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4、公爵邸へ
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馬車が静かに走り出す。
リリアーヌはシートに深く腰掛け、ゆるりと目を閉じた。
(……さて、まずは何から始めましょうか)
王宮を後にしたばかりだというのに、思考はすでに次へと向かっている。
王太子との婚約は破棄され、見事なまでに立つ鳥跡を濁さず、堂々と去ってきた。
王宮の大広間にいた貴族たちの呆然とした表情が脳裏に浮かぶ。
(少しは騒ぎになるでしょうけれど……問題は、家族の反応ね……)
窓の外に流れる街並みを見つめながら、リリアーヌは思案する。
公爵家が王宮に招かれたのは、本来ならば婚約発表のため。
両親も兄も、今日という日を晴れの日として迎えていたはずだ。
(お父様は怒るかしら?それとも呆れるかしら)
公爵である父、アレクサンドルは厳格で、理知的な人物だ。
感情で動くことはなく、冷静に状況を分析し、判断を下す。
王家との関係を重視する立場として、今回の件をどう見るか——。
(お母様は……泣くかもしれませんわね)
優雅で穏やかな母、エレオノーラ。
公爵夫人としての立場を守りつつも、娘を深く愛する女性だ。
突然の婚約破棄に「あなたが傷ついていないかしら?」と、真っ先に心配するだろう。
(兄は……呆れるでしょうね)
兄、ヴィクトールは冷静で皮肉屋だが、妹には甘い。
「やってくれたな」と呆れつつも、「さすがだな」と笑いそうだ。
(さて、実際はどうかしらね)
そんなことを考えているうちに、馬車は公爵邸へと到着した。
広大な敷地の中に佇む壮麗な邸宅。
ヴェルンハルト王国の貴族の中でも、最上級の格式を誇るグランディール公爵家。
リリアーヌが馬車を降りると、玄関先にいた使用人たちが彼女の姿を認め、目を見開いた。
「お、お嬢様⁈」
驚愕と困惑が入り混じった声が上がる。
それも当然だろう。
通常ならば、婚約発表の儀式を終えた後、王太子妃としての立場が確立されるまで王宮での滞在が続く。
それが、発表の場からわずか数時間で帰宅したのだ。
戸惑う使用人たちを前に、リリアーヌは微笑みながら言った。
「ただいま」
使用人たちは一瞬、言葉を失う。
そして、次の瞬間——。
「お嬢様……!」
真っ先に駆け寄ってきたのは、彼女付きの侍女であるセシリアだった。
「お嬢様、どうなされたのですか!?何か……何か不都合が……!」
涙ぐみながら、リリアーヌの両手を取る。
「ええ、そうねあるにはあったわね」
優雅に微笑みながら、リリアーヌは続けた。
「ですが、もう解決しました」
その言葉に、セシリアはきょとんと目を瞬かせた。
一方、執事のグスタフは落ち着いた様子で一歩前に進み出る。
「お嬢様、詳しくお話をお聞かせ願えますか?」
さすが、長年公爵家を支えてきた人物である。
冷静さを保ちつつも、状況の重大さを即座に察知したようだった。
「お話はまた後ほど。お父様たちもまだお戻りではないでしょう?」
「は……ええ。しかし……」
「まずはお茶をいただきたいわ。長い時間、立ちっぱなしでしたもの」
そう言って、リリアーヌは屋敷の中へと歩を進めた。
自室に戻り、リリアーヌはゆったりとソファに腰を下ろす。
静寂に包まれた部屋。
今までは当たり前だったこの空間が、今は少しだけ違って感じられた。
(本当に……これで終わりかしら)
王太子との婚約破棄は、何の未練もなく受け入れた。
むしろ、心が軽くなったほどだ。
しかし——。
(あのボンクラ王太子が、あのまま大人しく引き下がるとは思えませんわね)
王宮を去る直前の、ルドルフの苛立った表情が脳裏をよぎる。
そして、フェルミナ・ダルク。
(あの少女……何か、おかしかった)
彼女の語る「神の御心」。
何の証拠もなく、ただ「信じなさい」と訴える姿勢。
(普通の貴族なら、あの手の話には乗らなくてよ)
それでもルドルフは迷いなく彼女を選んだ。
(まるで……何かに取り憑かれたような)
胸に残る違和感を振り払うように、リリアーヌは小さく息を吐いた。
窓の外には、夜の帳が下り始めている。
(それにしても……)
リリアーヌは、ふと考えた。
前世の記憶が戻った理由は?
なぜ、今になって「未来のビジョン」を見たのか?
