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15、王宮の反撃
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リリアーヌが執務室へ向かう道中、邸内の空気がどこか張り詰めているのを感じた。
侍女や使用人たちの動きが、いつもより慌ただしい。
ただの忙しさではない。何かが、すでに動き出している——。
(……王宮からの動きがあったわね)
昨夜、シュトラール神聖王国との正式な交渉を始めたことで、王宮が何の対応もしてこないはずがない。
早ければ今日の朝には、王宮の意向が何らかの形で公爵家へ伝えられるはずだ。
(さて……どんな手を打ってくるのかしら?)
執務室の扉を開けると、そこにはすでに父アレクサンドルと兄ヴィクトールが待っていた。
机の上には、王宮からの封蝋付きの文書。
「王宮からですか?」
リリアーヌが問いかけると、アレクサンドルは静かに頷く。
「今朝届いた。国王陛下直々の召喚命令だ」
その一言に、リリアーヌは微かに眉を上げた。
「……あらあら、まあまあ」
「それだけ焦っているということだろう」
ヴィクトールが苦笑交じりに肩をすくめる。
「今まではお前を無視し、ルドルフの愚行も“些細なこと”として処理しようとしていた。だが、シュトラール神聖王国が正式にお前へ婚約を申し入れたことで、無視できなくなったわけだ」
「つまり、王宮としては私が“王国の重要な駒”であることを認めた、ということですね?」
リリアーヌは頬に手を当て、優雅に微笑む。
「ああ、まさにその通りだ」
アレクサンドルが短く頷く。
「内容は表向き“王太子殿下との婚約破棄後の処遇について話し合いたい”というものだが……真意は明白だ」
「私を公爵家に留めず、王宮に引き戻す気なのですね?」
「その可能性が高い」
アレクサンドルは指先で文書を軽く叩く。
「お前がシュトラール神聖王国へ嫁げば、ヴェルンハルト王国の貴族社会が大きく動く。
公爵家とシュトラール王家の縁組は、王太子ルドルフに不満を抱く貴族たちの結束を強めるだろう」
「そして、それはすなわち、王太子殿下の求心力を削ぐことになる……」
リリアーヌは思考を巡らせながら、ゆっくりと首を傾げる。
「王宮の狙いは二つでしょうね。私を無理矢理にでも王宮へ戻すこと。もしくは、王宮に従わない場合の制裁を示すこと」
「そうだ。少なくとも、王宮としては“公爵家の暴走”を許すつもりはないだろう」
「暴走……ね。あの愚者があんなことをしでかさなければ、私は素直に王妃になってましたのに。わたくしの王妃教育に費やした時間を返していただきたいくらいです」
リリアーヌは軽く笑う。
婚約破棄を公衆の面前で宣言し、聖女との婚約を押し通したのは王太子ルドルフだ。
にもかかわらず、彼女が別の道を進もうとすれば“公爵家の暴走”と見なされるのだから、実に都合のいい話だ。
「まあ、それは今後も役には立つだろう。あちらでもな。さて……どうするつもりだ?」
ヴィクトールが腕を組みながら尋ねる。
「王宮に向かうか、それとも……」
「行きます」
リリアーヌは即答した。
「王宮がこの状況で私を呼びつけた以上、すぐに対応しなければなりません。無視すれば“反逆の意志あり”と解釈される可能性もあります」
「だが、気をつけろ」
アレクサンドルの声が低くなる。
「王宮は“正式な場”で呼び出している。この場で下手を打てば、貴族社会全体に影響を及ぼすことになる」
「……承知していますわ、お父様」
「では、このお兄様が一緒に行こう」
「あら、心強い」
ヴィクトールはのらりくらりとした掴みどころのない性格だが、決して馬鹿ではない。
それどころかとんでもなく優秀なことを妹であるがゆえに知っている。
リリアーヌは笑みを深めながら立ち上がった。
(これは“正式な戦い”の始まり……)
王宮がどう出るのか、どんな策を巡らせているのか。
そして、リリアーヌはそれをどう迎え撃つべきか——。
すべては、王宮の意図を見極めたうえで決断しなければならない。
その時——。
「お嬢様」
執事のグスタフが扉を叩き、静かに告げた。
「シュトラール神聖王国の使者が、公爵邸へお越しになりました」
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侍女や使用人たちの動きが、いつもより慌ただしい。
ただの忙しさではない。何かが、すでに動き出している——。
(……王宮からの動きがあったわね)
昨夜、シュトラール神聖王国との正式な交渉を始めたことで、王宮が何の対応もしてこないはずがない。
早ければ今日の朝には、王宮の意向が何らかの形で公爵家へ伝えられるはずだ。
(さて……どんな手を打ってくるのかしら?)
