悪役令嬢の逆襲! 婚約破棄で覚醒したチート能力で国を乗っ取ります

めがねあざらし

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6、前世との差

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リリアーヌは部屋の窓辺に立ち、カーテンの隙間から庭を見下ろす。
月光に照らされた庭園は、静寂に満ちていた。

(これで、一段落……とは、いかないでしょうね)

王太子ルドルフが、あれほど面目を潰されて、ただ黙っているはずがない。
そして、フェルミナ・ダルク——あの聖女も。
だが、ここでひとつの疑問が浮かぶ。

(——何かが違う)

リリアーヌの前世、高遠理緒が書いた物語。
その中で、王太子ルドルフはもう少し理性的な人物だったはず。
確かに傲慢で、自己中心的ではあった。
だが、ここまで軽率に「その場の感情で」動く男ではなかったはずだ。
そして——フェルミナ。
本来の物語の彼女は、もっと慎ましく、清廉な聖女だった。
無邪気で、人を疑うことを知らず、純粋に神へ仕える少女。

(なのに、どうしてあんな策を弄するような振る舞いを……?)

婚約破棄を「涙」で演出し、貴族たちを味方につけようとするやり口。
それは、少なくともリリアーヌが記憶している「フェルミナ・ダルク」ではない。

(物語と、現実が違う……?)

微妙なズレ。
それが、今になって大きな違和感として膨らんでいく。
これは、単なる記憶違いなのか?
それとも、「誰かが意図的に物語を変えている」のか?

(……まだ、判断には早いわね)

目を細め、リリアーヌは深く息をついた。
今、確実に言えることはひとつ——。
この世界は、すでに「本来のシナリオ」とは異なるルートを進んでいるということ。
であれば、ここで立ち止まるわけにはいかない。

「お嬢様、失礼いたします」

控えめなノックの後、セシアが入ってきた。
手には温かいハーブティーの入ったカップを載せた銀の盆を持っている。

「グスタフ様が、お休み前にこちらをと」
「まあ、気が利くわね」

リリアーヌは微笑みながら受け取り、カップをそっと唇に運んだ。
穏やかな香りが広がり、心が落ち着いていく。

「……セシア、王宮からの使者は?」
「まだ来ておりません。ですが、明日には何らかの動きがあるかと」
「でしょうね。さあ、どう出るのかしら」

彼女はカップを置き、セシアを振り返る。

「王宮内の噂は?」
「すでに、各貴族の間では話が広まっております。特に『王太子殿下が捨てられた』という解釈が主流のようですわ」

リリアーヌは思わず吹き出しそうになった。

「まあ……殿下ったらお気の毒に」
「それだけでなく、陛下の御前であのような軽率な振る舞いをなされたことで、王宮内でも動揺が広がっているようです」

当然だろう。
国の未来を左右する公爵家出身である王太子妃候補を、たった一人の平民出身の聖女の言葉だけで婚約破棄するなど、正気の沙汰ではない。

(陛下は……どうするのかしら)

ルドルフの行動を容認した以上、国王にも責任はある。
そして、貴族たちはすでに動き始めているはずだ。
ふっと、リリアーヌはカップを持ち上げると、静かに呟いた。

「……陛下は、この状況をどう処理なさるのかしらね」

その言葉に、セシアがわずかに身を強張らせる。

「お嬢様……やはり、このままでは済まないと?」
「ええ。殿下はプライドを傷つけられたでしょうし、聖女はおそらく自分の立場を脅かされることを恐れている。黙ってはいられないでしょうね。本来の二人ならいざ知らず」

セシアは一瞬だけ不思議そうな目をしたが、次の瞬間には不安そうに視線を落とす。

「ですが……お嬢様はもう婚約破棄を受け入れました。問題はないのでは?」
「ええ、わたくし自身はもう関係ないわね。でも——」

リリアーヌは微笑みながら、優雅に紅茶を啜る。

「問題がないと、向こうが思うかしら?」

セシアが息を呑んだ。

「……まさか」
「わたくしを再び引きずり戻すか、それとも……貶めようとするか」

このまま公爵令嬢として静かに暮らせるなら、それはそれで悪くはない。
結婚はどうなるかわからないが、独身もいいだろう。
だが——彼らが何かを仕掛けてくるなら、こちらも考えなければならない。

(さて、どう動くべきかしら……)

そんなことを考えていると、扉の向こうで小さくノックの音がした。

「……お嬢様、遅くに申し訳ありません。旦那様が、お話があると」

グスタフが申し訳なさそうに、リリアーヌへと声をかけた。
リリアーヌは目を細め、カップをそっと置く。

(お父様が?)

こんな時間に、改めて話があるというのは珍しい。

「わかったわ、すぐに行くと伝えてちょうだい」
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