前世——高遠理緒(たかとおりお)。
かつて、自らが書いた物語の世界に似たこの国。
しかし、少しずつ「違う」部分がある。
このズレは、一体何なのか。
(この世界で……わたくしは、どう生きるべきかしら)
考えを巡らせながら、リリアーヌはそっと瞼を閉じた。
リリアーヌはシートに深く腰掛け、ゆるりと目を閉じた。
(……さて、まずは何から始めましょうか)
王宮を後にしたばかりだというのに、思考はすでに次へと向かっている。
王太子との婚約は破棄され、見事なまでに立つ鳥跡を濁さず、堂々と去ってきた。
王宮の大広間にいた貴族たちの呆然とした表情が脳裏に浮かぶ。
(少しは騒ぎになるでしょうけれど……問題は、家族の反応ね……)
窓の外に流れる街並みを見つめながら、リリアーヌは思案する。
公爵家が王宮に招かれたのは、本来ならば婚約発表のため。
両親も兄も、今日という日を晴れの日として迎えていたはずだ。
(お父様は怒るかしら?それとも呆れるかしら)
公爵である父、アレクサンドルは厳格で、理知的な人物だ。
感情で動くことはなく、冷静に状況を分析し、判断を下す。
王家との関係を重視する立場として、今回の件をどう見るか——。
(お母様は……泣くかもしれませんわね)
優雅で穏やかな母、エレオノーラ。
公爵夫人としての立場を守りつつも、娘を深く愛する女性だ。
突然の婚約破棄に「あなたが傷ついていないかしら?」と、真っ先に心配するだろう。
(兄は……呆れるでしょうね)
兄、ヴィクトールは冷静で皮肉屋だが、妹には甘い。
「やってくれたな」と呆れつつも、「さすがだな」と笑いそうだ。
(さて、実際はどうかしらね)
そんなことを考えているうちに、馬車は公爵邸へと到着した。
広大な敷地の中に佇む壮麗な邸宅。
ヴェルンハルト王国の貴族の中でも、最上級の格式を誇るグランディール公爵家。
リリアーヌが馬車を降りると、玄関先にいた使用人たちが彼女の姿を認め、目を見開いた。
「お、お嬢様⁈」
驚愕と困惑が入り混じった声が上がる。
それも当然だろう。
通常ならば、婚約発表の儀式を終えた後、王太子妃としての立場が確立されるまで王宮での滞在が続く。
それが、発表の場からわずか数時間で帰宅したのだ。
戸惑う使用人たちを前に、リリアーヌは微笑みながら言った。
「ただいま」
使用人たちは一瞬、言葉を失う。
そして、次の瞬間——。
「お嬢様……!」
真っ先に駆け寄ってきたのは、彼女付きの侍女であるセシリアだった。
「お嬢様、どうなされたのですか!?何か……何か不都合が……!」
涙ぐみながら、リリアーヌの両手を取る。
「ええ、そうねあるにはあったわね」
優雅に微笑みながら、リリアーヌは続けた。
「ですが、もう解決しました」
その言葉に、セシリアはきょとんと目を瞬かせた。
一方、執事のグスタフは落ち着いた様子で一歩前に進み出る。
「お嬢様、詳しくお話をお聞かせ願えますか?」
さすが、長年公爵家を支えてきた人物である。
冷静さを保ちつつも、状況の重大さを即座に察知したようだった。
「お話はまた後ほど。お父様たちもまだお戻りではないでしょう?」
「は……ええ。しかし……」
「まずはお茶をいただきたいわ。長い時間、立ちっぱなしでしたもの」
そう言って、リリアーヌは屋敷の中へと歩を進めた。
自室に戻り、リリアーヌはゆったりとソファに腰を下ろす。
静寂に包まれた部屋。
今までは当たり前だったこの空間が、今は少しだけ違って感じられた。
(本当に……これで終わりかしら)
王太子との婚約破棄は、何の未練もなく受け入れた。
むしろ、心が軽くなったほどだ。
しかし——。
(あのボンクラ王太子が、あのまま大人しく引き下がるとは思えませんわね)
王宮を去る直前の、ルドルフの苛立った表情が脳裏をよぎる。
そして、フェルミナ・ダルク。
(あの少女……何か、おかしかった)
彼女の語る「神の御心」。
何の証拠もなく、ただ「信じなさい」と訴える姿勢。
(普通の貴族なら、あの手の話には乗らなくてよ)
それでもルドルフは迷いなく彼女を選んだ。
(まるで……何かに取り憑かれたような)
胸に残る違和感を振り払うように、リリアーヌは小さく息を吐いた。
窓の外には、夜の帳が下り始めている。
(それにしても……)
リリアーヌは、ふと考えた。
前世の記憶が戻った理由は?
なぜ、今になって「未来のビジョン」を見たのか?
前世——高遠理緒(たかとおりお)。
かつて、自らが書いた物語の世界に似たこの国。
しかし、少しずつ「違う」部分がある。
このズレは、一体何なのか。
(この世界で……わたくしは、どう生きるべきかしら)
考えを巡らせながら、リリアーヌはそっと瞼を閉じた。
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