悪役令嬢の逆襲! 婚約破棄で覚醒したチート能力で国を乗っ取ります

めがねあざらし

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7、そして彼はやってきた

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その時。
書斎の扉が、突然ノックされた。

「旦那様、お嬢様、夜分に申し訳ございません」

執事グスタフの低く落ち着いた声が響く。

「シュトラール神聖王国の王子、ロイエン・シュトラール殿下がお見えです」

その名が告げられた瞬間、室内の空気が張り詰めた。
リリアーヌは瞬きをしながら、父に目を向ける。

「……まあ、これはまた……お父様、お知合いですか?」

まさか、このような時間に隣国の王子が訪れるとは予想外だった。
アレクサンドルも驚きを隠さないまま、顎に手を当て、少し考え込む。

「挨拶程度だ……拒むわけにもいくまい。こちらにご案内しろ、グスタフ、メイドにお茶の用意もさせてくれ」

手早くそう告げると、グスタフが頷き、足早に廊下へ消えていく。
扉が閉まると、アレクサンドルは深く息を吐き、リリアーヌへと視線を向けた。

「……この時間に王子が訪ねてくるというのは、よほどの急用だろうな」
「ええ……おそらく、わたくしの婚約破棄の件が関係しているのでしょうね……」

リリアーヌは冷静に推測を口にする。

「シュトラール神聖王国としても、王太子殿下の軽率な振る舞いを問題視しているのかもしれませんわ」
「その可能性はあるな。あの国はこと、不貞行為などを嫌う。さて……同盟にヒビが入らなければいいのだが」

父は椅子から立ち上がり、窓の外を見やる。

「だが、ここで重要なのは——ロイエン殿下が、どのような立場で来訪したのかだ」
「公式な使者としてか、それとも個人的な関心か……」

リリアーヌもそっとスカートの皺を整える。

(……どちらにせよ、慎重に対応しなければならないわね)

公爵家の一員として、そして婚約破棄された公爵令嬢として。
無礼のないよう、かつ、公爵家の威厳を保ちながら迎えねばならない。
アレクサンドルも短く頷く。

「リリアーヌ、お前は普段通りで構わん。だが、決して甘い顔をするな」
「心得ておりますわ、お父様」

そう言うと、リリアーヌは軽く髪を整えた。
本来ならば夜に髪を下ろしている時間だが、こういった急な対応も想定して、簡単に整えられるようにしている。

(身だしなみは、完璧に)

彼女は笑顔を意識して、軽く微笑んだ。
数分後——。
書斎の扉が再びノックされた。

「ロイエン・シュトラール殿下をお連れしました」

グスタフの声が響く。
アレクサンドルが「お通ししろ」と言うと、扉がゆっくりと開かれる。
そこに立っていたのは、ひとりの青年だった。
黒髪に琥珀色の瞳。鍛えられた身体に、控えめな装飾の施された軍服。
肩に羽織ったマントを翻しながら、ロイエン・シュトラールは静かに室内へと足を踏み入れる。

「夜分にすまない」

落ち着いた声。
だが、その声音には確かな意志が宿っていた。
リリアーヌは優雅に微笑みながら、ロイエンに一礼する。

「ご機嫌麗しく。殿下がこのような時間に訪ねてこられるとは、よほどの急用なのでしょう」

ロイエンはリリアーヌをまっすぐに見つめ、短く頷いた。

「その通りだ。……君の婚約破棄の件を見てね」

静かだが、確実な圧力を持つ声。

「ヴェルンハルト王国の王太子が、貴族社会の常識を無視し、個人的な感情で貴国屈指の名門公爵家を侮辱した——」

琥珀色の瞳が僅かに鋭く光る。

「これは、我が国としても看過できない問題だ」

その言葉に、アレクサンドルが目を細める。

「つまり、貴国はこの件に介入するつもりだと?」
「……それを決めるのは、君たち次第だ」

ロイエンはゆっくりと椅子に腰を下ろし、腕を組んだ。

「シュトラール神聖王国は、ヴェルンハルト王国と長らく同盟関係にある。だが——」

一拍の間を置いて、彼は続ける。

「今回の件で、我々はヴェルンハルト王国の王位継承者の資質に疑問を持った」

アレクサンドルが静かに頷く。

「当然のことですな。貴族社会の基盤を揺るがす行為を平然と行う王太子を戴く王国と、どのように同盟関係を維持するか——貴国が懸念を持つのも理解できます。当家としてもこの度のことは遺憾に思っているところです」
「そうか……少し、話を聞きたい」

ロイエンはリリアーヌを見つめる。

「君は、どう考えている?」

リリアーヌは微笑を崩さないまま、静かに答える。

「わたくし個人としては、王太子殿下の判断はあまりにも稚拙だったと考えております」

ゆっくりと微笑みながらリリアーヌは、続ける。

「ですが、ヴェルンハルト王国そのものの価値が揺らいだとは思っておりません。問題はあくまで『王太子の資質』」

ロイエンが、微かに口角を上げる。

「なるほど……つまり、君もルドルフ王太子には見込みがないと判断している」
「まあ……そういうことになりますわね」

リリアーヌが軽く肩を竦めると、ロイエンはゆっくりと息を吐いた。

「正直なところ、我が国でもルドルフ殿下の評判は芳しくない。戦略眼もなく、貴族社会の機微を読めず、外交においても未熟だ」

淡々とした語り口。
そして——。

「そこで、貴家に提案がある」
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