悪役令嬢の逆襲! 婚約破棄で覚醒したチート能力で国を乗っ取ります

めがねあざらし

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16、シュトラール王国の提案と、王宮への布石

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リリアーヌが応接室へ入ると、そこにはすでに一人の男性が控えていた。
洗練された身のこなし、漆黒の軍服、肩にかかる金糸の装飾。

(……ロイエン殿下直属の使者、といったところかしら?)

立ち上がった男は恭しく一礼し、低く響く声で名乗った。

「シュトラール神聖王国の全権使節、アルト・クラウゼンでございます」

名を聞いた瞬間、リリアーヌはわずかに目を細める。
クラウゼン侯爵家。シュトラール神聖王国において軍事と外交を担う名門。
この人物を派遣してきたということは、今回の話し合いが ただの婚約の確認では済まされない ことを意味していた。

(ロイエン殿下……あなた、どこまで本気なのかしら?)

リリアーヌは優雅に微笑み、カーテシーを返す。

「ようこそお越しくださいましたわ、クラウゼン閣下」

アルトは席を勧められると、ゆっくりと着席し、手元の書簡を差し出した。

「殿下よりの書簡です。王宮が動き出す前に、貴国との関係をより明確にするべきだと判断されました」

(つまり、シュトラール神聖王国は正式にこの婚約を進める意思がある、ということね)

リリアーヌは書簡を開きながら、冷静に内容を読み取る。


──シュトラール神聖王国は、リリアーヌ・グランディール公爵令嬢を王弟妃として迎え入れる用意がある。
この婚約は両国の同盟を強固なものとし、貴国の安定にも寄与するだろう──。


「……とても光栄なお話ですわ」

リリアーヌは書簡をそっと机の上に置き、ふと微笑む。

「ですが、これほどの決定を……ずいぶんと急がれましたのね?」

アルトは表情を変えぬまま、静かに頷いた。

「殿下はすでにお分かりなのでしょう。王宮が動き出せば、貴女の立場が大きく変わることを」
「つまり、わたくしを王宮へ引き戻す動きが加速する……と?」
「ええ」

アルトは、初めて微かに表情を引き締めた。

「王宮は、貴女をこのまま公爵家に留めることすら許さない可能性があります。もし強制的に連れ戻すために動いた場合、王宮の意向を無視する形でシュトラール神聖王国が介入するのは難しい」
「……まあ、それは困りますわね」

リリアーヌはわざと呑気にそう口にしながら、考える。

(王宮はすでに「召喚命令」を出している。これは、私を公爵家に置いておく気がないという意思表示。そして、シュトラール王国側は、それを見越して「正式な婚約を今すぐ結ぶ」という選択肢を持ち込んできた……)

「つまり、殿下は今この場で、わたくしに正式な“婚約の承諾”を求めているのですね?」
「ええ」

アルトの言葉に、室内の空気がわずかに重くなる。

「この婚約が確定すれば、貴女は公爵家の娘ではなく、シュトラール神聖王国の王弟妃候補となる。そうなれば、王宮も軽々しく手を出せなくなるはず」

リリアーヌはゆっくりとカップを置く。
そして、穏やかな微笑みのまま、静かに言った。

「……素敵な提案ですわね」

アルトがわずかに息をのむ。

「ですが、まだ“正式な婚約”とするには条件が整っていませんわ」
「条件……ですか?」

リリアーヌはすっと背筋を伸ばし、指を軽く組んだ。

「この婚約が正式なものとなったとして、シュトラール神聖王国はどこまで私と公爵家を支援してくださるのかしら?」

その言葉に、アルトが表情を変えた。

「……殿下は、当然公爵家を保護するとお考えです」
「ええ、それは理解しておりますわ。直接お聞きしましたものね。……でも、それだけでは足りません」

リリアーヌは、ゆっくりとアルトを見つめた。

「口約束程あてにならないものはございませんでしょう?それに……シュトラール王国は、わたくしを迎え入れることで何を得ようとしているのかしら?」

アルトは一瞬黙り込んだ。
だが、その沈黙は長く続かない。

「……貴国の不安定な情勢を考えれば、我々が求めるものは明白でしょう」
「ええ、ヴェルンハルト王国そのもの、ですね?」

リリアーヌの微笑が深まる。

(やはり、彼らもヴェルンハルト王国の混乱に乗じるつもり……そして、それを私を通じて行うつもりね)

「わかりましたわ」

リリアーヌはゆっくりと立ち上がり、アルトを見下ろす形になる。

「この婚約、前向きに検討させていただきますわ。ただし——」

彼女は優雅に微笑む。

「王宮との対決が終わるまで、正式な決定はしません」
「……」

アルトの紫色の瞳が、わずかに揺れた。

「それでは、間に合わない可能性もあります」
「間に合うように動くのがわたくしの仕事……でしょう?」

リリアーヌは冷静に言い切る。

「わたくしは、ただ逃げるためにシュトラールへ嫁ぐつもりはございません。貴国がわたくしを必要とするのであれば、わたくしはそれに見合う立場を確立しなければなりませんから」

アルトはしばらく沈黙していたが、やがて短く息を吐いた。

「……承知しました。殿下には、貴女の意向をお伝えしましょう」
「よろしくお願いいたします」

リリアーヌは優雅に一礼する。

(さて、これで王宮と対峙する準備は整った……)

リリアーヌはゆっくりと部屋を後にする。
次に向かうのは王宮。
王太子ルドルフ、聖女フェルミナ、そして国王。
ヴェルンハルト王国の未来を左右する決戦の場——。

(さあ、この物語をさらに書き換えていきましょう……!)

リリアーヌは静かに微笑みながら、公爵家の廊下を歩いていった。




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