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26、神託の反撃と、新たなる血脈
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王都南部の演説から二日後――
再び、王都の空気がざわつき始めた。
今度は、“聖女庁”による新たな神託の発表だった。
「神は告げられました。秩序を乱す者に、試練が与えられるでしょう――その名は“紅き月の刻”。神に逆らう者には、祟りが降り注ぐのです」
聖女フェルミナは、静かに、そして優美に言葉を紡いだ。
王宮広場にはまたしても数百の人々が集まり、聖女の言葉に耳を傾けていた。
(……やってきたわね、“反撃”)
書斎の窓辺で、リリアーヌはその報告を聞きながら、わずかに口元を歪める。
「“紅き月の刻”、ね。随分とドラマチックな名前をつけたものだわ」
「演出は派手なほど効くからな。信者の不安を焚きつけるにはうってつけだ」
ヴィクトールが、手にしていた書状を机に投げ出す。
「……だが問題は、民の中で“リリアーヌ様が神を怒らせた”などと言い出す者が出始めているということだ。過熱していけば、魔女狩りのような流れにもなりかねない」
リリアーヌはその言葉に、ほんの一瞬だけ眉を動かす。
「面白いじゃない」
「おい、笑ってる場合じゃないぞ」
「ええ、もちろん本気で笑ってるわけじゃないけれど……」
彼女は優雅に立ち上がり、軽く肩をすくめた。
「“神の敵”の次は、何かしら。“魔の令嬢”か、“地獄の使い”かしらね。いっそ絵本でも出せばいいのに」
ヴィクトールが苦笑しつつも、顔を引き締めた。
「このままでは、庶民の支持が揺らぎかねない。“神の声”というものに勝つには、同じ力で対抗するしかない」
「……ええ。それについて、ちょうど一つ、面白い話があるのよ」
リリアーヌは、執務机の引き出しから一枚の文書を取り出す。
封蝋はない。だが、文末にある印影はシュトラール神聖王国大神殿のものであり──差出人はシュトラール神聖王国の神殿筆頭書記官によるものだった。
《シュトラール神殿に記録あり。リリアーヌ・グランディール、母系より“聖なる血脈”を引く。
汝に啓示あり。神の子孫としての資質、これを認む――》
「……これ、本物か?」
ヴィクトールが目を見開く。
「本物よ。今朝早馬で届いたの。正式な記録がシュトラール大神殿に保管されているのだそうよ。高祖母にあたるお方がシュトラールの大神官の娘だったらしいわ」
「母上のおばあ様の更に上……か?それは父上も良く分かっていない可能性は高いな」
リリアーヌは、椅子に腰を下ろしながら、優雅に微笑んだ。
「“神の娘”だなんて、わたくしに似合うかしら?」
「……聖女より、“魔王”の方が似合う気がするが」
「ふふ、それはそれで光栄だわ。でも、フェルミナが神託で攻めてくるなら……こちらも“神託”で返す。いいじゃない」
ヴィクトールは眉間を揉みながら、呟く。
「シュトラールがこの情報を出してきたということは――彼らも、王国の内情に積極的に関与するつもりなんだろうな」
「ロイエン様が動いたのか、あるいは……もっと上の者かもしれない」
リリアーヌの指先が、文書の一節をなぞる。
“神の子孫としての資質、これを認む”
「……神の娘、ね。わたくしがそんな肩書きを持つなんて、面白いわ」
その言葉には、明らかな皮肉と――そして、火花が宿っていた。
「この件、まずは密かに貴族派と各地方に知らせましょう。正式な発表は、もう少し民衆の動揺が高まった頃にする。タイミングを見計らって、“神のもう一つの声”として打ち出すわ」
「“神託”には“神託”で、か。ああ……これは面白くなってきたな」
リリアーヌは静かに頷いた。
「ええ。ようやく、物語が転がり始めた気がするわ」
静かな夜の書斎に、未来を変える計画が描かれ始めていた。
そしてその中心に立つのは――神でも、王でもない。
ひとりの公爵令嬢。
だが今、その名には新たな響きが加わろうとしていた。
“リリアーヌ・グランディール――神の血を継ぐ、理を語る神の娘”
後ろ盾はグランディール公爵家並びに、シュトラール神聖王国。
これ以上に強い肩書は、今のところなさそうだ。