執務室の扉を開けると、そこにはすでに父アレクサンドルと兄ヴィクトールが待っていた。
机の上には、王宮からの封蝋付きの文書。
「王宮からですか?」
リリアーヌが問いかけると、アレクサンドルは静かに頷く。
「今朝届いた。国王陛下直々の召喚命令だ」
その一言に、リリアーヌは微かに眉を上げた。
「……あらあら、まあまあ」
「それだけ焦っているということだろう」
ヴィクトールが苦笑交じりに肩をすくめる。
「今まではお前を無視し、ルドルフの愚行も“些細なこと”として処理しようとしていた。だが、シュトラール神聖王国が正式にお前へ婚約を申し入れたことで、無視できなくなったわけだ」
「つまり、王宮としては私が“王国の重要な駒”であることを認めた、ということですね?」
リリアーヌは頬に手を当て、優雅に微笑む。
「ああ、まさにその通りだ」
アレクサンドルが短く頷く。
「内容は表向き“王太子殿下との婚約破棄後の処遇について話し合いたい”というものだが……真意は明白だ」
「私を公爵家に留めず、王宮に引き戻す気なのですね?」
「その可能性が高い」
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「お前がシュトラール神聖王国へ嫁げば、ヴェルンハルト王国の貴族社会が大きく動く。
公爵家とシュトラール王家の縁組は、王太子ルドルフに不満を抱く貴族たちの結束を強めるだろう」
「そして、それはすなわち、王太子殿下の求心力を削ぐことになる……」
リリアーヌは思考を巡らせながら、ゆっくりと首を傾げる。
「王宮の狙いは二つでしょうね。私を無理矢理にでも王宮へ戻すこと。もしくは、王宮に従わない場合の制裁を示すこと」
「そうだ。少なくとも、王宮としては“公爵家の暴走”を許すつもりはないだろう」
「暴走……ね。あの愚者があんなことをしでかさなければ、私は素直に王妃になってましたのに。わたくしの王妃教育に費やした時間を返していただきたいくらいです」
リリアーヌは軽く笑う。
婚約破棄を公衆の面前で宣言し、聖女との婚約を押し通したのは王太子ルドルフだ。
にもかかわらず、彼女が別の道を進もうとすれば“公爵家の暴走”と見なされるのだから、実に都合のいい話だ。
「まあ、それは今後も役には立つだろう。あちらでもな。さて……どうするつもりだ?」
ヴィクトールが腕を組みながら尋ねる。
「王宮に向かうか、それとも……」
「行きます」
リリアーヌは即答した。
「王宮がこの状況で私を呼びつけた以上、すぐに対応しなければなりません。無視すれば“反逆の意志あり”と解釈される可能性もあります」
「だが、気をつけろ」
アレクサンドルの声が低くなる。
「王宮は“正式な場”で呼び出している。この場で下手を打てば、貴族社会全体に影響を及ぼすことになる」
「……承知していますわ、お父様」
「では、このお兄様が一緒に行こう」
「あら、心強い」
ヴィクトールはのらりくらりとした掴みどころのない性格だが、決して馬鹿ではない。
それどころかとんでもなく優秀なことを妹であるがゆえに知っている。
リリアーヌは笑みを深めながら立ち上がった。
(これは“正式な戦い”の始まり……)
王宮がどう出るのか、どんな策を巡らせているのか。
そして、リリアーヌはそれをどう迎え撃つべきか——。
すべては、王宮の意図を見極めたうえで決断しなければならない。
その時——。
「お嬢様」
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