞かないほうがいいわよ?」
絶対ヤバい方法だったやつだ……。
俺は頭を抱えた。
レイも、呆れたようなため息を吐いている。
「……まあいい。せっかく用意してくれたなら、ありがたく使わせてもらう」
「そうね!さっそく調合するわよ!」
——こうして、俺の体調を整えるための秘薬が、伯母上の手によって調合されることになった。
いや、伯母上だけではなくそれはもちろん、プロである薬師と一緒にだが。
そして出来上がった、どどめ色のどろりとした秘薬が俺の前に出された。
「これ……飲んでも大丈夫なやつ……?」
レイを見上げると、視線を逸らした。
お、お前……!
「さあ!ぐっと行くのよ!ぐっと!大丈夫よ!!変なものは入ってないから」
伯母上の隣で薬師も頷いた。
まじか……まじで飲むのか……。
どう見ても毒っぽいのに……。
俺は覚悟を決めてそれを飲む。
ネバついた液体が口の中に広がり──味は……。
……。
…………。
以外にも爽やかなもので飲みやすかった。
俺はその秘薬を飲み、少しずつ体調を取り戻し始めた。
「どう?」
伯母上が心配そうに見つめる。
「……うん、さっきより楽になった」
身体の芯から温まるような感覚がする。
「ただ……」
「まだ完全じゃないな」
レイが言う。
「無理は禁物だ。休み休み行動すること、約束しろ」
「……わかった」
俺は大人しく頷いた。
「絶対に無理させないでね!」
伯母上と母上が揃ってレイに釘を刺す。
「……わかっている」
レイは苦笑しながら頷いた。
——こうして、俺の体調はある程度回復し、王都での行動が可能になった。
表向きは平穏そのもの。
街の人々も変わらず活気にあふれ、通りは行き交う馬車と人で賑わっている。
けれど、その裏では何かが確実に動いていた。
レイや伯父上の調査によると、隣国の間者の動きは依然として活発で、王宮内にも不穏な動きを見せる貴族たちがいるという。
俺たちが王都を離れる前に、何かが起こるかもしれない——そんな不安が日増しに強くなっていった。
それと同時に、俺自身の体調も限界に近づいていた。
「……っ」
目の前がぐらりと揺れる。
王都のエヴァンス邸の広間でレイや伯父上と話している最中だった。
ふとした瞬間、全身から力が抜け、膝が折れそうになる。
「カイル!」
レイの腕が支えに入る。
「…………ちょっと目眩が……」
そう言おうとしたが、次の瞬間——意識が遠のいた。
——気がつくと、俺はベッドの上だった。
「……え?」
ゆっくりと目を開けると、見慣れた天蓋が視界に映る。
俺は客室にいた。
「気がついたか?」
低い声が響く。
ベッドのすぐそばに、レイが座っていた。
「……俺……?」
「倒れたんだ」
レイの声には、隠しきれない苛立ちが滲んでいた。
「何度も無理をするなと言ったはずだ。お前、自分の身体をどうするつもりなんだ?」
「……」
俺は何も言えなかった。
ただ、そうは言っても自分で無理をしている気はないのだ。
ただただ、いきなり体力ががっと消えていく。
「今はまだ動けるから大丈夫——そんな甘い考えでここまで来たんだろう?」
レイの視線が鋭くなる。
「でもな、カイル、お前はもう一人じゃないんだ。自分だけの問題じゃないことを、そろそろ理解しろ」
痛いほど、わかっている。
でも、それでも——
「……まだ、やれることはある……」
俺がそう言いかけたとき——
「やれることですって!?誰がそんな戯言を許可したのかしら!?」
——扉が勢いよく開き、伯母上が乗り込んできた。
「カイル!!いい加減にしなさい!!!」
怒りと心配が入り混じった表情で、俺の元へズカズカと歩み寄る。
「あなた、体調が悪いのに隠していたわね!?それで無理して倒れるなんて、いったい誰に似たのかしら!!!」
「え、いや、あの……」
「レイラでしょうね!!あの子は昔からそう!頑張り屋さん過ぎて!!」
「母上のせいにするのやめて!!?」
「私の妹は昔から無理をする子だったわ!!でもあなたはもっと酷いわね!!レイ、あなたも!!この子が無茶しないようにちゃんと監視してたの!?」
急に矛先を向けられたレイが、微妙な顔をする。
「……していたつもりですよ」
「つもり、じゃダメなのよ!!!あなたの伴侶でしょう!?もっとちゃんと管理しなさい!!」
レイが管理人みたいな言い方になってるなぁ……。
「でも大丈夫よ!!」
伯母上は突然ニッコリと笑った。
「ちゃんと対策は考えてあるわ」
「……対策?」
俺が訝しむと、伯母上は得意げに胸を張った。
「カイルの体調を安定させるには、ある秘薬が必要なのよ!」
「秘薬?」
レイが怪訝な顔をする。
怪しげな話になってないか?これ。
変な宗教とかじゃないよな……。
「ある薬師がね、王宮の庭園に生えている特殊な薬草を使えば、カイルの体調を整えられると言っていたの」
「それは……取りに行かないと……?」
俺がそう言いかけた瞬間——
「ええ、だから取ってきたわよ」
「…………は?」
沈黙。
今、なんて言った?
「取って……?」
「きた?」
レイと俺が同時に聞き返す。
「そうよ?」
伯母上は当たり前のように頷いた。
「王宮の庭園の薬草、もう用意してるから、あとは調合するだけよ!」
「いや、ちょっと待って!?王宮の庭園って、あの王族しか立ち入れない——」
「ええ、だからちょっとだけ拝借したの。問題ないわ」
問題しかないような……えぇ……。
「伯母上……いや、義母上……!?」
「なぁに?」
「それ……どうやって!?」
「詳しくは聞かないほうがいいわよ?」
絶対ヤバい方法だったやつだ……。
俺は頭を抱えた。
レイも、呆れたようなため息を吐いている。
「……まあいい。せっかく用意してくれたなら、ありがたく使わせてもらう」
「そうね!さっそく調合するわよ!」
——こうして、俺の体調を整えるための秘薬が、伯母上の手によって調合されることになった。
いや、伯母上だけではなくそれはもちろん、プロである薬師と一緒にだが。
そして出来上がった、どどめ色のどろりとした秘薬が俺の前に出された。
「これ……飲んでも大丈夫なやつ……?」
レイを見上げると、視線を逸らした。
お、お前……!
「さあ!ぐっと行くのよ!ぐっと!大丈夫よ!!変なものは入ってないから」
伯母上の隣で薬師も頷いた。
まじか……まじで飲むのか……。
どう見ても毒っぽいのに……。
俺は覚悟を決めてそれを飲む。
ネバついた液体が口の中に広がり──味は……。
……。
…………。
以外にも爽やかなもので飲みやすかった。
俺はその秘薬を飲み、少しずつ体調を取り戻し始めた。
「どう?」
伯母上が心配そうに見つめる。
「……うん、さっきより楽になった」
身体の芯から温まるような感覚がする。
「ただ……」
「まだ完全じゃないな」
レイが言う。
「無理は禁物だ。休み休み行動すること、約束しろ」
「……わかった」
俺は大人しく頷いた。
「絶対に無理させないでね!」
伯母上と母上が揃ってレイに釘を刺す。
「……わかっている」
レイは苦笑しながら頷いた。
——こうして、俺の体調はある程度回復し、王都での行動が可能になった。
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