幕は上がった。
(あなたの“神”が、どこまで本物か見せていただく番よ。聖女様)
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再び、王都の空気がざわつき始めた。
今度は、“聖女庁”による新たな神託の発表だった。
「神は告げられました。秩序を乱す者に、試練が与えられるでしょう――その名は“紅き月の刻”。神に逆らう者には、祟りが降り注ぐのです」
聖女フェルミナは、静かに、そして優美に言葉を紡いだ。
王宮広場にはまたしても数百の人々が集まり、聖女の言葉に耳を傾けていた。
(……やってきたわね、“反撃”)
書斎の窓辺で、リリアーヌはその報告を聞きながら、わずかに口元を歪める。
「“紅き月の刻”、ね。随分とドラマチックな名前をつけたものだわ」
「演出は派手なほど効くからな。信者の不安を焚きつけるにはうってつけだ」
ヴィクトールが、手にしていた書状を机に投げ出す。
「……だが問題は、民の中で“リリアーヌ様が神を怒らせた”などと言い出す者が出始めているということだ。過熱していけば、魔女狩りのような流れにもなりかねない」
リリアーヌはその言葉に、ほんの一瞬だけ眉を動かす。
「面白いじゃない」
「おい、笑ってる場合じゃないぞ」
「ええ、もちろん本気で笑ってるわけじゃないけれど……」
彼女は優雅に立ち上がり、軽く肩をすくめた。
「“神の敵”の次は、何かしら。“魔の令嬢”か、“地獄の使い”かしらね。いっそ絵本でも出せばいいのに」
ヴィクトールが苦笑しつつも、顔を引き締めた。
「このままでは、庶民の支持が揺らぎかねない。“神の声”というものに勝つには、同じ力で対抗するしかない」
「……ええ。それについて、ちょうど一つ、面白い話があるのよ」
リリアーヌは、執務机の引き出しから一枚の文書を取り出す。
封蝋はない。だが、文末にある印影はシュトラール神聖王国大神殿のものであり──差出人はシュトラール神聖王国の神殿筆頭書記官によるものだった。
《シュトラール神殿に記録あり。リリアーヌ・グランディール、母系より“聖なる血脈”を引く。
汝に啓示あり。神の子孫としての資質、これを認む――》
「……これ、本物か?」
ヴィクトールが目を見開く。
「本物よ。今朝早馬で届いたの。正式な記録がシュトラール大神殿に保管されているのだそうよ。高祖母にあたるお方がシュトラールの大神官の娘だったらしいわ」
「母上のおばあ様の更に上……か?それは父上も良く分かっていない可能性は高いな」
リリアーヌは、椅子に腰を下ろしながら、優雅に微笑んだ。
「“神の娘”だなんて、わたくしに似合うかしら?」
「……聖女より、“魔王”の方が似合う気がするが」
「ふふ、それはそれで光栄だわ。でも、フェルミナが神託で攻めてくるなら……こちらも“神託”で返す。いいじゃない」
ヴィクトールは眉間を揉みながら、呟く。
「シュトラールがこの情報を出してきたということは――彼らも、王国の内情に積極的に関与するつもりなんだろうな」
「ロイエン様が動いたのか、あるいは……もっと上の者かもしれない」
リリアーヌの指先が、文書の一節をなぞる。
“神の子孫としての資質、これを認む”
「……神の娘、ね。わたくしがそんな肩書きを持つなんて、面白いわ」
その言葉には、明らかな皮肉と――そして、火花が宿っていた。
「この件、まずは密かに貴族派と各地方に知らせましょう。正式な発表は、もう少し民衆の動揺が高まった頃にする。タイミングを見計らって、“神のもう一つの声”として打ち出すわ」
「“神託”には“神託”で、か。ああ……これは面白くなってきたな」
リリアーヌは静かに頷いた。
「ええ。ようやく、物語が転がり始めた気がするわ」
静かな夜の書斎に、未来を変える計画が描かれ始めていた。
そしてその中心に立つのは――神でも、王でもない。
ひとりの公爵令嬢。
だが今、その名には新たな響きが加わろうとしていた。
“リリアーヌ・グランディール――神の血を継ぐ、理を語る神の娘”
後ろ盾はグランディール公爵家並びに、シュトラール神聖王国。
これ以上に強い肩書は、今のところなさそうだ。
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