悪役令嬢の逆襲! 婚約破棄で覚醒したチート能力で国を乗っ取ります

めがねあざらし

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1、公爵令嬢リリアーヌの覚醒

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豪奢なシャンデリアが煌めく宮殿の大広間は、貴族たちの華やかな衣装と低く囁かれる声で満たされていた。ヴェルンハルト王国の王太子と、公爵令嬢リリアーヌ・グランディールの婚約が正式に発表される。誰もがそう信じ、その瞬間を待ち望んでいた。
しかし、次に響いた王太子の言葉は、誰も予想していなかったものだった。

「公爵令嬢リリアーヌ・グランディール。我はそなたとの婚約を破棄する!」

瞬間、場内の空気が凍りついた。
誰もが耳を疑い、貴族たちは互いに顔を見
——婚約破棄?この場で?

本来、王族と公爵家の婚姻は国家の安定に関わる重要な案件であり、個人の感情で決めるものではない。婚約を合わせる。
破棄するとなれば、事前に両家で正式な手続きを踏み、慎重に協議されるのが常であった。ましてや、こうした公の場での一方的な宣言など、前代未聞の事態である。

ルドルフの発言に、貴族たちは静かにざわめき始めた。

「この場で?」
「そんな馬鹿な……」
「話が違うのでは?」

疑念の声が広がるなか、リリアーヌは微動だにせず王太子を見つめていた。その姿には動揺の色もなく、むしろ、静かな観察者のような余裕すら感じさせる。
王太子はそんな彼女の反応を気にも留めず、隣に立つ少女の手を引き寄せた。

「この方こそ、神に選ばれし真の聖女——フェルミナ・ダルクだ」

ゆるやかに金髪を揺らした少女は、潤んだ瞳をリリアーヌへ向けた。

「……わたくし、リリアーヌ様にずっといじめられていましたの……」

場内の空気が一変する。
フェルミナの言葉に、一部の貴族たちが息を呑み、ざわめきは更に大きくなった。

「いじめ?」
「公爵令嬢が?」
「まさか……」

リリアーヌは、その光景をただ静かに見つめていた。

その瞬間、強烈な閃光が視界を覆う。

(……なに、これ……?)

突然、頭の奥に何かが流れ込んできた。
強烈な光の奔流。次々と映し出される、見たこともない光景。
まるで、一冊の物語を一気に脳へと流し込まれるかのように——。

──王太子ルドルフが聖女を妃に迎え、公爵家との関係を断ち切る。
──国王はこれを許し、王国の体制は大きく揺らぐ。
──王家は迷走し、貴族社会は分裂。軍の力は衰え、魔族の侵攻を許す。
──やがて国は滅び、反逆者として捕えられた公爵令嬢は、処刑される。

その映像の中で、首を刎ねられる少女の姿が見えた。
銀の髪が、血に染まってゆく。

(——これは、わたくし……?)

否応なく押し寄せる記憶に、喉の奥が詰まる。
だが、それだけではなかった。
視界の片隅に、別の映像が重なる。
机に積み上げられた書類。
電子画面に映し出された文章。
赤いペンが走る。
白紙の上に生み出される、登場人物たちの運命。

『聖女の祈りは虚構に消えて』

唐突に、その名前が脳裏に浮かぶ。
同時に、別の名前も思い出す。
リリアーヌ・グランディールではない、もう一つの名前。

『高遠理緒』

(これは——何?何の記憶?私は、わたくしは──リリアーヌ?理緒?)

だが、思い出そうとするほどに、思考がかき乱される。
情報が多すぎる。未来の映像、前世の記憶、自分の名前。
ただわかるのは、自分が悪役令嬢という役どころだということ。
一度に理解するには、あまりにも多すぎる。

(いいや、待て……考えをまとめろ。これは今、考えるべきことではないわ)

リリアーヌはそっと拳を握り、深く息を吐いた。
考えるのは後だ。
まずは、今目の前にあるこの愚かな場を切り抜けるのが先決だろう。
ぐるりと視線を巡らせる。
戸惑う貴族たち。状況を理解できていない愚王。得意げなルドルフと、芝居がかった表情の聖女。

(……馬鹿どもめ)

意識を立て直すと、思考が澄み渡る。
先ほど浮かんだものが何なのか、流れ込んできたものは何なのか。
それは後でじっくり考えればいい。
だが、一つだけ確かなことがある。これは確信。

──この未来を「変えることはできる」ということだ。

リリアーヌは静かに目を伏せると、微笑みを浮かべた。

——王太子ルドルフと聖女フェルミナ。
——この二人が国を滅ぼす未来は、間違いない。

しかし、それならば「この未来を変えることもできる」のではないか?
リリアーヌの青い瞳が、すっと細められる。
ルドルフはなおも得意げに言葉を続けていた。

「リリアーヌ、お前は聖女を嫉妬で苦しめた。このような女を妃にするなど、神の御心に反する」

場内のざわめきが止まらない。それも当然だ。
フェルミナが言った「いじめ」の内容について、一切の証拠が示されていない。
王太子が信じているのは、ただ彼女の言葉のみ。
貴族たちは戸惑いの表情を浮かべている。

「証拠は?」
「いつ、どこで、どんなことが?」
「第一、公爵令嬢と聖女が接点を持つ機会などあったのか?」

貴族たちの疑念は膨らむばかりだった。
リリアーヌは、ふっと小さく微笑むと、静かに口を開いた。

「まあ……そうですの」

王太子の眉がぴくりと動く。
貴族たちが耳を傾けるなか、リリアーヌはゆっくりと続けた。

「それで、そのいじめとやらの証拠はございますの?」

フェルミナの表情が一瞬強張る。

「えっ……そ、それは……」
「それに、わたくしがあなたとお会いしたのは、今日が初めてでは?」

静まり返る広間。
その場にいたすべての貴族が、息を呑んだ。



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